こゆ
2025-09-18 20:00:00
1788文字
Public
 

素直で天邪鬼

〇〇しないと出られない部屋
※全年齢
※両片思いハピエン

「これアレだ、出られない部屋!」

シャチはふと瞬きをしたら真っ白な部屋にいた。
ドアも窓もなければ家具も何もない。
今ここに存在しているのは自分ともうひとり、一個上の幼馴染。相棒で親友なシャチのいちばんがいるだけ。何が起きているのか覚ったシャチは思わず頭を抱える。
ペンギンは口をへの字に曲げて、どこか不機嫌そうに、つまりはいつもの表情で「はあ?」と言った。
「部屋から出るには条件があるってアレじゃね?その条件を達成しなけりゃ絶対に出らない部屋」
それにシャチが困った顔で応える。


『出られない部屋』
それは、小さな頃から繰り返し何処かしらで聞いた怪異。突然放り込まれて、指定された行動をとらなければ二度と元の世界には戻れない部屋があると。少し不思議な話だが、まさか新世界でお目にかかることになるとは。

ふたりは補給のために寄港した島で目当ての薬屋がある路地を曲がったところだった。
何かが眩しくて目を瞑った気がする、その程度の記憶しかない。
「ああ、よくある怪異のアレか。実際そうだって言われても俄かに信じがたいな。シャチ、早く出るぞこんなところ。と言ってもいったい何をどうすればいいんだか」
「なんか地域によって違うらしいけど……
シャチは言葉を濁す。よく聞くのはキスやらそれ以上やらを求められるとか。そう言ってしまったらこの男は壁をぶち破りかねない。
だってペンギンとシャチはただの相棒であり親友であり、しかも男同士なのだから。
と、『その文字』が目に入り、シャチはぱちくりと瞬きをした。

嘘をつかないと出られない部屋
壁に小さくそう書かれていたのだ。

──え、そんだけ?
おれ、じつは女なんだ。とか。おれ、じつは魚人族なんだ。とか。目からビームだせるんだぜ、とか、そんなのでいいのだろうか。
ペンギンはまだ文字に気付いていないようだ。
シャチはぺろりと唇を舐めて、口を開いた。
先手必勝だ。
「ペンギン、キライ」
……は?」
「お前なんか嫌いだ」
シャチが捻り出した言葉にペンギンが顔を顰めた瞬間、今まで何もなかった壁に唐突に扉が現れた。
「ほら、出れるって。よかったよかった」
「よくねェよシャチ。なに、今の」
「相手にキライて言ったら出られる部屋だったんだよ」
「なにそれ」
「まあ出れるんだからいいじゃん」
そう言って、ニカっと笑うとシャチはドアノブに手をかける。
ぐッ、と力を入れた。
……へ?」
ドアノブが動かない。ガタガタと騒がしく押しても引いてもドアは開かない。
「鍵かかってる……?」
「ふたりとも言わなきゃいけないんじゃねーの、扉は現れたわけだし」
「あっ……ちが、ペンギン待っ、」
「シャチ、キライ」
シャチはあわあわと口を開いたまま、待ってと手を伸ばした。その瞬間。
 
ガチャリ。
 
握った扉から嫌に冷静な開錠の音がした。
………………ふへェ?」
思わずノブから手を離し、力なく扉の方を見れば、すぐに隣に並んだペンギンがノブに手をかけている。
「お、開いた」
そう言ってペンギンがドアを開けた。
「え……、でも……、え……?」
嘘をつかないと出られない部屋だったはずだ。だからシャチはペンギンにキライだと言った。本当はずっとずっとペンギンのことが好きだったから。普通の好きじゃなくて、恋愛的な意味の好き。
そしてふたりが同じ条件を達成しないと出られないというのなら、ペンギンも嘘をつかなければいけなかったはずだ。同じ質の嘘を。
シャチは頭でぐるぐる考えようとすると、たとえ嘘でも嫌いと言ったり言われたりの数十秒にどっと疲弊した。湧き上がる期待を全部否定して、ずっとわからないままにしたかった。
だって、ペンギンが発した言葉は。
扉を出て、数分前までいた路地にペタンと座る。
いや、腰が抜けたに近い。夏島の石畳は日陰だと言うのに熱を蓄えていて、シャチはじわじわと尻が熱くなるのを感じた。
「え、なんで。なんで、開い……たの、」
先に部屋から出たペンギンは、んー、とのびをしながら振り返り、混乱するシャチの目線まで屈んだ。

「で、本当は何をしないと出られない部屋だったんだよ。教えて、シャチ」

そう言ったペンギンは今まで見たどのペンギンよりもご機嫌で、ゆっくり釣り上がる唇が眩しくて、シャチは思わず目を閉じた。