つぐころね
2390文字
Public √Eden
 

欠け満ちる月蝕の赫を見上げる着綿菊


 
 節句は色々あるけれど、他の節句に比べると余り知られていない気がする、この節句。縁起の良い奇数である九が重なる九月九日に無病息災とか長寿を祝う行事なんだとか。

 そんな重陽の節句、不老長寿の象徴でもあった菊の花を愛でる『菊の節句』とも言われていて。花の美しさを目で楽しむ『菊合わせ』。菊の花を漬けて頂く『菊酒』、湯に菊花を浮かせて入る『菊風呂』。それから前夜から菊の花へと綿を被せ夜露や朝露から香りを集める『菊の着綿(きせわた)』とかあとは秋らしく栗料理を食べるとか? まぁ色々あるらしい。

 ――で、その前日である夜更け、奇しくも皆既月食でもある今夜。
 そんな事を足元をついて歩いている珠花へと独り言のように話しながら、草木染めで鮮やかに色付く綿花をウッドデッキにずらりと並べた色んな色の菊花への被せていく。白菊には黄色、黄菊には赤色、赤菊には白色。そういうものらしいから、それに合わせて色分けをしてみたけれどまぁ、途中で飽きてきて適当になっていっちゃう、そんな節句前夜の下準備。
 一夜漬けの菊酒も準備が終わってるし、やる事は終わり。あとはのんびり、するだけ

 節句行事は、アノ子が好きだったもの。
 幼い頃から祖父母に育てられていたからか、見た目はハイカラな割に内面は古式ゆかしい感じだった――気がする。まぁ、放っておけば本に埋もれていたような子だったけれど。好きなことに対しては行動的なのは、そのままボクも引き継いでいる気がしなくはない。

 『藍花』

 菊花たちが風に遊ばれる音に紛れ、誰かの声が聞こえた気がして。未練がましくそれをアノ子であればいいと思う自分を振り払うように空を見上げれば――皆既月食が始まっていたようで。

 少しづつ欠けていく月は、もう半分以上宵闇に埋まっている。それをウッドデッキの階段に腰掛け、いつの間にか隣に移動して来ていた珠花と並んで見上げる。指先に触れる珠花の毛並みとぬくもりは気持ち良くて、なんとなくそのまま仰向けに寝転がって愛猫に胸元に乗せれば。『仕方ないなぁ』といいそうな顔で珠花が香箱座りをする。尻尾をみるかぎり動きは緩やかだから、怒ってはなさそう? 我が家の猫様は大変付き合いの良いお猫様だ。

 ――ぼんやり、と月を見つめる。

 皆既月食は隠れきった後に赤くなるの、だっけ? ストロベリームーンの時も思ったけど、なんか不思議。科学的に理由がわかっていても、そう思う。嗚呼、目の前でゆっくりと欠けていく月そのものも不思議な気分かも。そんなことを思いながら(誰か誘えば良かったかな...でも平日の夜更けだしなぁ)なんて、とりとめない事を考える。

 お腹の上の珠花の耳の後ろを撫でていると彼女は喉をゴロゴロ鳴らしだして。そんな音を聞きながら寛ぎ気分になってきていれば、月は完全に隠れ――ゆっくりと昏い赤に染まりゆく、丸ぁい月。

 そういえば赤を連想すると彼らを思い出すようになったのは、いつからだっただろう?
 出会ったのは、まだ桜の咲く前だった気がする。藤棚の下でお花見をする頃には――なんとなく二人の存在が大きくなっていた気も、する。そう言えば、悪友って言い出したのもいつ頃からだったかな。その辺りだっけ? この半年、気付けば彼らとの思い出は結構溜まっていて。年相応というには幼い距離感で、付かず離れず気侭な関係が嫌いじゃなくて。むしろ、好きで。でも、その反面⋯変質していく自分に困惑している部分もあって。ずっと、ずっと――目を背けてる。

 その切欠は、アノ子への想いがボクのヒトらしい欲だったと気付いたあの夜。
 そこからころころと転がるように揺れて揺らいでいた心が藤棚の下で開いた酒宴の夜、河岸を変えた後に二人と恋バナをした辺り、それからそれこそ、ストロベリームーンの夜。数ヶ月かけてゆっくりと穏やかに、ボクの中では性急に、変わる自分の認識はちょっと所でなく――こわい。
 少しずつ欠けていく、移り変わるその先になにがあるのかが分からなくて。不安になる。揺らいでしまう。

 でもアノ子がこのことを知ったら、目を細めて嬉しそうに笑うのだろう。ボクが変わることを誰よりも望んでいたのは彼女だったから。そしてそんな彼女にボクは複雑な顔で『そんなこと望んでなかった』と駄々を捏ねるボクをみて、更に彼女は笑うのだろう。なんていう、ありもしないことを夢想して。でも彼女がこの場にいたら、そうなるんだろうなぁと思う。

 そんなことを、ぼんやりとだらだらと巡らせていれば。空に浮かぶ空は明るい赤色に変わっていっていて、次は橙色に染まる――とかだった気がする。嗚呼、ちょっと眠いかも。でもせっかくなら最後まで見ていたい気もして。ボクよりも先に欠伸をし、立ち上がり寝床へと戻っていく珠花をみながら少し悩む。

 嗚呼もう少し、もう少しだけ。
 数か月前のあの頃とは少し違う揺らぎの中、宵闇にポカリと浮かぶ赤を見あげていたら――なんとなく、見慣れた苺色をみたくなった気がしたけれど。それにも気付かないフリをした。


~終?~
独り言 藍花さんの内心整理を兼ねて書き連ねてる類の小噺は、別に公式スレの方に乗せなくても良いのでは?と思う最近のボクです。書きたいから書くんだけど、書いたら無くしたくないからアップしときたい。(正直)
 ただ極稀に表に出すか悩んで千颯くん&咲良彩ちゃんの背後さんに正座で判定をお願いするのですけれど、だいたい「かわいい(﹡´◡`﹡)」って言われて終わるっていうね。や、うん、もだもだしてる藍花さんは可愛いよね、可愛いんだけどね?そうじゃなくてね!となるわけです。因みに最近はそこに「愛だね(﹡´◡`﹡)」が増えました。それじゃダメなんだよぅぅうううう(叫ぶ)



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√Eden 藍花 / 藍苺堂