2025-09-21 16:46:31
1962文字
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🐰

一織ゆめ/未来ネタ/ネームレス


「またライブの映像を見ているんですか? あなたも飽きませんね」

 呆れた声と共にマグカップが差し出され、うん、と頷きながら画面の中より大人になった彼の姿を見上げた。真ん中で分けた前髪も、端正な顔立ちも変わってはいないけれど、見比べてみるとやはりステージの上に立っていた当時高校生の彼は今よりも年相応のあどけなさがある。
 ――この頃の一織可愛いんだもん、と言ったらきっと不機嫌になられるだろうけど。
……どうせ、この頃の一織可愛いんだもん、とでも思っているんでしょう」
「わお、正解。一言一句そのままだよ、エスパーじみてるね」
「私がエスパーなんじゃなく、あなたがわかりやすいんですよ。マグカップを受け取るフリをして、まじまじと見比べないで」
 小言を口にしながらソファーの隣に腰掛けた彼は、それでも眩しいスポットライトを浴びて歌っている七人のアイドルたちを見るとすぐに顔を緩ませた。もう十年以上経っているそれは、色褪せることも飽きることもなく、今でも見る者の心を灯してくれる。私はもちろん、彼自身だって、今だけは画面の向こうにいる七人のファンの一人だ。
「一織も飽きないね」
「そうですね。飽きさせないだけのステージができた、と思っています」
「流石、敏腕プロデューサー」
「それほどのことはあります」
 私のからかうみたいな言葉に、一織が得意気に笑う。
「だってあなた、当時はIDOLiSH7のライブには来ていなかったんでしょう? そんな人を十年越しに夢中にさせていることは、光栄以外の何物でもありませんよ」
……好きな人の昔の姿が見たいってだけかもしれないよ」
「それだけでも嬉しいですが……、それだけではないことくらいわかります。出会いや始まり、きっかけがなんであれ、好きであることに変わりはないですから」
「あはー、それだけでも嬉しいんだ」
「ちょっと、そこを掘り下げないでくださいよ!」
 一織が口元に手を当てて、気恥ずかしげに眉をひそめた。その顔があんまりにもライブのMCや過去のバラエティなんかでふとした瞬間に見せる表情と同じだったから、まだ出会っていない頃の彼を垣間見れたような気持ちになって嬉しくなる。
「うん、今の一織も可愛いよ。大丈夫」
「かわ……、私は今も昔も変わらずクールでシャープな」
「うんうん、文房具の話ね。今でも文房具いっぱい持ってるもんね」
「あなた、私の話を聞くつもりないでしょう」
 ますます顔を赤らめる彼の頬をつつくと、その手が取られた。男性にしては細長い、けれどしっかりと骨張った感触にドキリとする。むくれるように照れていたはずの彼は、「やっぱり、わかりやすいですね」と甘過ぎるほど柔らかに笑うとその指をゆっくりと絡めてきた。ああ、やり返されている。
「や……やっぱり、昔の一織のほうが可愛いかも」
「そうですか」
 今度は私のほうがなんだか恥ずかしくなって小さく睨むが、一織はまるで可愛いものを見る目で眉を下げて微笑むだけだ。
「ねえ、私がいつも昔の映像ばっかり見てて、嫉妬したりしないの?」
「しませんよ。先ほど、光栄だと言ったことをもう忘れたんですか」
 冷静で落ち着き払った答えに、どこか満足しきれない。
 妬ませたくて見ていたわけではないし、むしろそういった感情を抱かれていたら申し訳ないことをしているなとすら感じていたはずなのに、こうも動じないでいられると悔しさがある。黙っていると、ですから、と一織が言葉を続けた。
「まだあなたに出会っていない、あの頃の私も同じだけ愛してあげて。たくさん甘やかしてあげてください。あれでも、内心不安を覚えることも多かったんです」
「いつか私に出会うまで頑張って、って?」
「そうですね」
 その声に、今より少しだけ幼い一織の歌声が重なった。それに釣られるようにして画面に視線をやると、緊張や不安なんか一切感じさせない堂々とした彼の姿がある。その立ち振る舞いだけ見ると、私の応援なんか本当に必要なのだろうか、と思うけれど。
「それからで構いませんから」
「え? 何が……
 繋いだ手にほんの少し力が加わったことで向き直り、息を呑む。何かをねだるような、寄りかかるようなその顔と声音は、何よりも雄弁に私を必要だと伝えてきているものだったから。
 なるほど確かに嫉妬はしないだろう、と頷くしかなかった。だって、今の彼に私が届けたい言葉は、頑張って、ではない。

……ちゃんと、今の私を甘やかすのも忘れないで」

 うん、好きだよ、と口が動くより先に、自然と顔を寄せていた。それからそのまま愛しさに任せて、頭を抱くみたいにして撫で回す。
 それは流石に子供扱いしすぎでは、なんて小言は、今度こそ降ってはこなかった。