癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2025-01-24 21:40:02
3917文字
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慰めよりも欲しいもの

初代ダントリ。ダンテが風邪を引いてしまったお話。
ほんの少し大人な会話を交わししつつ、ちょっとした日常の出来事。

「ゲホゲホ……。悪いな……トリッシュ……
「いいから。今日はゆっくり休んでちょうだい」

ダンテは今、風邪を引いて寝込んでいた。

***

「それにしても、あなたが風邪を引くなんて滅多にないんじゃない?いくら半分人間の血を引いているといっても」
「ゲホゲホ……。そうだな……風邪なんて、子供の時以来だな……
「ほら、ここに薬置いておくから、ちゃんと飲むのよ」
そう言うとトリッシュは、ベッドの横のミニテーブルに水が入ったコップと風邪薬を置いた。
「薬って……
「安心して。ちゃんと薬局の人にあなたの症状を話して選んでもらった薬だから」
「ならよかった。てっきり、悪魔どもの血やら何やら採取してお前が作ったやつだと思ったぜ……
ダンテがそう言うと、トリッシュは呆れたように小さくため息をついた。
「何くだらないこと言ってるのよ。ほら、薬飲んでさっさと寝なさい」
「分かったって。ゲホゲホ……。まったく、母親みたいなこと言うなよ。子供じゃあるまいし」
ダンテは渋々、ミニテーブルに置いてある薬を口に含み、水でそれを体の中に流し込んだ。
「はぁ……。ほら、お前の言う通り飲んでやったぞ」
「なに威張ってるのよ」
「別に威張ってねぇよ。もういいだろ。薬も飲んだし、ゆっくり寝させてくれ」
ダンテはベッドに寝転び、布団を頭から被るとそのままうずくまった。そんなダンテを見て、トリッシュは再びため息をついた。
「もう、分かったわよ。私はまた買い出しとか依頼書の整理とかしているから、その間ゆっくり休んでいなさい。何かあったら呼ぶのよ?」
そう言うとトリッシュは、布団から少し出ているダンテの頭を軽く撫で、ダンテの寝室を後にした。

トリッシュが去ったあと、ダンテの寝室には沈黙が訪れた。
……暇だな」
母親のようなことを言ってくるトリッシュに嫌気がさしつつも、やはり風邪の時は人肌恋しくなるものだ。
……俺が起きる頃には戻って来いよ」
ダンテはそう呟いたあと、瞼を閉じてそのまま眠りについた。

***

その頃トリッシュは、ダンテの事務所から徒歩数分の食材店へとやってきた。
料理は得意な方ではないため、レトルト食品などで栄養がありそうな物を選ぶ。
(食べやすい物がいいわよね。それと、簡単に出来る物)
トリッシュは、お湯を注ぐだけで作れる野菜とチキンスープの袋を手に取った。
(あとは、ピザでいいかしら。本当は控えて欲しいところだけど、ダンテならピザ食べた方が治りが早いわよね、きっと)
そして、冷凍のピザを何袋かカゴに入れ、アイスやゼリー、プリンなどのデザートもカゴに入れると、会計へと向かった。
(まさか、先日貰った依頼料がダンテの看病代になってしまうなんてね)
トリッシュは永遠になくなる気配がないダンテの借金のことを考えつつ、会計を済ませると店を後にした。

***

「ダンテ、帰ったわよ」
トリッシュは、ダンテの寝室のドアを開けながら彼に呼びかけた。しかし、ダンテは深く眠りについたままで、起きる気配はなかった。
(熱はどうかしら……
トリッシュはダンテの額に置いてあるタオルを外すと、そっと手で触れた。
(さっきよりは下がってるみたいね)
ダンテの様子に、安堵の息をもらすトリッシュ。
半分悪魔の血が流れているため回復が早いことは分かってはいるものの、少しでも早く治って欲しい気持ちでいっぱいだった。
(もう少ししたらまた様子を見に来るわね、ダンテ)
トリッシュはタオルを濡らし直すと、それをダンテの額にそっと乗せた。そして、依頼書の整理をするため一旦ダンテの寝室を後にした。

***

(ん……今、何時だ……
窓から夕陽が差し込んで来た頃、ダンテはゆっくりと目を覚ました。それと同時に寝室の扉が開かれ、トリッシュがトレイに食事と水や薬などを乗せてやって来た。
「おはようダンテ。よく眠れた?」
トリッシュはベッド横のミニテーブルにトレイを置きながら、ダンテに尋ねた。
「あぁ。ぐっすり眠っちまってた。……悪いな、書類とか色々仕事が溜まっている時に」
「いいのよ。依頼書の整理とかは得意だから。あなたが眠っている間に、全部終わらせたわ」
「そっか。ありがとう、トリッシュ 」
ダンテはトリッシュに礼を言うと、ほんの少し怠さが残る体を起こしていった。
「お、美味そうだな。お前が作ったのか?」
ダンテはトレイに乗っているスープ、ピザを見てトリッシュに尋ねた。
「違うわよ。スープはお湯を注いで簡単にできるインスタントの物だし、ピザは冷凍食品よ」
「ハハッ。そうだろうなとは思ったぜ」
ダンテは早速ピザが乗った皿を手にとると、あっという間にそれを平らげた。
「やっぱ風邪にはピザだよなぁ。これで早く治るぜ」
「ちゃんとスープも飲むのよ。野菜たっぷりで栄養ありそうな物を選んだんだから」
「はいはい、分かってるよ」
ダンテはスープが入っている器を手にとると、それを口に含んでいった。
「食べ終わったら、また薬飲むのよ」
トリッシュのその言葉に、ダンテはスープを飲みながら静かに頷いた。
それから数分後、スープを飲み終えたダンテは水が入ったコップを手に取り、薬を飲むと再びベッドの上に横になった。
「ふぅ……ごちそうさま。色々と助かったぜ、トリッシュ」
「いいわよこれくらい。とりあえず、今日明日はゆっくり休んで。明後日は依頼が入っているから、それまでに体調整えるのよ?」
「はいはい……
回復力が早いおかげで風邪が治りかけているとはいえ、こんな時に仕事の話をされたダンテは少し不機嫌そうな表情を浮かべながら、トレイに乗っている食事などの片付けをしているトリッシュをジッと見つめた。
ダンテのその視線に気がついたトリッシュは、一旦手を止めるとベッドの空いているスペースに腰を掛けた。
「そんな顔しないで、ダンテ。風邪が治って仕事頑張ったら、ストロベリーサンデー奢ってあげるから」
……本当か?」
「えぇ。本当は来月までお預け予定だったけど、今回は特別よ。その方があなただって真面目に仕事するでしょ?」
「ハハッ。そしたら、明後日は5分で仕事終わらせないとな」
ダンテは仕事終わりのストロベリーサンデーの楽しみが増えたおかげか、上機嫌になり口元を緩ませた。
そんなダンテの様子を見たトリッシュは軽く微笑んだあと、ベッドから立ち上がって片付けの続きをしようとした。
その時だった。
「待てよ、トリッシュ 」
ベッドから立ちあがろうとするトリッシュの手を、ダンテが掴んだのだった。
「ん?どうしたの、ダンテ」
……あのさ」
「?」
「風邪の時って、人肌恋しくなるって……言うよな」
「ふーん」
「ふーん……じゃなくてさ、俺、今めっちゃ人肌恋しいんだけど」
ダンテのその言葉に、トリッシュはため息をついた。
「いい歳して、なに言ってるのよ」
……少しくらい、いいだろ?」
「ダメ。病人なんだから、大人しくしていなさい」
トリッシュの言葉にダンテはシュンとした表情を浮かべつつ、彼女を上目遣いで見つめた。
「もう、そんな顔したって……今日はダメよ。しっかり休んでちょうだい」
「つれないなぁ。自分で自分を慰めろってか」
「そうするしかないでしょ。病人のあなたをベッドで相手をするほど、私もお人好しじゃないのよ。まぁ、一人でシてそれで変に熱が上がったりでもしたら、それも困るけど」
「はは……。そうだな」
「ほら、さっさと寝なさい。また暫くしたら様子見にくるから」
「なぁ、トリッシュ……少しだけ」
「ダメよ」
「せめて、手だけでも」
ダンテのしつこさに痺れを切らしたトリッシュは、少しでも大人しくさせようと彼の額に指先をあてると、そのまま電撃を流し込んだ。
「!痛っ……!」
「いい加減にしなさい、ダンテ」
……分かったよ」
これ以上しつこく迫ったら今度は電撃をもっと流されるどころか、バイクを投げつけてくるかもしれない。そう思ったダンテは彼女の怒りに触れないよう、今回は諦めて大人しくすることにした。
だが、それでも寂しい気持ちや人肌恋しい気持ちはどうにかして癒したい。満たして欲しい。
「なぁ、トリッシュ……
「もう、なによ」
「せめて、キスくらいしてくれよ。おやすみのキス……
そう言うとダンテは、指先で自身の唇を指差した。
「それもダメ。あなたの風邪が移るでしょ?」
トリッシュは寝ているダンテの前髪をかき上げると、額にそっと口付けをした。
「今は、これで我慢して?」
……あぁ」
少し不満げな表情を浮かべつつ、どんな形であれトリッシュからの口付けが嬉しかったのか、ダンテは軽く微笑んだ。
「風邪、早く治してね」
「あぁ、分かってるよ。またお前と、仕事出来るくらい回復しておく」
……そうじゃなくて」
トリッシュはダンテの耳元を唇でなぞるように、そっと囁いた。

……まったくお前は。ただでさえ風邪で弱っているという時に」
「ふふ……。そういうことだから、早く治してね」
トリッシュは再びダンテの額に口付けをすると、ミニテーブルに置いてあるトレイを持って寝室を後にした。
……
寝室に一人残されたダンテは、先ほどよりも顔が熱くなっていることを感じた。だが、それは風邪による熱のせいではなかった。
「本当に早く風邪、治さないとな……
ダンテは深く深呼吸をして心を落ち着かせたあと、瞼を閉じて眠りに落ちていった。




END




(私と熱い夜を過ごすために、早く治してね)