山本
2025-09-22 19:28:43
5224文字
Public 手負いの野良猫と外科医
 

手負いの野良猫と外科医【4】

現パロで外科医🐯×元野良猫🕒♀の🐯🕒♀。
服を着せる努力をする🐯と🐯に理解できない価値観の元野良猫🕒♀ちゃん。




【4】

「お前がサンジだってことはわかった。料理が作れるってのも猫が人間になるくらいだからできるんだろう、それはいい。だが、料理をするのも人間でいることも全ては服を覚えて服を着て過ごせるようになってからだ」
ベロンベロンに伸びて悲惨な状態になった服を脱ぎ捨て踏みつけ引っ掻き引っ張り、その上にコロンと伏せたサンジに言い放つ。サンジはチラッとおれを見て興味なさそうに無言で尻尾をユラユラと揺らしている。
耳をピクピクと動かしてくあっと欠伸をひとつ。器用に香箱座りの格好で尻尾をくるんと体に巻き付け二万三千円の上で思いっきりリラックスしている。
「聞いてるのか。服だ」
人の姿でいるならまず服を着ろと言ってるのに目を閉じてまったりし始めるサンジ。本当に聞こえてるんだよなと確認するべきか悩んでる目の前で隠れず晒されてる素っ裸。尻も尻の穴もそれ以外も全部出てる。よりにもよって香箱座りで尻尾を下げてもいないから丸見えだ。
正直興奮なんて一ミリもない。医者、それも外科医という職業柄、人間の裸体なんて見ただけじゃ興奮も何もしない。ガキの頃から親のような立派な医者になろうと勉強をしてきたせいか、人間の裸体というだけのことにエロさも何も感じないのだ。おれが興奮するには相手との関係性と状況という条件が必要になってくる。思春期にも医学書なんかをガンガン見てたからか、どんな美人の裸でもそれだけじゃ興奮しなくなった。
「サンジ、その姿でいるんなら服を着ろ」
「うるせェなァ。戻れったってそんな気楽にホイホイ猫になったり人間になったりできたらとっくに戻ってるっての。んなことよりこの服ってのいいな、ローの匂いして落ち着くぜ」
……え?どういうことだ?いつでも姿を変えられるんじゃないのか!?」
根気強く言い聞かせるしかと説得していると聞き捨てならないことを言われて狼狽え焦った。が、サンジはおれのロンTの上でゴロンと転がって全部晒してゴロゴロ背中を擦り付けるようにロンTの上で動き、大の字になって健やかに寝ようとしている。
待て待て待て。寝るタイミングじゃねェ!開けっぴろげに全部晒してるな!!自由に変身できねェなら何で急に変身した!?
意味がわからなくて驚きと混乱と焦りでサンジの傍にしゃがみ込んで肩と腹に手を置き揺さぶる。
「何でだ!?何故自由に変身できねェ!?何でだ!!サンジ!!」
「あ゛ーッ!うるせェ!!撫でるならちゃんと撫でろ!!体力っつーか精神力っつーかめちゃくちゃエネルギー使うんだよ!今回はてめェにおれのモンだとわからせるためにこの姿になってやったんだからな!?耳とか尻尾出したり引っ込めるくらいで精々だっつの!ふざけんな半人前野郎!!」
おれの反応が鬱陶しかったのか、一気にキレて爪を立て引っ掻かれかける。が、サンジの尖った爪がおれの服に引っかかって驚いたように目を丸くして反射のように手を引きテンパりながら何とか爪を外す。
ペロペロと指から爪を舐めてから猜疑心たっぷりの目で睨まれる。いや、そんな何をしやがったみたいに見られてもおれは何もしてねェぞ。
「爪は大丈夫か?と言うか、人間の姿なのに爪は伸びるというか尖るのか?」
「え?爪って……別に普通だろ?ちゃんと研いでるし使う時は出すだろ」
当たり前みたいに言われて説明を求めることを諦めた。
多分サンジにはサンジの常識というか当たり前があって、それはおれがわかるようにサンジに説明することはできない。何故説明できないかと言えば、人間だって当たり前だと思ってることに関しちゃ説明が難しいからだ。当たり前の常識ってのは何故かと疑問に思いにくい。そして大体のことは何故かって疑問から原理や理屈を調べでもしなきゃ、仕組みを理解することはできない。そして理解できないことは説明もできない。
「わかった。つまり、変身するにはエネルギーを使うからいつでも自由にとはいかねェ。耳や尻尾に爪の出し入れはできるがその程度。料理は取り敢えずできて、人間らしく服を着ることはしたくねェ。そういうことだな?」
「あー。まァ、そんな感じだな。服ってのは着なきゃ駄目なのか?人間てのァ何で服なんて邪魔なモン着てんだ?着なきゃマズい理由でもあんのか?」
ブルブルと頭から尻の方にかけて体を震わせて髪やら耳やらを手で整える。首輪がチリンチリンと鳴って、足で側頭部を蹴るように掻く仕草をしてから思い出したように手でポリポリと掻く。どうやら猫の時の癖が多分に残っていてまだ人間の姿に慣れないらしい。まァ、そもそも人間としての仕草をよくわかってるか謎だが。
「はァー……まず人間てのは体毛の多くが退化して皮膚が剥き出しになってる。自分の体を見りゃわかるだろうが、体表で目立って生えてるのは髪に眉、まつ毛に陰毛だ。脛毛や脇毛、腕毛ですら個人差で薄かったりほとんど生えてねェような奴も多い」
「ん?あ。本当だ。腕も足も脇も毛がねェ」
言いたいことは色々とあったが全部飲み込んで聞かれたことに説明をすることにする。サンジはおれの話に初めて気付いたのか、自分の体をあちこち確認して気が抜けた口調で言った。
わざわざ腕を片方ずつ挙げて脇を確認して、腕も左右見て真っ裸で足も左右片方ずつ挙げて確かめ。自分の今の格好をわかってねェのかと思うが基本が猫の感覚だから羞恥心って概念がねェのかもしれねェ。
だから学生なんかに教えるような感覚で服を着る意味について説明を続ける。
「だろう?体毛が少ない分体温が奪われやすい。だから体温調節のために服を着る。それが第一の理由だ。第二の理由は服を着るという習慣と社会性の発達に伴い飾るという文化が生まれたからだ。細かい流れは省くが、今じゃ個人の美的価値観によって着飾るという価値観が定着してる。自己主張や自己満足など着飾る理由はそれぞれだがな。こだわるポイントは服の素材やデザイン、他にも機能性やより高いもの、自分の好みに合った服を着たいとかだな。第三の理由は人間の発情期に関連したものによる。人間には決まった発情期ってものがねェ。だから裸でいることで性犯罪が起きたり社会秩序が乱れることを防止するためだ」
「要するに毛が足りなくて体温調節も素じゃできねェ上、服を着ねェと他人との関係も不安があるくらいヤベー人間がいるってことか?んで、せっかくだから服って奴を飾ってこだわろうぜ的な?」
……まァ、そういう解釈で大丈夫だ」
案外きちんと理解できたらしく身も蓋もねェ要約をされて少々言葉に詰まる。が、まァ、あながち間違ってもねェから否定も出来ねェ。
「そういうことだから人間の姿でいるなら服に慣れろ」
「あ〜めんっどくせェなァー。人間って不便だなー。チッ、良いけどよォ。おれが着てもいいって思える服はあんのか?おれとしちゃァ寝床にしてる方がすきなんだけど」
仕方ないと言わんばかりの口調でおれのロンTの上でゴロンゴロン転がって、その下からずり出てきたボクサーパンツに頬擦りをする。サンジ本人はえらく心地好さそうだが下着に頬擦りってのはやめて欲しい。絵ヅラ的にかなり問題があるし、非常に微妙な気持ちになる。
とはいえ猫に言っても仕方ねェ。言葉で止めるよりサンジをここから離そうと決める。要は意識をこの使えなくなったロンTとボクサーパンツから逸らせばいいと考えて溜息を落とす。
「じゃあサンジ用の服を買ってくるまで着るものを決めるぞ。一旦はおれの服をサンジの部屋着に代用する、極力ボロボロにするな。いいな?」
「あー、ハイハイ」
くあーっと欠伸をして起き上がって立つサンジ。その隙にサッと廃棄確定のロンTとボクサーパンツを回収する。と、サンジが振り向いてヨレヨレに伸びまくったロンTたちを見ておれを見た。
「ど、どうした?」
「それどうするんだよ」
「いや、捨てるが」
「いやいやいや!何でだよ!?捨てんな!それはもうおれのだぞ!!」
目を丸くしてきょとんとしてたのに、おれの答えにものすごい速さで奪い返すサンジ。その速度の速さにびっくりしてると怒ったようなサンジがおれを睨んだ。
「いや、そりゃもう着られねェだろう。そんだけヨレヨレになって伸びてちゃ……
「おれに寄越したのはてめェだろうが!これはもうおれのモンだ!!」
「あのなァ、人間はヨレヨレのボロボロな服を着たりしねェ。部屋着でもあるてい」
「ふざけんな!おれのモンだっつってんだろ!これはおれの寝床にする!!勝手に触んなよ!?」
耳が後ろに反って尻尾をパタパタと振ってる。この尻尾の動きは知ってるぞ。シャチやペンギンをサンジに会わせるのに初めて家に招いた時に聞いた。猫が尻尾をパタパタと振る時は犬と違ってイライラして怒ってる時だという。
その日おれはシャチとペンギンをリビングに案内して二人の飲み物を取りにその場を離れた。で、戻ってきたらサンジがキャットタワーの上で尻尾をパタパタ振っててもう慣れたかとホッとしてたらシャチとペンギンに何を言ってるんだと教えられた。それまで猫を飼ったこともなくて犬のイメージで尻尾を振ってるのは機嫌が良いか楽しいんだろうと勝手に思い込んでた。しかし、二人の言うことには犬と違って猫はリラックスしてたり機嫌が良い時はゆっくり左右に揺らしてる程度。楽しくてパタパタ振ったりなんてことはしないらしい。寧ろ苛立ってるから尻尾をパタパタ振るんだと教わった。
サンジを迎えてそれまで、尻尾をあんなにパタパタ振ってたこともなかったんで知らなかったが初めて知った。
「悪かった、捨てない。捨てないからそれは置いておこう。好きに寝床でも布団にでもしていい」
……勝手に触るなよ。捨てるんじゃねェぞ」
「わかった。わかったから」
おれをじっと見て警戒したように言うも、おれの返事と反応に一旦は捨てないと判断したのか尻尾の揺れが治まっていき耳が元に戻っていく。手に持ったロンTとボクサーパンツはその場に置きかけておれを振り向き、キャットタワーを見てからキャットハウスの中に押し込んで戻ってくる。
ふうやれやれみたいな一仕事終えました感漂う顔と歩き姿。飼い主バカだとは思うが、とッッッ……てもバカ可愛い!!
隠したつもりかもしれねェが見えてる前で隠してちゃ意味がねェ!ふうー……何なんだこの可愛い生き物は。クッソ可愛いな!!はァー、猫の時とちっとも変わってねェ。
おれが洗濯カゴに入れてた服をいつの間に引っ張り出したのか、器用に咥えてキャットタワーのてっぺんやキャットハウスにせっせと運んでた姿を思い出す。決まって当直で一晩家を空けた後で、おれが風呂を済ませドライヤーなんかをしてる時。入ってきたなと思って横目に姿を追ってるとソローっと入ってきてカゴから服を咥えて静かに引き摺っていってた。何をしてるんだかよくわからなくて追ってみりゃせっせと服を隠して、振り向いておれに気付くと座ってすました顔でそっぽを向いてた。
何で服なんて持っていくんだと思ってたが、気に入ってたのかと今わかって声が出せない。可愛さに心肺機能が停止するかと思った。
おれの気持ちなんて知らないだろうサンジは達成感に溢れた表情でユラユラと余裕のある素振りで尻尾を振ってる。はァー、本当に可愛い。
「じゃあクローゼットを見に行くか」
「あァ」
油断したら漏れそうな笑い声を堪えて二階のクローゼットに向けて歩きだす。満足気なサンジは腰に手を当てておれの方に来た。
おれも歩きだして緩む表情を必死に隠してると、急に部屋着のシャツが引っ張られ足が止まった。
「サンジ?」
……服ってこれもだよな?」
「え?あァ、まァそうだが」
「ならこれがいい」
「え?」
「おれが着るならこれを着る」
突然言われて思わず動きが止まった。ついでに思考も止まりかけた。
これを着る?これがいいのか?二千円しなかった安い大量生産だぞ。サンジはこういう安っぽい品質の方が好みなのか?そりゃあ気楽に着られる着やすさはある素材だが。
「さっきのよりこっちの方が生地が好きなのか?」
「生地?そんなことよりこっちの方がローの匂いがすんだろ。今着てるの寄越せ」
「今着てる……え?Tシャツとハーフパンツか?」
「ん?何が言いてェのかわかんねェけど全部だよ!それを着る、全部寄越せ!Tシャツとハーフパンツ?とかってのと、その中に着てる奴も全部だ!!」
「下着もか!?」
突如飼い猫に身ぐるみを剥がれ睨まれるって状況に陥ってパニクった。
よりにもよって帰ってからシャワーを浴びて寝る時も履いてたボクサーパンツを、何でだ!?匂いって言うならこんなモン臭いだろうに何故。猫の価値観が全然理解できねェ。
おれは理解できない価値観と突如追い剥ぎ化したサンジに目を丸くして驚くしかできなかった。