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望月 鏡翠
2025-09-20 22:22:33
1137文字
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日課
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#1851 その村
#毎日最低800文字のSSを書く
全ては萬木の生まれる前の話であるはずなのだが、蕎麦屋の主人に過去に話を聞きにきたという狩人たちのことは容易に想像がついた。
人の生き方というのは、五十年やそこらでは大きく変化はしない物だ。
最初は組合への要請があったはずだ。妖怪退治ではなく遠ざけられればよく、調査を目的としていた。しかし彼らが帰って来なくなったとき、蕎麦屋の主人の故郷は腕試しの対象になったのだ。死人が増えるほどに、興味の的になり、話を聞きたがるものは増える。
瓦版に載り、人の噂になる。村を舞台にした怪談ものの芝居の一つでも打たれたかもしれない。
物見遊山も腕試しも、誰一人として帰っては来なかった。騒ぎを重く見れば、規制をされただろう。実際、市井の温度がどうであったのかまでは、萬木にはわからないが、大事件が起こったときの人々の反応というのはそのようなものだ。
そして五十年経ち、すっかり消えたと思っていた噂は、埋み火のように息を吹き返して、不意にまた赤く燃える。
老人があと二十歳ほど若ければ、萬木の不躾さに憤ったかもしれない。過去の傷に、悲しみを覚えたかもしれない。
しかし、彼は何十人もいた大衆のうちの一人でしかない。悲しみも怒りも乾ききり、面倒な客をあしらう程度の心の動きしか与えてくれなくなってた。
「大昔のことだ。もう碌に覚えちゃいない」
「うろ覚えでいい。俺が知りたいのは場所だ。どの辺りにあった。道は残ってるか?」
「道は
……
もう残っちゃいないだろうなぁ」
桶の中の器を洗いながら、老人は深くため息をつく。
彼のご機嫌を取るために、萬木は進んで新しい水を汲んできた。
「一度も街から出ておらんのだ。もう場所も覚えていない。ただ
……
木召村と呼ばれていた。そうだ。俺の故郷は木召だった」
老人は古い記憶を一つ一つ掘り起こしていった。
彼の家は商人だった。比較的新しく村にやってきた家だった。
仕事の上でも家系の上でも街に繋がりが残っていたし、外に出る用事は多くあった。だから命を拾ったのだ。
例の日、父親の仕事を学ぼうと、ついて街に出たところだった。商人をやると心に決めていたわけではなく、若い彼にとって街は刺激的な場所で、仕事を学ぶためといえば連れ出してもらえるから、方便でそう言ってきたに過ぎない。
子供の嘘など両親は見抜いていたかもしれないが、それでもやっていける程度には当時の村は豊かだった。
村から届くはずの荷がやって来ないという話をしたとき、どこかの崖が崩れたのだろうと思った。
道が整備されたとはいえ、山間の村である。
よくあることだ。
そのときは彼も彼の父も帰り道の心配しかしていなかった。帰ることができると信じて疑わなかったのだ。
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