Kaori
2025-09-20 21:24:09
10456文字
Public ウルトラマンアーク
 

あなたのためにしたいこと

ユウマとシュウさんが喧嘩するお話。
あるいは ウルサマ2025 アークとギルアークのかっこよかったモチーフ詰め合わせ(敵はトレギア・ディゲロスではないです)。

 
 
「怪獣の逃亡を確認しました! 他に怪獣らしき存在は視認できません!」
「地中レーダーの数値も異常なし。地表100メートル以内に怪獣の反応ありません!」
「対象領域から、ウルトラマンアークおよび黒いアークの離脱を確認」
「後処理部隊、現場領域に向かって出発します!」

防衛隊とSKIPの合同対策本部が置かれた特設テント内では、複数の映像やセンサーのモニターを前に、緊迫した声が飛び交い人々が慌ただしく行き交っている。
そんなテントのひとつからヒロシとリンがそっと抜け出した。
今回の怪獣出現地点は山よりの丘陵地帯だ。市街地ではないので、変身を解いたユウマとシュウが二人で歩いているのはかえって目立つ。ヒロシとリンも合流して事後調査中のフリをするつもりだ。

「あ、所長、あそこにいるっぽいですよ」

木立が小さく開けた地点に、紺色のSKIPジャケット姿と黒っぽいスーツ姿の二人が見える。足早に向かったヒロシとリンは、そこで意外な光景に出くわした。

……無事にひと段落つきましたね、じゃないですよ! どうしてシュウさんはああいうことするんですか!?」
「何か私の行動に問題がありましたか?」
「ありました! この腕!」

声を荒げたユウマがシュウの左腕を掴む。

「っ痛」
「ほら! ぜったい怪我しましたよね!?」
「少しアザになっているだけです。以前のように骨に異常が出るほどではありません」
「骨が折れなければいいってわけじゃないです! ……僕を庇ったせいでまた怪我を」
「ユウマくんのせいではありません。私が避けきれなかっただけです」
「違います! 僕を庇わなければ、あれくらいの攻撃はシュウさんなら余裕で避けられたはずです。バリアを出す時間だってあったはずだ。どうしていつも僕ばっかり庇って、自分を守ろうとはしないんですか!?」

強い視線で見据えてくるユウマに、シュウはぐっと眉根を寄せた。
掴まれたままだった左腕を反対側の手で静かにはずすと、シュウもユウマを見つめ返す。

「それを言うならユウマくんだって、怪獣の攻撃を最初に背中で受け止めに行きましたよね」
「あれはだって、攻撃の先が市街地に向いていたから」
「それこそバリアを使えばよかったんです」
……っ僕は平気だからいいんです! みんなを守る方が先です」
「よくありません。だいたいユウマくんこそ、私なんかよりもよほど自分のことを気にせずに突っ走って行きますよね。先ほどの言葉はそのままユウマくんにお返しします!」
「だって僕にはアークの力があるから……!」
「それを言うなら私だって同じです。ギルアークの力があります」
「そういうことじゃなくて! 無茶をしてまで僕を庇ってほしくないんです!」
「私は無茶はしていません。向こうみずに飛び込んでいくのはユウマくんの方です!」
……なんでわかってくれないんですか!?」
「ユウマくんこそ!」

二人ともそれ以上は言葉が続かず、険しい眼差しのまま見つめ合う。
先に視線を反らしたのはユウマだった。

……もういいです!」

くるりとシュウに背を向けて歩き始める。
数歩進んだところで、ヒロシとリンが迎えに来ていたことに気付いて気まずそうな顔になったものの、そのまま無言で二人の前を通り過ぎて本部がある方に向かっていく。
残されたシュウの方は深く息を吐き出すとスーツの襟を両手で引いて整える。そうして上げた顔は、はたからはいつも通りの冷静な表情に見える。

「所長、リンさん。お待たせしました。戻りましょう」

落ち着いた声でそう言って歩き始めたシュウだが、歩調はいつもより早い。
別々に歩いていくユウマとシュウの後ろ姿を見ながら、ヒロシとリンは目配せしあった。

……ケンカ?」
「みたいだな」
「珍しいですね……どうします?」
……とりあえず、少し様子を見るか」

眼を細めるヒロシに、リンは肩を竦めて応える。
そうしてユウマとシュウを追って二人も本部の方に戻り始めた。


◇◇◇


星元市内の丘陵地帯に出現した怪獣は、本体の他に複数の小型分身体を持つタイプだった。分身体を攻撃しても本体にはダメージを与えられず、次々に分身体が現れて防衛隊側の消耗を狙っているかのようだった。
ウルトラマンアークと黒いアークは、ひっきりなしに湧いてくる分身体に手間取りつつも怪獣本体に攻撃をしかけ、耐えかねたのか本体は分身体ともども地中に潜っていった。
ひとまず脅威が去ったものの、怪獣そのものを退治したわけではないのでいつ戻ってくるかわからない。防衛隊とSKIPの合同対策本部は解散せず、警戒体制のまま慎重に周囲の状況をモニタリングし続けている。
時刻は既に21時をまわっている。シュウは対策本部の特設テント内で、防衛隊員たちの行き来する騒めきやセンサー類が発する機械音を聞きながら、収集されたデータの分析を続けていた。

「お疲れ様です。SKIP星元市分所の伴です。我々は今日はいったん引き上げます。明日の朝には戻ってきますので」
「お疲れ様です。防衛隊われわれの方で街まで送りましょうか?」
「車で来てるので大丈夫です」

テントの入り口あたりから聞き慣れた声がしてシュウは顔を上げる。防衛隊員と会話していたヒロシを見掛けて腰を浮かせた。

「所長、お疲れ様です」
「ああ、石堂さん、お疲れ様です。石堂さんはまだこちらに?」
「私は泊まり込む予定です」
「大変ですね。無理はしないように……昼間に余分に働いてるわけですし」

小声で付け加えられた気遣いに、シュウは誤魔化すような顔になって「仮眠は取るようにします」と返す。
それから次の言葉を出すまでには、しばし言い淀む間があった。

……ユウマくんは休めそうですか?」
「あいつは私とリンで連れて帰って休ませます」
「そうですか」

明らかにほっとした様子に、ヒロシは頬を緩める。

「石堂さん、少し話せますか?」

そう言われることは予想が付いていた。頷いたシュウは、ヒロシとともに特設テントから出て人影のない場所まで歩く。
深く息を吸って自分から切り出した。

「先ほどはお見苦しいところをお見せしてすみませんでした」
「いえいえ。ユウマは何も言ってませんが、なんとなく状況は察しました」

気心の知れた年長者の柔らかい声は、シュウの胸中に抱えていたものを自然に押し出してくれるようだった。

「ユウマくんに私が無茶をしていると言われました。私自身にはそんなつもりはなかったのですが。私から見たら、ユウマくんの方がよほど無茶な行動が多いのに」
「ユウマはいつも一人で突っ走って行きますからねぇ」
「そうですよね!? 私はそれをフォローしようとしているだけで……

気持ちが伝わらなかったもどかしさがよみがえってきて、つい口調に力がこもる。

「ギルアークのおかげでようやくユウマくんの力になれるようになりました。私はユウマくんにもう無理をしてほしくないんです」

静かに聞いていたヒロシは、言葉を探すようにいったん夜空を見上げて、それからシュウに向き直る。

「石堂さんの気持ちはよくわかります……ただ、俺には、ユウマの考えもなんとなくわかる気がします」
……
「ユウマは石堂さんにもっと頼ってもらいたいんじゃないですかね」

思ってもいなかったことを言われて、シュウは目を大きくする。

「頼る? でも、私たちはずっと彼に頼りっぱなしです」
「ええ、確かに俺たちはずっとアークに頼ってきました。黒いアークが現れて、アーク一人に頼らなくてよくなったことに安堵もしました」
「はい。私はそのために」
「ただ、ユウマの身になってみたら。黒いアークはようやく現れたアークと同じ力を持つ存在です。そんな相手には、単に守ってもらいたいのではなく、共に闘いたいんじゃないかな、と」
「共に……
「同じ立場の存在になったからこそ、アークではなくユウマとして、石堂さんに信じられて頼られて、共に並び立てるようになりたいんじゃないかな、と。……まあ、ユウマ本人に話を聞いたわけじゃないので、あくまでも俺の想像ですがね」

シュウは目を伏せてヒロシの言葉を聞いていた。やがて大きな息を吐き出して顔を上げる。

……所長のおっしゃること、わかる気がします。…………ただ! 私は同じことをそのままユウマくんにも言いたいです」

思わず目元が険しくなったシュウに、ヒロシがその通りだというように苦笑した。

「そこが、ユウマがまだまだなところですね」

つられてシュウも小さく笑った。

「明日にでもユウマくんと改めて話をしようと思います……声を掛けていただきありがとうございました」
「なぁに、こういうのが年長者の役目ですから」

頭を下げるシュウに軽く手を振ってヒロシは駐車スペースの方に去っていった。
それを見送ってからシュウは再び本部のテントに戻る。休憩する前にもう少し分析を進めてしまいたかった。


◇◇◇


月が出ていない山間部の夜空では、星が瞬くのがよく見える。
SKIP専用車の傍らでヒロシが来るのを待ちながら、ユウマはその星空を見上げていた。

……シュウさん、今夜は帰れるのかな」
「気になるなら、電話するなり様子を見に行くなりすればいいじゃない」
……いや、それは、今はちょっと……

こぼれた独り言をリンに拾われて、ユウマはもごもごと返事を濁す。

「まだケンカしたままなの?」
「ケンカなんかじゃ……ただ、あの後は話す機会がなかっただけです」

リンは呆れたようにため息をつくと、ユウマの隣に並んで星を見上げる。

「ユウマが言いたいことはわたしもわかるよ。シュウさん、自分を盾にしがちだもんね」
「ですよね!? 僕はシュウさんにもっと自分を大切にしてほしいだけで!」

味方する意見をもらえてユウマは身を乗り出す。そんなユウマを見上げてリンは目線を険しくした。

「でも! シュウさんの言うこともそのとおりだよ。ユウマも一人で突っ走りすぎ。いくらアークの力があるからって!」
「う……はい……
「っていうことを、シュウさんに言いたかったんだよね、ユウマも」

いたずらっぽく笑われてユウマは眉が下がる。リンにはいろいろと見抜かれてしまっているようだ。

「シュウさんが黒いアークになって一緒に闘ってくれるのはとても心強いんです。でも、シュウさんにばかり無理をさせてる気がして」
「そんなにシュウさんに無理させてるかな?」
「だって、シュウさんはまだ変身できるようになったばかりだから。闘い慣れてる僕の方がもっといろいろやらないといけないと思うんです。なのに」
……あのね。シュウさん、防衛隊の人だよ。わたしたちと違ってちゃんと闘う訓練してるはずで、闘いに慣れてないなんてことはないでしょ。それにシュウさんはずっとアークのことも研究してたから、ある意味でユウマよりもアークの力のことに詳しくて、黒いアークの力も使いこなしてると思うんだけど」

確かにそうかもしれない。ユウマが感覚にまかせて使っていた力を、シュウが理論的に分析して説明して名付けてくれたことは何度もある。彼が説明してくれることで、より具体的にイメージしやすくなって使いやすくなった力も多い。

「でも、それだったらやっぱり、もっと自分を守ることに力を使って欲しいです」
「うーん……シュウさんは、ユウマにもっと頼ってもらいたいからああいう動きになっちゃうんじゃないかな」
「え……? 僕、それこそ初めてシュウさんに会ったときからずっとシュウさんに頼りっぱなしですけど」

まったく想定していなかったことを言われて、ユウマは大きな目をいつも以上に大きくした。

「いつものシュウさんじゃなくて、黒いアークのシュウさんの方。……これはわたしの想像だけど。シュウさんはずっとユウマが一人で走っていっちゃうのを悔しく思ってた。だから黒いアークになれて、ユウマと一緒に走れるようになったことを喜んでるはず。だけど一緒に走れると思った相手が、自分のことを気にかけてばかりいたら、頼られてない、信じられてないって感じちゃうかもな、って」
「そんな……!」

シュウのことを信じていない、なんてあるわけがない。
共に闘えることが心強くて、嬉しくて。ようやく現れた共に走ってくれる存在はとても大切で。
その大切さが、かえって自分の想いを伝える邪魔になっていたのだろうか。
今までの行動が間違っていたのかもしれない……と拳を握ったユウマの肩を、リンがぽん、と軽く叩いた。

「まあ、おんなじことは、シュウさんにも言えるんだけど」
「え?」
「とりあえず、ユウマとシュウさんはもっと話した方がいいよ。今回の件が終わったあとにでもちゃんと時間とって。あ、所長が来たよ。お疲れ様でーす!」

リンが言ったことの意味を深く考える時間がないまま、話は切り上げられてしまった。
ヒロシが来ると三人ともすぐにSKIP専用車に乗り込み、ユウマはエンジンをスタートさせる。
後でちゃんと考えようと思いながらも、ユウマは握るハンドルが少し軽くなった気がしていた。


◇◇◇


合同対策本部の特設テント内は朝から活発に動いていた。

……以上のように、あの怪獣の波形を分析した結果と先日落下してきた隕石の波形には大きな類似が見られます。波形が大きく変化するタイミングも一致しています。あの怪獣の行動は隕石由来の何かに影響を受けている可能性が非常に高い」
「これを昨夜から今朝までに分析したんですか? 早っ」
「波形の周期は、朝の変化がもっとも大きいですね」
「ええ、おそらく夜間に蓄積したものを朝になって吐き出しているのではないかと」
「となるとまた動き出す可能性も……警戒レベルを上げるぞ!」

シュウが示した昨日の怪獣の分析結果を聞いて、テント内の動きが慌ただしくなる。
そこに一つの報告がもたらされた。

「こちらに向かっているSKIP星元市分所の所員から連絡がありました! 山道の途中で怪獣の分身体とみられるものを複数発見したとのことです!」
「何!? 所員の被害は!?」
「接触はしていないので被害はなし、ソニッターで威嚇してこちらに向かっているそうです!」
「至急、救援に迎え!」
「SKIPのドローンAIからの映像、入ります!」
「センサーの状況は!? 本体の把握はどうだ!?」
「地中レーダー、異常値をキャッチしました! 距離2000、深度70、40、上昇してきています!」

その場の緊迫感が急激に高まった。装備をチェックして出動していく者、無線で鋭い指示を飛ばす者、ひっきりなしに変化するレーダーを元に予測を立てる者、各自の役割に従って怪獣に立ち向かおうとする。
テント内に地響きが伝わってきた。モニター内で土煙が上がり、続いて怪獣の巨体が映し出される。本体の怪獣だ。
シュウもモニターの映像を凝視しながら、唇を噛み締める。

……ユウマくんは、リンさんや所長は逃げ切れたのか……!)

テントの外で車が止まる音がする。

「SKIP所員2名、無事を確認!」

(2名……?)

疑問の答えはすぐに出た。
モニターに映る怪獣の向こう側、赤と銀の大きなシルエットが現れる。

「ウルトラマンアークだ!」
「戦闘車両に通信! 体勢を援助フォーメーションに変更!」

画面の中ではアークが果敢に怪獣に挑みかかる。だが、複数の小型分身体が四方から取り付いてアークの動きを邪魔している。分身体を振り払おうとすると、今度は本体が攻撃を仕掛けてくる。
本体の攻撃が当たって、アークが大きく跳ね飛ばされる。

……っ!」

慌ただしいテント内からスーツ姿の青年が飛び出していったことは誰も気に止めなかった。
攻撃部隊と後方支援部隊の通信がより活発になり、各種センサーが発するアラートも目まぐるしく数値を変える。
モニター越し、山腹に叩きつけられたアークが苦しげに身を捩る姿に、皆が不安げに眉を寄せ防衛隊としての援助方法を思案していたそのとき。

……ジ、ジジ…………ブツ……ッッ

モニターや通信機器が、いっせいにノイズを拾って歪む。
それはほんの一瞬の出来事。
すぐに元のように映像を映し出したモニターに視線を戻した人々は、そこに新たに現れた姿に表情を明るくする。

「黒いアークも来たぞ!」


◇◇◇


怪獣に跳ね飛ばされて山の斜面に転がったアークユウマは、ようやく上半身を起こす。
樹木が密集した山地は足場が悪い。手をついて立ちあがろうとしたとき、すぐ近くに重量のある存在が着地した振動があった。

《遅くなりました、ユウマくん》
《シュウさん……!》

目の前にすらりと立っているのは、滑らかな黒銀の姿。
短い期間にすっかり馴染み深いものになったそのシルエットに安堵が湧き上がり、遅れて昨日のことが思い起こされて、どう反応すべきか迷う。

……来て、くれたんですね》
《当たり前でしょう。さあ、立って》

ギルアークシュウの黒い手が迷いなく差し出された。一瞬だけ躊躇い、だが今はそんなことを気にしている場合ではないと思い至って、その手を握り返す。ぐっと力強く引き起こしてくれた手の温かさに、心が落ち着くのを感じた。
並び立った二人の周囲で不快な鳴き声が上がる。怪獣の小型分身体が複数、二人を囲んでいた。

《しつこいな!》
《昨日は分身体を攻撃しても本体にダメージがなさそうに見えていました。ただデータを分析してみると、分身体が減ればそれだけ本体の波形も変化していました。分身体を攻撃することは無駄ではなさそうです》
《分身しても本体の見た目に変化がなかったけど、体内の何かを分離して生成してる?……どういう生態なんだろう》
《宇宙科学局のデータは後で共有しますから、まずは怪獣の排除が先です》
《すみません、それもそうですね》
《とりあえずこの分身体たちを片付けてしまいましょう。ユウマくん、半分お願いして良いですか?》
……! シュウさん……もちろんです!》

二人は背中合わせになり、腰を低く下ろして身構える。
足裏をじり、と擦り動かし。

《背中は任せます!》
《行きましょう!》

お互いの声掛けを合図に、二人は同時に駆け出す。
友に信頼され、託されている。その実感が二人の動きから躊躇いや力みを消し去っていた。
拳や踵の直接的な攻撃、光線や剣を使った攻撃、それらを組み合わせて自分たちを取り囲む分身体を次々に倒していく。
どれくらいの小型怪獣を相手にしたのか。
胸元のライトが赤く点滅し始める頃には、残っているのは本体の怪獣のみとなっていた。本体の動きは昨日よりも明らかに鈍くなっている。分身体を倒し続けたことがようやく効いてきているようで、あとひと押しで本体も倒せそうだ。
アークユウマギルアークシュウで、怪獣本体を前後から挟み込むように立ち塞がる。
アークユウマはイエローゴールドのキューブを取り出して、土星サトゥルーの鎧を身に纏う。
向こう側ではギルアークシュウ銀河ギャラクシーの鎧を装着したのが見えた。

(これで決着をつける!)

光線を放つために、右腕に力を蓄えて構える。その腕を剣ごと振り上げようとしたとき。
がくんっ、と身体のバランスが崩れる。動きを阻害された脚元を見下ろすと、排除しきったと思っていた小型分身体が数体、両足に取り付いていた。

(まだ残ってた!)

足首を強く掴まれて、蹴り上げて引き剥がそうとしても足が動かせない。

《ユウマくん!》
《来ちゃダメです、シュウさん!》

せっかく本体の怪獣を追い込んだのに、ここで分身体に気を取られていたらまた昨日のように逃げられてしまう。
アークユウマは、ちらりと手元の剣を見下ろしてから、ギルアークシュウをじっと見つめた。
黄色と赤の視線が交わる。
ギルアークシュウが頷いた。
デュアっという掛け声とともに、彼の手元に光の粒が溢れる円形が現れる。
続いて、アークユウマの手元にも同じものがもう一つ。
煌びやかな光の粒が詰まった円形に向かって、アークユウマは躊躇うことなく剣を放り投げる。

《シュウさん、頼みます!》

空間を越えた剣がギルアークシュウ側の円形から飛び出す。
漆黒の手がその剣柄を受け止める。投げられた剣の勢いのままに身を翻して、握り締めた剣を振りかぶり、怪獣本体に向かって斬り下ろす。
怪獣は何が起こったのかわからないままだっただろう。
肩口から斜めに切り裂かれた巨体は、ずるりと頽れて、切り口から激しく爆散する。
黒銀の滑らかな姿越しにその爆発を見届けて、アークユウマは脚元を改めて見下ろす。
本体がいなくなったのだから、もう他を気に掛ける必要もない。
上半身だけをしなやかに屈めて力を蓄え直すと、地面に向かって右腕を大きく振り抜いた。
薄氷色の光線が迸り、張り付いていた小型怪獣たちを地表ごと氷の中に閉じ込める。
自由になった足でジャンプしてその場を離れ、鎧を解除して即座にその氷に向かって光線を打ち込む。
怪獣を閉じ込めたまま、氷は細かく砕け散った。
シュウゥゥ……っと氷片が融けて消えた向こう側に黒銀の友が剣を携えて立っていた。

《これはお返しします……頼ってくれて、ありがとうございました》

差し出された剣を受け取る。怪獣を斬った名残か柄はまだ熱い。その熱さは単なる力の余韻ではなく、友人の想いもこもっているように思われて。

《こちらこそ、僕を信じて任せてくれてありがとうございます》

赤い目を見てそう伝えると、再び深く頷いてくれた。
気持ちが伝わったのが嬉しくて、アークユウマは右腕を顔の前に掲げる。
一瞬だけ間が空いて、ギルアークシュウが同じように腕を掲げて合わせてくれる。
クロスされた腕越しに、お互いの笑顔が見えた気がした。


◇◇◇


「つまり、あの怪獣は隕石に付着していた何らかの物質に操られていたということですか? ウーズやガチュラみたいな寄生生物ですか?」
「どちらかというとスペッキオに近いです。あの小型分身体は、実は分身していたのではなく、本体を小さいサイズで模倣していました。模倣するのに本体のエネルギーを利用していたので、分身体を倒せば本体もそれだけ弱っていたようです」
「なるほど……だから分身しても本体の外見に変化がなかったのか。本体を自分たちに都合の良いように操ろうとするところは、寄生怪獣と似ていますね。怪獣よりもある種の昆虫や細菌の方が近い行動をするものがいるかも」

タブレット端末を覗きこみながら、ユウマとシュウは怪獣に関する分析データをもとに話しこんでいた。
ウルトラマンアークたちが怪獣を倒してから数日が経過している。
あの後は再び怪獣が現れる様子もなく合同対策本部の特設テントも日に日に縮小していて、今日が最終日の予定だ。
宇宙科学局とSKIPの合同調査もひと段落し、お互いの調査結果を確認しあっていた。
ひととおりデータを確認したところで、ユウマがシュウに厳しい眼差しを向ける。

「シュウさん、今日はさすがに帰って休めますよね?」
「泊まり込んだのは最初の日だけで、それ以外は帰っていますよ」
「帰ったといっても着替えに帰っただけくらいで、すぐに戻ってきてずっと対策本部にいたの、知ってますからね!」

大きな瞳でじっと見据えられて、シュウは居心地悪そうに眼鏡の奥の視線を逸らした。
ユウマは仕方ないという顔で大きくため息をつく。それからコンビニの袋を突き出した。

「とりあえず差し入れです。せめてちゃんと食べてください」
……ありがとうございます」

しおらしい表情で袋を受け取り、中身を確認したシュウがぴたりと止まった。

……ユウマくん、これを、私に……?」

おにぎりやパンの中からシュウが取り出したのは紙パックの飲料。パッケージには『牛乳好きのための甘いコーヒー』と書かれている。

「“コーヒー” ですよ! ここにもそう書いてあります!」
……なぜ、このような物を……
「どうせシュウさん、ロクに休まず食べず、ブラックコーヒーばっかり飲んで働いてるんでしょ。牛乳なら栄養取れますし、糖分は頭の働きも助けてくれますよ」
「邪道な!! 必要な栄養はコーヒーとは別に摂ります!」
「えー、美味しいですよ、これ」
「ユウマくんはコレを飲んだのですか!?」
「飲みました」
「何てこと!」
……僕が何を飲もうが、僕の勝手ですよね?」
「確かに、人の嗜好に口を出すのは慎むべきです。ですが! ユウマくんがコーヒーを飲むのなら、私が丁寧に淹れたものを飲んでいただきたい!」
「っ……そりゃ、シュウさんが淹れてくれたコーヒーは美味しいです! でもそれとこれとは……

撤収の準備が進むテントの一角で言い合いを始めた二人を、防衛隊のメンバーは何とも言えない顔で遠巻きに眺めている。
そしてSKIPのユピーとリンとヒロシは。

「あの二人、ケンカしてるの?」
……はぁ。くだらないっ!」
「ま、くだらないケンカをしててくれた方が、見てるこっちは気がラクだ」

呆れつつも微笑ましい表情を二人に向けて、同じく様子を見守っているのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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ウルサマ前期 千秋楽のアークからギルアークへのハグは盛り込むことができませんでした。
これはまたいつかどこかで挑戦したい。