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花月ゆき
Public
ゆる赤安ドロライ
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第17回お題「天体観測」
恋人同士になったばかりの赤安。真夏の山で車がエンストしてしまい…
※捏造多いです
現場の後処理もほぼ終わり、ひとけも少なくなった爆発現場で、赤井は降谷の右手に手を伸ばした。
降谷とは交際をはじめてまだ間もなく、恋人同士らしいスキンシップもまだほとんどない。そこで赤井は、まず手を繋いでみようと思ったのだ。ロケーションはけっして良いものとはいえないが、疲れた顔をして虚空を見つめる降谷を、こちらに振り向かせたい意図もあった。しかし、赤井が伸ばした手は宙に浮いたまま、降谷の手に届くことはなかった。降谷がすっと自分から距離を取ったからだ。
降谷は小さな声で言った。
「誰かに見られてしまうかもしれませんから
……
」
自分たちの関係は、公安の上層部に報告済みだと聞いている。しかし、日本の警察組織の中では、自分たちのような関係は特異なものとして見られてしまう可能性がある。そのことを彼は危惧しているのだろう。「了解」と一言だけ告げて、赤井は一歩だけ身を引き、降谷からそっと距離を置いた。
その日から一週間。降谷との距離の縮め方を、赤井は考えあぐねていた。
降谷自身も気がかりなことがあるようで、自分と隣り合って立つときは、じりじりと控えめな靴底の音を立てて、近づいたり離れたりしていた。
その最中に訪れた東北地方の山の中で、赤井と降谷は小さなトラブルに見舞われた。
組織の人間が武器を運んでいるとされている倉庫を捜索したその帰り道、乗って来た車がエンストし帰るための足がなくなってしまったのだ。
不運なことにスマホの電波が入らない場所であったため、やすやすと仲間に連絡をすることもできない。緊急信号を発出するほどのトラブルでもなく、幸いGPSで自分たちの居場所は特定できるため、オフラインでも使える地図アプリを開き、経路を確かめることはできた。あとは、電波が入る場所まで歩き、そこで仲間と連絡を取り合えばいい。しかし、そこまで辿り着くのにはだいぶ時間がかかる。
昼過ぎに倉庫を出たが、外はもうすっかり暗くなってしまっていた。
真冬であれば寒さで凍えるリスクもあるが、今は真夏である。水分補給にさえ気をつけていれば、陽の落ちた山で体調を壊すリスクはほぼない。あとは熊などの野生動物や夏場特有の害虫にさえ気をつけていれば、どうとでもなる。
ふと、降谷が頭上を見上げて立ち止まった。何かを見つけたのだろうか。
「どうした?」
「見てください、北極星です」
降谷が指差す方角へ、赤井は目を向ける。
北極星は、カシオペア座と北斗七星の間にある、真北を示す星だ。
「ホォー随分とはっきり見えるものなんだな」
「月灯りくらいしかないですからね。GPSも夜明けまで使わなくてもいいかもしれません。星がこれだけ見えるなら、方角はそれでわかりますし
……
」
降谷は、「スマホのバッテリーも温存しておきたいですしね」と言いながら、スマホの電源を落としジーンズのポケットへ入れた。
「そうだな」
赤井も降谷と同じようにスマホの電源を落とし、スラックスのポケットへ入れた。
降谷はまるで子どものように目を輝かせて、星を追うように目を泳がせながら歩いている。足元をまったく見ていないが、器用に障害物を避けながら歩いていた。
月が薄い雲の後ろに隠れる。降谷は空から地上に視線を戻して言った。
「
……
赤井、ひとつお願いがあるんですが」
「なんだ?」
「手を、繋いでくれませんか?」
降谷のお願いに、赤井は驚いた。
「
……
いいのか?」
「ここには誰もいませんから
……
」
降谷は地面へと視線を落とす。暗くてよく見えないが、顔が少し赤らんでいるような気がした。
「もちろんだよ、降谷君」
赤井は左手で降谷の右手に触れた。指と指を絡め合うように手を握ると、「えっ」と降谷が小さく声を上げて立ち止まる。まさか、握手するように手を繋ぐだけだと思っていたのだろうか。赤井はそっと降谷の手を引いて、再びふたりで歩きはじめた。
自分より少し遅れて歩く降谷に合わせて速度を落とすと、降谷がさらに速度を落とす。どうやら並んで歩くのが恥ずかしいらしい。赤井は少しだけ強く降谷の手を引いて、自分の隣に引き寄せた。
しばらく静かな時間が流れた。さらさらと木の葉が風に揺れる音に、自分たちの足音が混じり合う。降谷の手をさらに強く握り締めると、彼は少し戸惑いながらも握り返してくれた。しだいに歩調が合いはじめた足音に、赤井は静かに微笑む。
雲に隠れていた月が再び姿を現す頃。ふと、降谷が歩みを止めて口を開いた。
「この間は、ごめんなさい」
「ん?」
「あなたの手から逃げるようなマネをしてしまって」
降谷が一週間前のことに触れているのはすぐにわかった。「本当は僕も繋ぎたかったんですけど
……
」と降谷が小さく呟くのが聞こえて、愛しさが募る。
「いや、君が謝ることはない。周囲を気にかけていなかった俺に否がある」
降谷は、「そんなことはありません!」と強い口調で言った。周囲が静かなので、降谷の声はよく響く。思ったより大きく響いたことに驚いたのだろう、降谷は我に返ったように目を見開いて、今度は小さな声で続けた。
「あともう少しだけ時間をください。周囲の人たちにも、あなたとの関係をきちんとした形で報告したいんです」
公安の上層部に対しては報告義務があるため、嘘をつくことはできない。だが、なんの報告義務もない周囲の人間に対しては、降谷は自分との関係を“友人”として押し通すつもりなのではないかと赤井は思っていた。スキンシップが少々過剰になっても“親友だから”と言い訳することもできるからだ。
しかし、降谷は自分のことを、交際相手として周囲にも報告しようと考えていたのだ。赤井は嬉しさで胸が満たされてゆくのを感じた。
「君の心の準備ができるまで、いくらでも待つよ」
赤井がそう告げると、降谷は緊張していた表情をやわらげて、こくりと頷いた。
再びふたりで歩きはじめてすぐ、頭上にきらりと光るものが一瞬だけ現れた。降谷が空を指差して声を上げる。
「流れ星! 見えましたか?」
「ああ。この時期だと、ペルセウス座流星群だろうな」
「ええ。一時はどうなるかと思いましたが、北極星が見えるから道に迷うこともないですし、夜明けまではこの流星群に楽しませてもらえそうですし、今回は場所に恵まれましたね」
「ああ、そうだな」
繋いだ手の温もりに心を満たされながら、赤井は頷いた。
車がエンストするというトラブルはあったが、こうして星空の下でふたりきりでいられるのは、幸せなことである。
「
……
僕ひとりじゃ、天体を楽しむ余裕もなかったかもしれない。あなたが一緒にいてくれて、本当によかった」
降谷がぴたりと自分の腕に抱きついてきた。どくりと胸が脈打つ。赤井は降谷の顎にそっと指を添えて、引き寄せた。
天体ショーはまだまだ続く。自分たちの頭上を、ひとつ、またひとつと、流星が駆け巡っていった。
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