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来羅
2025-09-20 23:06:14
2554文字
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トワウォ
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嫉妬(風信)
ワンドロライ第10回。
最初は可愛いなぁと思っただけだったのだ。
信哥、聞いてくださいよ、と赤ら顔で目を据わらせた青年がくだを巻き始めたとき。まだまだ酔いの欠片すら拾うこともできずにいた信一は、話半分にうんうんと頷きながら杯を傾けていた。
曰く、付き合ってそこそこの彼女が最近やけに他の男と仲が良くて、俺に対してやけに優しい。
どう思います、とずいと近づく顔を押しのけて、その悋気と愚痴が可愛いもんだとまた杯を空ける。
「男の嫉妬は見苦しいぞ」
信一の隣にいた別の青年が、これまた赤い顔で言った。
あれやこれやと言い始めたふたりを放っておいて、信一はそういうものなのかと黙って杯に酒を注ぐばかりだ。
悋気。嫉妬。やきもち。ジェラシー。
言葉自体はなんでもいい。
「
……
そういや、ないな」
ふと気づいたのは、もう仲間たちが潰れて死屍累々の中、ようやく酒気が全身を満たし始めた頃だった。
「ないんだ」
もう寝る間際、あとは灯りを落とすだけという時間に急襲してきた愛し子を、龍捲風は眠気と共に寝室に招き入れた。
酒と煙草の沁みついた呼気。
ヘッドボードに背を預けて今日最後の煙草を呑んでいた龍捲風の上に乗り上げた信一が、据わった目つきでそう言った。
「俺は大佬のことで嫉妬したことないんだ」
「
……
そうか」
「ないってことに気づいた!」
何が言いたいのかいまいちよくわからない。
それはそれでいいのではないかと思うが、信一は違うのだろう。
いかにも不服ですと言わんばかりに唇を尖らせて、龍捲風の腹の上に跨ると、熱くなった両の手で龍捲風の頬を掴んでぐいっと顔を寄せた。
「大佬はモテる」
「
……
それはどうだかな」
「モテるんだよ。男女問わずモテる。黄さんとこの子みたいなガキンチョからジーサンバーサンまで、大佬のこと好きにならない奴はいない」
「
…………
それは、」
「黙って聞いて」
酔っ払いは実に面倒くさい。
はいと返事する代わりに片眉を上げた龍捲風に、信一はますます顔を顰めてしまった。
「それ! その顔! もう格好良いからやめて!!」
「信仔、もう寝ろ」
「大佬は本当にモテるんだよ。格好良いし優しいし頼りになるし料理も上手いし面倒見もいいしそれがまた様になってるからモテるわけ!」
それが信一の当たり前だ。龍捲風の周囲に人が途絶えることはないし、龍捲風が彼らを邪険にすることもない。妙齢の夜を生きる女性がしなだれかかることもあれば、そのまま腕に巻き付かせて親身に相談に乗ってやる龍捲風も見てきていた。
それが当たり前。龍捲風はモテる。龍捲風の目は常に住民を見つめている。その間、信一は隣にいるだけだ。
「おかしい。俺はもっと嫉妬してもいいはずだ!」
「
……
信一、信仔、何が言いたいのか、哥哥にはさっぱりだ」
「もっと俺を見て」
「見てるだろう」
「もっと俺のこと好きになって」
「十分愛してる」
「他の人なんて見てないで、もっと俺のこと構って」
「こんなにもお前に夢中なのに?」
「浮気したら許さないから」
「お前がいるのに、誰がするか」
「俺のことその心に縛り付けて離さないで」
「ここには初めからお前しかいない」
頬を掴む手を外させて、指を絡める。その手をそっと自分の胸に当てて囁けば、もともと赤らんでいた顔がさらに赤くなった、と、思った瞬間。
「ほら! それ!」
龍捲風の指を振りほどいた信一が人差し指を突き付ける。
甘い雰囲気、からはひどく遠かった。
「大佬が悪い! 大佬が俺のこと大事にしてくれるから、俺は嫉妬する意味がないんだ!!」
わっと叫んで、ぽすりと胸の上に落ちてきた信一は、龍捲風の胸の上に頬を押し当てる。そしてへらりと笑った。
「ここに俺がいるって」
ふはっと吐息が漏れて、くつくつと笑いだす信一を上に乗せたまま、龍捲風は片手を額に当てて天を仰ぐ。
勘弁してくれ、お前が悪いと言いたいのはこちらの方だ。
とうに目は覚めてしまった。
短くなった煙草も灰皿で揉み消す。
あとはもうすることもない。
「信一」
嫉妬──。
同じ言葉を返してやったら、この青年はどんな反応をするのだろう。信一はモテる。信一の魅力がわからない人間はいない。信一の周りには常に彼を慕う者たちがいる。
「ああ、俺は、そうだな。嫉妬してばかりだ」
ちょっとだけ意地悪したくなったのはしかたがない。
え、と顔を上げた信一に薄く笑って、その体を抱き寄せる。そうして体を反転させて信一を組み敷いた龍捲風は、先までされていたように信一の頬を両の手で覆った。
「お前が俺を見ていないときは、その目を覆ってしまいたくなる」
囁いて、指先を瞼に滑らせる。
「お前が本気で余所見をするつもりなら、その目をくり抜いてやりたくなるし」
口角を上げて、今度はその上に唇を寄せた。
「お前が俺じゃない奴の話をするときはこうして黙らせたくなる」
呆けた唇に、軽く歯を立てる。
「お前が俺から離れようとするなら」
「うわっ」
体の線をわざとそっと辿った。上がる息を唇に感じ、触れる指先に緊張が伝わる。立てられていた脚を掴んでぐっとその胸に当たるように引き寄せた龍捲風は、ぼやけるくらいの近さで期待に潤む瞳を覗き込んだ。
「このアキレス腱を切って、この部屋に閉じ込めてしまおうか」
柔らかい筋を指先で摘まむ。
視線だけは信一から動かさず、足首に唇を押し当て舌先だけで腱をなぞった龍捲風に、信一の体が震えた。
背筋がぞくりとする。
その切れ長の瞳は決して冗談を言っている色じゃない。
「
……
大佬」
「ん?」
「もしかして俺のことヤバいくらい愛してる?」
「知らなかったのか?」
色を刷いた瞳が細められる。
ぞくぞくする。
うれしい。こわい。でもやっぱりうれしい。
「知ってた!」
ちょっとだけ垣間見た、たぶん、その本気、は、まったくもって可愛いものじゃない。
可愛い、なんてそんなレベルじゃない。
だから、ああ、覚えていたらあいつには「お前の嫉妬はまだまだ可愛いな」と笑ってやらなければ。そんなことを頭の片隅に思って、信一は龍捲風の重みを抱き留めた。
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