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みずあめ
2025-09-22 22:11:32
1847文字
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rkrn
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久々綾
一個前の話のあやべ視点、ちょっと前の話。
また振られるのは、嫌だなぁ。
二年生になってから選択した授業のため、いつもとは違うキャンパスに行った僕は、そこで久々知先輩と出会った。同じ大学だったんだとか、この人全然見た目変わらないなとか、もしかして今の僕もこの人のこと好きなのかなとか。色々考えたあとに出てきたのは、もう振られたくない、という感情だった。
まだ出会ったばかりで付き合ってもいないのに気が早い。でも、仕方ないだろう。前世の記憶を持って生まれた僕は遥か昔にこの人と付き合っていたことも、この人に振られたこともずっと忘れられずにいるんだから。
もう振られないためには、最初から付き合わなければいいだけだ。そう思っていたのに、初めて顔を合わせたその時からどういうわけかことあるごとに久々知先輩は僕の前に現れた。前世の記憶のせいなのか、僕はこの人のそばにいるとすごく心地良くて、好きにならないようにと思えば思うほど惹かれていっている気がした。
「喜八郎のことが好き。これからも一緒にいたい」
プロポーズでもするみたいに真面目な顔で告白をされても断らなきゃいけなかったのに。触れた手の熱と、突き刺すような視線に、僕の脳みそは思考をやめてしまった。
「僕も、先輩のこと、好きです」
ぱぁっと輝いたその笑顔で、僕の長年の悩みはチリみたいに吹き飛んだ。
きっと出会ってしまった時からこうなる運命だったのだろう。どうしようもなく惹かれる相手と一時でもともに過ごせるなら幸せだと思う。いつかまた僕は振られてしまうのかもしれないけれど、せめてそれまで、久々知先輩と一緒にいたい。
「綾部、次の現地調査はどうする? 先週帰ってきたばかりだし次はさすがに他のやつに回すか」
「行きます」
「
……
おまえちゃんと休んでるか?」
「ちゃんと寝てますよ。僕が行っても良いやつは全部ついて行きます」
「仕事馬鹿だな
……
」
全然そんなことはないのだけれど、詳しく話すつもりも、話したところで理解されるとも思わないから、僕は口を閉じてただ目の前の資料に目を落とした。
前世の記憶が夢なのか現実なのか確かめるためには、実際に過去のことを調べることが一番有力な手がかりになるだろうと考え、僕は大学で考古学を専攻し、そのまま教授の紹介で調査チームに入れてもらった。かすかな記憶を頼りに昔の地図や記録と照らし合わせて僕が生きていた時代や場所を考察し、その時代の遺跡や遺物を積極的に調べていれば、いつのまにか僕はその時代の担当という雰囲気になっていて関連するだろう調査がある時は声をかけてもらえるようになった。見覚えのある──記憶の中で見たことのある物を実際に目にするたびに、やっぱり僕には本当に前世があって、その時代を生きていたのかな、なんて夢物語のようなことを本気で考える。
「そうだ綾部、今日はこのあと設備点検が入るから居残り禁止。家に帰れよ」
「えー
……
」
「おまえ一番最近自分の家に帰ったのいつだ?」
「先週、調査から帰ってきた時に一回帰りましたよ」
「まさかそれ以降ずっとここに泊まり込みか?」
「仮眠室のベッド、一個借りてます」
「帰れ。今すぐ。ちゃんと飯も食うこと」
半ば追い出されるようにして研究室を出て、僕は夕暮れの空を見上げた。ずっとカバンの中に入れっぱなしのスマホを取り出すとまだ充電が切れることなく生きている。残りわずかなバッテリーを使って、履歴の上の方にいるその人に電話をかけた。
コール音、いち、に、さん。『もしもし? 喜八郎?』久しぶりに聞くその声にふっと心が浮かび上がる。相手に見えないのをいいことに表情を緩めて、僕は「久々知先輩」と声を出した。
「お腹空いてますか? ごはん、行きません?」
『行く。今どこ?』
「まだ大学の方なのでそっち行きます。たぶんスマホの充電切れちゃうので、駅前で僕のこと見つけてくれます?」
『え、そんな。今日どんな服着てる?』
「えーっと、紺のパーカーと黒のズボンと、上着はいつものやつで
……
あ、もう切れてる」
真っ暗になった画面はタップしても電源ボタンを押してもうんともすんとも言わない。あーあ。まあ、いっか。久々知先輩が僕のこと見つけられないわけないし。
ビルの間から見える空には夜の色が混ざり始めている。思わず早足になりかけて、夜になっても人探しに困らないくらいには明るいんだと思い出した。でも、いつもよりはやっぱりちょっと早歩きで行こう。待ちくたびれたなんてくだらない理由で振られたくないし。
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