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癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2023-09-12 22:09:29
6799文字
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Iolite〜新たな日々〜 ①
パンドラの塔。エンデとセレス。シリーズ物。
二人の初夜に向けてのお話です。←
エンデとセレスが村に帰って暫くした頃、とあるきっかけで二人暮らしを始める事となった二人。
この先どうなることやら。
少しだけキスシーンあります。
〈補足〉
タイトルの「Iolite(アイオライト)」は宝石です。
【Iolite】〜新たな日々〜 ①
セレスと共に村に帰って来て、あっという間に数ヶ月の時が経った。
セレスの親御さんには今までの事、獣の呪いの事、監視塔での暮らしや出来る限り多くの事を伝えた。そして、今後の僕とセレスについても話し合った。
この先もずっと、二人で共に生きていきたい。何があってもお互い助け合うと。二人の間には強い絆があると、僕とセレスは自分なりに熱い想いをそれぞれ伝えた。
様々な話にセレスの親御さんは少し驚いた様子を浮かべていたが、僕達の想いが伝わったのだろう、ただ一言「セレスをお願いします」と僕に告げた。僕はその言葉を聞き、セレスの親御さんの瞳を見つめながら静かに頷いた。
それから暫くの間、セレスの実家で家業をしながら日々過ごしている時だった。セレスの親御さんから突然、「二人で暮らしてみたらどう?」と言われた。
セレスの実家から少し離れた場所に一軒家があったのだが、そこの住人が違う街へと引っ越してしまうらしく、家を買い取ってくれる人を探していたとの事。
近所付き合いみたいなのもあり、少し安く譲るのでもしよければ僕とセレスが一緒に住むのにどうだろうかと、セレスの親御さんに提案してきたとの事だった。
もちろん有難い提案なのだが、年頃の大事な娘さんを僕だけと一緒に住まわせていいのだろうかと、僕は少しばかり悩んだ。監視塔で二人で一緒に過ごしていたと言っても、僕達二人だけじゃなくあの時はグライアイ達もいた。しかし、僕の意見を聞く前にセレスがパァッと表情を明るくして、嬉しそうな様子でその提案を受け入れた。
「ね?エンデ!いいでしょ?」
そう言って僕の手を握ってジッと見つめてくるセレス。セレスの親御さんも、僕達二人の様子を優しい眼差しで見守っている。
悩むとは言っても断る理由などもちろんないため、僕もセレスの親御さんの提案を受け入れた。
本当に僕とセレスを二人きりで一緒に住まわせていいのだろうかと、セレスの親御さんに対して何処か申し訳なさみたいな気持ちは相変わらず消えないが、セレスの親御さんや駆けつけてきたセレスの弟達と共に喜んでいるセレスの様子を見て、僕は微笑ましい気持ちになった。
それからの日々は、元の住人から家を譲り受ける手続きをしたり、荷物を少しずつ運んで行って僕とセレスの新たな生活へと向けて準備を進めていく日々だった。
実家からそんなに離れている場所でもなく、元の住人が引っ越す際に必要のない家具をある程度譲ってくれたため、荷物運びは最低限、短期間で済んだ。
そして今日、私物なども全て運び終えたところで、僕達二人だけの生活が始まる。
「エンデ、ベッドカバー何色にする?」
寝室を片付けていた時に、セレスが僕に尋ねてきた。
母親の影響もあり裁縫が好きな彼女。ベッドカバーも有り余るくらい作っており、どれにするか悩んでいるようだった。
「手前の青色のでいいんじゃないかな。他の色の物は箱から取り出すのが手間になるだろうから」
「うーん
……
、そうね。そしたら、この青色のベッドカバーにしておくわね!懐かしいなぁ
……
。これ、監視塔にいる時に作ったベッドカバーよ」
セレスはそう言うと、青色のベッドカバーを手に取り敷き始めた。
「また新しいベッドカバー作りたいなぁ。あ、でも、今ベッドカバーはたくさん作ってあるから
……
今度は違う物作りたいな。ね、エンデは何がいいと思う?」
セレスの問いに、僕は少しばかり考えた。テーブルクロスも割とたくさん作ってある。裁縫があまり得意ではない僕には、何を作ればいいのかあまりいいアイディアなどが思い浮かばなかった。
「まぁいいわ。また何か新しい布でも手に入ったら、その時考えましょ」
「うん、そうだね」
そんな他愛ない話をしながら、僕とセレスは寝室の片付けなどを進め続けた。
「シーツよし、枕よし、布団やベッドカバーもよし。あとは
……
」
「あの、セレス
……
」
「なあに?」
「ベッドの距離、近すぎないかな
……
?」
そう言うと僕はベッドが置いてある場所をそっと指差した。
僕達の寝室は監視塔で暮らしていた時のように、シングルベッドを二つ並べる事にした。だが、目の前に置いてあるベッドは監視塔の時のようではなく、隙間がないくらいにピッタリと隣同士くっついている状態だった。ベッドを運んでいる時には気が付かなかったが、いつの間にこうなっていたのだろう。これでは寝る時に互いの距離が近すぎる。
一方、セレスはそんな事気にしていない様子だった。むしろ、僕が何を躊躇っているか分かっていない様子だった。
「エンデ?何か問題でもある?」
「そういう訳じゃないんだけど
……
」
いや、問題はある。セレスは一体何を考えているのだろうか。
僕は無口で内向的だし、セレスみたいに積極的な性格ではない。そのため、欲が無さそうに見られる事が多かった。だけど、僕だってこれでも世間一般でいう健全な成人男性である。欲や願望が全くない訳じゃない。ただ、セレスとの距離や関係をどう進めていいのか、今までの経験や僕の性格上、正直いまだに分からない事がたくさんあるのだった。
そんな僕の戸惑う気持ちに構う事なく、セレスは僕の元へと距離を縮めてきた。
「ねぇ、エンデ
……
」
セレスは僕の手をそっと握る。
「せっかく二人で一緒に暮らすのよ。だから、少しでも近くに
……
ね?」
そう言うとセレスは握った僕の手を引き、そのまま一緒にベッドへと勢いよく飛び込んでいった。
その出来事に驚く間もなく、気が付いたらセレスと向かい合ってベッドに寝転ぶ形になっていた。
「エンデ
……
片付けも終わったし、このまま二人でお昼寝しない
……
?」
少し甘えた声を出しながら、上目遣いでセレスが僕に聞いてきた。
「え
……
でも
……
」
「ね?お願い
……
」
セレスは僕の手を包み込むようにギュッと握ると、その手を自分の胸元へと寄せていった。ほんの少し、セレスの柔らかな胸の感触が僕の手に伝わる。
「暫く引っ越しの準備とかで忙しかったから、こうしてあなたと過ごせるの久しぶりなのよ
……
。だから、お願い
……
」
「セレス
……
」
確かに言われてみれば、暫くこうしてセレスと過ごしていなかった。きっと、彼女には少しばかり寂しい想いをさせてしまったのだろう。
「うん
……
いいよ」
そう言うと僕は、空いている手でセレスの頭を包み込むように撫でた。
「ありがとう、エンデ。
……
夜ご飯の時間までは、起きる
……
から
……
」
疲れも溜まっていたのだろう。セレスはそう言うと静かに眠りに落ちていった。
僕の手を握りながら眠るその姿がとても可愛らしい。まるで、親に甘える純粋な子供のように。
(セレス
……
)
穢れなく美しい君。いつかは君の全てを奪ってしまう時が来るだろう。
純真無垢な君の全てを、この僕が奪ってもいいのだろうか。君をこの腕に、抱いてもいいのだろうか。
「ん
……
」
そんな僕の想いとは逆に、気持ちよさそうに眠っているセレス。僕の理性はいつまで保ってくれるだろうか。
(
……
おやすみ、セレス)
僕はセレスの額に口付けをし、自身も瞼を閉じて眠りに落ちていった。
ーーーーーーーーーー
「ん
……
もう十八時か
……
」
片付けを終えたのが十五時頃。僕も多少疲れが溜まっていたのか、あれから三時間程ぐっすりと眠ってしまった。
隣で眠っているセレスも、僕が目を覚ますと同時に起きたようだった。
「ぁ
……
エンデ
……
おはよう
……
。
……
今、何時
……
?」
まだ眠たそうな目を擦りながら、セレスは枕元の時計を見た。
「
……
。
……
やだ!もうこんな時間なのね!ごめんねエンデ
……
!すぐにご飯の用意をしなくちゃ
……
、?!きゃっ
……
!」
「
……
!」
セレスが慌ててベッドから起きあがろうとした勢いでシーツに足がもつれたのか、セレスは僕に覆い被さるように倒れ込んできた。
……
一瞬、時が止まったようだった。
「ん
……
」
セレスが倒れ込んできた勢いで、僕とセレスの唇が互いに重なり合った。
「
……
ぁ、ご、ごめん
……
!」
セレスは顔を真っ赤に染め、両手を唇で覆うと慌てた様子で起き上がった。
「
……
」
一方僕はというと、今さっき起きた状況を頭の中で整理するのに必死で、僕の事を真っ赤な顔で見下ろしているセレスの視線から逃れようと目を泳がせるばかりであった。
「
……
」
「
……
」
部屋に沈黙が訪れる。
僕はベッドに仰向けで寝たままで動くことができなかった。
僕達は
……
というより、恥ずかしながら僕自身がセレスと寄り添うので精一杯なところがあり、恋仲になってから実は数えられるほどのキスさえそんなにしていなかった。
セレスと出会って三年の月日が流れているとはいえ、僕は元々敵国の傭兵であり、セレスにさえ心を開くまで大分時間がかかったのだ。おまけに、無口で内向的な性格だ。
戦争中だったのもあり、傭兵時代は尚更誰かと恋愛をする暇も余裕もなく、経験はほとんど重ねてない。
こんな僕だ。何もかもセレスが初めてのようなものだ。
(
……
ど、どうしよう)
僕は相変わらず、身動きが出来ない状態でいた。
……
しばらくすると、セレスの方は大分落ち着いたのか、一呼吸ついたあとベッドから立ち上がろうとする仕草を見せた。
(よかった
……
。このままだと気まずい
……
)
僕は、セレスがこのまま夕飯の準備をしに行ってくれると思い、小さく安堵の息を漏らした。
しかし、そう安心したのも束の間。セレスはどこか遠くを見つめた後、再び僕に覆い被さってきた。
「
……
セレス?」
セレスは僕の呼びかけに応じず、ただ、僕の瞳を逃さないようにジッと見つめてきた。
「
……
」
「
……
」
「
……
」
「
……
あの、」
「エンデ」
僕の言葉を遮るようにセレスに名前を呼ばれ、少しばかり驚いた瞬間の出来事だった。
「
……
!」
セレスの顔が近付いて来たかと思いきや、互いの唇が再び重なったのだった。今度は先ほどと違い、一瞬ではなく。
「ん
……
っ」
ほんの数秒の出来事かもしれなかったが、僕とセレスの唇が重なっている時間はとても長く感じた。
「っ
……
はぁ
……
」
互いの唇が離れた後も、セレスの柔らかな唇や舌の感触が僕の唇に残っていた。
セレスは再び僕を上から見下ろしたあと、僕に覆い被さるように僕の身体を抱きしめて来た。
「
……
セレス?」
「
……
」
「
……
」
「
……
ずっと」
「
……
」
「ずっとエンデと、こうしたかった
……
」
セレスがそう言ったあと、僕の首筋に一筋の雫が伝って来たのを感じた。
「セレス
……
」
僕は寝たままの体勢でセレスの身体を優しく抱きしめた。微かにだが、鼻をすするような音が耳元で聞こえた。
(暖かい
……
。だけど、震えている
……
)
こんなにも僕は、セレスに寂しい想いや我慢をさせてしまっていたのだろう。彼女は随分前からこうして、僕に思う存分甘えたかったのかもしれない。触れたかったのかもしれない。
どうして気付かなかったのだろう。いや、気付かないふりをしていた。
彼女とどう接していいか分からず、戸惑いや恥ずかしさを隠すためだけに、僕は彼女の甘える仕草や想いのこもった言葉を、ちゃんと受け止める事が出来ていなかった。
セレスは誰よりも大切な存在である。もちろん、一人の女性として。最初は命の恩人という特別な存在ではあったが、今は違う。
僕はセレスを更に強く抱きしめ、彼女の耳元に話しかけた。
「セレス、僕は君のことを
……
本当に大切に想っているよ」
「
……
ぅん」
「君のことが、大好きだよ」
「
……
。エンデ
……
」
「今まで寂しい想いをさせて、ごめん
……
」
「
……
」
「もう、泣かないで
……
」
僕がそう言うと、セレスはほんの少し流れ落ちた涙を指で拭いながら、身体をゆっくりと起こしていった。
「エンデ
……
やっと言ってくれたね。ちゃんと“好き”って
……
」
「そう
……
だったかもしれない」
「だってエンデったら、「私の事好き?」って聞いても、「うん」って
……
ずっとそれだけだったんだもの」
「
……
ごめん」
「ううん、もういいの。
……
エンデ、ありがとう」
「うん
……
」
「エンデの気持ち、ちゃんと伝わったよ」
「うん
……
」
「私もね、エンデが大好き」
「
……
セレス」
「
……
」
「
……
」
「ねぇ、エンデ
……
」
「
……
?」
「もう一回、してもいい
……
?」
何の迷いもなく、僕はセレスの問い掛けに応えるようにゆっくりと瞼を閉じると、静かに頷いた。
「エンデ
……
大好き
……
」
目を閉じててもセレスの顔が近付いて来るのを感じた。
再び重なり合う僕達の唇。僕は両手で包み込むようにセレスの頬に触れた。
「んんっ
……
」
今まで触れ合わなかった時間を埋めるように、今度は長く口付けをする。そして、互いを求めるように口を動かしながら、角度を変える。
「っはぁ
……
ん」
お互い無意識だろう。気がつけば、ほんの少し互いの舌を絡み合わせていた。
(セレス
……
)
好きな人とのキスはなんて気持ちの良いものなのだろう。僕は今まで味わったことのない幸福感に満たされていた。
(もっと
……
君が欲しい
……
)
この時、僕は理性が持たなくなっていたのだろう。
僕の手は無意識に、セレスのスカートの中に入ろうとしていた。
その時だった。
「
……
!ゃっ
……
」
僕の行為に驚いたのか、セレスは飛び起きるように僕の元から突然離れた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。だが、顔を真っ赤にしているセレスの姿が目に入った瞬間、僕は我に返った。
「
……
!ごめん
……
!セレス
……
!」
僕は慌ててベッドから起き上がると、セレスに手を伸ばした。しかし、その手で彼女に触れる事が出来なかった。
「セレス
……
」
セレスはベッドに座り込んだままスカートの裾を両手でギュッと掴み、少しばかり呼吸を荒くしていた。
ここで僕がセレスに触れてしまったら、彼女の事を更に混乱させてしまうだろう。しかし、理由はそれだけじゃない。僕自身が、セレスに何かをしてしまうかもしれないからだった。
「あの、本当にごめん
……
。その
……
」
「ううん
……
。平気よ
……
」
さっきまで濃厚で幸せな時間を過ごしていたと言うのに、部屋にはまた気まずい空気が漂い、沈黙が訪れた。
そんな空気に耐えかねたのか、セレスは飛び起きるようにベッドから立ち上がると、部屋の扉へと足速に向かって行った。
「あの
……
そろそろご飯の準備してくるね
……
。だからその
……
、エンデは
……
もう少しここで待っててね。
……
で、出来上がったら、呼びに来るから
……
っ!」
そう言うとセレスは、少し勢いよく部屋を飛び出して行き、台所へと向かって行った。
セレスの慌てた様子が伺える大きな足音が寝室まで鳴り響いていた。
……
「
……
はぁ」
一人寝室に残された僕は、先ほどの自分の行いを悔やむように頭を抱えていた。
(どうして僕はあんな事
……
)
本当に、本当に意識的にやったのではない。
僕の意思とは別に、僕の手が勝手にセレスの洋服、スカートの中へと潜り込もうとしていた。
だけど、無意識だからこそ問題なのだ。僕は、一体彼女に何をしようと。
「
……
」
僕はセレスと、どうしたかった?
「
……
っ」
そんな事、わざわざ問うことなんかしなくてもわかっている。
(僕は
……
)
“セレスと繋がりたい”
長い間、僕はずっとその欲を抑えていた。
しかし、セレスと口付けをしているうちに、身体や心の奥底に眠らせていた己の欲望が、溢れて出てしまった。
どうして、抑えきれなかったのだろう。今までずっと、抑える事が出来ていたのに。
「っ
……
」
セレスとはいずれ、身体を重ねる時が来るかもしれないとは思っていた。だけどそれは、今ではない。
今はまだ耐えるべきだと、僕はずっとそう思って過ごしていた。
セレスの事だ。きっと、貞操観念が高い。僕はまだ、彼女の純潔を守らねばならない。その事は分かっている。ただ、先ほど彼女を驚かせてしまった、もしくは怖がらせてしまった事に対しての罪悪感や、彼女に拒まれてしまった悲しさで今はいっぱいになっていた。
(セレス
……
。僕はどうしたら
……
)
あと数十分後にはセレスが夕食の支度を終え、僕のことを呼びに来るだろう。
(っ
……
ダメだ、今は
……
)
僕は再びベッドに横になると、身体を疼くませながら今にも主張しそうな己の欲を必死に抑え込もうとした。
(頼むから、今だけは耐えてくれ
……
)
新しく始まったばかりのセレスと二人だけの日々。
この先、僕は大丈夫だろうか。
そんな不安を胸に、僕は己の欲を抑え込むのにただ一人、必死にもがいていたのだった。
To be continue
……
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