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望月 鏡翠
2025-09-18 01:25:35
847文字
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日課
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#1849 のちほど
#毎日最低800文字のSSを書く
村にいた人間は、みな死んだ。少なくとも生きて戻ってきた者はいない。ただし、あの村のことを知る人間が残らず死に絶えたわけじゃない。
なにしろ勢いのある村だった。仕事で出入りしたものや、親族があの村の住人だったものくらいは残っている。彼らが村の名前や場所を覚えているかもしれない。
日が暮れると北の通りに、蕎麦の屋台が出る。気のいい爺さんが一人でやってる店だ。噂によると、その爺さんは子供の頃に妖怪に故郷を滅ぼされたらしい。以来ずっと山が恐ろしくて、街で暮らしているという。
なんでも夜中に蕎麦屋をやっているのも、人の気配がないと恐ろしくてとても寝ていられないかららしい。昼間になって外が明るくなり、人の気配がするようになってようやく安心して目を閉じることができるのだという。
禁足地になったという件の廃村の出身でなくとも、その蕎麦屋の店主にまつわる噂話が本当であれば、何かしらの妖怪の情報を聞くことはできるだろう。
「何を奢ってくれるんだ?」
銭湯から上がった男は、期待に満ちた目をしている。
「蕎麦はどうだ? 好きなもの頼んでいいぞ」
どうせ蕎麦屋に話を聞きに行くのだ。彼との用事もそこで済ませてもらえるのなら、都合がいい。
「何だ。それだけか」
蕎麦一杯では不満だとでも言いたげだった。大した情報を渡したわけでもないのにとは、思っても言わぬが華だ。
「大盛にしていいぞ」
「並盛で済ませるつもりだったのか」
「言っておくけどな。俺は金がないから狩りにでようと思ってるんだ。財布に期待されても困るぜ」
「だが、奢りの条件をちらつかせたのはお前だろ」
「わかったわかった。飲んでいいぞ。何なら蕎麦湯もつけて、割って飲めばいい」
酒と条件をつけるとそれならと納得した様子だった。
どんなに長風呂をしたとして、夕刻から店を開く蕎麦屋の主人と話ができるようになるには、時間がある。これからようやく眠るところなのだろう。
刻限を決めて店で合流することとして、萬木は街に出た。
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