Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
織音
2025-09-20 11:36:18
1861文字
Public
Clear cache
その瞳に
『奪われたのは、僕の方』
『貴方の瞳が閉じるまで』というフォロワサンに頂いたお題から生まれたもの。当初より甘さを足した。
僕達グレイレイヴン隊指揮官の瞳は、色素が薄い。
濃紺を溶かした黒く指通りの良い髪、全身に纏う装備の濃い灰色。体に纏うそれに反して、瞳が特別薄かった。
薄い灰色の水彩絵の具を重ね塗りしたようなその色は、触れれば壊れてしまいそうな儚さすら感じてしまうほどに薄い。
まるで氷のようだと思えば、遠く輝く星や月にもよく似ていて。繊細な硝子細工のようにも見える。しかし、貴方の瞳を語るためにどんな言葉を使っても、きっと全てを語ることなど出来ないのだろう。
――
そんなことを思ったのは今、目の前でその薄灰色が揺れているからに他ならない。
「リー」
こちらを覗き込む薄灰は月明かりを反射して、静かな光を放っていた。光を映した貴方の瞳は、その言葉のどれよりも眩く、どうしようもないくらいに奇麗で。それに
……
僕は魅入られてしまった。
「
……
何を、考えてる?」
不意に触れた指が、熱を帯びていた。
何かを期待する熱ではない。乞うような熱でもない。ただ、人間らしい温もり。人肌にあって然るべき、拍動によって維持される熱。
僅かな機微さえも見逃さないと言うように見つめる薄灰は凪いでいた。
いつも多くの存在と遠い遠い先、未来に向けられる瞳が今、『リー』という存在ひとりだけを映している。その事実に仄暗く控えめな独占欲が微かな甘さすら伴って胸中を満たした。
「貴方の瞳のことを」
「
……
あまり、見られると
……
恥ずかしいんだけど」
君のような綺麗な色じゃないでしょうと苦笑を零しながら離れていこうとする指揮官を、鼻先が触れ合いそうな距離まで引き寄せる。
「
…………
」
指揮官は驚いたように目を見開いた、が、それもほんの一瞬に過ぎない。すぐに細められたその目はこちらを受け入れているようであった。
――
確かに、指揮官の瞳は僕の瞳のように彩度が高い鮮やかな色を持っているわけでも、明度の高い淡い色を持っているわけでもない。それでも強く惹きつけられてしまうくらいに静謐な美しさを秘めていた。
もっと近づけば、僕の色も映すのだろうか。隙間もないくらい貴方を抱き寄せれば、その目に僕の色だけを映してくれるのだろうか。
鏡のような瞳に反転した僕が映る。その表情は相変わらず何一つ読めない無表情のまま。
「
……
指揮官」
以前までの指揮官ならば、これほどまで近付けば耳までも赤く染めて「離れて」、なんて言っていたものだが
……
今はその冷静さを崩すことなく、慣れたように微笑んでいた。
「うん、なに?」
「貴方の目を、奪いたい」
その目も色も、秘められた感情も全部。他の人達から奪い去ってしまいたい。
貴方の瞳が閉じて、二度と開かれることがなくなる日まで
……
貴方の目を奪う。目移りなんて、させやしない。
「
……
ふふ」
指揮官は抑えきれなくなったように小さく笑う。
「
……
なんですか」
「いや、僕だけを見てくれてるんだなって思って」
心底嬉しそうに笑いながら、指揮官はその一等薄い灰色にいつもの穏やかで優しい光
――
ではなく、ただひとりだけに向ける為に作られたような感情を溶かしていた。
独占欲と呼ぶにはあまりにも柔らかすぎて、執着と呼ぶにも優しすぎる感情。ただ、ひとりだけをその目に映し、純粋な愛を注ぐ。
それは一途という彼の、本質。
愛おしそうに添えられた手の、人間らしい柔らかな温もり。それに安心感を覚えるようになったのはいつからだったか。
「別に、君以外を見るつもりはないんだけど
……
でも、奪ってみせて。ちゃんと最期まで」
そう、静かに囁いて。指揮官は口角を持ち上げて綺麗に笑った。その煌めきに、僕はどうしようもなく目を奪われてしまう。いつも奪っているようで、奪われているのはこちらなのだ。
「
……
上等です。奪い抜いてみせますから、覚悟していてくださいね」
ああ、という返事ごと喰らうように月明かりに映える純白の上で手を重ね、唇を奪った。
柔い部分が触れ合うのはたった数秒。しかし既に互いに心を奪われ、愛してしまった二人にとってはほんの数秒で十分だった。
「リー」
愛おしげに呼ばれる名。熱に浮かされているわけでもないのに、その声は甘い響きを孕んでいた。
「おいで」
目の前の唯一から告げられたそれは体温へ触れる許しか、眠れない夜夜中への誘いか。
深い夜の帳が落ちた二十三時半、ひとの形をした二つの影が溶け合う。境目を無くした二つの影は、深更に包まれた静けさの中で指揮官が眠るまで、離れることはなかった。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内