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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第13回お題「煙草」
赤安は恋人同士になったばかり。オメガバースネタで諸々捏造しています。
α=あかいさん、Ω=れいくん
四月に入り、組織壊滅作戦のメンバーにも動きがあった。
海外が本拠地ということもあり、FBIやその他の機関のメンバーにはほぼ変動はない。一方、公安側には大幅な増員があった。
各国の捜査機関との話し合いの末、人員不足を日本国内で一旦補うことになったからだ。
人員が増えることには、一長一短がある。人手が増えれば監視や尾行は強化できるが、その分、連携ミスや伝達の混乱も起きやすい。統率には労力を要するのだ。とはいえ、これはあくまで警察組織としての話だ。新しい人員が入ってくるたびに、降谷は個人的に“ある心配事”と向き合わなければならなかった。
それは、降谷の第二の性が関係している。
降谷は第二の性がオメガであることを隠し、アルファと偽って過ごしている。降谷がオメガであることを知るのは、ごく一部の人間だけ。降谷がアルファであることを疑う人間はまずいない。しかし、気づかれる可能性がゼロではないので、降谷は常に気が抜けなかった。
――
稀にいるのだ。第二の性を本能的に嗅ぎ分けられる人間が。
その中でも、例外中の例外が赤井秀一だ。ライという名で組織で活動していたとき、アルファとして過ごすバーボンの本当の性を赤井は見抜いた。
それからというもの、バーボン
――
降谷は、抑制剤を常時服用することに加えて、フェロモン検査を定期的に受けることにした。フェロモン濃度が高まるとオメガ特有の匂いを発する可能性があるので、強めの抑制剤を服用することもあった。
その甲斐あってか、自力で降谷がオメガであることを見抜いたのは、今のところ赤井だけである。
その赤井は、アルファの中でも特に秀でたアルファだ。作戦メンバーに新しく加わった人間、特に若手の刑事たちにとって、赤井は瞬く間に憧れの存在となった。
赤井の放つフェロモンは、性別や第二の性を問わず、人を虜にする。普段フェロモンを嗅ぎ取れない人間でも、赤井の匂いは微かにわかるというのだから相当強いのだろう。
赤井の匂いに惹かれる人間は数多くいるが、その匂いは人工的に再現できるものではない。しかし、赤井自身の匂いは再現できなくとも、唯一、真似できる匂いがあった。それは、赤井が吸っている煙草の匂いだ。憧れている人物の真似をしたくなるのは、世間一般的にもよくあることである。公安側に新しく入った若手の刑事たちのなかで、赤井の吸っている煙草の銘柄がいつしかブームとなっていった。
煙草の匂いは、第二の性の匂いを上手に隠してくれる。煙草の強い匂いはフェロモンの匂いを鈍らせる効果があり、降谷の第二の性を隠す“隠れ蓑”となってくれた。偶然とはいえ、若手の刑事たちの間で広がった流行に降谷は救われる形となった。しかし、降谷にとっては悩ましいこともあった。
会議の合間の休憩時間。降谷は休憩室で赤井とふたりきりになれたタイミングを見計らって、赤井に悩みを打ち明けることにした。
「最近、あなたと同じ銘柄の煙草を吸う人が増えましたよね」
「そうみたいだな。
……
何かあったか?」
ただの世間話ではないことを、赤井は瞬時に悟ったようだった。降谷は廊下に人がいないことを確かめてから、話を続けた。
「あなたと同じ匂いの人が増えて、少し混乱するようになってしまったんです」
「混乱?」
「抑制剤が効いているせいだと思うんですが、あなたの匂いを判別するのに時間がかかるようになってしまって
……
」
「抑制剤が効いている状態だと、ほぼ煙草の匂いしか嗅ぎ取れないんだったな」
降谷は頷いた。
第二の性の影響か。赤井と恋人同士となってまだ間もないが、赤井の匂いがそばにないと落ち着かないときが度々ある。そういうときには、赤井の持ち物を借りたりもするのだが、煙草の匂いが付着しているものも多い。その影響か、赤井自身の微かな匂いと煙草の匂い
――
これが合わさることではじめて降谷は心から安心することができるのだ。
ところが、最近では至るところから赤井と同じ煙草の匂いがする。そのたびに無意識に赤井を探してしまい、匂いの主が赤井ではないとわかるとひどく切ない気持ちになるのだ。
「それで
……
ひとつお願いがあるんです」
「君からお願いとは
……
珍しいな。何でも言ってくれ」
赤井は嬉しそうに言う。居た堪れない気持ちになりながら、降谷は深々と頭を下げた。
「少しの間、禁煙してくれませんか?!」
混乱しないようにあなたの匂いをちゃんと覚えたいんです
――
そう告げると、赤井は優しい声で、「もちろんだよ、降谷君」と微笑んだ。
一週間後。
赤井の身体からは、煙草の匂いがほとんど消えていた。
降谷が禁煙をお願いしたあの日以来、赤井は一度も煙草を吸っていないようだった。
「お願いはこれだけか?」と赤井が言うので、赤井の持ち物をもう少し分けてもらいたいと言いそうになったが、降谷は我慢した。その代わり、ふたりきりになると、思う存分、降谷は赤井の匂いを浴びた。
どこか照れくさそうな表情を浮かべ、両手を広げて待っている赤井の胸元に飛び込むのは、降谷にとって幸せな時間だった。
煙草の匂いがしない赤井の身体からは、赤井自身の匂いがする。煙草の匂いが消えた分、赤井の匂いがダイレクトに伝わってきてかえって落ち着かないときもあったが、赤井の匂いを覚えるのには最高の環境となった。
いつしか、少し強めの抑制剤を服用していても、降谷は赤井の匂いを嗅ぎ分けられるようになっていた。赤井と同じ銘柄の煙草を吸う人間が周囲にたくさんいても、“赤井”と“赤井ではない人間”を瞬時に区別できるようになったのだ。
と同時に、赤井が禁煙している噂も広まっていき、赤井と同じ銘柄の煙草を吸う人間も日に日に減ってゆく形となった。
「おかげで、あなたの匂いがすぐわかるようになりました。ありがとうございます。もう大丈夫なので、煙草も好きなときに吸ってくださいね」
降谷が礼を言うと、赤井は何か考えるような素振りをみせて口を開いた。
「ずっと気になっていたんだが、抑制剤を服用しなかった場合、君に届く俺の匂いは異なるのだろうか」
赤井が禁煙をしてくれたおかげで、煙草の匂いを取り除いた赤井自身の匂いを認識することができるようになった。
しかし、あくまで抑制剤を服用した上で認識できる“匂い”だ。
「きっと、今よりもっと、赤井の匂いを感じるんだと思います」
抑制剤を飲み忘れたことすらないので、そもそも経験したことがない。今は想像で語ることしかできないが、降谷にとっては確信に近いものがあった。
もしも、この感覚が確かなら
――
赤井は自分にとってただひとりのアルファであり、自分を本能的に溺れさせる存在である。
「今度の大規模な作戦が終わったら、少し長めの休暇を取って抑制剤の服用をやめてみないか?」
「それって
……
」
赤井の言う“少し長めの休暇”とは、ヒート休暇のことを指しているのだろう。
降谷はヒートになると普段よりかなり強めの抑制剤を服用して過ごすことが多い。ヒートによって心身が不安定になると仕事に支障をきたすからだ。降谷はこれまで徹底して抑制剤を服用し、自分の本能を抑え込んでアルファとして過ごしてきた。
抑制剤を服用しなければ、自分のオメガとしての本能が剥き出しになる。そして、それはいつまで続くかわからない。だからこそ、「作戦が終わったら」と赤井は言ったのだろう。
「“本当の君”と、ふたりきりで過ごしてみたい」
赤井の深い緑色の目と目が合う。
赤井は真剣な表情をしていた。
頬に触れる風までも、赤井の匂いが混じっている気がして、胸が高鳴る。
赤井の言葉が意味することを想像して、降谷は顔が熱くなるのを感じた。
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