reirindou
2025-09-17 21:54:30
1842文字
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■の心■知らず

絵を描く玲と不器用な万作の過去話

人物紹介
竜胆 玲(リンドウ レイ)
冒険者。帝国から諸事情ありエオルゼアへ渡ってきた。
絵の才能がそれなりにあるが、あまり描きたがらない。

リテイナー(デルフィ・ムーン)
玲のリテイナーをしているうさお。女好きだが男でもいける。過去に色々あり逃亡、ひっそりとリテイナー業で稼ぎつつ生活している。

▲人物紹介ここまで


 ただ、気が向いただけのこと。

 そこに紙きれと筆記用具があったから、目の前の訓練の様子を描き写してみた。今は休憩時間だから、特に咎められることでもないだろう。

「それ、お前が描いたのか?」

 スケッチに終わりが見えてきた頃、頭上から声が聞こえてくる。共に訓練をしていたーー名前は何だったろうか。普段は番号で呼称されているため、あまり記憶にないーーミコッテ族の少年が話しかけてきた。彼はそのまま僕の隣に座り込み、興味があるのか覗き込むように僕の手元を眺めだす。

「絵の才能あんだなー。もっとよく見せてくれよ」
「構わない」

 差し出された手に紙切れを渡す。目をキラキラさせながら褒めちぎられるものだから、なんだか耳がぞわぞわする。こういう時、どういう顔をすれば良いのだろうか。

「俺たちいずれはどこかの小隊に所属して、拾ってもらった恩を返すんだ。けど」

もったいないよなぁ、と耳を下げ少年は呟いた。

「どうして?」
「どうしてって、そりゃあ……これだけ絵が上手いんだ。絵描きとか、もっと才能を生かせる職業だって選べるだろ」

 無理だ。親を失い、この軍に拾われ育てられることでしか生きられなかった。そもそも職の選択肢など、あるはずがない。
 少年は僕の言いたいことを察したのか、慌てて立ち上がる。用事を思い出したようでもあったし、この場の雰囲気に耐えられなくなったのかもしれない。

「ごめん、俺、飯当番だったわ……また後でな」

 返事はいらない、とでも言いたいように、そのまま彼は僕の目の前から素早く立ち去っていった。


 折角手を動かしたのだ。教育者でもある祖父に報告しておくべきだろう。そう考えたので、彼の手が空いていそうな時間を見計らい、自身が描いたものを見せることにした。
 祖父は僕から紙を受け取り、困惑した顔でこちらを見る。

「これは……?」
「僕が描いた」
「そうか、ああ……

 眉を下げ、言葉を押し込むように喉を詰まらせている。困らせてしまっただろうか。

「とても、上手く、描けていると思うぞ。ただ……

 また言葉に詰まる。祖父の次の言葉を待ち、複雑そうな彼の顔を見上げた。言葉を待つ圧に耐えられなくなったのか、意を決したように口を開く。

「これは、軍人には必要のないものだ」
……わかった」

 この時、僕は何と言って欲しかったのだろう。覚えているのは、何故か祖父の顔が見れずに地面を見ていたことだけだ。

「必要がないのであれば……もう、描かない」

 "これ"は、僕に必要なことではない。必要でないなら、しなくていい事だ。
 祖父から紙切れを返却され、それを握り締めた所で意識が浮上する。景色が白ばみ、僕はこれが自分自身の過去の記憶であるということを理解した。



「アンタ、何書いてんだ?」

 宿屋でベルを鳴らした後。リテイナーが訪問してくるまでの間に、机に飾られていた花瓶のスケッチをする。そのリテイナーが扉を開けた直後にそう聞いてきた。

「手を動かしていただけだ」

 手を止め男の方に身体を向ける。昔の夢を見た、というのは余計な情報だろう。そのまま近寄ってきたリテイナーは、目を細め品定めをするように眺めてくる。

「ふーん。普通に上手いじゃん。冒険者やめて絵描きにでもなったら?」

 アンタにそんな才能あったんだなー、とニヤニヤしながら男は話す。雇用主とリテイナーの関係に不必要な会話はいらない。呼び出した用件と今後について軽く伝え、帰るようにと指示を出す。

「えーこれで終わり?もっと話そうよ」
「用件は伝えた」
「せっかく雇用主サマの意外な一面を見られたんだし。もっと親密になれるかも、と期待したのになぁ」
「それは無駄だな、やめておけ」

 なかなか帰りたがらない面倒なリテイナーを追い返すように、出来る限り冷たい目と声で言葉を発する。

「期待をしなければ、相手に裏切られることもないだろう?」

 そう、これは学習したことなのだ。