有栖川
2025-09-22 12:59:22
14888文字
Public 10月吸血鬼パロ本
 

ダンス・イン・ザ・ヴァンパイアホーム/03

吸血鬼パロのkiis。原作沿いifパラレルで、サッカーしてるし監獄もあるけど、異種が普通に人間と混じっている世界観。
吸血鬼のkis×吸血鬼の眷属になっちゃう41の話です。捏造と特殊設定もりもり。
10月に出す本の一部になります。サンプルになる部分を更新しきったらpixivにまとめる予定です。

このあたりから一部セクピスに影響を受けた設定が含まれますが、セクピスパロを期待すると肩透かしぐらいの感じです……!

03 それは恋だとお前は言うけど




 潔世一は普通の人間だ。
 青い監獄ブルーロックでの経験やサッカー選手としての実力こそ、一般的に見て突出した、普通じゃないモノだという自覚はあるが……それ以外は、生まれも育ちも極々平凡な普通の人間。そう思ってこれまでを生きてきたし、これからも、変わる予定はなかった。
 カイザーに吸血鬼へと変えられるまでは。
「う、ゎ…………
 受付の人に招待状を渡して、ホールの中へと足を踏み入れる。青い監獄ブルーロックそのものは既に下の世代の育成に使っているから、OBである世一たち第一期生は諸々のイベントのため、都内某所のホテルに集められているのだ。そこは披露宴会場を使っているだけあって広く煌びやかで、——そして会場内に漂う重圧がものすごい。プロ選手たちの覇気が、とう話ではない。そんなものなら世一は既に慣れっこだ。
 だからこの慣れない重苦しさは、
「はは、改めて見ると異種ばっか……
 ——世一が普通の人間じゃなくなったから分かるようになった、彼らのもうひとつの姿。
 世一は思わず生唾を飲み込み、くちびるを手のひらで押さえた。あ、そっか。あいつは豹で、あっちは犬神かな? その横は狐……しかも尻尾が九本ある。それに向こうは雪女的な感じ? 正解はわかんないけどそういう雰囲気っぽいというか……
 ぐるりと周囲を見まわし、思わず、身震いをしてしまう。世一はくちびるから手を離し、今度は胸に当てて深呼吸をする。落ち着け。落ち着け……中にいるのはみんな顔見知りだ。ただ、これまでは、世一が彼らの属するもうひとつの性質に気付いていなかっただけで。共に肩を並べて競い合い、そして戦ってきた、大切な友人たちで、チームメイト。知らない異種に囲まれるのとは訳が違う。恐れる必要はないのだから…………
「大丈夫、大丈夫、大丈夫——
「おい」
——うぎゃあ!?」
 などと自分に言い聞かせていたところ、そのそばから突然背中を小突かれて世一は変な声と共につんのめった。
 いや何!? ちょっと痛い! 普通に結構力強かったんだけど誰だよ!? そう思ってバッと振り返ると、見覚えのある下睫毛と仏頂面が目に飛び込んでくる。
「何入り口でボサッとしてやがる。邪魔だ」
「おっまえ、凛! 力任せに背中叩くなっての!」
 そしてその疑問の答えは、誰だよとか問うまでもなく、不機嫌かつ協調性皆無の声で確定した。
「も〜……たんこぶ出来たらどーしてくれんのお前さ〜……
 紛うことなき糸師凛の姿に、逆にホッとして、世一はやれやれと息を吐く。背中は痛いけどまぁ本当にたんこぶ出来たりはしないだろうから無問題だ。
 なんか、妙に馴染み深いような、それでいてまったく覚えの無いような不思議な気配がする、……ような気もするけど、まぁさほど気にすることでもないし、相手が凛なら全然怖くは無い。試合中の破壊衝動剥き出しの時と違って今は話通じそうだし。
 オフシーズンに入って久しいこともあって会話をしたのも地味に久しぶりで、なんだかちょっと懐かしい。
 というか吸血鬼になってから、ほぼカイザー以外の誰とも会ってなかったんだなぁということに、凛の姿をまじまじと見ていて気付いた。何人かとメッセージのやりとりはしてたけど(そして凛とはメッセージも殆どしてなかった)。
「まぁいいや、久しぶり、凛。お前次シーズン、P・X・Gに移籍するんだって? ある意味古巣に戻るみたいなもんじゃん、フランスのサポーター、もう既に盛り上がってるらしーよな」
 それで一気に同窓会気分になってにこやかに挨拶へと移ると、凛は興味なさそうにぷいと顔を背けた。
「ハァ……どうでもいい。俺が関心持ってんのは兄貴を正面から叩き潰すことだけだ」
「お前ホンット相変わらずだな……
「そのついでにてめぇもブッ潰す。……んなことより」
 ヤツらしい時候の挨拶をそこまで述べ終えると、凛がふんと鼻を鳴らし、思いっきり顔を顰める。なんか今日のコイツやけに機嫌悪いな……。流石の糸師凛といえどなかなかお目にかからないレベルの態度に世一がえぇ……と顔を顰めると、凛は眉間の皺を一層深くし、なんだか嫌そうな顔で唇を曲げる。
——鬼の気配がする。つーか血くせぇ、お前吸血鬼に噛まれたのか・・・・・・・・・・?」
 そこから飛び出してきた想定外の発言に、思わずヒュッと心臓が全部飛び出そうになって、世一は息を呑んだ。
「エッ、何、……いやそーだけど。なんで!? なんで分かんの!? 見ただけで!?」
「俺は大和鬼種だ。吸血鬼は主に西洋を縄張りにしてる連中だが一応同族、感知はしやすい。つーかマジで噛まれたのか? 国際法で人間の吸血鬼化は一九六七年に原則禁止されてた気がするんだが」
「えっ? 何? そーなの?」
……眷属化の副作用の洗脳が人道に反するとかナントカで。だが……変わってないな、別に。ならどうでもいいか」
「エッホントに何……
 じろじろと値踏みした挙げ句勝手に喋りたいことをペラペラ喋り終え、凛がスタスタと去って行く。凛が世一の呼び声にビタイチ後ろ髪を引かれないなんて当たり前のことなので(このブラコンが後ろ髪を引かれるのは冴相手のときだけだ)さほど気にせず見送っていると、今度は後ろから、勢いよくバタバタ走ってきて跳ね飛ぶ音が聞こえてくる。
「い〜さぎっ♪」
「おわっ、蜂楽!」
 軽々と跳躍して飛びついてきた馴染み深い相棒の気配に、世一は一瞬で気を緩めてぐるりと振り返った。蜂楽は慣れ親しんだチェシャ猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべ、くるんっと世一の身体を半回転させると、ぐいぐいと顔を近づけてくる。
「久しぶりっ、元気してた? 前回のチャンピオンズリーグ、惜しかったね〜」
 蜂楽が唇をすぼめて話すのは、オフシーズン直前に行われたリーグのことで、実のところバスタード・ミュンヘンはあと一歩のところで優勝を逃し惜敗していた。ノアがいてコレかとか、新人ふたり(つまり、世一とカイザーのこと)が足を引っ張ったとか散々な言われようであり、世一としては非常に癪な結果に終わっている。ちなみに蜂楽のバルチャは五位。優勝チームは糸師兄弟のとこのレ・アール。
「来年こそは完膚なきまでにブッ潰して理解らせる。蜂楽も覚悟しとけよ」
「にゃはは、それでこそ潔! ……んで、挨拶も終わったトコで、なんなんだケド」
 というわけで潔世一としては当然の返答でジャブを締めくくると、そこまではわかってたとばかりに蜂楽が頷き、世一の肩に載せた指先へ僅かに力を込めそっと唇を寄せてくる。
「潔さ、なんかさっき凛ちゃんと面白そうなコト話してなかった? 〝血の匂いがする〟とかなんとか」
 ——ソレ、どゆこと? てか潔、もしかして今、コレ・・、見えてるよね?
 そうして蜂楽はひどく真面目な声で耳打ちすると、自分の頭頂部をちょんちょん、と指さした。世一はハッとして恐る恐る顔を上げる。蜂楽が指し示しているその場所には——本来の人間には有り得ざる、蜂楽の髪色によく合ったふたつの猫の耳がついて、ぴょこんぴょこんと揺れているではないか。
……み、見えてる……
 世一がキョドりながら頷くと、蜂楽はもう一度頷いて、それからぐるりと会場内を見回した。そして目ざとく目当ての連中をふたり見つけると手招きして、「潔、何があったか教えてくれる?」と小首を傾げる。
 世一は肩を竦めて頷いた。親友で相棒にこう言われて嘘を吐けるような性格じゃないし、隠す理由だってない。蜂楽が呼んだのも、なんか見覚えある二人組だったみたいだし。こうなったらこれを機にまだまだよく知らない異種のことを聞いておこう——と、ある種開き直ったのだ。


「えっ、噛まれた!? 吸血鬼に!?」
 そういうわけで今までのことをペロッと(ただし自分を吸血鬼に変えた相手がカイザーということだけは伏せて)話すと、蜂楽に呼ばれて来たふたりのうちの片方である玲王がギョッとして目を見開いた。御曹司にあるまじき引っ繰り返ったような声だったけど、横のヤツらが「まぁそりゃこういう反応になるよな……」と同じようにギョッとした調子で頷いているのを見る限り、おかしいのはどうも世一が置かれた境遇の方だったらしい。
「潔さー……それあんま外で言いふらさない方がいいよ、マジでヤバイから。まぁ聞いた感じ俺たちに話したのが最初みたいだけど……
 玲王の言を受け、ダルい感じで頭をもしゃもしゃ掻きながらぼやいているのは凪である。色々……本当に色々とあって青い監獄ブルーロックに復帰して以来、凪はまた玲王の相棒として戦っている。前期プレミアリーグでも大暴れしており、そして、……今日再会して理解したのだけどやっぱりコイツらも異種だったらしかった。
「あぁ、吸血鬼化はなー、一部特例を除いて国際法に引っかかるからなー。もち、されちゃった方の潔に罪はないんだけど……
「でもそーゆー問題じゃないしね、コレ」
「決めるの、国際法だしね〜?」
「一九六七年制定だっけ」
「そう、原則禁止な。一応例外はあるにはあったはずだけど、ほぼ適用されるケースがないから……
 さっき凛が呟いていたのと同じ内容を、周囲へバレないよう、三人が小声で話しあう。蜂楽は猫耳を、玲王と凪は狐の耳をひょこひょこ揺らしながらボソボソと。
 全然世界史とかで習った記憶ないんだけど、もしかしてその一九六七年のなんちゃらって、異種連中のうちでは常識、的な話だったのかな?
 疎外感を覚えるでもなく、世一はただぼんやりとして、そんなことを思っていた。だってつい先月まで人間だった世一にとっては御伽話かRPGかみたいな話過ぎて……。『吸血鬼は真実の愛に目覚めた時一度だけ奇跡を起こせる』とか、未だにディ○ニー映画すぎて信じてないし。
 まぁ、実は友達が猫叉とか九尾の狐でしたみたいな話の時点で大分御伽話か……
「でもさぁ、その割になんか潔、元気そうじゃない?」
 などと他人事のように考えていると、突然凪がぐいっとこちらに顔を戻してきて、上から下までをじーっと眺め回しながらそうぼやいた。
「眷属化って確か主人になる吸血鬼の意志関係なく100%隷属じゃなかったけ。そーゆー感じには見えないけど」
「うんうん、ソコは俺も引っかかってる。だからふたりのコト呼んだんだよね〜、ホラ九尾の狐ってそのへん見破るの得意とかじゃなかった?」
「あぁ、禊ね。確かに……性質的に魂魄がそこらへんに特化してっから、凪とふたりで確認すれば、たとえ主人の命令で偽装させられてたとしても、なんかしら引っかかるハズだ」
 どこかに繋がってるパスが見えるから、潔を吸血鬼に変えた主人がいるのは確かなんだろうけど。凪がじとっ……と眺めている上から玲王がひょいと手を伸ばしてきて、世一の肩口あたりに指をつける。いまはまっさらになっているけど、そこは、カイザーが最初に噛みついて世一の血を吸った場所だった。玲王はそこを慎重にトントンと撫で、何かを確かめるようにしてたどり、それから首を傾げる。
「うーん。やっぱ特に、自我を奪われたりしてる気配はないなー。そもそも隷属化が働いてないって感じ。なぁ潔さ、お前ホントに人間?」
 知らないだけで、ホントは、元々異種だったんじゃないか?
 最後に玲王は、凪と目を見合わせてからそう言った。
「え……いや、人間だろ。だって俺、吸血鬼にされるまでお前らが異種ってことも気付いてなかったんだし」
「まぁそれはそーなんだが。でもなぁ、ただの人間が、国際法で禁じられるほど隷属化能力の強い吸血鬼に噛まれて、こんな元気なハズないんだよな」
「自覚ないっていうか、鈍感すぎて単に気付いてなかっただけとかじゃない? 潔なら有り得そう」
「えぇ……
 好き勝手に盛り上がる凪と玲王に溜息を吐いていると、玲王がすごく生真面目な顔をして、「でもまぁ、大事になるまえに気付けて良かったんじゃないか」とフォローを入れてくる。「幸いって言っていいのかわかんないけど、噛んできたヤツとの暮らしも悪くない感じなんだろ?」まぁ……それはそう。カイザーは意外にいいヤツだし、一緒にいると楽しい。
 性格は極悪だけど、悪人ではない。
 すくなくとも世一にとっては、信用してもいいチームメイトで、もう殆ど身内みたいなものだ。
 渡独してきた頃から、演出家気取りの鬱陶しい態度がなくなってしまえば、話が合って思考のレベルも近くて、気のいい同世代の男友達だなぁなんて思っていた。それに広報とか上層部とかがペアで仕事させようとしまくったのもあって、自然と、ヤツを頼るのが一番楽って状況にもなっていたのだ。そういう縁もあり、割と気になってちょこまか声掛けたりしていたわけである。まぁ何故かカイザーの方からはキョドられたり避けられたりしてたけど……
「ってありゃ、潔? な〜んかカワイー顔してっけど、なに考えてんの」
「えっ?」
 なんてことをぽや〜っと考えていると、蜂楽が非常に悪戯っぽい顔をして——凪やら玲王やらを手招きしたときの真面目さとはまるで正反対の顔で——ニヤニヤと世一を見てきているのと、ばっちり目が合ってしまい思わず固まる。
「なんか恋してるみたい。好きな人できた? てかさー、もしかしなくても潔を吸血鬼にしたのって、」
「えっえっえっ何!? 何ナニナニッ、好きな人っておまっ……!」
 そして間髪入れず放たれた想定外の言葉に、世一は完全に不意打ちを食らってテンパった。
 いやいやいやいや……そんなわけないだろ、好きな人が出来たとか……
 そもそも相手はあのミヒャエル・カイザーだぜ。出会い頭に挑発してきてそれからも邪魔という邪魔をしまくってきた最悪クソ野郎だ。まぁ最高道化マイベストピエロで精算したからもういいけど。それに渡独してきてからだって口さがないわプレーでは衝突しまくるわで、記憶が正しければ、基本的には結構バチってたはずだ。
 まぁ、この一ヶ月間は、普通になんていうか……楽しかったし、主人と眷属なんて関係になったらしい割には全然そう無理矢理もされなかったし、一緒に暮らすには悪くない相手だなとは思い始めてたけど。
 吸血……も、気持ちいいし。多分相手がカイザーだから。
 だってあのプライドエベレストで誰とも慣れ合わない……みたいな綺麗な顔の男が、表情ぐっちゃぐちゃにして「世一の血が欲しい……」みたいにかぶりついてくるのめちゃくちゃ好くて……。「あ、コイツ俺のせいで滅茶苦茶になってんだ」と思うとそう気分も悪くない。……悪くないのだ、恐ろしいことに。
……あれ? ってことは意外とあいつのこと、嫌いっていうよりは好きだな……
 そこまで考え、潔世一は固まった。いや待て待て、そんなハズあるか。ちょっと困ってるところを助けられたり、プレー中にドンピの連係決まって脳汁出したり、口ではギャアギャア言いながらもミスをリカバリーしてくれたり、一緒に暮らしてみたらびっくりするぐらい過ごしやすかったからってそんな……
 いやまぁここまで来れば友達……であることは認めてもいいんだけど、つまりここから来る好意ってやつはあくまでチームメイトとしての好ましいであって、決してそんな蜂楽が揶揄っているような意味じゃ……
 ………………本当に?
「えっ、あっ、え……? えぇ……? えぇえ…………?」
 それ以上のことが考えられず、今度こそ本当に世一の全身がまるっきりフリーズする。「潔〜?」凍り付いた世一に、蜂楽はきょとんとして唇を開いた。「ありゃ、もしかして無自覚だった〜……?」そして容赦なくそう述べると、代わりに話をまとめてくれとばかり肩を竦めて玲王に視線を投げる。
「潔マジで激ニブすぎない?」
 そのアイコンタクトを受けて真っ先に唇を開いたのは玲王ではなく凪だった。
 コイツ普段はなんでも面倒がるくせになんでそこだけは真っ直ぐに投げてくるんだよ。
「あんまいじめてやんなよ凪。ま、蜂楽のからかいはともかく——自分のルーツは一回腰据えて調べた方がいいかもな、アレなら俺も協力するし」
 一方で玲王はそんな凪の扱いなんて慣れてるとばかりうまいこと流れをまとめて、脱線しまくった話を本題に戻し、もう一度世一へと振り返る。
 世一はこれ幸いと玲王の助け船に乗り、尤もらしく頷いた。
「ルーツ……ルーツかぁ。でもそーゆーのどうやって調べんの?」
「だいたいは物心ついたころに親から教わるのが一般的なんだけど、そうじゃない場合は数値とかで測って判定する。両親が別々の異種でどっちに属性寄ってるかわかんない時とかもそうだな。てか、検査といえばさ、この前の青い監獄ブルーロック主催一斉健康診断のとき、数値測定も入ってなかったか? ちゃんと結果見た?」
 玲王がそういえば、と思い出したように顔を上げて訊ねてくる。「ホラ、日本代表で招集されたとき念のため全員受けたヤツ。アレに何か書いてあるかも……」その言葉に世一は首を捻る。あれ? そういえば、そんなこともあったような。確かちょうど二ヶ月ぐらい前だったっけ。そんでありとあらゆる検査を受けて、でも、まだ特に結果通知は来てなかったような…………
……そーいえばアレまだ結果もらってないわ」
「潔そーゆー大事なコトはも〜ちょっと気にしよ?」
 それで仕方ないので思った通りのことを口に出すと、蜂楽にすらたしなめられた。
「フツー一ヶ月ぐらいで返事くるんだよ。体調管理にも関わるから届かなかったら事故疑って問い合わせしないと」
 なんと凪にすら正論を説かれた。そう言われると確かにそうなんだけど、でも、照会を急がなくても特にサッカーに支障ないから今の今まで完全に忘れていたのである。
 てか、一ヶ月前ってちょうどカイザーに噛まれた頃で、色々忙しかったし。言い訳だけど。
「もぉ、分かった、わかったってば。帰ったら問い合わせするわ、え〜っと、帝襟さんとかに連絡すればいい?」
「いやアンリちゃんじゃなくって、委託されてる医療機関に……どこだっけ。玲王覚えてる?」
「ああ、なんかハーパー社……海外の製薬会社が持ってるクリニックじゃなかったか?」
 自分のポカを世一が殊勝に受け入れているあいだに、話はトントン拍子で進んでいく。へー、海外のトコなんだ、まぁ青い監獄ブルーロックもいろいろあったしな。先進医療なんかは向こうの方が進んでるし、絵心さんも色々考えてるのかもしれない。帝襟さんかもしれないけど。
「あそこなら取引あるはずだし、なんなら俺の方から照会入れとくよ。それでもしかしたら、アッサリ判明したり————
 と、そこで、綺麗に話をまとめようとしていた玲王の声が、突然止まった。
「え? 玲王?」
 けど、ソレに何で、と問うことは出来なかった。
 間髪入れず、背後で何かゾッとするような気配が膨れあがる。その嫌な気配を感じ取って、玲王も、凪も、蜂楽も、それまでの気安い表情を一変させて目つきを険しくする。
————え、」
 世一は振り返った。
 振り返らずにはいられなかった。
 会場の入り口がざわついて、そこからピリついた空気が波打つように伝播してくる。
——侵入者だ!」
 入り口から告げられた切り裂くような叫びに、世一は蒼然として立ち尽くした。


◇ ◇ ◇


——侵入者だ! 正気失ってる、マトモじゃない!!」
 誰かがそう叫んだのを皮切りに、蜂の巣を突いたような騒ぎが会場中に立ちこめる。誰か……いや、声からして今のは雪宮か。一瞬判断がつかなかったのは、彼の声が殆ど聞いたことがないような警戒に染まり、切羽詰まったように掠れていたからだ。
 雪宮のあんな声、アイツがプレーで最も追い詰められていた新英雄大戦ネオ・エゴイストリーグイタリア戦のときだって聞いたことがない。まるで何か、信じがたいほどの悪魔が現れて、それに牙を突き立てることすら叶わず突破されたかのような……
 ……あの雪宮剣優が?
 振り切られた——侵入者如きに?
「まずい、——血の臭いだ!」
 一足早く冷静さをを取り戻したらしい玲王が短く叫んで、弾かれたように、凪や蜂楽も動き出す。だけど世一はその言葉がうまく呑み込めなくて、呆然と立ち尽くすばかりだった。
 血の臭い? 血の臭いだって?
 確かに、会場向こうから何かがツンと刺すように鼻にはついたけど……こんな生臭くて不愉快でドブ臭いモノが? 有り得ない、世一が知っている血の匂いは、もっと甘くて、馨しくて、……薔薇の花びらのように美しいものなのに、これがソレと同じだって。
「あかんこれ、隷属化されとる! 正気やないのそのせいや、たぶん……吸血鬼の眷属・・・・・・!」
 遠くで、ざわつきを裂くようにして聞き慣れた京都弁が上がる。「おいコラボケェ、誰やねん国際法違反したアホンダラは! そらマトモな膂力やないわな、三人がかりで突破されるとか、姉ちゃん最悪級の非凡やんけ……!」それに重なるように烏の大阪弁が乗っかって、状況の悲惨さを否応なく会場中へ伝えてくる。
 三人。それもプロアスリートで異種まみれの大の男三人がかりで女の侵入者に突破された。その状況の異常性に、誰もが、このまま野放しには出来ないと行動に移る。
 こんな相手を好きにさせたらどんな被害が広がるのかわからない。
 コイツを野に放ってはいけないと、本能的に、この場の誰もが感じ取っていた。だが侵入者は——女は止まらない。中にはなにか、世一には何をしているのか想像もつかないような動きを取る連中もいたが、それも悉く弾かれる。異種が持つ何らかの力を使ったのだろう、だが、無駄だった。「はぁ、これだから鬼系は嫌になる……!」誰かが叫んだ。誰の声かはもうわからなかったけどどうでも良かった。誰が言っていても同じだ。だってみんなそう思っていたから。
 自我が無く、故に痛みも恐怖もなく、ただ真っ直ぐに獲物を狙って全てを薙ぎ倒していく怪物。
 それが今この会場を支配している驚異を表すべき言葉で、そして同時に、そのどうしようもなく最悪で悲惨で憐れな姿こそが、吸血鬼に隷属化させられた眷属というのは本来こういうものなのだという事実を如実に示していて——吐き気がする。
「チッ……このゲロカス眷属風情が……!」
 次々と障害を薙ぎ倒して、女が迫る。凛が舌打ちをした声にハッとして、世一はそこでようやく意識を取り戻したようにあたりを見回した。不意打ちを食らったせいとはいえ、青い監獄ブルーロックの精鋭たちが悉くちぎられて、猛烈な勢いで、一直線に女が向かってきている。——どこへ? こちらへ——こちらへ?
「潔ッ!」

 誰かが、叫んだ。

 女が、真っ直ぐに、世一の方を見据えて動き続けているのが——その瞬間誰の目から見ても明らかになったからだった。
「逃げろ潔ッ! ——ソイツお前狙いだ!!」
 我牙丸が鋭く叫び、世一と女とを結ぶ直線上へ割って入ってこようとする。しかし女はゴールキーパーとして今まで幾度となく凶弾をセーブしてきた我牙丸のブロックすらものともせず、人間にあるまじき腕力で押しのけてそのまま飛び上がった。「ぁ、」世一の喉から引っ繰り返ったような音が漏れる。喉奥がひりついてうまく頭が働かない。この状況は逃げる一手しかないと潔世一の脳は思考して答えを弾き出しているのだが、思考とは裏腹に、足は凍り付いたみたいに地面へ張り付いて、冷や汗をダラダラと流し、動かせる気がしないのだ。
 だって、この密室において、あのバケモノから逃れる場所なんてもうどこにも、
——潔ッ!!」
 誰かがまた叫ぶ。
 何人もが、必死に立ち上がって走り出し、叫ぶ。
 だが間に合わない。女の、人間とは思えないほど凶悪に膨れあがった腕が振りかぶられる方がずっと早くて、世一に出来る事はせめてガードしてダメージを減らすことしかなくって、だけど受け身を取れるかどうかすら自信がない、それほどの悪寒と迫力を一身に受けて——
……え?」
 ——でも。
 その毒牙は、決して、潔世一に届くことはなかった。

————ッ!」

 突如として、目の前に、真っ黒い霧が立ちこめる。それはみるみるうちに無数のコウモリの群れへと姿を変えて、威嚇するようにキィキィと甲高い鳴き声を上げた。そして超音波による攻撃にも似たソレに女がほんの僅か慄いたその瞬間に、コウモリたちはバサリと大きく翼を広げ、ソレが本来あるべき姿・・・・・・・へとかたちを変えていく。
「世一に触れるなッ、クソ女ッ……!」
 月夜のマントを翻すように優雅に広がった暗闇の中から、グラデーションで鮮やかな青に染め抜いた派手な金髪がばさりと翻って姿形を成す。その下に鍛え抜かれたアスリートの肉体も——けれど綺麗好きで格好つけのソイツらしくもなく、髪は乱れ、頬には汗が滲み、服は家着のままで、いかにもちぐはぐだ。それでもその瞳に映り込む空色はどこまでも誇り高く、彼は怒りに煮えたぎった声と共に、そこへ顕現する。
「え、……かい、ざ、」
 ここにいるはずのない、潔世一を吸血鬼に変えた張本人。
「クソッタレが、」
 ミヒャエル・カイザーが、——何故か目の前に立ち、世一を庇うように腕を振り抜き、雄叫びを上げた。
「クソ殺してやるッ……!!」
 ピッチ上ですら見たことがないぐらい凶暴性を露わにして、カイザーが腕を振り下ろす。カイザーの目は完全に瞳孔が縦に裂けていて異様な風貌だった。おまけに侵入者の腕をがしりと掴み取った指先は異様なまでに長く爪が伸び、鋭い刃のようになって侵入者の腕に食い込んでいる。
「ギャァアッ!」
 痛みからか侵入者が苦悶の声を上げた。だがそれで怯むことはなく、カッと白目を剥くほどに目を見開き、同じく異常に伸びた爪を振りかざすと反撃を試みる。
——グギャァッ!」
 しかしそれも叶わず、すぐさま、侵入者の青褪めた口からひしゃげたカエルのような呻きが上がった。カイザーの腕が容赦なく侵入者の腕をねじり、責め苦を与え続ける。それでもまだ侵入者は抵抗しようと足掻くが、必死の抵抗で振り抜かれた女の蹴りを、カイザーは空中で回転することでかわし、フットボーラーの命であり武器でもある左脚を思いっきり振り上げる。
——あ、)
 世界一早い振りだ。有利体勢マウントを取ったカイザー相手に、これを逃れる術なんてあるはずもない。
「グガァアアアアッ!!」
 そして容赦なく足を振り下ろし、残虐なまでに暴れ回るカイザーの姿を見て、世一は、
——あ、ぁ、あぁっ……!)
 いつかどこかで見た、荒々しいその姿をリフレインさせた。


 明るくてものわびしくて恐ろしい誰もいない袋小路で、カイザーが、理性なんて全て投げ棄てて本能を剥き出しにしたと言わんばかりの顔をして、必死に、己の牙を押さえている。唇に当てられた手は、丁寧に手入れされている普段の姿など見る影もなく無惨に食い破られ、ズタズタになって、ボタボタと血を垂れ流していた。
 それは彼が自らの衝動を懸命に戒めようとしたあとだった。
『く、う、うぅ゛ッ……! はッ、はッ、はぁッ、ァ……
 荒い息をひっきりなしに漏らし、凶暴な本性を剥き出しにして、けれどそれでもカイザーは何かを必死になって耐えていた。どうして耐えていたのかはわからない。ただ、そのとき世一は、その姿をみっともないとは思わなかった。
 ただどうしようもなく健気でいじらしく、ゆえに高潔でうつくしいとそう思って、
……いい、よ、カイザー』
 だから、そう囁いた。

『どうせ、殺される……なら。……吸われるなら、お前がいい——カイザー』

 月のない夜、幼児が秘め事を告げるように、末期の祈りを囁くように、厳かに。


 幻が消える。意識が現実に回帰する。カイザーは、幻ではない現実のミヒャエル・カイザーは、まだ世一の目の前で侵入者の女を押さえつけていて、そして徐々に圧倒しはじめていた。
 まるで踊るようにしてカイザーが宙を舞い、そのたび女の口からひしゃげたような絶叫ばかりが上がる。……再生能力に優れた吸血鬼とて、これ以上はもたないというほどに。
「おいっ、おま、それ以上は……
 同族のはしくれとして本能的にそれを察知した世一がギョッとして口を開けようとしたその瞬間、けれど状況が変異して——強制的に、騒ぎへ決着が付けられる。
「命、令……先祖、帰り、を、ヲ、ヲォ、ガァアッ——!」
 女がうわごとのようにきれぎれの言葉を叫び、断末魔をあげた。
 それを合図にしたかのように、女の姿は急速に萎びていく。そんなことあるはずないのに、そうとしか言い表しようがない。スポンジが絞られるよりもっと強烈に、身体中隅々から水分という水分を奪い取られるかのように萎び、縮み、骨と皮だけみたいになって、そして最後にサラサラと砂に変わり——消滅する。
「き、消えた……!?」
 固唾を呑んでいた周囲に、ざわめきが戻った。世一はハッとして息を呑み、それから、未だ荒い息を吐いて真っ赤に充血した青い双眸をギラつかせているカイザーの姿を認め、走り出す。
「カイザー! カイザー、もういいんだ、……ありがとう、もう大丈夫だから!」
「フーッ、フーッ、フーッ、…………よ、いち……?」
 名前を呼ばれ、カイザーもハッとしたように頭を上げた。すると世一の姿を認めたからか、明らかに尋常じゃない様子で荒れ狂っていたその瞳に、徐々に理性の色が戻っていく。
「うん……ありがとな」
 それにホッとして血に——生臭くて気持ち悪い他人の血に——塗れた手を握り、拭い取るように撫でていると、カイザーはあぁ、とちいさく呻き、息をついて、ふるりと首を振った。
……どうやらあの女は、主人に回収されたと見てよさそうだ。敵は……クソ最悪なことにかなりの高位異種のようだな……
 カイザーは肩を喘がせながらそう呟くと、今度こそ落ち着きを取り戻したとばかり、はぁあ、と大きく息を吸い込んだ。
 カイザーが黙りこくってしまうと、今度は、対照に、統率がとれないほどのざわめきが周囲へと広がっていく。「そんなレベルの異種この世に殆どいないだろ」異種まみれの青い監獄ブルーロックの連中は、この襲撃の犯人の正体が何者なのかに興味津々らしい。「欧州の貴族血筋とかには一部残ってるはずだ、近親婚ばっかしてる家系なら」「なんでそんな連中に潔が狙われてるんだよ」「そういやさっきあの襲撃犯『先祖返り』って」「つーかカイザーどっから出てきた?」彼らは口々にやかましく推論を述べ立てあって、けれどそんな喧騒なんてまったく気に留める気分にもなれないらしく、カイザーはただ子供のように辿々しい手つきで世一の身体を抱き寄せ、遅れてきた安堵の実感に息を吐く。
…………はぁ、クソ、生きた心地しなかった」
 その言葉が、恐らく今彼の中にあるすべてで、本音なのだろうということは、火を見るよりも明らかなことだった。
 だって落ち着いて何度見返してもカイザーの格好は家着のままだったし(ジャージにすら着替えてない! ついでに髪もボサボサだ)、ズボンのポケットに辛うじてスマホとパスポートが入ってる様子を鑑みるに恐らくカバンを持っていないし、いつも出掛けるときは付けてるスマートウォッチが腕についてないし、靴だって、なんかスニーカーのかかと部分がぐしゃっとして全然綺麗にはけてないし。
 飛行機に乗って来たかすら疑わしい格好のつかなさだ。この男の性格上、十何時間も飛行機に乗って——つまり一般人に見られていることを意識する状況になればどこかで身支度を整えると思うのだけど、それすら出来ていない。
 ……それに。カイザーは何も無い空中から黒い霧を出現させ、その中から大量のコウモリを呼び出すとそこから変身するかのようにして出現した。セキュリティも何もかも無視して、さながら、ネスが信じる〝魔法〟のように。
……お前さ、その、……飛行機、乗った?」
 だから世一は、どうしても、それを訊ねずにはいられなかった。
 感動的なシーンの余韻をぶち壊すような真似だったけど、これは今訊いておく必要がある、と、本能でそう察したのだ。
「それとも……いや、今から自分でもどうなのってぐらい、荒唐無稽なコト訊くんだけどさ……。なんか、ミュンヘンから、瞬間移動とかしてきた? それも、吸血鬼ならみんなが使える異能……的なヤツなのか?」
 結論から言って、世一の直感は正しかった。
 だって世一を抱きしめて混乱を鎮めている様子だったカイザーは、その問いかけで突然ギョッとしたように目を見開き、今初めて気がついた・・・・・・・・・とばかりこう訊ね返してきたからだ。
……世一。ここはどこだ? まさか——日本か・・・?」
「うん。日本の横浜のなんか高いホテルの宴会場。青い監獄ブルーロック関係者の貸し切りで、セキュリティもガッチガチ。関係者受付通らないと中に入れない」
 世一は頷いた。カイザーの顔が蒼白になる。下手をすると侵入者と戦っていた時より蒼然として、だって顔に書いてあるのだ、「俺は飛行機にも乗らずドイツにいたはずなのに無我夢中で走ってるうちに気がついたらここにいた」、と。
「まさか——空間転移テレポート? 馬鹿な、ンな高等能力、真祖の血が薄まる中で中世以前に失われたはずだ。現代吸血鬼に出来るはずが……
 カイザーが唇を手で覆い、ゴニョゴニョと何かを呟いた。完全にテンパっているようで、脂汗がダラダラと滲んでいる。当然コイツはプレー中にこの方向のキョドり方をしないため、こんなミヒャエル・カイザーの姿はそうそう拝めるものではない。もしここにネスがいたら一発レッドカードだ。まぁドイツに住んでいて旅行の予定もない人間が、普通ここにいるはずないんだけどな……
 でも、実際に、目の前で摩訶不思議は起こっている。
 であるならば現実に向き合うことしか自分たちにはきっとできない。世一は溜息を零すと気を取り直してもうひとつの疑問を重ねてぶつける。
「あのさ、動揺してるトコごめん。ついでにもう一個訊きたいんだけど、『先祖返り』って何……
 が、それに対してカイザーが何かを言うことはなかった。
——潔世一、及びミヒャエル・カイザー。それについては俺が説明する、さっさとこっち来い、お騒がせキッズ共」
 カイザーがもごもごと口を開くよりもずっと早く、世一にとってはある意味誰よりも聞き馴染んでいる、冷徹でロジカルな声が、ホールじゅうの喧騒をぴしゃりと縫い止めて響いたからだ。
……ハ?」
 ざわめきが一瞬で止み、部屋中の視線が一斉に入り口へと向く。相変わらず真っ黒な出で立ちをした眼鏡の青い監獄ブルーロック代表責任者は、モーゼの海渡りみたいに人波を割ってズカズカとこちらへ歩いて来ていた。言葉にならない威圧感に、カイザーが信じられないように彼の名前を口にする。
「絵心甚八……?」
「いやなんでいるんだみたいな顔したいのコッチの方だから」
 その間抜けな声に絵心はハァア〜〜〜……と海より深いため息をついて首を横へ振った。
青い監獄ブルーロックの仕事のために借りた現場なんだから俺はいるに決まってるでしょ。受付通らず来たお前の方が異分子だからね」
「えっ、あの、すんません絵心さん、コイツにも多分悪気はなくって」
「悪気があろうとなかろうと規則違反はダメ。本来なら部外者は即刻ご退場願うファックオフ——そう言いたいトコだが」
 あわあわと謎に擁護しようとして失敗した世一に、絵心が再び息を吐く。けれど彼はそれ以上にネチネチ詰めてこようなんてことはせず、代わりに、カイザーと世一の顔を——特にその唇の内側から覗く鋭く伸びた牙をチラリと見て、最後にもう一度溜息を重ねて頭を掻く。
「お前らに話がある。日本にいないはずのミヒャエル・カイザーがここに来られた理由と、潔世一が狙われた理由。そのどちらにも関係ある、特急秘匿事項トップ・シークレットについてだ。返事はイエスしか認めない、——来い」
 絵心の言葉は有無を言わせぬ調子で、カイザーも世一もただ頷くしかなかった。
 ふたりは顔を見合わせると絵心のあとを着いていこうとして、——そしてその時ようやく自分たちが抱き合っていたことに気がつき、顔を真っ赤にしたまま慌てて離れて走り出した。