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asahito
2025-09-23 20:41:23
4602文字
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Archaeopteryx
昼寝してたら夢で文章が浮かんで来たんだけどなんでユイ阿梨現パロなんですかね。思春期か。
事後だった気がするし、二人は結婚して同棲してるよ。R15くらいかなあ。
蒸し暑い夜とはいっても何も羽織らずにクーラーの効いた部屋にいると、軽い寒気を覚える。
洗濯機のスイッチを入れる電子音と、操作音、それからごう、ごうと回り始める音。深夜、ソファの上で全裸のまま座ることの背徳感が変な重なり方をしている。
シーツは汗や体液を大量に吸っており。あのまま眠るわけにもいかないということで強制的に寝室から移動させられて居間にいるわけであるが。
洗濯が終わるまでは眠るわけにもいかず、ぼんやりと洗面所から聞こえる洗濯機のリズムに耳を澄ませていた。
壁も厚いから他の部屋の人に迷惑にはならないはずだけど。この時間に回すのは、少し心配になる。苦情とか貼り紙が来たら考えよう。
居間の灯を全て付ける気にはなれず、テレビをつける気にもなれない。スマートフォンは朝まで動かさないように寝かせてあるから、手持無沙汰にソファの上に敷いたバスタオルの裾のほつれた部分を、無意識に弄っていた。
「ついでに色々洗ったから時間かかりそう」
洗面所から出て来た彼女も一糸纏わぬまま。先ほどの異常な興奮からは醒めたのだろう、今は普段の彼女の目をしていた。
「
……
ありがとう、本当」
夏用の薄手の掛布団は持って来ているので、それを躰に巻き付けて彼女に答える。さっさと寝巻や下着を身に着ければいいだけの話だけど、それは今洗濯機の中で輪になって踊っている最中。
着替えをクローゼットから出す力もなく。事後の気怠さや余韻に浸ることに身を任せる方が楽だった。
「もし疲れてたら全部私が干すから、阿梨夜は寝てて」
「流石に起きてるよ」
洗濯した量は結構な量だろう。シーツを干すのだって二人でやった方がいい。
1時間はかからないのだから彼女と喋っていればすぐに時間は経つ。腰が重くて洗濯機を回すのを任せてしまったのは申し訳ないけど。
体力も精力も、あの地獄の日々から抜けられた彼女は大分回復してきたようだ。
彼女もそのままソファの上のバスタオルに腰掛け私に躰を寄せる。私の躰を気遣っての事だろうか。
あれだけの事をしてしまった以上は、伴侶らしくメンタルケアをしないといけないという義務感が湧いているのだろう。
手を伸ばし私の髪を撫ぜる仕草は。私に何かしてしまったと彼女が判断した時の、無意識の仕草だという事を私は分かっているから。
激務のあまり精神が壊れかけた時、無理矢理だったり乱暴に扱われる事も確かにあった。心に思っていない事を私に散々言った後。我に返って謝る事もあった。
労働が人を壊し死に追い込むというのは、ニュースや研修で何回も見て来たけど。いざ自分の身近な人に起きるとなると。
ここまで周囲を巻き込んで滅茶苦茶に壊すものなのかと、彼女を道具のように扱った連中に憎しみを抱きながら知った。
できることならあいつらを殴りに行きたい、無理をして仕事を続ける彼女の足を止めたいと。何故私は何もできないのかと、己を呪いながら己を傷つけた。
「
……
阿梨夜、大丈夫?」
壊れかけた彼女にされた数々の行為を。都合よく綺麗に忘れられるわけではないけれど。その疵は伴侶として背負うと決めていたから。
私が何もできなかったからこそ受ける傷であると思えば。無理矢理つけられた首筋の歯型も、醜い背中に刻まれた深い爪痕も。奥底を犯されたが故の腰の鈍い痛みも。
全て受けるべき報いなのだろう。もう傷は、残っていないし。私の躰は元々綺麗じゃないからどうでもよかった。
限界状態のときに彼女にされていた行為を。彼女は正直、あまり記憶していないと語った。そして私に泣きながら謝ってきた。
色々な分野の本を読み漁り多分こうであろうと判断したことは、一種の逃避行為で自分ではない何かとして私に全てをぶつけていたということだ。
激務や技術者を軽視する連中の心無い言葉に。彼女はだんだん自分を価値のない存在だと思い込み、手を動かしても動かしても片付かない仕事の量に心を失い始め。
失ってしまう恐怖からその反動で私に全てをぶつけることを選んだ。ぶつけられることは、明るく天真爛漫な彼女が別の者に洗脳されてしまったようで怖かったけど。
ここで私が拒んでしまえば彼女はもう、完全に壊れてしまうから。壊されてしまってもいいと躰を全て委ねた。
お願いだから、見えないところにしてと。あの床の上で半裸にされながら彼女に懇願したのは
―
どれくらい前のことだったろうか。永い悪夢のようだった。
「大丈夫。それよりも水飲んだほうがいいんじゃない」
沢山汗をかいたから水分を取らないと。テーブルの上にあるマグカップに入れたミネラルウォーターを差し出すと、彼女は素直に受け取った。
「うん
……
」
そうしてこく、こくと水をゆっくりと飲みだす。私は先ほど飲んでおいたからもう全て彼女にあげてしまおう。
よほど喉が渇いていたのか、慌てて飲んだ口の端から少し水が垂れている。その水を、並みの人より少し長めの舌でぺろりと拭う仕草に。少しだけ鼓動が速くなった。
もう終わったのに、何考えてるんだろう私。でもそう思えるほどには彼女と深い繋がりを保てている。
空になったマグカップをテーブルに置くと。私にまた躰を摺り寄せて私の躰に巻いた掛け布団を引っ張る。二人用の掛け布団のため、私がいったん巻いている布団を剥がし、彼女に掛ける分を確保しようとすると。
掛け布団を取らずに彼女は私の背中に掌を当てて、じっくりと見つめだした。暗いためあまり見えないとは思うのだけど、首の後ろや肩をつつ、と指で優しく撫でる。
くすぐったさに身を捩るも、彼女はもう片方の手で私の腕を掴むと。強制的に彼女に背中を向ける体勢にさせられた。
「え、な、何?」
剥き出しの背中を見られるのは、本当は凄い抵抗感がある。彼女だからこそ許せるけど。誰かにこの醜くて穢い背中を見られるのは
―
本当に厭う事なのだ。
それでも彼女は折に触れて私の背中を見たがる。壊れかけていた時も、強く抱きしめられ何度も背中に傷が残るほど爪が食い込んだ。醜い背中の奥にある、何かを探しているかのように。
それは未だに理由がよく分からない。よくわからないけど、今夜もその行為を望んでいる。
「
……
良かった、傷はないみたい」
ぴと、と背中にクーラーで冷えた彼女の両の掌が当たる。職業柄冷房に当たり続けているせいか、彼女の平熱は低めだ。
やっぱり阿梨夜の躰はいつもあったかい、と嬉しそうに言いながら。私の躰を後ろから抱きしめてくれる。
「ユイマン
……
あまり背中は見ないで欲しい」
「どうして?」
言っても無駄だとは思うけど。伴侶として嫌なことは、嫌だって言わないと拗れてしまうから。
「だって、痣、凄いし
……
」
綺麗じゃない躰と自覚しているは、私の背中に生まれつき変な痣があるせいだ。それは火傷の痕のように広がって私の躰に刻まれている。
他の家族にはないのに私だけがその痣があって。自分からは見えないのにその痣に驚かれたり、気味が悪いと揶揄されることも何度もあった。
痣は前世での行いや死因が関係する
―
なんて、変な迷信から余程行いが悪かったのだろうと言われたときは。
好きで醜いわけじゃないと激昂したくもなったが、どうせ無駄なのだろうと何も言えなくなっていった。どうせ、自分は醜いまま独りであると。
全てを拒絶して諦めてしまえば楽だと、思っていたから。こんな醜い自分が愛されるはずはないと。
「またそう言って」
呆れた声が後ろから聞こえる。彼女は、私の痣を見ても怖がることも気味悪がることもなく。
もっとされて嫌な、折角女の子なのに可哀そう
―
のような神経と逆鱗を逆撫でするような発言もなかった。
ただ、これが阿梨夜の躰なのね、と一言だけ伝えて。その背中に唇を舌を優しく這わせてくれたから。酷い扱いをされた時だって、醜い背中に傷を刻まれたところで何も変わりやしなかった。
「阿梨夜の大事な情報の一つなんだよ?」
情報一つで真実も嘘も逆転するような時代に。不変の情報は尊い存在なのだと、彼女は力説する。
確かにその通りだけど。不変とは諦めという意味でもあり。人生でこの痣と付き合って来た事を考えると、この不変はいつまで不変なのだろう。
「まあ
……
確かに万が一顔が潰れてもこの痣で私だって、分かるかもね」
船が難破し溺死すると、ぐちゃぐちゃになるという。そうなっても分かるように漁師は刺青を彫るというのだから、それと同じだと思えば安上がりな躰か。
「縁起でもないこと言わないでよ」
そう言って彼女は私の腕を抓るので表情を見ると、頬を膨らませて明らかに不服そうである。
私の方が年上だから先に死ぬかもしれないって冗談めかして言った時。彼女は本気で怒ったからあまりこういうことを言うのは良くないだろう。
「ごめん」
向き直って躰を抱きしめてあげた。クーラーの効いた部屋でも少し汗ばんでいる。彼女の躰を冷やしてはならないと、勝手に体温が上がるのだろうか。
彼女も私の背中に優しく手を回してくれた。伴侶との柔らかな抱擁は、心をこんなにも落ち着けてくれるのか。
「
……
この痣さ、人間に翼とか羽があった時の先祖帰りだったりしないかな」
「え?」
前に一緒に見に行った博物館の記憶が残っているのか。彼女らしく突拍子もない説が飛び出してきて、思わず聞き返してしまった。
「ほら、爬虫類と鳥類が混ざった化石があったじゃない」
「ああ
……
あの有名なやつね。レプリカだけど」
私がどうしても行きたいと言って一緒に行った博物館の展示だったけど。ちゃんと内容覚えていてくれたんだ。
彼女にとっては退屈かもしれないと思っていたけど、嬉しいな。
「阿梨夜の躰にも翼とかあったらかっこいいと思わない?」
多分今の日常生活では凄く邪魔になると思うけど。空を飛んで彼女と一緒に遠くを見渡したり、好きな場所に行けるのは楽しいかもしれない。
私の痣に沿って翼があると仮定すると。かなり歪なうえ、背筋を通る部分にも何かしらあったみたいだけど。
本当、考えてみると形はあのレプリカの化石そっくりだ。
「どうかしらね。綺麗な翼なら素敵だけど期待はできないかな」
でももしもそんな翼があったら、私の仕事場で展示されている化石みたいに。私が死んでも形が残るから何であったかが分かる。
その時そこがどんな場所であったか、いつ頃の時代なのか、気候はどんなものか、何を食べていたか。
ただの醜い骨の情報が、浪漫と探求心を刺激する情報に変わる不思議さ。そこが考古学や研究の面白さなのではあるが。
確か山積みの本棚にあの研究についての論文があったはず。明日読み直そうかなと考えていると、ユイマンが軽くくしゃみをした。やはり体温が低い彼女は、躰を冷やしやすい。
「
……
ほら、風邪ひくよ」
掛け布団を翼のように広げ、彼女の躰と私の躰を包み込む。私の熱で少しでも寒さがましになるように。
彼女は私の躰に自分の躰を寄せ熱を味わうように目を閉じる。
「
……
」
もしも私に翼があったとしたら。せめて彼女を包んで守れるようなものであれば、いいのにな。
終わり
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