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花月ゆき
Public
ゆる赤安ドロライ
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第7回お題「映画」
モブ♀が偶然見かけた赤安。モブ視点です。
四月に入ったとはいえ、夜になるとまだまだ寒い。傘をさすほどではないが、小雨まで降ってきて気が滅入る。
午後二十三時過ぎ。残業を終えて疲れた身体にこの寒さは堪えるな、と思いながら、施錠して会社を出た。
会社の前にある大きな横断歩道を渡り、ひとけの少ない道を歩く。そこで、どこからか人のうめき声のようなものが聞こえてきた。近くに具合の悪い人でもいるのだろうか。声の聞こえてきた方向へ歩き出し、あたりを見渡すと、路地裏に二人の男性がいた。
ひとりは金髪の男性で、腕を怪我しているようだった。うめき声の主は彼だろう。
もうひとりは黒髪の男性で、金髪の男性の腕にタオルを巻きつけている。止血とはいえ、傷口を押さえらえると痛みが強く出るのだろう。金髪の男性は苦しそうに息をついていた。
夜でも街は明るいが、路地裏にいる二人の顔までは、こちらからはよく見えない。救急車を呼んだほうがいいのだろうかとも思ったが、何か事情があるかもしれないので、あまり騒ぎ立てないほうが良い気がした。
怪我をしている男性は大丈夫なのだろうか。勝手に心配していると、黒髪の男性のほうが「痛いの痛いの飛んでいけ」と小さな声で呟いて、金髪の男性の額にキスをした。黒髪の男性の口から出てきた言葉だとは信じられなかったが、金髪の男性がふふふっと小さく笑ったので、気を紛らわせるためにそう言ったのだと理解する。
しかし、やはり痛みは続くようで、金髪の男性は小さなうめき声を漏らしていた。
「あともう少しの辛抱だ。
……
が今、車でここに向かっている。車がついたら、すぐに俺と一緒に病院へ行こう」
「は、い
……
」
一瞬、ふたりは病院にも行けない裏社会の人間なのではないかと思ったが、そうではなかったようで安心する。
自分にできることは何もなさそうだ。というより、このままここにいては、覗き見しているただの怪しい人間である。早くこの場から立ち去ろう。そう思い踵を返そうとしたところで、少し様子の違う金髪の男性のうめき声が聞こえた。
ゆっくり振り返ると、黒髪の男性が金髪の男性にキスをしていた。
金髪の男性は、「んっ、んっ」と小さく声を上げているが、それは痛みに耐えるような声ではない。激しいキスに、息継ぎを求めて零れ落ちたような声だ。キスで痛みを紛らわせようとしているのか。真実はさだかではないが、まるで映画のワンシーンのようだ。
しばらく視線を釘付けにされてしまうが、近づいてきたパトカーのサイレンの音に我に返る。二人もその音に気づいたのか、唇を離して、その場から移動を試みようとしていた。このままここにいれば、二人と鉢合わせになってしまう。雨も強く降りはじめてきたので、急いで駅へと向かった。
三ヶ月後。
いったい自分は何のために生きているのか。終電にも間に合わず深夜にひとりで残業していると、突然、何かが爆発したような音が聞こえてきた。
爆発は自分が今いるビルで起きているのか、それともこのビルの近くで起きているのか。大きなガラス窓の近くに寄ると、隣のビルから黒煙が立ちのぼっているのが見えた。これは、すぐに消防車を呼んだほうが良さそうだ。
自席に戻りスマホを手に取ると、外から消防車のサイレンが聞こえてきた。爆発の前に、誰かが呼んでいたのだろうか。
再び窓際に寄って隣のビルの様子を窺っていると、視界の斜め上に、金髪の男性がぶらさがっているのが見えた。爆風で身体が外に投げ出されたのか、腕一本でどうにか窓枠の出っ張りにしがみついている。ぞっとするような光景だ。
ビルの前に着いた消防隊員もそれに気づいているようで、救助用のエアクッションを膨らませている。しかし、すぐには膨らまない。膨らむのを待つその間にも、隣のビルからは二回目の爆発音が聞こえてきた。
爆風で一際大きく金髪の男性の身体が揺れ動いたのが見えて、反射的に目を閉じる。祈るように目を閉じてじっとしていると、ビルの下のほうから歓声のような声が聞こえてきた。いったい何が起こったのか。おそるおそる目を開けると、金髪の男性の腕を、力強く掴む男性の影があった。瞬く間に、黒髪の男性が金髪の男性を引き上げる。その様子を見て、甦る記憶があった。三ヶ月前に路地裏にいたあの二人ではないか。
安堵したのも束の間。三回目の爆発が起こる。二人は無事だろうか。心配になっていると、オフィスのドアが突然開き、消防隊の人が入って来た。
「隣のビルで爆発が起こっています。このビルも危険なので、今すぐ避難してください!」
すぐに財布とスマホを持って、エレベーターではなく階段を使って地上へと下りてゆく。
会社の前の道路には、消防車、救急車、警察車両が揃っていて、とんでもない騒ぎになっていた。もう仕事どころではない。
とりあえず上司に連絡をしなければ。そう思い、電話ができそうな静かな場所を探していると、救急車の前に、あの二人の姿を見つけた。
あれから無事に地上に降りられたことがわかり、ほっと胸を撫でおろす。
二人の顔を見るのは初めてだったが、二次元の世界から飛び出してきたのかと思うほど美形だ。
三ヶ月前とは逆で、今度は黒髪の男性の左腕に、金髪の男性がタオルを巻きつけていた。
「まさか怪我した腕で僕を助けようとするなんて
……
」
「咄嗟に利き腕が出てしまったんだよ。そのあとすぐに右腕も使ったから問題はない」
「でも
……
」
黒髪の男性の隣には、ライフル銃がある。もし腕に後遺症でも残ったらライフルを扱えなくなる
――
想像だが、金髪の男性はそう言いたいのかもしれない。しかし、自分にはわかる。黒髪の男性にとっては、何よりも彼のことが大切なのだ。
怪我を負っていても、絶対に離さないという意志が何よりも強かった。男の愛が、彼の命を救ったのだ。
――
そう自分は解釈している。
黒髪の男性が、右手で金髪の男性の頬を撫でた。こちらからは見えないが、彼の頬を伝う涙を拭っているのかもしれない。息をするのも忘れてその場に佇んでいると、二人の影が重なるのが見えた。ちゅ、と小さな音がする。一応まわりに配慮しているのか、重なった影はすぐに離れていった。
金髪の男性は顔を真っ赤にして、「こんなところで!」と叫んだ。それを聞いた黒髪の男性は、嬉しそうな顔をして、彼の耳に何かを囁く。何を囁いたのかはわからないが、金髪の男性の顔を見るに、甘い甘い言葉を囁いたに違いない。
まるで映画の登場人物のような二人だ。自分は、二人が主演の映画の“エキストラ”といったところだろうか。
生きていれば、こんなドラマティックな場面に居合わせることもある。ほんの少しだけ、自分の人生が楽しく思えた。
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