癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2017-08-29 22:25:20
7379文字
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forgiveness

バージルがネロアンとしてダンテに敗れたあとの世界にスパーダが迎えに来た話。
バージルが反抗期の子供のような口調になってるところもあるけど、バージルが今までの不満とかを爆発させたらこうなるのかなって。

(……ここは、どこなのだろう)



(……俺は、誰だ)



(暗い……怖い……)



(誰か……)



(助けて……)



***

「ジル……バージル……!」
……
「バージル、気が付いたか……
……お前は」
俺は、どれくらい深い眠りに落ちていたのだろう。
目が覚めたとき、何もない真っ白な世界にいた。
そして、目の前には俺と同じ銀髪の男。
片眼には眼鏡をかけていて、闇に染まったような紫の衣服を纏っていた。
その男が言うバージルというのは、俺の名前なのだろうか。
「バージル、俺が分かるか?」
……その前に、バージルというのは、俺の名前なのか……?」
何も覚えていない俺は、目の前にいる男に尋ねた。
「まさか、お前記憶が……
「俺の質問に答えろ」
……
「おい」
……あぁ。そうだ。お前の名前はバージルだ」
……そうか」
自分の名前を知ることが出来て安心したのか、俺は強く握りしめた拳を緩めていった。
しかし、何か他にも忘れている気がして、俺はどこかやるせない気持ちに侵されていた。
「貴様は……
……ん?」
「貴様は、誰なんだ」
俺がそう尋ねると、男は少し寂しそうな表情を浮かべたが、直ぐに優しく口元を緩ませた。
「俺の名前は、スパーダ」
「スパーダ……
その名に、どこか聞き覚えがあった。
「お前と、お前の弟……ダンテの父親だ」
「ダンテ……?」
俺には、弟がいたのか……
「っ……ダンテ……
頭をクシャッと掴んで記憶を辿ろうとするが、俺は何も思い出せなかった。
そのせいか、イライラが募るばかり。
やるせない。
ムシャクシャする。
俺はその想いをぶつけようと、地面を力一杯殴った。
物凄い破壊音が鳴り響いたが、真っ白な地面が壊れた様子はなかった。
……っ」
どうやら、怒りをこうしてぶつけるだけ無駄らしい。
俺は、自分でも分かるくらい悔しそうな表情を浮かべると、ゆっくりと立ち上がった。
そして、目の前いる男、スパーダ……いや、親父という存在に話しかけた。
「ところで、ここは何処なんだ。何故貴様も此処にいる。どう考えても、普通の世界ではなかろう」
……そうだな。お前の言うとおり、此処は普通の世界ではない。簡単に言えば……
……
「生きている者にとって、この世ではない……ということだな」
……そうか」
大体察しはついていたが、俺は改めて突き付けられた真実に胸が苦しくなった。
「あの世でもこの世でもない。亡き魂が迷い込む場所とでも言うべきか……
……そうか」
つまり、俺は死者ということなのか。
もちろん、親父も……
「地獄にしては、何も無さすぎるとは思ったがな」
……そうだな」
そういうと、親父は力なく俺に向かって笑いかけた。
その時、俺の腰付近にふと視線を向け、 その場所を指差した。
「ところでバージル、閻魔刀は……
……閻魔刀?」
「俺が、お前に託した武器なんだが……
……。閻魔刀……
聞き覚えのある名前に、俺は自分の掌を見つめながら考え始めた。
とても大事な物だったような。
どんな時でも肌身離さず、持っていた気がする。
微かに自分の手に残っている感触を頼りにしながら、俺はそのまま掌を見つめ続けた。
……
「思い出せたか?」
「いや、はっきりとは……
「そうか……。なら、リベリオンは……
「リベリ……オン……
「お前の弟、ダンテに与えた武器だ」
「ダン…………
何故だろう。急に横腹がうずく。
……っ!」
そして、そのうずきは急に激痛となって俺に襲いかかってきた。
一瞬だったが、俺はあまりの痛さに横腹を両手で押さえつけると、静に瞼を閉じていった。
その瞬間、脳裏にある光景が思い浮かんだ。
俺と同じ銀髪で、赤いコートを羽織った男が、恐らく自身が愛用している大剣を手に持ち、俯きながら自分へと向かって走って来ている。
一方俺も、大剣を手に持ち、赤いコートを羽織っている男の元へと走りながら向かっていた。
二人の距離は段々と近付いていき、ほぼ同時に互いの大剣は振り上げられた。
次の瞬間、俺の横腹には凄まじい痛みが襲ってきた。
そう、赤いコートを羽織っている男によって、斬られたのだった。
……っ!」
そこで俺は思い出した。
赤いコートを羽織っている男は我が弟、“ダンテ”であるということ。
そして、そのあと俺は……
「ダン、テ……
俺は地面へと蹲り、頭の中でもがきながら自身の記憶をゆっくりと思い出していった。
ダンテと一騎討ちの末、俺は敗れてそのまま魔界へと堕ちていったこと。
そして、魔界で魔帝ムンドゥスに戦いを挑み、俺は……
……っぅ!」
何故だろう。
そこから記憶がない。
何かあったはずだ。
そのあと死んだとしても、何かがあったことは体が覚えている。
だけど、思い出せない。
俺の身に一体何が……
「っ……ああっ……!」
俺は、思い出せそうで思い出せない出来事に腹を立てたのか、再び地面を激しく殴った。
先程と同じように、辺りには破壊音が鳴り響いた。
そんな俺の様子を落ち着かせようとしたのか、親父は俺の側座り込むと、俺の肩にそっと手を置いた。
「バージル……
「一体……何が起きたんだ……俺の身に……
俺は、声を震わせながら親父に話しかけた。
「俺は確かに、魔帝に破れた。そこまでは覚えている……。問題は、そのあとだ……
……
「俺は、それから暫く生きていたような……気がする……。何なんだ……これは……
……
「だけど、俺の意思で生きてなかった……。誰かの手によって……生かされてた……
……
「どういうことだ……俺は……
……
「貴様なら……何か知っているのだろ……
……
「俺の身に……何が起きたんだ……
……
「教えてくれ……
「っ……
…………頼む……
俺は親父の肩を強く掴むと、今にも涙を浮かべそうな親父の悲しげな瞳をジッと見つめた。
親父は、どこか言いにくそうに唇を噛み締めていた。
そんな親父の様子を見て、俺は怒りが湧いてきた。
俺は何も知らなくて、何も覚えていないのに、親父は知っている。
その事に腹を立てたのか、俺は親父の肩を更に強く掴んだ。
そんな俺から放たれている怒りのオーラを感じたのか、親父は一息つくと重たくなった唇をゆっくりと開いていった。
……バージル、落ち着いて聞いてくれ」
親父は俯きながら、俺に話し始めた。
……。魔帝ムンドゥスによって、お前が殺されたのは覚えている……よな……
……あぁ」
……そのあとお前は、ムンドゥスの手によって改造……されたんだ……
…………造」
「ネロ・アンジェロという、黒き鎧を身に纏った悪魔に……
……
「それでお前は……
親父がそこまで話すと、俺は頭が割れるような頭痛に襲われた。
「っ……!?ぁぁああ……っ!」
……!?バージル……!」
「っ……ああああああああ!」
「おい!バージル!大丈夫か!?しっかりしろ!」
俺は、微かに親父の声が頭に響く中、激痛が走る頭を抱えながら再び何かを思い出そうとしていた。
「っ……!」
そうだ。俺は、ムンドゥスの手下として改造されたんだ。
そして、赤いコートを羽織った男と戦った。
その男は、恐らくダンテだ。
少しばかり年をとっていたが、ダンテのはずだ。
三度行われた激しい戦いの末、俺は再び奴に敗れ、そして……
「っ……アミュレ……
そうだ……
アミュレットはどうしたのだろう。
母さんの、形見……
魔界復活の鍵……
まさかあの時……
……
俺はそこまで思い出すと、頭の痛みが段々と治まっていき、地面に蹲った身体をゆっくりと起こしていった。
……
そして思い出した。
俺はあの時、魔界を復活させようとしたことを。
その理由は……
……母さん」
……バージル……?」
「あの日、母さんを……守れなかったんだ……俺は……
……
「俺が弱かったから……母さんは死んだ……
……
「俺にもっと力が……あれば……
あの日、母さんを救えなかった自分が堪らなく嫌になり、俺は力を求めた。
自身の父親、スパーダの力を。
もう、大切な者を失わないようにと。
その結果、あんな悲劇を生み出してしまった。
誰が犠牲になろうと、正直構わなかった。
別に、世界を征服しようなどとも思っていなかった。
ただ、力が欲しかった。
自分が弱いせいで、また大切な何かを失うのが嫌でたまらなかった。
力さえあれば、俺は満足して生きていけると思っていた。
しかし、現実はどうなのだろう。
力を求めすぎたあまりに、逆に大切な事を忘れていく一方だった。
弟、ダンテのこともそうだ。
俺はあの時、必死に俺に向かって伸ばしてきたダンテの手を、掴めなかった。
掴む資格なんてなかったからだ。
俺は、弟との戦いに破れるまで、家族への愛というものをすっかり忘れていたんだ。
それこそ、母さんの事もそうだ。
最初ばかりは母さんの事を一途に想い、そのために力を求めた。
しかし、その思考は月日と共に変わっていった。
ただ、力だけが欲しくなっていた。
誰のためとかではなく、自己満足のために。
……
俺は一体、どこで変わってしまったのだろう。
どこで間違ってしまったのだろう。
……
いくら考えても答えなんか出ず、俺は酷く落胆すると虚ろな瞳を浮かべた。
「バージル……
そんな俺を見て、親父は俺の側に近寄ると、俺の肩に再び触れようとした。
俺は親父のその行為に気付くと、やり場のない怒りをぶつけるように親父の手を力強く振り払った。
辺りには、誰もが聞いても痛々しい音が鳴り響いた。
…………!気安く俺に触るな……!」
いくら自分の父親だとしても、今の俺にとって慰めのような行為はイライラが募るばかりだった。
いや、むしろ、自分の父親だからこそなのかもしれない。
……っ!」
そうだ……事の発端は親父ではないか。
何故今まで気付かなかったんだ。
親父が俺の人生を狂わせたようなものではないか。
……
俺はそう考えた瞬間、今までにないくらいの殺意のようなものが身体中から湧いてきた。
そして、俺はその場からゆっくりと立ち上がると、拳を血が滲むくらい強く握った。
同時に親父もゆっくりと立ち上がり、俺と向かい合った。
「バージル……
親父は、俺から放たれている殺気を感じつつも、穏やかな口調で俺に話し始めた。
それが更にイライラする。
「あの時、何も言わずにお前やダンテ、母さんの前から消えたことは……本当にすまないと思っている……
……
「俺のせいで悪魔の襲撃にあってしまったことも、申し訳ないと思っている……
……

何を今更……

「許してくれとは言わない。ただ、これには理由が……
「はっ……?何が理由だ?」
俺は俯かせていた顔を親父の方へと向けた。
「今まで悪魔として過ごしていた貴様が人間の女の愛に目覚め、俺達子供を孕ませ、魔界を封じて人間界に平和をもたらし、魔剣士スパーダとして称えられてただと?フッ……笑わせるな」
……
「その結果がこれではないか。貴様のしたことは本当に正しかったのか?」

俺は……

「長い間、今も伝説として称えられ、貴様にとっては喜ばしい事。それだけだろ?貴様はその優越感に浸りたかっただけなんだろ?」

一体何を……

「所詮、人間を助けようが愛に目覚めようが、貴様が悪魔であることには変わりないだろ?それとも何だ?貴様は人間にでもなりたかったのか?」

言っているんだ……

「俺達子供を孕まして、人間と同じように家庭を持つことにより、自分が悪魔として過ごしていた日々をなかった事にしようとでも思ったのか?」

あんなに、誇りに思っていた自身の父親に向かって……

「バージル……
親父は、俺の嫌み溢れる口調や言葉に一切歯向かおうとせず、寂しそうな表情を浮かべて俺の事を見つめた。
それが尚更、イライラする。
「大体、今更こんな場所で再会して父親面しやがって……
……すまない」
「謝って済むことか?散々勝手な事をしたのは貴様の方だろ?俺がテメンニグルの封印を解こうとした事を責めてこないと思いきや、貴様もそれなりに罪の意識があるということか?それとも、「自分の子供がまた魔界を復活させることを願っている」という気持ちでもあったのか?再び、“伝説の魔剣士スパーダ”として、名前を知らしめるために」
……!それは違う」
「ぁ……?」
「俺はそんなこと……。それに、テメンニグルは、復活させてはいけないものだったんだ……
……
……仮に復活させたとしても、お前が手に入れたかったものは手に入らないし……母さんだって、戻ってはこない……
……
「お前のしたことは、正しかったとは言えない……
……っ」
「力を求めても、何の意味もなかったんだ……
……!」
親父がそう言った瞬間、俺の中の何かが切れる音がした。

「勝手な事を言うな!大体、元はと言えば貴様が魔界を封じた事でこんなことになってしまったのだろ!」

(いや……)

「母さんは……っ、貴様のせいで悪魔に殺されたんだ……!貴様のせいで……!」

(違う……)

(そうじゃない……)

……っ!貴様さえ、貴様さえいなければ……!」

(違う……)

(本当に憎むべき相手は……)

「貴様さえいなければ……!俺は……!」

俺は大きく雄叫びを上げると、血で滲んでいる拳に更に力を入れて、親父の頬を思い切り殴った。
鋭い音が響くと同時に、親父は遠くへと吹き飛ばされた。
凄まじい痛みに顔を歪める親父。
しかし、俺の怒りはそれだけでは収まらず、殴り飛ばされた親父の胸ぐらを強く掴むと、再び頬を殴った。

「っ……!貴様のせいで、俺は……!」
……
「俺は……俺にはまだやるべき事があったんだ……!」
……
……っ!それを、貴様のせいで……貴様のせいで…………!」
……
「っ……貴様さえ、貴様さえいなければ……!こんなことにはならなかったんだ……!」
俺はそう言うと、再び親父に殴りかかろうとした。
しかしその瞬間、俺の身体は親父に引き寄せられ、力強く抱き締められた。
「っ……?!貴様……!何の真似だ!?ックソ……!離せ!」
俺はそう言うと、親父の腕から逃れようと親父の腹を力強く殴った。
しかし、親父は一瞬苦痛に顔を歪めるだけで、俺を力強く抱き締めたままだった。
…………!離せ!離せ!離せぇぇぇぇぇぇ……っ!」
俺は親父の腕から逃れようと、身体を必死に動かした。
まるで、駄々をこねる幼い子供のように。
それでも親父は俺を力強く、俺を抱き締めたままだった。
首を横に降りながら。
「っ………………!」
しかし、親父は俺を離そうとしなかった。
……っ」
俺はもう、精神的に抵抗する気力がなく、親父の腕の力が緩むまでこのままでいることを決めた。
もう、どうにでもなってくれ。
そんな想いだった。
……バージル、聞いてくれ……
……
俺は、どこか遠くを見つめながら、親父が話し掛けてくる声に耳を傾けた。

「バージル……
……
……すまない」
……
「辛い想いを、させたな……
……
「俺のせいで長い間苦しませてしまって、本当にすまなかった……
……
「お前は本当に、優しい子だ……
……
「真面目で、誰よりも愛情深くて……何事も最後までやり遂げようとする……。お前のいいところだ……
……
「だけど、もういいんだ……。お前の役目は終わったんだ……
……っ」
「もう、楽になっていいんだ……
「ぁ……
「もう、力に執着する必要もないんだ……
「っ…………
「お前は……よくやった……
「っぅ…………
「っ……俺の、自慢の……息子だ……
「ぁぁっ…………
「こんなこと、決して言える立場ではないが、ずっとお前に言いたかった事がある……
……っぁ…………
「俺は、お前の父親になれて……幸せだった……
「ぁぁ…………
「本当に、心から愛していた……。お前もダンテも、エヴァも……
「っ………………
「バージル……
「ぁ…………








「生まれてきてくれて、ありがとう……











ーーーーーーーーーー



俺は生まれて初めて、親父の胸で声をあげて泣いた。
涙なんて、誰の前でも今まで流したことがなかったのに。
俺は、次々と溢れてくる感情を抑える事が出来なかった。
息が苦しくなった。
目眩もしてきた。
唇も痺れてきた。
同時に、手足も痺れてきた。
そんな自分が情けなくて、嫌で堪らなかったが、それでも俺は、涙を止めることが出来なかった。
激しく嗚咽した。
そんな俺を、親父は優しく抱き締めてくれた。
背中を撫でてくれた。
俺の耳元で何か話していたが、今の俺には何も聞こえなかった。
俺自身も、親父に何かを訴えようと必死で叫んだが、何を言っているのか自分でも分からなかった。

俺は……



「さぁ、バージル……



俺は……



「もう、時間だよ……



…………



「一緒に、帰ろう……



……



「母さんも、待ってる……



……




「父さん、俺……





ーーーーーーーーー



気付けば、俺と親父の身体は光の粒と共に消えていこうとしていた。
亡き魂が逝くべき場所へ向かおうとしていた。
この世に未練は、正直ない。
俺は、静かに瞳を閉じた。



……



嘘だ。
一つだけあった……



……ダン……t」














ーーーーーーーーーー



……?」



今、誰かが俺を呼んだ……



……バージル?」



いや、まさか……な。



END