syanpon
2025-09-17 22:54:39
2585文字
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お前これ砂糖入れた?

オトスバ
現パロ

 ナツキスバルは唐突な男だ。
 その奔放さが彼の良いところでもあるのだが、それが度々オットーを困らせる悩みの種ともなっている。
 
「なんか俺、ストーカーされててさ」
「は?」
「そんでもって男でさ」
「は??」
 
 じゅ、といちごミルクと書かれた紙パックの底の液を吸いながらなんてことないような調子でいうスバル。本人がその調子なものだからオットーはまた胃がキリキリするのを感じた。空はこんなにも青いというのにお先は曇天、嫌な予感。
 
「だからお前に一日彼氏の役をやってほしいんだよね」

 ぱこん、飲みきった紙パックに悪戯に息を吹き込み遊びながらスバルがオットーにもたれかかる。行儀が悪いと紙パックと先端が噛まれたストローを奪ってゴミ袋にしまう。そうして「いいですけど」と先程のお願いに答えを返せばスバルは「さすがオットー! 話が早くて助かる」と破顔した。

 ***

「ストーカーが諦めるくらい一日ラブラブなところを見せつけて諦めてもらおう作戦」略してSAM作戦とスバルが名付けたデートの日、待ち合わせ場所でスマホを眺めていれば聞き慣れた明るい声がオットーに届いて顔をあげる。
 
「お待たせ、待った?」
「5分くらいですかねえ」
「そういう時は『ううん、俺も今来たとこ』っていうんだよ! 鉄板だろーが! あと電車一本逃して遅れたのは本当にごめん!」
「いいですって気にしてませんよ。……あ、」
「ぅ、え」

 オットーの指先がスバルの頬をするりと撫でていく。
 そのいきなりの接触に驚いてスバルは息を詰めた。指先の温度もわからないほどの接触の後、オットーの手にはスバルが道中どこかでつけてきたのだろう葉っぱが乗っていた。

「気になってしまって。はい、取れましたよ」
「お、おん」
「なんですかその変な鳴き声。ショッピングモールはここから歩いて10分くらいみたいですよ」

 オットーは訝しげに眉を顰めたが気にしないことにしたらしく迷子の手を引くようにスバルの手を取って進み出した。それに再び焦ったのはスバルの方だ。

「えっちょ、」
「なんですか次は」
「おま、手」
……ああ、すみません」

 繋いでいた手のひらが離される。それにほっと息をつくと再びオットーの手がスバルの手のひらに触れた。

「え」

 迷子の手を引くそれとは違う。ぎゅう、と指先同士を絡ませて。手のひらと手のひらに隙間がないくらいに密着する。
 
 ――これは、そう。

「今日は恋人、ですもんね。失礼しました」

 恋人繋ぎに変えたオットーは悪戯げに微笑むと口をぱくぱくさせるスバルを現実に引き戻すかのように繋いだ手を引っぱって早足で歩き出した。
 
 そこからの擬似デートは驚くほど順調だったしスバルが思っていた以上にオットーが恋人のフリをするのにノリノリでかなり面食らってしまったところがある。
 
「ナツキさん、それ一口くださいよ」
「ん、いいよ……は?」
「あ、一口食べさせてください」

「これとかあんたに似合いそうじゃないですか?」
「そういうのはもっとおしゃれ上級者とかさぁ? あと服見るなら俺じゃなくてナツミとかでもってオットーさーん!?」
「はい、もう買っちゃったんで気に入らなかったら捨ててください。初デートのプレゼントです」
「お前これはプレゼントじゃなくて押し付けっていうんだぜ」

「あ、ナツキさん」
「なに?」
「はい、手」
………………ん」
「ふ、一日繋いでるんだからそろそろ慣れてくださいよ」
「慣れるよりか俺の左手が手汗でふやける方が早いとみた」

***
 
「ナツキさん、はいどうぞ」
 チェーン展開されているコーヒーショップ、席に座って待っていたスバルにオットーはフラペチーノを手渡した。本人が持っているのはアイスコーヒー、砂糖も入ってない苦いだけの飲み物の良さはスバルにはまだわからない。
 
「お前さ、気がついてるだろ」
「何にですか」

 フラペチーノを一口飲む。
 味なんてわかりはしなかった。
 
「ストーカーなんていないってこと」
……この場合、バレちゃいましたかってどっちの台詞になるんでしょうね?」
「さあ? ちなみにこれ、なんでわかったかとか聞いてもいいやつって思ったけど、まぁ、こんな目つきの悪い野郎にストーカーなんているはずないってちょっと考えたらわかるよな」
「いえナツキさんにストーカーの1人や2人いても疑いやしないんですけど」
「いやこええよ。いるわけないだろ」
……まあその話はおいおい。ストーカーなんて半永久的に付き纏ってくるようなやばいやつを1日で撃退できるわけがないでしょう? あとそういう被害にあんたがあっていたら多分僕の方が先に気がつきます。それが一つ」
「なんか後ろの方納得いかないけどあとは?」
「んー、僕の願望ですかねえ」
「は?」
「あんたが僕とデートがしたいって思ってくれていたのなら嬉しいなっていう願望ですよ」
 
 テーブルの上に置いてあるスバルの右手にオットーの左手が被さる。手の甲を爪で甘く引っ掻くようになぞり、そのままゆっくりと見せつけるように指を絡ませ、やわやわと何度も力を込められる。
 
 今日何度も覚えさせられた温度だ。
 
「ねえ、ナツキさん。あんたは今日のこれを思い出にしようとしていたみたいですけど本当にそれでいいんですか?」
「え……と?」
 
 目の前の男は青い瞳をゆるりと細めて笑いかける。

「僕との恋人関係、一日だけでよかったんですか?」 

「ぅ、ぇ、や、おれ、」

……ふ、ちょっといじめすぎちゃいましたかね。今のあんた湯気が出そうなくらい真っ赤ですよ」

 彼のいう通り、スバルの顔は目も当てられないくらいに真っ赤に染まっていることだろう。
 耳の奥ではごうごうと音がうるさい。
 心臓が血を送り込む音まで聞こえてきているような気がしてしまっている。
 熱を持ったスバルを冷ますようにオットーが自分のアイスコーヒーをスバルの頬に当てて笑いかける。

 それがなんだか悔しくてしかたがなくて、スバルはそのストローにがじりと噛み付くとじゅうと一息に吸えるだけ吸い上げてやったのだ。
 
 
 SAM(最後に諦めるための思い出作り)作戦失敗!