【Δドラロナ】谷ド隊長の事件簿

リクエスト作品「谷ド隊長短編」




「きゃーー!!」
 雲ひとつ無い夜更け、月が美しく輝きその月光に照らされる新横署で夜闇を引き裂くような悲鳴が響き渡った。
「!? なんだ!?」
「ピス!」
「ああ、行ってみようぜ!」
 小さな吸対制服に身を包み、日課のどんぐり磨きに勤しんでいた新横浜署吸血鬼対策課の谷ドラルク——通称谷ド隊長は、おやつのバナナケーキを頬張っていた吸対備品のロナルドと共にすぐさま事件現場へと急行する。
 そこには真っ青な顔をした女性署員、そして床にはその女性隊員よりも更に顔色の悪い、吸対制服に身を包んだがりがりの男が倒れ伏していた。
「ピス……!」
「あ、あれは——ドラ公!」
 
 
 新横浜署のとある一室で吸対隊長であるドラルクが倒れているのが発見された。その一室とは署の様々な書類が保管されている資料室であり、日頃から人の出入りも多い場所だ。
 幸いにもドラルクは気を失っているだけで、直ぐに医務室に運び込まれた。後頭部に大きなコブがある以外に別状は無いが、未だ目を覚ましていない。
「一体何があったんだ……
「ピス……
 ベッドに横たわるドラルクを心配そうに見つめているロナルドの頬っぺを平たい小さな手で撫でつつ、谷ド隊長は顎(?)に手を当てて思考を巡らせていた。
 日頃から人の出入りの多い資料室。
 誰にも知られず、目撃されることもなく後頭部に一撃を受けて倒れていたドラルク。
 まだ人気の多い署内での大胆な犯行。
 ——そう。これは、紛れもない事件である。谷ド隊長の直感が、そう告げていた。
「ピス」
「えっ、犯人探し? 俺たちで?」
「ピスス」
……そうだな! よし、この事件俺たちで解決しようぜ!」
 吸対隊長暴行事件の真相を突き止めるべく、谷ド隊長とロナルドはおーっ! 拳を突き上げて立ち上がった。
「えっと、まずこういう時は……
「ピピス」
「そうだな、キキコミだ! まずは見つけた人に話を聞きに行こうぜ」
 向かった先は、日頃ロナルドはあまり縁の無い交通課だった。ただし、時々ロナルドが吸血鬼退治の際に標識を引っこ抜くことがあるため、交通課の面々はロナルドのことをよく知っている。署員達が「あれが噂の……!」という視線を向けてくるが、ロナルド自身は、なんだかジロジロ見られてる? 程度の認識であり、特に気にすることなく目的の女性署員を探して辺りを見回した。
「あっ、いた!」
……えっ!?」
 課内の視線を一斉に集めた女性署員はギョッとしながら体を縮こませる。そんなことを気にも留めず、ロナルドは肩に谷ド隊長を乗せたまま近付いた。
「ピスピス」
「へ……?」
「こんばんは! 俺ロナルドって言います。コイツは谷ド隊長です」
「は、はい……
 誰もが知ってはいるがそれでも理解しきれない自己紹介にツッコミを入れられない。女性署員は半ば怯えたような表情で、ロナルドの巨躯を見上げて曖昧に頷いた。
「えっと、どらこ……吸対のドラルクが倒れてるの見つけたのって何時くらいでしたか?」
「えっ? あ、ああ……えっと……二十時半くらいだったと、思います、けど……
「何しに行ったか、聞いていいですか?」
 ぎこちなさこそあれど、存外に丁寧な物腰で質問をするロナルドに、女性署員も何故だか警戒心を解いて答えていく。ロナルドと谷ド隊長は何処からか取り出したメモ帳にそれを記しながら、質問を重ねて行った。
 どうやら署員は仕事に必要な書類を取りに資料室へと向かったらしい。先輩署員の指示で資料を取りに行ったと言うが、その先輩署員からも確かに指示をしたという裏付けが取れた。そして直ぐに指示されたものを取りに向かった女性署員が資料室に着くと、既に中でドラルクは倒れ伏していたのだという。
 更には女性署員が資料室に入ろうとしたところで悲鳴をあげた、という目撃者もいた。
「ピススピスピス」
「確かに」
「な、なんですか……?」
「ドラ公は部屋の奥の方で倒れてて、入った直後に悲鳴をあげた署員さんは、ドラ公のこと襲いようがないって」
「えっ、ええ!? 私、犯人だと思われてたんですか!?」
「あっ、いや、念の為に聞いただけ! 念の為だから!」
 慌てて弁解しつつ、ロナルドは礼を言って交通課を後にした。ともかく第一発見者による犯行の線は消去された。となると、今度は。
「そういえばドラ公っていつあそこに行ったんだろう」
「ピス」
 ロナルドと谷ドは揃ってドラルク専用の隊長室にいたが、ドラルクは今日一日隊長室には訪れていない。
「隊長の今日のスケジュール?」
 ロナルドと谷ド隊長は、次にドラルクの足取りを追うことにした。暇そうにしていたマナブを捕まえて事情を話すと「ウケる〜おもしろそ〜」と言い、嬉々として協力してくれた。
「えーっと、……昨日はずっと本部の方にいたみたいで、昼間は下等吸血鬼の駆除指導に別区域に行ってたってさ〜。夕方にやっとこっち 新横署に戻ってきたけど、こっちでも十九時過ぎまで会議してたっぽい」
 パソコンのモニターに映される隊員たちのそれぞれの勤務状況を確認する。見ればドラルクの予定は分単位でギッチリと詰め込まれており、今日の十九時半頃にようやく空き時間が出来たところのようだった。
「それで昨日帰ってきてなかったのか……
「ピス」
 そういえば随分ドラルクと顔を合わせていなかったなぁ、とロナルドは耳をしょげさせる。谷ド隊長がよしよし、とロナルドのほっぺを撫でて慰めるのを、マナブが胡乱な目で見つつ、ふと思ったことを口にした。
「でもさぁ、やっと休憩時間取れたっぽいのになんで資料室にいたんだろうな、隊長」
「そういえば何でだろ。俺たちのいた隊長室にも一回も戻ってこなかったし」
……ピピピス」
「え? もっかい資料室に行くのか?」
「えっ、何言ってんのか分かんの……?」
「ピスピスピ」
「よし、ゲンバケンショーだな! じゃあ行ってくる! ありがとなマナブ!」
「あ、ああ、うん……
 マナブに見送られたロナルドと谷ド隊長は再び事件現場である資料室へと向かった。
 中へ入るとそこには誰もいないようで、ロナルドが丁度ドラルクの倒れていた場所を確認するために床に片膝をつくと、肩から谷ド隊長がぴょんと飛び降りた。
「あれ、脚立倒れちゃってる。戻しとこう」
 ロナルドは立ち並ぶ棚のそばに倒れていた足場にするための脚立を壁に立てかけた。その足元を危なげなく、谷ド隊長はてちてちと歩き回って周囲を見て歩く。
 そこで、谷ド隊長はあるものを見つけた。
「ピスス」
「ん? これなんだ」
……ピスピピスピス」
「えっ! 分かったのか、犯人が!」
 こくりと頷く谷ド隊長。その神妙な面持ち(?)にロナルドはごくりと唾を飲み込んだ。
「それって、一体……
「ピピス……



……うっ、痛……
「あ、ドラ公! 起きたのか」
……ロナルド君? ここは……
「医務室だぜ。大丈夫か?」
 ようやく目を覚ましたドラルクは、痛む頭を押さえて体を起こした。
……いや、痛いなこれ。マジで後頭部痛いんだけど。なんだこれ」
「たんこぶ出来てるからな」
「ピピス」
 何やら訳知り顔をしたロナルドと、その肩に乗っかって腕を組んでいる谷ド隊長にドラルクは怪訝な顔をした。
 そうして、谷ド隊長はそのひょろひょろの腕を解くと、ビシっ! とドラルクを指さした。
「ピスス……、ピス!」
「え? な、何?」
「犯人はお前だ! だって」
「は?」
「ドラ公お前、資料室で寝てただろ」
「えっ? あ、ああ。仮眠室が清掃中だったから」
 やっぱり、という顔をして同時にうんうん、と頷くロナルドと谷ド隊長。ますますドラルクは訳が分からず、痛む後頭部を擦りながら「どういうこと?」と聞いた。
「仕事が一段落したドラ公は仮眠室で寝ようとしたけど清掃中で入れなくって、仕方なく暗くて静かな資料室の端っこで、脚立に座って棚に寄っかかって寝てた。そこに——
「ピピス」
「でっかいファイルが上から落っこちてきて、それが頭にぶつかっちゃったんだって」
 そう、あの資料室でロナルドらが見つけたのは、床に落ちていた大きなファイルだった。大方ドラルクが寄りかかった拍子に棚が揺れたのだろう。適当に収められたそれが、運悪くドラルクの後頭部を直撃した、というわけだった。
「ピスピスピピス」
「はぁ……なるほど……?」
「ピッピス」
「どこにも悪いやつが居なくてよかったな」
「いや、私は負傷してるんだけど」
「それなら、隊長室に戻ってきて休めば良かっただろ」
 むす、とぶすくれて唇を尖らせるロナルドに、ドラルクはうっ、と言葉を詰まらせる。その間に、谷ド隊長はぴょんとロナルドの肩から降り、仕事は終わったとばかりに医務室から出ていってしまった。
「あー……
……お前が休んでる間くらい静かにしてるし、……な、なんなら、膝枕くらい、してやってもいいのに……
……へ?」


 今日も谷ド隊長の冴え渡る頭脳によって、一つの難事件が解決をみる。
 しかし、ドラルクとロナルドの間にある難事件の解決には、もう少し時間がかかりそうだ——素直になれない二人の様子に、谷ド隊長はピスピス やれやれ、と肩を竦めるのだった。





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