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癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2022-01-17 21:07:36
2745文字
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届かない手紙
初代ダントリ。
トリッシュがダンテの元離れた時の話。
『トリッシュへ
最近調子はどうだ?俺の方は相変わらず依頼があったりなかったり、不規則な生活が続いている。
先週は久しぶりに、たくさんの悪魔を相手にして大暴れしてしまったもんだから、依頼料の殆どが土地の修理費用に持っていかれてしまってな。
おかげさまで、今月も赤字生活になりそうだぜ。
お前の方はどうだ?今、何をしている?』
……
俺はそこまで手紙を綴ると、手に持っていたペンをそっと机の上に置いた。
「こんなの書いたって、宛先も何も分からねぇのにな」
そもそも文章を書くこと自体、俺は得意ではない。
それなのに、こうして文字に自身の想いを書いているのは、こうでもしないと俺の心が深い闇にでも飲み込まれそうな気分になるからだった。
世間的には、日記を書く感覚と似ているかもしれない。
我ながら情けないと思う。
(トリッシュ
……
)
一ヶ月、三ヶ月、いや、お前が俺の元からいなくなって半年近くは経ったのか。
どれくらい時間が経ったのかなんて、俺にはもうさっぱり分からなかった。
「やれやれ。やっと、いい相棒が出来たと思ったんだけどな」
ずっと俺の側にいてくれる最高な相棒が。
しかも、とびきり美人の。
「それにしても、電話や手紙の一つくらいアイツの方がくれたっていいじゃねぇか」
俺は知らないけど、トリッシュは俺の居場所を知っている。
住所は覚えていなくたって、電話番号は分かっているはずだ。
本当に、トリッシュはズルい女だ。
突然俺の元にやって来て、突然去って行く。
きっと今頃、アイツは羽を伸ばして自由に旅をしているんだろうな。
そう思うと俺は天井を見上げて力なく笑い、深く溜め息をついた。
「
……
」
どうして、こうなってしまったのだろうか。
特に喧嘩とか言い合いとか、折り合いが悪いとかそういう訳ではない。
アイツ
……
トリッシュがいなくなる日の前日を思い返してみた。
もう、何度目になるのだろうか。
ーーーーーーーーーー
ある日、依頼が終わって事務所兼自宅にて二人して寛いでいる時だった。
二人でソファーに並んで腰をかけて、ワインを片手に他愛ない会話をしている最中、トリッシュ は突然「此処を出て行く」と、呟いた。
俺は何かの冗談かと思い、トリッシュが呟いた言葉に返事も何もせず、黙ってワインを口の中へと注ぐ一方だった。
そんな俺の態度にどこか呆れたのか、トリッシュはワイングラスをテーブルに置いてソファーから立ち上がると、どこか遠くを真っ直ぐ見つめながら、俺に話し掛けた。
「私、ダンテとこうして仕事をしていくうちに、もっと人間のことや、この世界のことを知りたいと思ったの。ムンドゥスに作られた私は、魔界の事しか知らなかったから。でも、貴方とこうして出会って、人の暖かさに触れて
……
。私はもっと色んな人と出会って、もっと人の愛情を知りたい。だから、ずっと同じ場所にはいられない
……
って思ったの」
「
……
」
俺はトリッシュの話を聞きながら、ひたすらワインを飲み続けていた。
「貴方は、この場所を離れる訳にはいかないでしょう?貴方には貴方の使命があるもの。私は、まだ自分の使命が分からない。だから、それを探しに行きたい」
「
……
」
「いつかまた此処へ、戻ってくるかもしれない。
だけど、今は
……
。しばらくの間、一人でいたいの」
「
……
」
「時間を頂戴、ダンテ
……
」
そういうとトリッシュはソファーに座り直し、俺の身体を包み込むように抱き締めた。
同時に甘い香りが、俺の鼻に漂って来る。
俺はトリッシュに抱き締められたまま、ワインの入ったグラスをテーブルの上にそっと置いた。
トリッシュの気持ちは痛いほど分かった。
誰だって、自分探しをしたい時は一人でいたいものさ。
行きたい場所があるってだけなら、俺が何処へでも連れて行ってやる。どんなに遠い場所でも。
しかし、どうやらそういう事ではなさそうだった。
俺といるのは嫌いでは無さそうだが、トリッシュにとってこの場所が段々と窮屈に感じて来てしまったのだろう。
そんな彼女の心情を理解した俺は、一息吐くと重たくなった唇をゆっくり開いて彼女へ話しかけた。
「
……
分かった。それなら行ってきな。好きな場所へ」
「
……
」
「俺はお前を引き留める権利なんて、そもそもないからな」
我ながら冷たい言い方をしてしまったと思った。
その証拠に、トリッシュは少しばかり悲しげな表情を浮かべて黙り込んでしまった。
部屋に沈黙した空気が漂う。
俺はそんな空気を変えようと彼女に話しかけた。
「とりあえず
……
今はゆっくり二人で寛いでいよう。これ以上、寂しくなるような話はしたくないからな」
そして俺達は互いに一言も発しないまま、ただ黙ってワインを飲み交わすだけの時間をゆっくりと過ごした。
そして、いつの間にか2人してそのまま眠りに落ちてしまった。
翌日、目が覚めるとトリッシュの姿はなかった。
しかも、昨夜何事もなかったかのようにテーブルの上に置いてあったワインボトルやグラスは綺麗に片付けられていた。
「
……
行っちまったようだな」
俺は一言そう呟くと、ソファーから起き上がりシャワーを浴びに奥の部屋へと向かっていった。
------------
そして、今に至る。
「こうなる前に、お前にキスの一つくらいしとけばよかったな
……
」
なんてな。
「
……
」
俺たちは別に、夫婦とか恋人という訳ではない。
離れ離れになってしまった今、互いに新しい相棒でも何でも好きなように作ればいい。
だけど、俺はお前の事を引きずったまま、新しい誰かを自分の側に置く事が出来ない。
何故だろう。
お前への気持ちをどう表現すればいいか、俺には分からない。
「逢いたいよ、トリッシュ
……
」
身体に染み付いている君の甘い香りが、消えないうちに。
「なぁ、どうすればお前に逢いに行ける?」
君の居場所が分からない。
分かるのは、どこか物凄く遠い場所にいるという事。
「
……
ハハ。多分、俺には遠すぎて直ぐに行ける場所じゃねぇな」
そう、遠すぎて。
君は遠すぎて
……
「
……
」
遠すぎて
……
「っ
……
ぅ
……
」
最初から君は、俺には遠すぎて
……
「ぁぁっ
……
」
何もかも、遠い存在だった。
「トリッシュ
……
」
君に触れたいよ。
逢いたいよ。
「
……
っ」
ダメだ。これ以上はもう
……
。
「
……
」
今夜は早めに眠りにつこう。
君に唯一逢える方法は、目を閉じる事だけだから
……
。
「おやすみ」
俺は机の引き出しを開け、何枚目になるか分からない書きかけの手紙を中にしまうと、重たい足取りで寝室へと向かって行った。
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