reirindou
2025-09-17 21:01:58
2114文字
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とある軍事施設にて

幼少期の竜胆玲が人間を殺しかけた話

人物紹介
竜胆 万作(リンドウ マンサク)
玲の義祖父。ドマ侵攻後に徴兵されたアウラ・レンの帝国軍人。
アラミゴ侵攻時に玲の両親を殺害、残された玲を見つけ自分で育てることを決意。以後『孤児を軍人へ育て上げるプログラム』を計画・提案。数人の孤児を辺境の施設で教育している。

No.0(玲)
万作の計画が初めての試みだったため、プロトタイプとして0番が割り振られた。戦闘センスがあり要領も良いため、優秀な成績をあげている。感情の起伏があまりない。

▲人物紹介ここまで


 とある日の昼下がり。ーーこれから孫の対人訓練が始まる。
 『何故自分の孫が訓練など』と普通なら思われる疑問は置いておいて、だ。ここまで成育の課程がすんなりと進んだのはアイツの才によるものだろう。誇らしい気持ちと同時に、俺と同じ軍人になって欲しくはないなぁといった二律背反の気持ちにも襲われる。ただ、孫のように可愛がっているみなしごに、俺はこうしてやることしか出来なかったのだ。

「ではこれより、No.0とNo.4の対人訓練をはじめる。気を引き締めるように」

 同僚の凛とした声が訓練場で響く。通し番号で呼ばれた子供二人が、慣れた手つきで剣を握りしめた。

「いいか?訓練とはいえ実戦経験も兼ねているからな。殺すつもりでいけよ」
「殺してもいいの?」

 冗談のようにかけた言葉のあと、とっさに孫の声が上がった。翡翠のような曇りのない美しい目が、俺たちを見据えており、場の空気が一瞬凍りついたような気がする。

「い、いや。No.0、殺すのは駄目だ。あくまでも"つもり"だぞ」
……わかりました」

 尋常じゃない雰囲気に気圧されたのか、同僚の声が上擦る。素直に納得したようではあるが、このときの俺は背中に嫌なものがまとわりついたようなじっとりとした汗をかいていた。そもそも、剣といっても訓練用に刃を潰してある。そんなもので殺せるはずがないのだ。まあ、まだ年齢が二桁にもいかない幼子達だ。大人の冗談を真に受けただけなのかもしれない。

 ーーこのときに、適当な理由でも付けて訓練を中止にでもしておいた方が結果的に良かったのかもしれない。俺は後でそう後悔した。


 勝負自体は一瞬だった。紫衣シイの隙を一瞬でついたレイが背後に回り込み、そのままなまくらの剣に体重をかけ押し倒した。……子供に名前があったのかって?ああ、数字で呼ぶのは酷いだろうと思い、俺が勝手に当て字で呼んでいるだけだ。気にしないでくれ。
 訓練なので勝負がついた以上、もう何も子供達に望むことはなかったが、玲はそのまま紫衣へ対する攻撃をやめなかった。剣を両手に握りしめ、抵抗する紫衣の身体を何度も叩く。小さな空間に殴打の音だけが鳴り響き、程無くして紫衣の抵抗がなくなった。誰がどう見ても訓練にしてはやり過ぎだと口を揃え発言するだろう。

「No.0、決着はついた。お前の勝ちだ、No.4から離れることを命ずる」

 止まらない玲を見て、同僚が焦ったように中止命令をかける。玲の猛攻は、まだ止まらない。これは本気でマズイ。

「玲!!!!!」

 自分でも驚くほどの声量で孫の名前を呼んだ。ビリ、と空気が震えたあと、機械のようにピタリと静止した孫の顔が此方を向く。

「おじいちゃん、どうしたの」
「訓練は終わりだと言っておろう。紫衣から早く退いてやれ」
「まだ死なないよ」

 感情の籠っていない声。こいつは、本気だ。我が孫ながら恐ろしく感じたのを覚えている。組み敷かれている紫衣の身体のほうを見やると、人体の急所ーーいわゆる関節だーーが正確に打たれていた。所々血も滲んで鬱血している。玲は、本気で紫衣を殺す"つもり"だったのだろう。

「ッ……いや、これは"訓練"だ。訓練というものは、相手を殺さんでも良いのだ」
「そっか」

 納得したように玲が立ち上がった。その立ち振舞いは自分の意思ではない、『言われたからやった』のだというのがひしひしと伝わってきた。

「訓練なら、やりすぎちゃったかな」
「いいや……No.0、上出来だ。戦場の敵に対してやりすぎということはないからな。後のことは私が報こーー」
「いや、俺が報告しておこう。それよりも紫衣を医務室に連れていってやれ。年寄りよりは幾何か若いお前の方が体力もあるであろう」

 興奮したように上官への報告に向かおうとする同僚を制止する。大方、玲に兵器としての見込みがあると報告しようとしていたのだろう。そうさせるわけにはいかない。俺の孫は、あまりにも危険すぎる。理由をでっち上げ、自分が報告に行くと嘘をついた。

「そ、そうだな。それにしてもマンサク、こいつらに名前なんか付けてーー」
「良いじゃねえか俺の勝手だ。玲、おまえもついていってやれ」
「わかった」

 聞き分けがいいのは助かるが、あまりにも素直すぎる。紫衣を背負って医務室に向かう同僚と玲の姿が見えなくなったあと、俺は独りで頭を抱えた。アイツらに、俺の焦りが伝わってしまっただろうか。