【スタゼノ】どうしようもない夜

スタゼノワンドロワンライ第220回お題「熱帯夜」
夏の夜、セックスの後スタンリーのことを色々考えるゼノの話。

 セックスの後は、いつだってじっとりとぬるい、湿った空気が漂う。それはスポーツの後の疲労感にも似ていて、でも甘くもあったし、もう彼の深くにまでは触れられないという焦ったさもあった。だからなのだろう、僕はそれがあまり好きではなかった。さっきまでの親密さが失われてしまった気がするから、言葉にするのなら、単純に寂しかったのだ。
 今、スタンは僕の部屋のエアコンの設定温度を少し上げて、僕をパジャマに着せ替え、フットベンチに座らせてベッドメイクをしている。全く、彼は軍隊に入ってからというもの、いやに几帳面になってしまった。これまでならぐしゃぐしゃにしたシーツの上で朝まで抱き合って、そして何度も、唇が腫れ上がるくらいキスしたっていうのに、これじゃあ後戯も何もあったものじゃない。
 まぁ、彼は今日もセックスが終わると何度もキスをくれて、僕を抱き締めてくれて、散々愛を囁いてはくれた。愛してんよダーリンって耳たぶを食み、僕の身体中をさすってくれた。とはいえ、僕としてはそれが朝まで続いて欲しかったのだ。そう、昔のように、何も怖いものがなかったティーンエイジャーの頃のように。勿論、それが無茶な要求だっていうのも分かっていたけれども。
……スタン、君って本当に甲斐甲斐しいね。軍隊で恋人の機嫌を取る方法でも習った?」
 だからというわけじゃないが、僕はちょっと恋人をからかいたくて、そして出来たらもう一度彼と重なり合いたくて、そんなふうに言った。するとスタンはこちらに視線をやって、口元をわずかに緩めた。
「何? 寂しいん? またファックしたい?」
 スタンはシワだらけになったピローケースを替え、リネンをまとめてそう言った。僕は直接的なその声に、思わず口ごもる。そりゃあ寂しいさ。だってあの時感じた熱はもう消えてしまっていて、その代わりに僕は明日の朝空港で迎える別れをひしひしと感じていたから。これからしばらくはスタン、君に会えないんだ。僕には僕に与えられた夢から程遠い仕事があるし、君は多分、僕よりずっと機密性の高い仕事に就く。そうしたら、離れ離れになったら電話でも本音を言えない。上っ面の愛してるって言葉を使うことでしか、僕たちは通じ合えない。
「もう一度あれをやりたいかって? 残念だが腰が痛くて無理だね」
 僕がそう言うと、スタンは笑ってこちらに近付いて来た。腕にはシーツやピローケースを丸めた真っ白なリネンがあり、彼はそれをフットベンチに置くと、僕を軽々と抱き上げてベッドに一緒に沈んだ。僕はびっくりする。何だ? もしかしてそういう気分になってしまった? って。あぁは言ったものの、僕も彼と寝るのはやぶさかじゃない。でも腰が痛いのは本音で、それにそれにさっき君はベッドを整えたばかりじゃないか。あの几帳面な仕事を台無しにするのか?
「スタン、君、ベッドメイクしてすぐにこんなこと……
「あんた、本当にファックしたいん?」
 甘やかされたいんじゃないん?
 そうスタンは言い、僕の額にキスをする。僕はなんとなく誤魔化されたような気になって、でも本当に欲しかったものはこれだったんだって思って、どうしようもなくなってしまう。
 そう、僕は彼とセックスがしたいっていうより、彼と同じ時間を過ごしたかったのだ。時差のないままにキスをして、触れて、その先の深い理解がなくても、彼と同じ時間を過ごしたかったのだ。確かに達する時の甘い感覚を覚えたばかりのティーンエイジャーの頃に戻りたい気もするけど、でももっと幼かった頃、側にスタンがいて、それだけで良かった頃の感覚はもっと欲しかった。あの頃はスタンが側にいて、科学があったら何もいらなかった、無理解な家族とか、友人とも呼べない同級生とか、そういう人達なんてどうだっていいと思えた。
 いや、彼と出会ってすぐの感覚も、関係を深めたティーンエイジャーの頃の感覚も、彼が軍に入って、僕がNASAに入って現実を知ってしまった今の感覚も、僕は全部欲しかった。彼の全部が欲しかった。僕はずっとスタンのことが好きで、今じゃあ愛してすらいた。それは動かしようのない事実なのだった。
「君とキスもしたいし、ファックもしたいし、甘やかされもしたいよ」
「へぇ、俺のプリンセスは強欲だね」
 スタンが、僕の額にまた口付けて笑う。僕はそれに応えるように彼の腕に頭をのせ、胸に顔を埋める。
 スタンからは、さっきのセックスの後の甘い汗の匂いと、消せない煙草の苦い匂いがした。そして軍隊に入ってから覚えた、自分を奮い立たせ、嫌な記憶を消し去り、眠りにつくためのビールの香りもした。でも、彼に触れていると、出会ってすぐの記憶や、馬鹿をやったティーンエイジャーの頃の記憶がよみがえっても来たのだから不思議だった。
 僕は彼の胸に顔を埋めながら、今みたいなじっとりとぬるい、湿った空気を覚えたての頃に行った海や、そこで拾ったシーグラスや貝殻のことも思い出す。それをミセス・スナイダーのお土産にして、たいそう喜ばれて、でも、その後彼女らに隠れてファックしたことも。
「君がそうさせてるんだよ。だって、君って馬鹿みたいに甲斐甲斐しいからさ」
「じゃあ、答えてやんないとな」
 スタンが笑い、僕の背中を強く抱く。僕たちはぴったりとくっつき、離れず、触れ合ってキスをして、そしてこれからは多分、彼の軍隊仕込みのベッドメイクを台無しにするんだろう。
 スタンは僕の全部だった。科学が僕の人生であるように、彼は僕を塗り替えてしまった。僕はそれを何よりも誇りに思っている。愛し愛される人がスタンであったことを、僕は誇りに思っている。こんなどうしようもない夜にも、僕は誰よりも彼のことを思っている。


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