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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第15回お題「イタズラ」
幼児化したれいくん(大人の頃の記憶なし)と同居するあかいさん。ある日、れいくんは部屋の壁にイタズラ書きをしはじめて…
元々赤安は恋人同士で同棲中。捏造多々あります。
降谷と同棲している家で、幼児化した零と一緒に暮らすようになってから二ヶ月が経つ頃。
コナンと同じ小学校に通っている零は、まるで普通の小学生のように、学校生活を送っていた。学校では友達も多くできているようで、学校が終わると友達と遊んで帰って来ることもしばしばある。
一ヶ月ほど前、小学校の遠足でも楽しい思い出ができたようで、遠足の日のことを零はよく話してくれた。
その遠足のあとからだろうか。零の様子に、わずかな変化が見え始めた。その変化がはっきりと赤井の目に映ったのは、つい最近のことだ。
零は自室の壁にクレヨンで絵を描き始めていた。零がこんなイタズラ書きをするとは信じられず、赤井は叱るべきかどうか悩んだ。本来ならば、子どもが家の床や壁など描いてはならない場所に描いた場合、保護者は叱るべきなのだろう。
ところが、零の姿を見ていると、赤井は叱る気持ちにはなれなかった。必死に、何かに突き動かされるように絵を描いていたからだ。何か理由があるのかもしれない。そう思い、赤井は零の行動をしばらく静観することにした。
毎日、零は壁に絵を描き続けていた。何を描いているのかは、こちらからはまったく見えない。
いったい何を描き続けているのだろう。零の部屋に温かいココアを持って行くついでに、赤井は零の部屋に入り、何を描いているのかを確かめようとした。しかし、赤井が部屋に入るなり、零は両手を大きく広げてその絵を隠した。
「見ちゃだめ!」
零が焦ったように大きな声を上げる。どうやら、誰にも見られたくないもののようだ。
零の真剣な表情と、絵を必死に隠そうとする仕草が、それを物語っている。
赤井は学習机の上にココアを置いて、一歩下がった。
「完成したら、見せてくれるのかな?」
そう問いかけると、零はうーんと悩みはじめた。あまり
他人
ひと
に見せたくないものなのだろうか。なかなか零の心は決まらないようだ。根気強く待っていると、ようやく零が声を上げる。
「
……
うん、いいよ!」
子どもらしい元気な声に、思わず笑みをこぼす。
完成を楽しみにしている、そう告げようとして、零にきかなければならないことがあったのを赤井は思い出した。
「ところでひとつ、君にききたいことがある」
「ききたいこと?」
「どうして、そこにあるスケッチブックではなく、壁に絵を描いているのかな」
机の上のスケッチブックへ目を向けながら、問いかける。零はハッとした表情を浮かべたあと、弱々しく俯いた。
「ごめんなさい。スケッチブックは小さすぎて
……
壁なら全部描けるかなって
……
」
零は家の壁に絵を描いてはならないことをきちんと理解していた。そのうえで、どうしても描きたいものがあったのだろう。
零が壁まで使って描きたいと思っている絵だ。きっと何か特別な意味があるに違いない。
「わかった。好きなだけ描くといい」
「ありがとう! あかい!」
自分に叱られると思っていたのだろうか。どこか安堵したような表情で、零が自分の足に抱きついてきた。まあるい金色の頭を撫でながら、「完成を楽しみにしているよ」そう告げると、零は目をきらきらと輝かせて、「うんっ」と頷いた。
一週間ほど経った、とある日。
赤井は小さな手に手を引かれて、零の部屋へと入った。未完成の絵を見ないよう、零の部屋にはあれから一度も入っていなかった。
零が眠っている時間や学校に行っている時間など、見ようと思えばいつでも見ることができる状況ではあった。しかし、赤井は零との約束を守ることを第一に考えた。
彼が子どもであっても、裏切るようなマネはしたくなかったのだ。
「もう見てもいいのかな」
「いいよ!」
絵を見る前にもう一度確認すると、零から元気な返事が返ってくる。
いったいどんな絵を描いていたのか。幾ばくかの緊張を覚えながら、赤井は零の小さな手を握り締めて、壁へと目をやった。
「これは
……
」
壁に描かれていたのは、零が失くしたはずの“記憶”だった。
自分たちが初めて出逢った場所。
並んで走る、赤と白の車。
大きな観覧車と、自分たちの背景に散る花火。
暗闇の中、銃を向け合う自分たち。
「僕、頑張って描いたんだよ!」
零の両手には、クレヨンのあとがある。自身の手が汚れるのも構わず、一生懸命仕上げたのだろう。
もちろん、年相応に拙い絵である。しかし、赤井は感動していた。こんなにも小さな手で、部屋を取り囲む広い壁に“記憶”を描いたのだ。
赤井は胸がぐっと熱く締めつけられるような心地がした。零の小さな両手をぎゅっと握り締めて、赤井は静かに問いかけた。
「君はなぜ、この絵を描いたんだ?」
「全部夢の中で見たんだよ。なんでかよくわからないけど、すごく大事なことだから忘れちゃいけない気がして、でも、夢で見たことはすぐ忘れちゃうから、覚えているうちに描かなきゃって!」
「夢、か
……
」
零は当然のごとく、“自身の記憶”とは思っていないようだった。しかし、ある一筋の光が見えたと赤井は思った。
零は、過去の記憶を完全に失ったわけではない。夢に見たということは、彼の中に記憶が眠っている可能性を秘めている。
「それからね、こんな夢も見たよ」
零の声に、赤井は我に返る。
「ん?」
「あかい、しゃがんで!」
零が両手を広げて、ぱたぱたと手を振っている。
促されるまま床に膝を立てると、零はさらに自分に近づき、両手でぐいと赤井の顔を引き寄せた。
零の顔がすぐ目の前にある。いったい何をするつもりなのだろうかとおとなしく待っていると、零の小さな唇がちゅっと自分の頬に触れた。
まさか頬にキスされるとは思わず、赤井は驚く。と同時に、脳裏をよぎる光景があった。
「びっくりした?」
『びっくりしました?』
赤井の耳に、ふたつの声が重なる。
降谷の身体が縮む前のことだ。降谷は突然、何の脈絡もなく頬にキスしてくることがあった。
降谷は恥ずかしがり屋で、なかなか自らキスをしようとはしない。自分を驚かせたいという、イタズラ心のようなものもあったのだと思う。その証拠に、キスしたあとは必ずと言っていいほど、「びっくりしました?」と問いかけてくるのだ。
零がこれを夢に見たということは、彼にとってかけがえのない記憶のひとつだったということなのだろう。
「ああ、びっくりしたよ」
心の底からの本音を口にすると、零は顔を赤くしてとても嬉しそうに飛び跳ねた。
「えへへ、イタズラ大成功!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる零を微笑ましく見守りながら、赤井は壁に描かれた絵へと再び目を向ける。
そして、ふと、壁の隅に小さく描かれた絵を赤井は見つけた。
壁の隅にひっそりと、まるで秘密を書きとめるように、クレヨンではなく、鉛筆の淡い線で描かれている。
――
それは、頬を染めた降谷が赤井の頬にキスをしている絵だった。
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