いぬは
2025-09-17 00:45:30
4523文字
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燭火(途中)

フリファルないしキリルカです。
・(今はまだ)ないCPな自覚はあるので公式で絡んだら大幅修正して支部に上げるかのたうち回って消します。
・捏造しかないし通しで進めてから本編を読み返してないので齟齬や矛盾があると思います。脳内補完してやってください。

「ファルカさん、お隣に座ってもよろしいでしょうか?」
故郷の蒲公英酒が恋しくなりつつも、カウンター席で1人寂しくフラッグシップでちびちびと麦酒を飲んでいると後ろから顔見知りに声をかけられた。
いやまあ、正確に言えばわざと消したような足音には最初から気づいていたし、誰なのかもとっくに見当が付いていたのだが。そんな些細なことは別にどうでもいい。
連日の終わりの見えないワイルドハント退治や積み重なり続けた後処理にとうとう辟易し出して部下を手当たりなしに飲みの相手に誘って連れ出した結果、誰も彼もを酔いつぶしてしまい、ついには二日酔いで苦しむ頭を抑えた部下たちの誰からもNOを出されるハメになった北風騎士は僥倖だと内心密かに喜んだ。
「これはこれは、ナシャタウンで音に聞こえしチュードミロヴィッチ殿じゃないか。もちろん構わないぞ」
……フリンズでいいと以前言ったはずなのですが」
彼の少しばかり長くて噛みやすいミドルネームを揶揄ってみせたら、表情にこそ出ていないがあからさまにムッ、とした態度を見せてきて初々しい姿に思わず笑みが溢れる。
もう少し目の前の若者(仮)を揶揄っても自分としては別に構わないのだが、それで「もういいです」と、はいさよならなんてそっぽ向かれたら少しばかり悲しいためあっさりとジョークとして笑い飛ばすことにした。
「ハハッ、すまんすまん。冗談だよ」
目の前に居る表面上は愛想のいい好青年……キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズがなぜ自分と相席しようとしてるのはこの際どうでもいい。
さもしいおっさんが1人寂しくちびちび飲んでいる姿が哀れに映ったからでも、本当に席が無かったから色々と後腐れのなさそうな最近知り合った提携相手を頼ったのでも別に構わない。
ファルカにとって重要なのはそのような些細なことなどではなく、誰かと飲み交わしたいというそれこそ対話に飢えた寂しい人間としての基本的欲求のみだからだ。
ありがとうございます、といそいそと隣の席に座るキリルの持っているグラスの中身を覗き見て少しばかり予想外だとファルカは目を瞬いた。
「君、意外と見た目に反して強い酒を飲むんだな」
「えぇ、こうでもしないと酔えませんから」
それはまた、随分と悲しい体質なんだな。
余程、それこそ溺れるほど飲まなければ現実を忘れられないのだから。








「酔えないんじゃなかったのか?」
……あなたを酔い潰せる人なんてこのテイワットをひっくり返しても中々居ませんよ」
恨めしそうな顔でこちらをジトっと見てくる多少血行のよくなったように見えるくたびれてこそ見えるものの端正な顔を肴にして酒を飲む。
そりゃアラサーになってからは誰かに己の武勇伝を聞いてもらうのも好きだが、対話によって相手が知らない一面を覗かせるような腹の探り合いもそれはそれで好ましいと思っている。
そうでもないよ、最近だとナタに用事がてら寄って炎神様と飲んだ日は二日酔いが特に酷かった。なんて失敗談も適度に交えておこう。
「へぇ、ナタに寄ったんですね。どんな場所でしたか?」
「いいところだったよ。みんな親切だし、子竜が愛らしいし、そして何より酒が非常に美味い」
若干、注意しなくても違和感を持つくらいには呂律の回らなくなってきた彼の様子に、経験上そろそろ寝落ちするか否かの瀬戸際なんだろうなと見当をつけまとめて支払う準備を進める。
「船で渡ればすぐなんだから君も機会があれば行ったらどうだ?それこそ旅行がてら」
「いえ……僕は。……どこにも行けませんから」
何も、言葉通りの意味ではないことくらいは俺にも分かる。
どこにも行けないのでは無く、どこにも行く気が起きないだけなのだろう。
目の前の背丈こそ高いが筋肉のついていない薄い身体で突っ伏している青年を縛り付けているものといえばそう、例えばライトキーパーという役職。例えばあの寂しい孤島での墓守りという責務。例えば休息を取るのも躊躇してしまいそうな生真面目な性格。
そういったものが己をナド・クライに縛り付けていると思い込んでいるからこそ、一歩を踏み出せないのではなかろうか。
会話がぷつり、と途切れたことに疑問を持った彼が自分の言った言葉を咀嚼しなおしてやっと、己の柔い弱点をバラすような失言に気づいたようだった。
「失言でしたね、すみません」
「構わないよ、初めて君の人間らしいところを垣間見た気がする」
「僕は僕自身のことを常々非人間だと思っているのですが、人間らしいという形容は初めてです」
部下の。上司の。知人の。
はたまた見知らぬ隣人たちにも平等に訪れるあっけのない死に、慣れることなくいつも心を痛めているような人が非人間なんて口にするものではないよ。
なんて一個人としての胸の内を、あくまで仕事が一致して一時的に協力しているだけの組織のトップの男に言われても気色悪いだろうなぁ、とは思いつつも流石に看過できずに嗜めることにした。
受け止めてくれたのなら今後は飲み友達になってくれればいいし、受け止められないのなら今後もビジネスパートナーでいい。
ただ己の正義感が、自嘲気味に笑っている彼を見過ごすことができなかっただけだ。
まあ、といっても己も大概気持ちよい具合に出来上がってはいるし、隣の今にも瞼が閉じそうな彼が自分の諭した言葉を心の奥底でずっと反芻しているなどとは万に一つも思っていなかったのだが。
「まだ飲むか?」
……お冷なら飲めます」
「マスター、お勘定!」
おうおう、ライトキーパーの兄ちゃんを連れ込むとは自由の国のお堅い騎士様も風上にも置けねえなぁ!なんて飲んだくれの下世話な野次を軽く笑い飛ばしつつ今日は終いだと告げると、「相変わらずいい飲みっぷりですね。明日は店を閉めるので休肝日にしてみてはいかがですか?」と人の良さそうなバーテンダーににこやかに言われ「なら他の店と飲み比べてみるさ」とのらりくらりと交わしてみせた。
酒を飲まないモンド人なんてそれこそ居ないだろうよ。
正確には幼い頃から見知っている知己の青年が1人居るけども、あれはむしろ外れ値だろう。
というか俺が居ない間にちゃんと仲直りしたのかなあいつら。
「立てるか?」
「力が入りません」
なんて予想通りのことを言われ、しょうがないなと肩を貸してやる。
いやまあ形式的に苦言を呈しただけでその実ちっとも気にしてはいないのだけれど。
「明日がダメなら明後日にでも顔を見せに来るさ」
「定休日がなければ年中無休で通うつもりなんですか?」
ハッハッハ、と何が面白いのか分からないまま(いやまあ、酔っ払ったら何を喋っても面白いのは事実ではあるが)ドッと湧いた酒場を名残惜しげにしつつも後にした。
カランカラン、と古いベルが奏でる不協和音をサウンドに立て付けのいまいち悪い金属製のドアを閉じると空冷えした空気に思わずはぁ、と息を吐きかけてみる。
雪国の辺境にある自治区とはいえ、まだまだ本場の冬には遠い故に白い吐息は出ないようで少しばかり残念に思った。
「歩けるか?」
「歩けます」
「帰れるか?」
「放っておいてください」
僕にツケてそのまま出て行っても構わなかったのに、とボソッと聞き捨てならない言葉が聞こえてきてそれには反論することにした。
「今夜はよく冷えるからね、放ってはおけないさ」
……お優しい方だ」
正直なところ、そう己が評されるたびに少しばかり困ってしまう。
皆に尊敬されるほど自身は策略知らずの気前のいい好漢ではないし、皆に羨ましがられるような自由な存在でもないからだ。
「その優しさは、時に盤上において不利になりますよ」
なんて、「放っておいてくれ」「突き放してくれ」「紳士を取り繕えていない情けない自分を見ないでくれ」と暗に言っておきながらも、肩を貸されたままよたよたと覚束無い足取りで寄るべなさそうについてくる彼を連れ帰ることにした判断は我ながらやはり間違っていないと思う。
困っている人が居たら手を差し伸べてしまうし、迷子の子供のような目で見られたらついつい連れ帰ってしまう。
こと、ナド・クライという帰る場所のない者たちの寄せ集めである土地ではこのような性格は悪癖と言っても差し支えがないのだろう。
これはいつもの悪い癖が出ちゃったやつだな、とついつい自嘲気味に笑いが込み上げてきてしまった。
「歩けないならおぶってやろうか?」
「それは……。ふふ、流石に恥ずかしいので遠慮しておきます」
首元でくふ、と笑われくすぐったくてこちらも思わず笑いが込み上げそうになって流石に我慢をする。
「ファルカさんは温かいですね」
鍛えているからだろうな、とあっけらかんとにこやかに答えようとしたら「生きているという実感が……湧きます……」と遮られて言葉を思わず無くしてしまう。
たった1人でずっと墓守りをしているこの青年の孤独はいかようなものなのだろうか。己には理解できないし出来れば今後もそのような機会がなければ嬉しい。
そも、彼が対して仲良くない俺の隣に消去法で座ってきたのも最初からそういう目的なのではなかろうか。
死人との自問自答がいい加減つらくて、寒々しい静寂に耐えきれなくて。1人じゃさみしくて。
いい加減生きた他者との交流がしたくて。
だからほら、人の多い町にわざわざ降りてきて人の多そうな酒場に逃げ込んだ、そういう経緯なのではなかろうか。
もちろん全てがファルカの推測であるし、答え合わせをしようともしていない純度100の妄想ではあるが。
自身の襟足に顔を押し付けてスンスンと犬のように嗅いでいる姿を見るとあながち間違いでもないのだろうなと少しばかり切なくなった。
自分はこういう孤独に苛まれている子にはめっぽう弱く、寄り添って世話を焼いてやりたいやりたいタチなのだ。
『ねえファルカ。犬猫みたいに人間をばかすか考え無しに拾ってたら、いつかそのまま喰われてしまうわよ』
なんて、エンジェルズシェアでいけしゃあしゃあと飲み代をたかってきた敬虔のケの字もないような生臭シスターな養女……、ロサリアに氷点下のごとき瞳で見つめられながら言われたことも中々どうして記憶に新しい。
その時はなんと返したか。あぁ、そうだ。
「ハハッ。俺も反抗期の娘を持つ歳になったとは感慨深いな」なんて、心当たり自体は多分にあったから笑って誤魔化してスネを思い切り蹴られたんだったか。うん。
ついつい感傷深くなってしまうのは歳のせいなのだろうか。
だとしたら少々時の流れにへこんでしまう。いやまあ気持ちは現役なのだが。
故郷の温かな風も恋しいし、そろそろアイツらにも会いたい。
土産だってそろそろ抱えきれないくらいには買ったし、俺が居ない時にどんなことがあったのかも酒を交えて聞きたい。
そうこうくだらない願望へ想いを馳せながら、ファルカは生まれ育った故郷とはまた違った肌寒い風にぶるりと身体を震わせながら、少しばかり重い年齢不詳の住居不詳な成人男性へ肩を貸してやりつつ宿泊しているホテルへの帰途についたのであった。