バラ肉
2025-09-16 22:45:24
5974文字
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いたいけな若奥様

【登場人物】

アリスちゃん:マリキータマンのお嫁さん兼当主。私服は旦那さんが正座で差し出したVネックセーターとパツパツGパン。今回は黒肌。

モブ男:地球からの移住者第7陣。アリスちゃんの隠れファン

マリキータマン:アリスちゃんの旦那さん。セコム

ヘイルマン・ギヤマス:復活したら子供だったため、元六そーかくとして、その代替わりを企てる奴らから保護してもらう名目でアリスちゃん夫婦と同居している。(ルナはパイおじのところでお世話になってる)

【僕がエッチな若妻当主様に慰められた話】



それはよく晴れた日のことだった。

麗らかな昼下がり、レースカーテン越しに暖かい日差しを受けたリビングで、一人の青年が大型のソファに座っていた。膝の上で硬く握られた両手とは裏腹に、キョロキョロと動く目はどこか居心地悪そうだ。センスの良い調度品の中に見える子供の書いた絵や並んだ写真立ては、ここが一家の団欒の場である証拠に違いない。

招かれざる客――頭にそんな言葉が浮かぶ。きゅっと引き締まった口元は戸惑いの色を滲ませていた。

しかし本人の思いはどうあれ、彼は立派な客人だった。

「まだ痛むだろう? 少し休んでいってくれ」

現に今も、家の住人であるオメガマン・アリステラの手によって、見るからに高そうなティーカップがカチャッと微かな音とともに出される。
ソーサーも含め、白磁に繊細な模様が描かれたそれは、目利きの兄弟が偵察先で土産としてくれた自慢のティーセットの一つだ。もちろん中で揺らめく紅茶も厳選品で、本人曰く産地からしてこだわっている代物らしい。

『俺とのお茶会以外では使っちゃダメだよ!』

そう常日頃注意されているような上等の品々を、罪悪感からか惜しみなく出しながら、アリステラはソファに浅く腰掛ける相手を見つめた。

……その、うちの子がすまなかった」

掠れた声が語るのは、今日何度目になるか分からない謝罪だ。相手の額に貼られた大きなガーゼを見る目は、いかにも痛々しそうに細められている。大きな体をしょんぼりと小さくする姿は、庇護欲すら感じさせるほどだ。

「いやいや! ぼ、僕の方こそ……注意が足りなかっただけなので!」

慌てて首を振る名もなき青年は、必死で落ち込む相手をフォローする。確かにまだ痛みはあるものの、ここまで申し訳なさそうにされては堪らないのだろう。この星では知らぬ者のいない、麗しき若き当主がうなだれる姿に、内心タジタジだった。今までも遠目で見ることはあったものの、こうも間近で見るとまた一味違う迫力に冷や汗が浮かぶ。焦る気持ちと比例して強張る体は、優しくされればされるほど強くなった。

そもそも絡む可能性なんて万分の一もなかった二人が、どうしてアリステラの家で顔を突き合わせているのか。発端は半時間ほど前まで遡る。

***

アリステラは夕飯の買い物に向かうがてら、小さくなったヘイルマンを彼行きつけのスケートリングへと送っていた。
――その道中でのことだった。

「そういやよー、この前ギヤマスターが『犬のおまわりさん』って曲を歌ってたんだけど……あれって変だよな? 迷子の猫が鳴くのは分かる。道が分からなくて怖いもんなー。……けどよ、だからってなんでおまわりまで困ってワンワン鳴くんだよ? それで解決するのか!? 身もふたもねえじゃねえか! 鳴いてねえで仕事しろよっつーの!」

ガッ!

「あ、こら!」

変なところで細かい性格が祟ってか。小さいせいでキレやすくなったヘイルマンは、なんとその場に落ちていた石ころを蹴り上げるではないか。
また、子供の体になったとはいえ、さすがは元六そーかく。
小さな足からは想像できない脚力で蹴られた石は、見事な放物線を描き――

ヒュルル~~~ガツンッ!

「いったー!?!?」

「「!?」」

不幸にも通行人の頭にぶつかってしまったのである。しかも当たりどころも悪かったのだろう。タラッと額から垂れた血を見た一同は息を呑んだ。

「ひー! ち、血が出てるー!」

「ハッ、なんだよ。地球から来てる奴か? たかが額を切ったぐらいで、全く弱っちい連中だ」

「こら、ヘイルマン! せっかくの移住者になんてことを! す、すまない! とりあえず手当てするからうちに来てくれ。ヘイルマンはこのままリンクに行くんだぞ! 帰ってきてからちゃんと反省を聞くからな!」

鼻で笑うヘイルマンを謝らせるのは時間がかかると踏んだのか、アリステラは優先すべきは怪我人の治療と判断した。反省は後からでも良い――そう決めてヘイルマンに習い事へ行くよう指示すると、慌ててこの不幸な地球人を連れ帰ったのだった。

***

そうこうして簡単な手当てを施したアリステラは、お詫び代わりに出した紅茶の横に、さらにパイレートマンお手製のティラミスを並べた。

……こんな物しかないが、良かったら食べてくれ」

底に敷いたサヴォイアルディから手作りしてあるそれは、最近菓子作りに目覚めたパイレートマン自慢の一品である。
ココアパウダーの上に乗せた自家栽培のミントで見目も整えた姿は、本の中から飛び出したかのような出来栄えだ。
たまたま差し入れで貰った物だが、謝罪として振る舞うにはちょうど良かった。

「ええ! そんな……すごく美味しそうです! こっちこそ、気を遣わせてすみません……

当の青年も、本格的なティラミスに無意識に喉を鳴らした。久しぶりに見る地球のスイーツは、誰が作ったかは関係なく、きっとキラキラしたご馳走として目に映っているのだろう。

とはいえお詫びと言われてしまうと、手放しに喜ぶわけにもいかない。
両手を顔の前で振って恐縮する謙虚な態度は、頼りない見た目の割にしっかりしている。
だからか、キン肉マンとの一件以降地球人に好意的なアリステラが、微笑ましげに口元を緩ませたのも仕方ないだろう。
オメガの民は戦闘民族ゆえに、「慎ましさ」や「遠慮」という感覚が非常に薄い。
よって目の前で頬を染めて小さくなる人間の青年の反応は、彼にはひどく新鮮なものとして映ったのだった。

……気にしないで食べてくれ。俺からの気持ちだ」
「は、はい……

トレーを胸に抱き、ローテーブルのそばに膝立ちになると、アリステラは改めて『オメガではあり得ないな』としみじみ思うのだった。



一方で青年は、その巨体を縮めて見上げる姿にますます顔が熱くなった。チラリと視線をアリステラに向ければ、食欲とは関係なく唾が口内に溜まる。

……やっぱり、噂通りすごいな)

戸惑う目は、すぐそばにあるトレーを抱えた胸元に釘付けだった。

普段の高質なコスチュームとは違い、今のアリステラの服装はやけにラフだ。きっと相方の趣味に違いない。
大きく開いたVネックのニットから覗く胸筋は、腕をクロスしているせいで余計に強調されている。照明に照らされた漆黒の肌と筋肉の膨らみは女性顔負けの豊かさだ。またオメガハンドが添う背中のラインは、しゃがんだことで淫靡なS字を描いている。そこから続く、はち切れそうな臀部と太ももは、わざとのようにピッチリとしたタイトなGパンに包まれている。

……『以前からスケベだったが、ご結婚されて若奥様になったご当主のエロさときたら! まさに至宝! 生きる糧! 人生の極楽! 天上天下の幼妻!』って、先に移住してた○○くんから聞いてたけど……まさかここまでなんて)

若妻アリステラの噂を聞いたのは、現在のバイト先リーダーの○○さんからだった。
地球に降り立った当初から何かとオメガ贔屓の男は、その果てしない推し心により地球からの移住者第一陣にも選ばれた猛者だ。
色々愛が溢れたせいで、留置場の常連だとかなんとか。まさに地球の恥さらしである。
ただその熱量は凄まじく、ためになる裏情報からゲスい情報まで運んでくれるから、気軽に付き合いを切れない仲である。

(それにしても、なんていう展開だよ)

当時は『自分には関係ないから』と一笑した対象が、今こうして目の前にある。まさに運命のいたずらとしか言うようがない。

改めて見下ろした先にある肉欲的な体に、股間が妙に疼く。喉を上下するのと同時に、知らずに内股を擦り合わせしまう。迫り上がる欲望に心臓がドキドキ鳴ってうるさい。

もしこのまま、そのたわわな胸に触ったら、どんなに心地良いだろう。

……う、うう」

咄嗟の妄想におかしな呻き声が漏れる。

「ん? どうかしたか?」

(はっ!)

「いえ、なんでもないです!」

しかしこのまま見つめ続けるわけにもいかない。
案の定、不思議そうに頭を傾げるアリステラに、青年は誤魔化すようにティーカップへ手を伸ばした。

(とりあえずお茶でも飲んで落ち着こう!)

そう思い取っ手に指を引っ掛けようとしたのだが、彼は自分が思っていた以上に緊張していたらしく。

ガチャッ

「ああっ!?」

触れようとした瞬間。
思ったよりも震えていた指が、誤ってカップの側面を思い切り打ってしまったのだ。しかも安定を失ったカップは狙ったようにその股間へと落ちた。もちろん中身も一緒に。

「わ!」

「だ、大丈夫か!?」

温くなっていたのが不幸中の幸いだろうか。それでも急に暖かい液体を浴びた感覚に、哀れな青年は思わず固まってしまった。
かかった場所も、よりによっての位置だ。もし下手に動いてソファに垂れれば、さらに被害が大きくなる。おかげで、冷静になればなるほど身動きが取れない。それはアリステラにも伝わったに違いない。

「ちょっと我慢してくれ……!」

急いでテーブルに置いていた台拭きを取った彼は、相手の足を勝手に開くと、迷うことなくその前に跪き股間へと布を当てた。

「な!?」

ポンポンと湿り気を移そうと叩く感触はもとより、自分の股間を目の前にして真剣に見つめる姿に、全身の血が沸き上がる。

大きく開いた襟から思い切り覗く谷間と、チラリと覗く乳首。合わせてハンドの隙間から見える首筋は悩ましく、かつマスクマンとしてのストイックな風貌が、単なる応急処置という現実を危うくさせる。

……いっそこのまま、その口で綺麗にしてくれたらいいのに)

腹立たしいまでに破廉恥な体をした若奥さんが、自分の濡れたジーンズ生地に顔を押し付ける光景が頭に過ぎる。

その刹那、彼は自分の股間が強く疼いたのを感じた。急速に体の中心に熱が集まる。

……っ!?」
「あっ、み、見ないでください!」

自身の変化に思わず叫ぶ。眼下で揺れる瞳の理由は確認するまでもなかった。

ジーンズ越しでも分かるほど隆起した己の股間に、若い男は恥ずかしさの余り顔を両手で塞いだ。

(そんなつもりはなかったのに……!)

今更ながらの言い訳が心の中で悲痛に響く。あくまでも妄想のはずだったのに……! 誤魔化しが効かない場面でいきり立つ息子の素直さが憎らしくて仕方ない。こんな浅ましい欲望をまざまざと見せつけられては、さすがにこの寛大な当主も呆れただろう。

……すみません」

今までの優しさとは打って変わって、どんな罵りを受けるか分からない恐怖に身構える。

……っ」

……

……ん?」

しかし、いくら待っても罵声も非難も聞こえない。

むしろスリ……っと服越しに勃起したペニスを撫でる感覚に体が跳ねる。

「え、な!」

思わず下腹部を見れば、そこには嫌な顔どころか恥ずかしそうに目線を逸らすアリステラの顔があった。

……ここもこんなに腫らして……。こっちも治療した方がいいな?」

震える人差し指が、もっこりと膨らんだ輪郭をなぞる。

「え、ちょ……ああ!?」

「フォッ! なんだ……見かけによらず、意外と立派だな……

あまつさえ、そんないやらしい言葉を聞くことになるとは! 信じられない思いの青年とは裏腹に、心なし赤くなった目元は想像以上の逸物に戸惑っているようだ。

可愛いヘイルマンを叱らなかった、心優しい地球の若者の心根に報いたい。その一心のアリステラは、これもまた彼の痛みを労わる手段の一環だとでも思ったに違いない。

他意はない。天然だ。

(これは治療の一種に過ぎない……

そもそも夫となったマリキータマンにより植え付けられたアリステラの性知識は歪んでいる。

『勃起したペニスは恥ずかしがり屋なんだ。だから見かけたら心から相手をしてくれ』

なんて勝手な主張を、真っ赤な顔をしたアリステラがウンウンと聞いたのは最近の話だ。そしてそんなとんでもない教えを忠実に守っていることを知っているのは、言い出しっぺのマリキータのみだ。

故に――

「ちゃんと、治そうな?」

戸惑いを抱きつつも、彼は相手の股間のすぐ近くで頭を傾げた。『真面目すぎて本気で危ない』と弟に心配される無防備さは、まさに天然記念物級ゆえに。あくまでもお詫びだと思っての行為が、どれほどの破壊力か知らぬばかりに。

置かれた状況に卒倒しそうになった青年は、カチャカチャ鳴り出したバックルの音を止めることはできなかった。興奮はもちろん――彼は物理的に指一本すら動かすことができなかった。

なぜなら――

――アリステラに醜い物を見せるとは、死ね」

グギッ。

頼りになるセコムこと、マリキータマンがこんな展開を許すわけがないのだ。

「あ、マリキータ。って、おい、その子をどこに……!?」

「キャミキャミ。愚息(ヘイルマン)の償いをするのに当主であるお前の手を借りるなんて、そんなことはさせられない。父親役の俺に任せておけ……!」

首を絞められて泡を吹く青年を担いだマリキータは、慌てるアリステラに対しグッと親指を立てた。

「なっ……! というか、お前が父親役なのか……?」

敢えて”父親役”と明言する男に、アリステラは反射的にその場に立ち上がった。そして恥ずかしさを誤魔化すために、急いで背を向ける。

「なら、俺が母親になるじゃないか……

小さな呟きは、今更ながらとはいえ突き付けられた自分たちの役割に照れがあるのだろう。

「全く、お前という奴は」

ブツブツとぼやく姿からして、もはや青年のことなどもうすっかり蚊帳の外だ。もちろんそれはマリキータの策略に他ならず。

「キャミ……そういうわけで、この男は俺が礼をさせてもらうぞ。アリステラはゆっくり休んでくれ」

「フォッ!? あ、ちょ、マリキータマン!」

勝手に言い捨てると、窓から颯爽と出ていく番組はあまりに早急で。

「あー……もう行ってしまったのか」

止める間もなく去っていった二人に、残されたアリステラはしばし呆然とした後。

「一人だけど、とりあえず飲むか」

冷めた紅茶を啜りながら、クッションに座り直すのだった。








その日の夕方。

『アリステラに欲情を抱く輩は、この俺が見過ごさない』

そんな文句とともにマリキータマンが仁王立ちする啓発ポスターが掲げられたオメガ留置場に、新たな容疑者が放り込まれたのは言うまでもないだろう。