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花月ゆき
Public
ゆる赤安ドロライ
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第14回お題「キス」※口以外
付き合いはじめたばかりの赤安。少女漫画風味?です。
赤井が降谷と交際をはじめて二週間ほどが経った頃。
これまでの人生で一度もキスをしたことがない、と降谷は自分に打ち明けてくれた。話の流れで半ば強引に聞き出してしまったのだが、降谷は申し訳なさそうに謝ってきた。おそらく、自分が降谷の扱いに困っていると彼は勘違いしてしまったのだろう。しかし赤井にとっては、困るどころか天に感謝するほどの奇跡を得た気分だった。
降谷自身は経験がないことに対して、どこか恥ずかしく思っているような節があるが、赤井にとっては願ってもない僥倖だった。降谷の“はじめて”を自分がもらう権利を得ている。これほど嬉しいことはない。
はじめてのキスは、唇ではなく、彼の額にそっと触れるだけのものだった。風がそっと肌を撫でるような一瞬の触れ合いに、降谷は驚いた顔をした。
これから先、赤井が降谷にすることは、すべて彼にとって“はじめて”のことになるのだろう。彼にとっては驚きの連続になるのかもしれない。
各国の捜査機関が日本に集まり、組織壊滅のための準備は着々と進みつつある。プライベートの時間には限りがあるけれど、ひとつひとつの瞬間を大切に、彼との愛しい時間を育んでいきたいと赤井は思った。
唇にキスをするのは、まだ早すぎるかもしれない。そう考えた赤井は、まずは唇以外の場所にたくさんキスをすることにした。
「おはよう」
朝。周囲に誰もいない路上で、赤井は降谷の頬に小さな音を立ててキスをした。降谷は「気をつけ」の号令がかかったときのように、ぴしりと背筋を伸ばして固まった。そうしてすぐに事態を理解したのか、瞬く間に顔が赤くなってゆく。
仕事をしているときの彼の表情とはまったく異なる、とても可愛らしい顔をしていた。
傍から見れば、ただの挨拶のキス(チークキス)にしか見えないかもしれない。だが、自分たちにとっては違う。一瞬の触れ合いであっても、唇でなかったとしても、それは正真正銘、恋人同士のキスだ。
「おはよう
……
ございます」
降谷は自分から目を逸らして言った。真正面から目を合わせるのは恥ずかしいのだろう。初々しい彼の態度に、赤井は微笑みをおさえることができない。「なに笑ってるんですか」と、可愛らしい顔で睨まれるのも、とても楽しかった。
次の日の朝も、赤井は同じように降谷の頬にキスを落とした。昨日のように降谷が固まることはなかったが、ぴくりと身じろいで、はにかんだ表情をする彼はとても愛らしかった。
それ以降もふたりきりになれる時間を見つけては、赤井は降谷の頬にキスをした。次の会議までに少し時間があるときは、誰もいない部屋のカーテンの影に隠れて彼を抱き締めたりもした。
彼はとても敏感で、キスをするたびにぴくりぴくりと身体を揺り動かす。そのひとつひとつの仕草に、愛おしさが募った。
作戦の決行日が近づいてくると、帰宅できない日々が続いた。
降谷とは所属する組織が異なるので、合同会議以外で顔を合わせる機会も減り、連絡もあまり取り合えない状況となっていった。
そんな中、偶然にも赤井は降谷とふたりきりになることができた。
仮眠を取るために簡易ベッドのある休憩室へ向かうと、そこに降谷がいたのだ。降谷はちょうど仮眠を取ろうとしていたタイミングだったようで、ベッドの端に腰かけてネクタイを緩めているところだった。
時間は深夜零時を回っている。一部を除き、大半の人間が帰宅している時間だ。休憩室に降谷以外の人間はいなかった。
「あなたも仮眠を?」
「ああ」
赤井はゆっくりと歩を進め、降谷の隣に腰かけた。
「
…………
」
隣のベッドへ行かなかったので、降谷が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「
……
ずっと眠れていなかったんだな」
彼の目の下に濃く残る翳りを、赤井はそっと親指でなぞった。
「それは、あなたもでしょう?」
降谷の問いかけに赤井は苦笑する。カフェインを身体に入れて適度に眠気を調整してはいるが、鏡を見なくともひどい顔をしていることは想像にたやすい。しかし、その通りだと返すのには抵抗があった。彼の前では格好をつけたい、ただの男にすぎないのだと思い知らされる。
「いや、君ほどじゃないよ」
降谷が疑いの眼差しを向けてくる。
こちらの様子を窺うように降谷が顔を近づけてきたので、赤井はほぼ反射的に、すぐ近くにあった降谷の鼻先にキスをした。
「うわっ?!」
驚いた降谷が今にも後ろに倒れてしまいそうだったので、赤井は素早く彼の背に手を回す。思わぬ形で降谷との距離が縮まり、赤井は思わず目を細めた。
顔を赤く染めた降谷の頬に、赤井はそっと口づけた。一瞬だけ触れて離れるのではなく、時間をかけてゆっくりと頬を唇でなぞってゆく。ちゅっ、ちゅっ、と小さな音を幾度も響かせて離れると、降谷は何かを言いたそうにじっとこちらを見つめてきた。
気のせいでなければ、降谷は自分の唇を見ている。
「なにかな?」
「
……
いえ、なんでもありません」
降谷は耳まで真っ赤にしている。思わずその耳を口に含みたくなるほど愛らしい。赤井は左手の人差し指で、そっと降谷の唇に触れた。
「今日はやめておくよ。ここで君の唇にキスしたら、止まらなくなりそうだからな」
「
……
」
降谷が潤んだ目でこちらを見上げてくる。このまま彼をベッドの上に押し倒し、唇を奪ってしまいたい
――
そんな気持ちが湧き上がって来るが、赤井はぐっと堪えた。赤井は降谷の額にそっとキスを落とし、後ろ髪を引かれる思いで彼から離れる。
「おやすみ、降谷君」
少しでも多く眠ったほうがいい。そう告げて降谷のベッドから腰を上げると、不意に腕を引かれた。
降谷の顔がぐっと近づき、頬にやわらかな感触が触れて、そっと離れてゆく。
「
……
おやすみなさい!」
我に返ったときにはもう、降谷は頭まで毛布をかぶってしまっていた。
頬に残る感触の余韻に浸りながら、赤井は隣のベッドに腰を下ろす。はじめて経験したことに興奮する子どものように、胸がどきどきと大きな音を立てていた。こんなにも心を揺さぶられるのは、生まれてはじめてだった。
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