夏の妄想倉庫
2025-09-20 18:51:31
2395文字
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歌姫は深淵より目覚める

プリオケ夢主、ローレが目覚めます

深海のような闇の中。
そこを少女はただ一人で、浮遊感に似た感覚と共に漂っていた。

胸に燻る炎のようなものを感じながら、少女は闇に身を委ねる。
ぼんやりと浮かんできたのは、この闇に沈む前の断片的な記憶。
自分に【特別な力】があるとわかったあの日。
だが、その力はあまりにも強すぎた。
力を使う為に歌を歌う度、身体を内側から焼き切られそうな感覚に陥り、思考する力さえも毟り取られる。
疲れ果てて眠れたら楽なのに、昂る熱がそれを許さない。
仲間に心配をかけさせまいと嘘を重ねる毎に、少女は心身共に疲れ果てていった。

──きっとあの時、力を制御しきれなかったのは、ワタシが泣き虫で弱かったから

そんな無力な自分を、少女は酷く嫌悪していた。
だからこそ、少女は長い眠りにつき、この闇にその身を堕とすことを決意したのだ。

──弱い「ワタシ」なんて、いらないの

闇の中では、常に己と戦っていた。
時折鏡に映る、泣き虫だった【あの頃】の自分を、何度も打ち砕いた。
もう自分は子供じゃない、弱くない。
そう言い聞かせながら何度も、数える事が億劫になるほど
少女は、己の【弱さ】を殺していった。

──あれから、どれだけの時間が経ったのかしら

時折浮かぶのは、何よりも大切な仲間の顔と声。
彼らの笑顔が見たい。
声が、聞きたい。
静寂が支配する闇に、ある音が響いた。

──歌が、聞こえる。これは、何の歌

それは歌だった。
聞いた事のないその歌は、闇の中で波紋のように広がり、少女の周囲に星のような瞬きを齎す。
少女は、思わず見惚れる程に美しい光景に呼応するように、胸の中の炎が強く燃え上がるのを感じた。

──胸が熱い。でも、今までと違うこれは何?

今まで自分を苦しめてきたものと違う熱さに、少女は戸惑う。
だが、すぐにそれこそ己の中の力が、真に求めていたものだと確信する。

──そう、ついに来たのね【この時】が

全てを少女が理解した時、暗闇に光が差し込む。
その光は闇を呑み込み、世界を反転させて行き──。
そうして、少女は深淵より目を覚ました。

随分長く、眠ってた気がするわ」
体を起こして、ベッドとドレスをかけたハンガーだけが置かれた鳥かごのような空間を見回す。
皆には感謝しないとね。ワタシの為に、ミューチカラを集めてくれたのだから」
少女は桃色がかった銀髪を揺らしながらそう呟くと、薔薇で飾られたベッドから降りて、着ていた黒いワンピースを脱ぎ捨てた。

「熱意、流星、そして波紋。ワタシを目覚めさせた三つの輝き楽園の希望
黒と赤を基調としたゴシック調のドレスに袖を通しながら、少女は歌うように言葉を紡ぐ。
闇が光を飲み込むように、黒が白を染め上げるように、その輝きもいずれ、ワタシのものにしてあげるわ
着替え終えた少女は、ふわりとドレスの裾を翻し、軽やかな足取りで己の檻を後にした。
弱き自分と、決別するように。

***

予定調和、か」
感じ取った気配に、赤い髪の青年・カリストは意味ありげに呟いた。
そして、近くにいた眼鏡をかけた青年に視線を向ける。
「ベス、出迎えはお前が行ってあげなよ」
リーダーであるお前が行くべきだろう?」
眼鏡の青年、ベスはやや不満げに返すが、カリストはそれに対してやれやれといった素振りを見せる。
「その方が彼女が喜ぶと思ったのさ」
あの時の事は、帳消しにならんからな」
カリストの返答に、ベスはため息混じりに言葉を紡ぐ。
その言葉には、諸々の感情が込もっているように思えたのは、恐らく気のせいではない。
「ああ、わかってるさ」
ふん」
カリストがいつもの調子でそう言うと、ベスはまだ何か言いたげに、姿を消した。

キス無しで、眠り姫がお目覚めってやつか」
「そんな小洒落たもん、あいつにはいらねぇだろって」
二人の会話を見守っていた精悍な顔つきの青年、ドランはカリストが感じ取った気配を形容する。
そんなドランの言葉に対し、呆れたようにつっこんだのは、癖がある薄緑の髪の少年、ギータだった。
「でもさ、また聞けるってことだよな。あいつの歌が」
どこか嬉しそうに言うギータに、カリストは優しく、しかしどこか妖しげに微笑む。
「ああ、盛大に祝おうじゃないか。僕らの歌姫の帰還を……

***

──薄暗く長い廊下。
果てが見えないそこを歩いていたベスは、こちらに向かってくる足音に立ち止まる。
近づいてくる足音と共に、闇から露になったのは、緩く波打った淡く桃色がかった長い銀髪をした華奢な少女だった。
黒と赤を基調としたゴシック調のドレスに身を包んだ彼女は、その白磁器を思わせる白い肌も相まってか、どこか人形の様にも見えるが、高潔な雰囲気も纏っている。
「あら、出迎えはあなたなのね。ベス」
随分と、長い休みだったな」
少女の言葉に、ベスは呆れた様に返しながら眼鏡のエッジを上げる。
そんな彼の様子が気に入らないのか、少女はぷくっと頬を膨らませた。
「何よ。久々の再会だって言うのに、冷たいじゃない」
抗議するように言ってみても、ベスは眉間に皺を寄せたままだ。
「何が久々だ。何も言わずに、あんな事を勝手に決めたのはお前だろう」
ベスの言葉には、怒りに似た寂しさが含まれていた。
そんな彼の言葉に、少女は困った様に微笑む。
そうね。あなたには、心配かけちゃったわね。ごめんなさい、何も言わないで勝手に決めて
どこか優しく宥める様な声色で言われ、ベスもそれ以上は何も言えなくなった。
ため息をついて、改めて彼女を見る。
まぁいい。目覚めたからには、その力を振るってもらうぞ、ローレ」
「ええ、当然よ」
少女、ローレは蠱惑的な笑みを浮かべ、答えた。