癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2025-02-05 19:10:06
2431文字
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tears〜支え〜

ダンテとネロが遠出の依頼に出向いてから一ヶ月近く経った頃、キリエの元にネロから電話がかかってきた時の短いお話。

【tears〜支え〜】

ダンテとネロが悪魔退治の依頼に出向いてから一ヶ月経とうとした頃。キリエがそろそろ昼食にしようかとトリッシュに声をかけようとした時、自宅の電話が鳴り響いた。
「もしもし……?」
……
……?」
……キリエ』
「え……
電話をかけてきた相手、それはネロだった。
ダンテとネロの安否に関しては、トリッシュが二人の生気を探ることにより確認することはできていたが、直接連絡を取り合うことは一切していなかった。
久しぶりに聞くネロの声に、キリエは驚きのあまり上手く言葉が出てこなかった。
『キリエ、連絡遅くなって悪かったな。やっと、電話が使えてさ』
……
『ダンテが言ってた魔帝と戦った場所はもちろん、その周辺の街とかも、悪魔の騒動の影響で電話線とかがやられちまってて……。その復興作業がようやく終わったんだ。とは言っても、このあとまた別の街に移動することになるから、しばらく連絡できなくなるけど……
……
『キリエ、そっちは大丈夫か?何か変わったことはないか……?』
……うん」
ネロの問いかけに、キリエはそう答えるので精一杯だった。
話し出すときっと止まらなくなる。それ以前に、何を話せばいいのか分からなかった。久しぶりに聞くことができたネロの声に、安堵の息を漏らすだけだった。
『俺の方は大丈夫だから、何も心配しなくていいよ』
……
『ははっ。やっぱダンテがいると心強くてさ。悪魔の種類によってそれぞれの対処法とか、教えてもらいながら戦ってるんだ』
……
『「黒いモヤがある悪魔は、まずは距離をとって銃を撃ち込め」とか、「このタイプは弱点はここにあるから、隙を作って一撃で仕留めろ」とか、本当に勉強になることばかりでさ。……って、こんな話、キリエに言ってもしょうがないよな……
……
『キリエ……
……
『何か、話してくれないか……
……
……君の声が、聞きたい』
「っ……
ネロの言葉を聞き、キリエは何かひと言でも喋ろうと、必死に口を動かした。だけど、やはり上手く言葉と声が出てこなかった。
その時、キリエの肩を優しくポン……と、トリッシュが触れてきた。キリエは受話器を耳にあてたまま、トリッシュの方に振り返る。
トリッシュはキリエに優しく微笑みながら、小声で「大丈夫よ、リラックス……」とキリエに話しかけた。
キリエはトリッシュの顔を見つめながら、静かに頷く。そして呼吸を整えたあと、重たくなった口を開いていった。
「ネロ……私も、大丈夫だから……
……
「トリッシュさんやレディさんがね、側にいてくれてるから……
……
……この前ね、三人でお茶をしにいったの。分かるかしら、この前できた新しい喫茶店」
……
「そのお店のケーキがとても美味しいのよ。紅茶やハーブティーも。ネロが帰ってきたら、一緒に行きたいなぁ……なんて」
……
「だからその……
……
……
早く帰ってきて……と、キリエは言えなかった。言ってしまえば、ネロを困らせてしまうからと。
そんなキリエの心情を察したのか、ネロは明るい口調で彼女に話しかけた。
『そうだなぁ。さっさと悪魔共を退治して、帰ったら真っ先にキリエとデートだな。行こうぜ、その新しくできた喫茶店』
……うん。絶対よ?」
『あぁ、約束する』
……
……あ、悪いキリエ。そろそろ次の街に行かないと……
……うん、気を付けてね。ネロ……
『ありがとう。キリエも、気を付けてな』
「うん……
……
「ネロ……
『?』
……好きよ」
……俺もだよ、キリエ』
ネロがそう言ったあと、電話越しにダンテが彼を呼ぶ声がキリエの耳に聞こえてきた。
『分かったよダンテ、すぐ行くから。……じゃあ、また時間ができたら連絡する』
急いでいたのだろうか。ネロが慌てた様子で電話を切った様子がキリエにも伝わった。
受話器からは、一定の機械音が虚しく聞こえてきた。
キリエは小さく息を吐いたあと、受話器を元の場所に戻し、トリッシュの方へと振り返るとそのまま彼女の胸に弱々しくしがみついた。
「っ……
そんなキリエを、トリッシュは包み込むように優しく抱きしめながら、彼女に話しかけた。
「ネロ、元気そうだった?」
トリッシュの言葉に、キリエは静かに頷いた。
「そう。よかったわね」
「ぅっ……
……大丈夫よ。無事に帰ってくるから。必ずね」
芯が強いキリエだが、まだまだ幼い少女。
彼女の寂しい気持ち、未熟な部分を今はネロの代わりに支えてあげようと、トリッシュは自身の胸で静かに涙を流すキリエを守り抜くことを改めて誓ったのだった。

***

次の街へ移動する船の上で、ダンテとネロは海風に吹かれながら佇んでいた。
「嬢ちゃん、元気そうだったか?」
「あぁ。大丈夫……だと思う」
キリエが電話越しに無理して明るく振る舞っていたことを、ネロは察していた。やはり、寂しい気持ちはなかなか拭えないものだなと、ネロは悲しげな表情を浮かべる。
そんなネロの表情を見て、ダンテは彼の背中を強く叩いた。
「痛っ!」
「しっかりしろって。キリエちゃんの元に帰るために、気持ち切り替えていこう……な?」
……あぁ、そうだな」
「まぁ、泣きたかったら今のうちに泣いておけ。なんなら、席外してやるから」
「いや、ここにいてもいいけど」
「「ここにいて欲しい」だろ。本当は」
……ぅっ」
ダンテの言葉に不意をつかれたのか、ネロは目頭が熱くなるのを感じるとダンテから顔を背けるように俯いた。
(やれやれ。ネロのためにも、さっさとこの仕事を終わらせないとな)
ダンテは次の街で大量に発生している悪魔達を一刻も早く倒す方法を考えつつ、今にも弱々しく崩れ落ちてしまいそうなネロの体を支えるように肩を掴みながら、水平線を見つめ続けた。



END