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癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2017-06-15 20:03:22
5901文字
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大切な温もり
ネロキリ。
月のものでキリエが倒れてしまい、ネロが焦るお話。
その日、キリエは朝から体が怠かった。
眠気が凄まじく、頭痛と腹痛も酷い。おまけに貧血。
そう。女性特有の、月のものの影響だった。
(具合悪い
……
)
そう思いつつ、朝食の支度をしなければと、重たくなってる体を何とか起こしたキリエ。
しかし、いつもに増して酷い目眩が襲ってきた。
「っ
……
」
ベッドから起き上がり歩き出そうとするが、足元がグラつき、キリエは咄嗟にその場にしゃがみこんだ。耳鳴りもし始め、周りの音もキンキンとする。
これはまずい
……
と思い、ベッドに一旦戻るため立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、キリエはそのまま床に横になった。
視界が真っ白になったり真っ黒になったりしているため、目を開いているのか閉じているのかも分からなくなっているキリエ。
いっそ、このまま意識を失ってしまった方が楽になるのだろうか
……
。そう思ったキリエは、ゆっくりと目を閉じていった。
もともと意識が朦朧としているせいか、目を閉じた瞬間、夢か現実なのか分からなくなっていた。
(早くしないと、ネロが起きちゃう
……
)
しかし、ネロの事が気になり、一度横になった体を再び起こそうとする。だが、やはり全身に力が入らなかった。
それどころか、意識は段々と遠のくばかり。
(もう
……
ダメ
……
)
キリエはそう心で呟くと、そのままゆっくりと意識を手放していった。
***
一方、ネロはそんなキリエの様子を知るはずもなく、のんびりと起床し始めた頃だった。
リビングでは今頃、キリエがいつも通り朝食を用意しているだろうと考えながら、着替え始める。
「ちょっと寝坊したかな
……
」
そう呟き、呑気にアクビをしながら着替えるネロ。
やっと着替え終ったかと思えば、未だに襲ってくる眠気に勝てなかったのか再びベッドへと飛び込むように寝転んだ。
「あー
……
眠い」
今日の依頼は夕方からだし、このままもう少し寝てしまおうかと、ネロは思った。
しかし、余り起きるのが遅くなるとキリエに叱られてしまうだろう。
そう思ったネロは、重たくなった体を何とか動かし、ベッドから起き上がると自室を出て、リビングに向かおうとした。
***
「?」
自室から廊下に出た瞬間、ネロは妙な違和感に襲われた。
いつもなら、家事をやっているキリエの様子が二階の廊下にいても下からバタバタと聞こえてくるはずだが、やけに静かだった。
(まだ、寝てるのか
……
?)
キリエにしては珍しいなと思いつつ、ネロはキリエの事を起こしてあげようと彼女の部屋の前へと立ち、扉を軽くノックした。
「キリエ?」
小さく呼び掛けるが、特に応答なし。
そんなにぐっすり眠りについているのか?とネロは思い、先程より少し大きめに扉をノックした。
「キリエ?まだ寝てるの?」
声も少し大きめにして呼び掛けたが、やはり応答なし。
「
……
。起こしてやるか」
ネロは軽く溜め息をつくと、キリエの部屋の扉をそっと開いた。
「キリエ
……
?」
少しだけ開いた扉の隙間から身を乗り出すように、ネロはベッドへと視線を向けた。
しかし、彼女の姿がそこにはなかった。
(あれ?いない
……
?)」
ネロは、キリエがベッドに寝ているものだと思い込んでいたため、彼女のその姿が見当たらなかった事に頭を傾げた。
しかし、ふいに自分の足元から苦しそうに呻く声が聞こえた。
何だろう?と思い、ネロはゆっくりと視線を下へと移動していった。
「!」
そう。そこには、床に横たわっているキリエの姿があった。
お腹を抱えるように蹲り、息も苦しそうにしていた。
「キリエ!おい!どうしたんだよ!」
ネロは慌てた様子で、急いでキリエの元へと近付いた。
そして、彼女の顔を覗き込むように、身体を軽く揺すった。
その行為に気付いたのか、キリエは意識が朦朧とする中、ゆっくりと瞼を開いていった。
「ん
………
。ネロ
………
?」
ネロの顔を見てその名を呼ぶが、焦点があっていないのか、キリエは青白い顔でキョロキョロと目線を動かしながらネロの顔を見つめた。
そして、ゆっくりと手を伸ばし、指先でぎこちなくネロの顔を撫でた。
「おい、マジで大丈夫か
……
」
こんな様子のキリエを見たことがないネロは、どうすればいいものかと焦る気持ちに押し潰されそうになるばかり。
しかし、逆にキリエは、具合悪そうにしているのは変わりないが、どこか冷静な雰囲気を漂わせていた。
「ネロ
……
大丈夫よ
……
」
「大丈夫って
……
どこが
……
」
「だって、生理
……
ってだけだから
……
」
「せい
……
。えっ
……
ぁ
……
」
「
……
」
「
……
」
「
……
」
「
……
アレの、日?」
恐らく間違ってはいないだろうが、ネロはきちんと確認するかのようにキリエに話し掛けた。
「
……
うん」
ネロの問いに、キリエは静かに頷いた。
その事に、ネロはホッと胸を撫で下ろした。万が一、何か病気でも
……
という不安があったためか、彼女の体調不良の理由を知れてネロは少しばかり安心した。
「大丈夫か?動ける
……
?」
「ちょっと、キツい
……
かな
……
」
「
……
分かった」
ネロはそう言うと、床に横たわっているキリエの事を抱え、そっとベッドに寝かした。そして、安心させるかのように、彼女の頭を優しく撫でた。
そのことによって少し心が和らいだのか、キリエはフッと息を吹いて口元を緩ませた。
そして、ベッドの横でしゃがみこんでいるネロの方へとゆっくりと顔を向けた。
「ごめんなさいネロ
……
。驚かせてしまって
……
」
「いや、まぁ
……
それなりに焦ったけど、俺は大丈夫だよ。それよりキリエ、何か食べないと
……
とは言っても、食欲はあるか
……
?」
「
……
ない」
「
……
だよな。まぁ、何も食べないのも良くないだろうし、少しでも落ち着いたら
……
な?薬も飲まなきゃだろうし
……
」
ネロはそう話しながら、キリエに優しく微笑みかけた。
そんなネロの表情を見て、キリエはまたしても安心したかのように口元を緩ませた。
しかし、こうして自分が体調を崩したことによってネロに迷惑や心配をかけてしまったと思うと、どこかやるせない気持ちが襲って来たのか、少し伏し目になりつつ俯いた。
「本当、ごめんなさい
……
」
「だから、大丈夫だって」
「でも
……
」
「いいから。今日家の事は俺が全部やるから、キリエはゆっくり休んどけよ?」
「でも、今日は確か依頼があった日じゃ
……
」
キリエにそう言われると、ネロは依頼があったことをハッと思い出し、どうしようかとばかりに軽く頭を掻いた。
もちろん、依頼をすっぽかす訳にはいかない。しかし、こんなにも体調を崩している彼女の事を家に一人にしておくのも、ネロにはもちろん出来なかった。
最終手段としては、誰か知り合いに面倒やら看病やら頼めばいい話なのだか、やはり家族、恋人としては自分が側にいてやりたい気持ちが強かった。
もちろん、キリエも出来ればネロに側にいてほしい気持ちがあった。
体調を崩して人肌恋しくなっているせいもあるが、それ以前に月に一回訪れるものによって情緒不安定になっているため、尚更だった。
「
……
困ったな」
ネロは、どうしようかと暫く悩んだ。
「うーん
……
。
……
ぁ」
しかし、あることを思い付き、軽く目を見開いた。
「そうだ。ダンテに電話して頼んでみるよ。アイツ、暇しているだろうし。もし、ダンテが駄目だとしても、トリッシュとか辺りに頼めるだろうし」
「それなら
……
いいけど
……
」
「なぁに。キリエが心配する事は何もないさ。まぁ、ダンテ達に報酬は全部もらわれるけどな」
そう言って、ネロは溜め息混じりにハハッと軽く苦笑いをした。
「それにしても、キリエがこんなに体調崩すのも珍しいな。いつもは、なったとしてもちょっと体が怠い程度だったのに」
「うーん
……
。体の冷えとかの影響で、酷くなるときもあるみたいで
……
。最近、寒い日が続いてたし
……
」
「成る程な
……
」
「あとは、寝不足
……
かな
……
」
「寝不足?寒くて寝付けないとか?」
「
……
。ネロが、寝かしてくれないからよ
……
」
「
……
」
「
……
」
「
……
ぇ」
ネロは一瞬、キリエが何を言ったのか理解できなかった。
「
……
」
「
……
ぁ」
しかし、その意味を理解すると、キリエに対しての申し訳なさや恥ずかしさなどで、顔が一気に熱くなっていくのを感じた。
そんな様子のネロを見たキリエは、自分もどこか恥ずかしくなりながら静かに溜め息をついた。
「心当たりあるっ
……
て顔してるわね
……
」
「はい、すみません
……
。最近、調子乗ってました。本当に
……
」
「本当
……
。先週なんか
……
立て続けだったから、さすがに大変だったのよ
……
。嫌ではないけど
……
」
「
……
悪い」
「
……
程々に
……
ね
……
?」
キリエはそう言うと、ネロの髪の毛をそっと撫でた。
やはり、まだどこか意識が朦朧としているせいか、ぎこちない手付きだった。
そんな彼女の手を、ネロはそっと両手で包み込むように優しく握ると、自分の口元に近付けてそのまま唇で触れた。
半分は自分のせいで酷く体調を崩してしまったようなもののため、その行為は彼女に対しての謝罪と、少しでも体調が良くなる事を祈っているという気持ちの表し方だった。
そんなネロの気持ちをどこか悟ったのか、キリエは今にでも眠りに落ちてしまいそうな瞳でネロに微笑みかけると、自分の手を握っているネロの手を、自身の下腹部辺りへと誘導させた。
「
……
キリエ?」
その行為に、ネロは軽く首を傾げた。
「ネロ、あのね
……
お願いがあるの
……
」
キリエはほんのり頬を染めながらネロの事をジッと見つめた。
「
……
ん?」
「あのね、その
……
。お腹撫でて
……
ほしいな
……
って
……
。少しでも痛みが、和らぐと思うから
……
」
「
……
分かった」
ネロはキリエが言った事に静かに頷くと、彼女の望み通りお腹を優しくゆっくりと撫で始めた。
特に意識したわけではないが、右手で撫で始めたため、その右手は一定のリズムでほんのりと光ったり光らなかったりを繰り返していた。
「ん
……
ありがとう、ネロ
……
」
ネロのその行為に、キリエはどこか心地好い感覚に満たされたのか、優しく微笑みかけながら息をゆっくりと吐いた。
「いや、むしろこれくらいしか出来なくてあれだけど
……
」
「ううん。いいの
……
充分よ
……
」
「キリエ
……
」
恐らく、先程と特に体調は変わりないだろうに、それでもネロに優しい言葉をかけ微笑みかけるキリエ。
そんな彼女を見ているうちにネロは愛しい気持ちが湧いてきたのか、本の少し苦しそうに吐息を漏らしている彼女の柔らかな唇にそっと口付けをした。
「キリエ
……
」
体調を気遣ってなのか、いつもより短めな口付け。
そんな口付けにどこか物足りなさうな表情を浮かべつつ、ネロはキリエの頭を撫でながら優しく話しかけた。
「ほら、そろそろゆっくり休みな
……
。眠いんだろ
……
?」
「
……
でも」
「本当、俺のことはいいから。今はゆっくり休んで
……
」
そう言うと、ネロは再び右手で彼女のお腹を一定のリズムで優しく撫で始めた。
「他に、痛いところは
……
?」
「大丈
……
夫
……
」
キリエはネロが肌に触れている心地好さからか、段々と眠気に襲われていた。
そして、うっすらと開いていた瞳を完全に閉じきると、規則正しく呼吸をして眠りに落ちてしまった。
「
……
」
その様子を見てネロはホッと胸を撫で下ろして安心したが、彼女の顔色を見る限りやはり本調子ではないため、どこか不安な気持ちに襲われた。
それと同時に、瞳の奥がグッと熱くなり、それを抑えるかのように自身の顔を両手で覆った。
(ったく
……
マジで心配したんだからな
……
)
ネロは思わず、声に出してそう言ってしまいそうになった。
しかし、声が胸から喉にかけて支えてしまい、上手く言葉が出てこなかった。
出来ることならもう少しだけ彼女の側にいて様子を伺いたい所だったが、この場にいればいるほど、ネロは込み上げてくる何かを堪えることが辛くなっていく一方だった。
キリエが暫く起きることはないにしろ、こんな情けない姿を見られたくないと思ったネロは、どこかやるせない気持ちになりつつも、キリエの側からゆっくりと離れていき、部屋の扉へと近付いて行った。
(まぁ、とりあえず大丈夫そうでよかった
……
)
そして、静かに扉を開けて、部屋を出る直前に「お休み」と一声かけると、ネロは彼女の部屋を後にした。
***
「
……
ハァ」
キリエの部屋を出たあと、ネロは一気に緊張感が緩み、どこか力尽きたかのように壁に寄りかかるとそのまま座り込んだ。
(理由がどうあれ、倒れるのはよしてくれよ
……
本当
……
)
そして再び顔を両手で覆うと、ギュッと瞳を閉じた。
それと同時に、胸の奥が苦しくなって来るのを感じ、それを落ち着かせようとゆっくりと深呼吸をした。
「っ
……
」
しかし、胸の鼓動や息が詰まるような感覚は治まる事はなく、それどころかギュッと閉じた瞼の内側が段々と潤んで来るのを感じ、それを抑えきれずに一筋の滴がネロの頬を伝った。
ネロは、思い出していた。あの日の事を。
どんなに必死に手を伸ばしても届かなかった彼女。
その事に酷く落胆し、そんな事をしても意味がないのに地面を気が済むまで殴り続けた自分。
彼女を救うことが出来なかった悔しさや悲しさ。
もう、駄目かもしれないと思った事もあった。
二度と、彼女と会えないと思った事もあった。
それでも、死ぬもの狂いで彼女を助けだし、生涯彼女を守り抜くことを誓った。
そんな出来事があった時と比べたら、先程の出来事なんて対した事ではないかもしれないが、どんな状況であれ、些細な事だとしても、大切な彼女
……
キリエ自身に何かがある度にネロは、彼女を一度失いかけた時の恐怖心に襲われていた。
「
……
情けねぇ」
そんな自分がどこか嫌になったのか、ネロはポツリと呟いた。
「
……
」
あの時、彼女が言っていたように、今もこうして共に生きているのに、何故こんなにも苦しくなってしまうのか、ネロは分からなかった。
その事で頭の中が酷く渦巻いてしまい、ネロは膝を抱えるようにその場に蹲った。
そんな時だった。
リビングの方から、電話が鳴り響く音が聞こえた。
「
……
ハァ」
こんな時に
……
と言いたげな感じでネロは大きく溜め息をつきながら重たくなった身体を起き上がらせると、電話が鳴り響くリビングの方へと向かって行った。
to be continued
……
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