asahito
2025-09-21 22:15:37
3784文字
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snakebite②


前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585

東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。
バーの店主の駒草太夫と職人魅須丸が相変わらず中心ですが、阿梨夜さんとユイマンが登場しちゃってもうわけわからない。
互いのサイドみたいな話になりそう。

寝起きはぼうっとしてしまうのは皆同じだと思うけど。
 それとは違って酔いが醒めた後の冷静さというのは、その記憶がはっきりしていない時ほど薄ら寒くなるものはない。
 自分が何をしでかしたかを思い出せない分、他人が翌日自分をどう見るかが恐ろしくなる。貴重品をなくしたり、訳の分からないところで目覚めたことはまだないけど。
 そういったトラブルで制裁を食らった例も良く聞いてるので気を付けてはいたはず。精神が変わらないように集中しておけば、ある程度は耐えられるってわかってたのに。
 彼女から来た直前のメッセージを見て心が揺らぎ。どうして今夜に限ってと、呪詛のような恨み言を心の中で吐いた。また、あいつらが彼女を。
 こんなことは何度もあるし、そういう覚悟はしておかないといけないと何度も納得はした。いつも独りは慣れているから大丈夫だと気丈に答えた。
 それでも石のように動じない心を持つというのは、まだ難しいのだろうか。生い立ちのせいで大概のことは諦めて来られたのに。
 手を引かれるうちに意識がはっきりしてくる。今は繁華街の夜道を抜けて、最寄りの駅に向かっている道の筈。
 線路の上を走る電車の音と、駅員のアナウンスが聞こえて来て徐々にその音量は大きくなる。あれ、私いつの間に外にいたんだっけ。あのバーの店主に一人で来た理由を話して、その後お酒の一杯目を出されて。少し飲んで雑談をしても相変わらず彼女からのメッセージは来ない。
 飲まないで粘るのはあまりよくないと事前に仕入れた情報で言われていたから、定期的な頻度でお酒を飲むようにしていたんだけど。
……あ」
 その後、私どうしてた?ちゃんとお金を払った?というかなんで私ユイマンに手を引かれて駅に向かっているの。
 情報を整理していくうちに何か大事な過失を犯してしまった気がして。その恐怖心が私の冷静な心を呼び戻してくれる。今更戻してどうするの、と思っても。酩酊すると大概こういう時に冷静さが顔を出す。
 今から戻ればバーの店主も許してくれるだろうか。慌てて足を止めて引き返そうと彼女の手を引っ張ると。
 彼女も驚いたのか足を止めて私の方を振り向く。その顔は少し困惑しているようだった。
「どうしたの、気持ち悪い?」
……ごめんなさい。ちょっと状況説明してほしい」
 その言葉に、私が正気に戻ったのだと理解した彼女は足を止めて私の方に向き直った。
 この通りは帰路に就く人々の流れが駅に吸い込まれていくばかりで、足を止めているのは夕飯や居酒屋を探す人々か、ここで働いている人たちくらいだ。
 曜日的にも、盛り上がりはこれからという時間というところか。それでも下品な酔客の声はところどころから聞こえて来るので早く彼女と帰らなければいけないんだけど。
 ここに至るまでに一体何が起こったかを。知っておかないとあまりにも気になり過ぎて眠れない。というか、気づくタイミング遅すぎるでしょう私。
「やっと泣き止んだのね」
 私の冷静な回答にユイマンは呆れたような表情を浮かべ溜息を吐く。
 彼女はとりあえず全部私がやっておいたから、と言って早く家に帰ろうと促す。この街は言ってしまえば治安があまり夜はよろしくない。
 どこか二人でゆっくり話せる場所を探している間に面倒な事に巻き込まれたら大変だという彼女の思慮深さだろう。
 最寄り駅は同じだから、とりあえず離れ離れになることはない。足先を駅に向け私たちも電車に乗るために駅に向かった。



 最寄り駅を知らせるアナウンスが響いて、私たちは居眠りすることもなく席を立った。
 電車の中で話すには微妙だったし、彼女はずっと首にかけた社用のスマートフォンを見ながら何かメッセージで連絡を取っているようだった。私にはこんな時までごめんなさいね、と謝ってくれたが。直ぐに連絡しなければならない理由があるなら仕方ない。それが彼女の仕事なのだから。
 私たちの降りる駅はあまり人が降りない駅なので人もまばらだが。塾帰りの高校生や仕事帰りの人々はばらばらと降りていく。皆帰るべき家に帰っていくのだろう。
 私たちもそのまま駅に帰っても良かったのだが。彼女が私の体調を気遣ってホームのベンチに私を座らせ。自動販売機で水を買ってくれた。
 キャップを開けた状態で私に飲むように差し出す。
……お水飲んで。あのバーの店主さんも出してくれたけど飲んでなかったでしょ」
「うん……
 悪酔い防止の為にあの店主は水を出してくれていたが。飲む気になれず、そのまま私は泣き出してしまったらしい。
 一番やってはいけない悪い癖を、晒して。
 彼女を連れて行きたいと思って初めて行ったお店であんなことして、最低過ぎる。
 それを自覚するとまた涙が滲んで来るが、泣くと彼女が心配するから泣いてはいけない。泣きたかったのだって彼女の方だろう。
 水をぐいと喉に流し込み頭を冷やす。
……トラブル、解決してたの?」
 時間通りに来られなかった理由になったトラブルの結果を尋ねる。今ここにいるってことは多分何かしら手を打ったのだろうけど。
「解決したからすぐ行くって連絡したでしょ。見てなかったの?」
 今更だがメッセージアプリを起動すると、未読メッセージが数件届いていた。時間的にあのバーにいた時のものだ。
 酒に酔ってしまい我慢していた感情が溢れ出して止まらず。ユイマンの連絡すら気づけないまま私はあの店主を困らせていたらしい。
 思い出すとまた色々余計なことを思い出してしまい、やらかしたと気づくと嫌な感じで顔が熱くなる。
 付き合い飲み会の時なら我慢できるし、ああいう人前だったら私の悪癖の泣き上戸も出ないと思ってたのに。
「ごめん、気づけなくて。解決しないかもって言うからてっきり……
「あの後直ぐにリカバリ方法がわかってその作業につきっきりだったのよ。メッセージを送る余裕もなかったから」
 解決の糸口が見つかれば即座に対応に入るのは当たり前。
 互いの連絡の齟齬が結果的にあの店の店主に迷惑をかける結果となってしまった。
 彼女のトラブルが今日じゃなかったら、もっと冷静になれたのに。よりによって今日だったから私は弱気になってしまった。
「どうしよ……あのバーのテーブル、弁償とかした方がいいのかしら」
 私がうっかり物損とかしてたら、警察を呼んで調べてもらっている可能性もある。今から最寄りの交番に出頭か、警察署に行くべきか。
……とりあえずお金は私が払ったしそれ以上は請求されなかったけど、お詫びのお菓子でも今度持って行く?鹿肉でもいいけど」
「いや、鹿肉は困るでしょ」
 詫び鹿肉なんて、よほど好物じゃないとあり得ないと思うんだけど。ジビエとか食べる人なのだろうか。
 私が突っ込みを入れられる程度には会話が成立し思考もまともになったことに気付いた彼女は水を返してと言って来た。
 そうして、それを一口飲むと。口を拭い蓋を閉めた。
「とりあえず、家に帰らない?お風呂入りたいし」
 そう言ってユイマンは私に立つように手を差し出す。最寄り駅でじっとしていても家には帰れない。歩いて帰路につかなければ。
 手をぎゅっと握り立ち上がり一緒に歩くと、彼女の嵌めている銀の指輪の硬さと冷たさが私の皮膚に触れ。
 私たちはちゃんと繋がれていると感じられる。
「あ……そういえば、あそこの店主は甘いものは苦手って聞いたわよ」
 あの店を教えてくれた、遠い親戚に私の醜態が伝えられたらどうしよう。実家と縁はほぼ切ってるにしても恥ずかしすぎる。
「デザートとか沢山あるって言ってたけど、意外ね」
「だったらしょっぱいお菓子がいいのかしら……それか、珍しいお酒とか」
 あれだけバーカウンターの後ろに世界中のお酒が置いてあるのなら、そのお酒はもううちにあるよって言われてしまいそうだけど。
 商売道具と、店主の個人の好みは違うのだし。会話の中でこの前温泉に行った時のお酒が美味しかったとか、そういう世間話もした気がする。
「どのみちもう一度あのバーには行くべきよ。明日にでも行く?」
「え、明日?」
 すごく恥ずかしいのだけど。明日は確かに私は休みだ。でも、ユイマンはどうなのだろう。
「元々休暇取ってたから、大丈夫。トラブルは別の人に引き継いでるし」
 

 やっぱり、少しだけ彼女は変われたのだろうか。あの仕事に支配され死んだような眼をしていた時から。

 蒸し暑い夜の中、微かに涼しい風が通り抜けた。ユイマンはこの時間帯に犬を散歩している人の犬を見て笑っている。
 首輪だけ事故に巻き込まれないように七色に光ったりしているので滑稽と言えば滑稽だが。こういう時間に一緒に帰って来られるようになれたのだ。
……ユイマン、帰ったら何か食べましょう」
 コンビニでも、スーパーの総菜でも、持ち帰りでもいいと聞いてみると。
「じゃあ阿梨夜のご飯がいい」
 彼女が私の左手を握り、薬指の上の指輪を撫ぜる。道行く人はほぼおらず、飼い主たちは自分の犬に夢中で特に気に留める人もいない。
 帰ったら何を作ろうか。冷めてしまった夕食を出さなくていいのなら、何でも作ってあげられるだろう。