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syanpon
2025-09-22 02:08:02
3260文字
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離れるにもとうに遅かったみたい
続いたマフィアパロもどき
オトスバ
ボスが恋人を連れてきた、らしい。
正確には恋人なのか愛人なのか奴隷なのか全くわからない。ただボスが大事に一人の東洋人を抱き抱えて帰ってきたという噂は構成員の誰もが知っている。
ボス
――
オットー・スーウェンはここ一年でこのファミリーを掌握してしまった若い青年だ。柔和な顔立ちと穏やかな声音に騙される人が多いがあれは悪魔と言っても過言ではない。
彼は手段を選ばない。
目標があればそれを達成するためになんでも使うしどんな手も行使する。「なるべく穏便に」なんて言いながら必要に迫られれば顔色一つ変えずに人を殺せる男だ。
彼が一番上に上り詰めるまでに上の人間はあらかた変わってしまった。
でもマフィアのボスになるような男なんてそのくらい冷徹でいいと思っている。そんな冷酷無比で圧倒的なカリスマ性に男は心酔していた。
だからこそ、そんな男がどこにでもいるような男に懸想しているという噂が出ることが耐え難く許せなかった。ちらりと顔を見たことがあるが目つきの悪いやつれたどこにでもいる男だ。
もしもあれがいることでボスの輝かしい経歴に傷がついたら?
「その前に消してしまえば
……
」
男以外にも彼を邪魔に思う人間はたくさんいた。なんの力もないボスに縋ることしかできない男一人、攫って消してしまうなんてこと造作もない。憧れの人間に大切なものができたということが認められないちゃちな嫉妬をファミリーのためと正当化し、ぶつぶつと独り言を呟きながら準備をすすめる。
「僕のためって、いつからそんなに偉くなったんですか?」
振り返ると悪魔がにこりともせずに佇んでいた。
***
借りてきた猫の気分だ。
ここにきて1週間は経っただろうか。自らをオットーと名乗った男はここ毎日甲斐甲斐しくスバルの世話を焼いている。風呂で隅々まで洗われるか手ずから食べさせられるかどちらかを選べという人権の究極の選択をさせられた結果、スバルは毎日オットーの膝の上に乗せられていた。
「あんた細いんだからしっかり食べてください」
膝の上に抱えられて一口大に切り分けられたステーキを差し出される。ふうふうしてくるその口がタバコを吹きかけてきたそれと重なって目線を逸らせば「ケーキがよかったですか?」と尋ねられた。観念してフォークに刺さった肉をパクリと頬張れば嬉しそうに破顔される。
「なんで俺にこんなよくしてくれるの」
「僕がそうしたいからですよナツキさん」
「何故か俺の名前も知ってるし
……
」
ふふふと笑って抱きしめる腕に力が入って首筋に擦り寄られる。帽子が落ちるといけないと思って手を伸ばせばその帽子をポンと頭の上に被せられた。シャンプーだろうか、ムスクの香りに混じって甘いミュゼの香りがする。
「あんたがなんていったら納得してくれるのかわからなくて。すみません。僕にとってあなたが特別大事な人というのだけわかってくれていたら今はそれだけで十分です」
そう言われるとますますわからなくなった。なにせスバルにそうしてもらう価値があるように思えなかったからだ。だの気まぐれ、ドッキリにしてはやけに手が込んでいるし時間もかかりすぎている。それにこの綺麗な青い瞳があまりにもスバルのことが大事だと訴えてくるものだから嘘つきと詰ることすら憚られてしまう。愛に飢えたスバルにとってこの環境と熱はあまりにも毒だった。
「つまりお友達からはじめましょうってこと
……
?」
瞳をぱちくり瞬かせて目の前の男は嬉しそうに笑う。
「ええ、ええ! そうしましょう! 友達! ユージン! いい響きだ!」
そういって頬にキスをされる。びっくりしてオットーの口を手で押さえればべろりと舐められて声にならない絶叫をあげたあと抗議する。
「これは友達じゃないだろ!」
「このくらいは友達の範疇ですよ」
「そうなの」
「そうです」
「そっか
……
」
「心配になるな
……
あの、僕以外にはダメですからね」
首を傾げれば困ったようにもう一度今度は逆の頬に口付けを落とされる。擦り寄ってくる姿が大きな犬みたいに思えて緩くウェーブした髪の毛に恐る恐る手を差し込めば催促するように頭を押しつけられた。
側から見れば恋人同士の戯れみたいだがきっとこれは上級国民様の気まぐれなんだろうな、なんて心が軋む。時々オットー以外からの視線を感じるのだ。その視線に込められた感情をスバルはよく知っている。
「何か変なこと考えてますか?」
「え、と」
じ、と海よりも深い青がスバルの底の底まで見透かそうとするように見つめてくる。先程までの柔らかさから打って変わり腰を抱かれる手にもぎり、と力が込められたのがわかった。
逃がさないと言うように、絡めとるというように沈黙が、視線が、行動の全てがスバルを縛り付ける。
「こ、わくて」
「こわい?」
「俺、お前にこんなに優しくしてもらうような人間じゃない」
「優しい。僕は怖い人だと思うんですが」
「優しいだろ。俺にとっては、不相応なくらい優しいよ」
真っ白なスーツに腕を通してスバルの目の前に現れた時からずっとこの男はスバルに甘い。今もシワになりそうなくらいにスーツを握りしめても怒らない。この男が何をすれば怒るのか、何をスバルに求めているのか、何をすれば離れていってしまうのかがわからなくてその不安定さがひどく怖かった。
男はそんなスバルを見つめ、しばらく考えた後にどこかに電話をかける。そうしたあと、「ナツキさん、今から人を何人か呼ぶので適当な人間一人を指さしてください。指差さなくてもいいですけどさしてくれたほうがありがたいです」とよくわからないことをスバルに伝える。わからないままに頷けばノックの音ともとに何人もの人間が部屋の中に入ってくる。スバルのことを睨みつけて、オットーの視線に怯えてへらりと笑う。抱き抱えられている体勢が恥ずかしくて身を捩るがびくともしない。指、指をさせばいいんだったか?早く終わらせてしまいたくて適当にまっすぐ指をさす。
この世界に放り込まれてから聞き慣れた発砲音。いつになっても嗅ぎ慣れない硝煙と血の香り。ゆっくりと視線を下に向ければスバルが指差した先の男が足を撃たれて倒れ込んでいるのが見えた。
オットーは美しく微笑んだままだ。
室内は静寂で満たされている。
オットーの持っている銃口からは煙が上がったままで倒れた男の足からはどくどくと血溜まりが広がる。
「え、大丈夫なの」
「止血すれば死にはしませんよ」
パニックにズレた言葉をこぼせばズレた回答が返ってくる。
「撃つのは誰でもよかったんです。ここにいる人みんなアンタに文句があった人みたいで。でもナツキさんは優しいから殺生で終わらせるときっと傷つくんです。だから今日はこれだけ」
「忠告って」
「ナツキさん」
文句をつけようとした口をオットーに塞がれる。撃たれた男の呻き声に視線を向けようとすれば耳の縁をなぞられてつぷりとオットーの長い指先がスバルの耳の穴を塞ぐ。耳の中をいじるようにぐるりと回され、ぴちゃぴちゃと舌を嬲られる水音が頭の中で反響して、それに腰がびくりと跳ねた。くたりと力の抜けた体をいつかのように抱き抱えられて部屋をあとにする。唾液で濡れた口元を拭い、スバルは息も絶え絶えに抗議した。
「これ、友達と違う気がする」
「じゃあ僕限定ってことにしてください。いくらでも不安になってもいいですけどそれも僕の前だけにしてください」
「撃つのは違うじゃん」
「あ、まだその話続いてました? あなたのためなら僕はこれくらいできますよってアピールだったんですけど」
「
……
変なの」
「そのくらい大事なんです。どうかどこにも行かないで」
その声があまりにも頼りなくて、その時スバルははじめて自分から男の頬にキスをした。
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