マエバ・セイボスキー
2025-09-23 23:42:57
1332文字
Public パーバソ
 

reason why...

甘いピロートークについて

石鹸とコロンと微かな汗のかおり。
そんなものを、たまらなく甘く感じる日がくるとは、バーソロミューは少しも思っていなかった。
柔らかな胸の上に寝そべって、男の首に掛かるチェーンを指先で弄ぶ。
蜂蜜がたっぷり入った、ぬるいミルクに浸かっているようだ。
乳白色の空気が胸に甘い。
「君は」
男の指先が、傷んだ毛先を撫でている。
先ほどまであった溶けるような愛の気配はない。バーソロミューの身体を奪い尽くした指先は、ただ優しい。
「どうしてわたしのことが好きなんだい?」
この男はバーソロミューを愛している。
誠実の化身のような男が愛を囁くのだから、それは真実なのだろう。
「どうして……?」
「そう、どうして?」
バーソロミューは海賊だ。悪いことばかりしてきた。人間世界のルールは、その国や文化、時代によって大きくかわる。けれど少なくともパーシヴァルの価値観の中に海賊行為を是とする道徳はないはずだ。英霊なんて多かれ少なかれ人を殺し己の正義を貫いたものばかりだろうが、そのなかでも海賊は悪党にちがいない。
「うーん」
パーシヴァルは困ったように笑った。
髪をいじっていた指先が背中をすべり、腰のあたりに乗る。
「貴方の、空をうつす海の碧や、」
そっと目元に触れる。
「焼き菓子みたいな肌」
目元の手は頬を撫で、
「小鳥のように囀る唇」
唇を掠める。
「パーシヴァル……
騎士の瞳は青く冴え、彼の槍がそうであるように、まっすぐに貫こうとしてくる。
「世界を識る長い指や、他者を労る思慮深さ、冷静に状況を把握する操舵力、強い意志、それでいて口にはしないけれど、少しばかり悲観してしまうところ」
いまやその大きな両手はそっと頬を捧げ持ち、まるで誓いを立てるように、恭しく言葉を紡ぐ。
「好ましく思っている」
「君、」
「けれど、好ましく思うから好きなのではないよ」
頬の手は再び背中にまわり、ぎゅうと身体を押しつけるように抱かれる。
弛緩した筋肉に、バーソロミューの身体は柔らかく包まれてしまった。
「好きだから好ましい。そこに理由など無い。貴方だから私はこんな気持ちになる」
バーソロミュー、と囁かれる。
そうすると、まるで耳から毒でも流し込まれて、とろとろと溶け出してしまうようだった。こんな甘く優しい毒ならば、きっと致死量に違いない。
「貴方の好きには理由があるのかな」
考える。
素肌が触れるだけで心地よく感じるこの気持ちのわけを。
両脇から肩に腕をまわし、ぎゅうと抱きつく。シーツが捩れごそりと音を立てる。
男らしく肌理の粗いミルク色の乾いた肌や薄い色の長い睫に囲まれた澄んだ泉の瞳、長く太い腕や逞しい脚、穏やかで誠実、頑固で生真面目、それでいてすこし我が儘。
最後は短所かもしれない。けれど、それをも、好ましいと思う。
その理由。
バーソロミューはじっと見おろす瞳にぱちぱちと何度か瞬いて見せ、その胸にぺたりと頬を押しつけた。
「ない、かも」
バーソロミューを乗せた身体が揺れる。笑っているのだ。
「同じだね」
「ん」
項を撫でる指先がこそばゆい。
なんだか無性に恥ずかしい。
バーソロミューはううんと唸って、熱くなった額をパーシヴァルの鎖骨に押しつけた。