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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第5回お題「エイプリルフール」
魔法が使えるようになったあかいさん。
恋人同士の赤安。
四月一日、朝。
警察庁の駐車場に愛車を停めてすぐ、目の前に赤井がいることに降谷は気がついた。車を停める前に赤井の存在に気づいていなかったので、降谷は少し驚く。
今日は警察庁でFBIのメンバーと会議をすることになっているので、赤井がここにいるのは不思議なことではない。しかし、いつもの赤井の雰囲気とどこか違うような気がした。
愛車から降りて、降谷は赤井の前に立つ。会議室ではなく駐車場で自分を待っていたということは、自分だけに何か伝えたいことがあるのかもしれない。
「おはよう」
「お、おはようございます
……
」
外の空気は春らしい暖かさと心地よさがある。道沿いにある桜の木は、薄桃色の花びらを散らして、周囲を優しい色で包んでいた。
そこへ、異色の雰囲気を持つ赤井秀一である。しかし、春の陽気にあてられているのか、どことなく口調はやわらかい。
「降谷君、君に秘密の話がある」
「
……
秘密?」
いったい秘密とは何だ。降谷が身構えると、赤井はもったいぶることもなく口を開いた。
「突然だが、魔法を使えるようになった」
「
…………
魔法?」
赤井の口から出たとは思えない言葉だ。
もしかしてエイプリルフールにちなんだ嘘だろうか。思案していると、赤井の左手がゆっくりと自分の耳元へ伸びてくる。
いったい何をするつもりなのか。赤井が自分に危害を加えることは絶対にないのでじっとしていると、赤色の薔薇が一本、ポンッと軽やかな音を立てて自分の耳元に現れた。「え?!」と思わず声を上げると、赤井は嬉しそうな顔をして、その薔薇を降谷の胸元に差し出す。
降谷は受け取った薔薇の花をまじまじと見つめた。生花だ。花びらもひとつひとつが大きく、茎も長い。折りたたんでどこかに隠し持つのは不可能である。
実に高度なマジックだと降谷は思った。どんなトリックを使っているのかもよくわからない。いったいどんな仕掛けになっているのだろう。降谷はもう一度、赤井の言う“魔法”とやらを見てみたくなった。
「
……
つかぬことをお聞きしますが、鳩も出せたりします?」
「ああ、もちろん」
赤井は微笑んでこたえた。
マジックの定番ではあるが、周囲に鳩を隠せそうな場所はない。赤井の服装もいつも通りで、不自然な箇所はひとつも見当たらなかった。
さぁ、どう出る? 赤井秀一。
降谷が集中して赤井の動きを追っていると、赤井はパチンと指を鳴らした。と同時に、真っ白な鳩が降谷の頭上から降りてきて、降谷の肩にとまった。全方向に意識を集中させていたが、トリックはまったくわからなかった。赤井が再びパチンと指を鳴らすと、鳩の姿は見えなくなる。
まるで本当に魔法のようだ。
目の前にいるのは、本当に自分の恋人である“あの赤井秀一”なのだろうか。公安の持つ情報を奪いに来た白い怪盗ではないのか。
本能は赤井だと告げているが、降谷は確かめたい気持ちを抑えることができなかった。
「
……
あなたは、本当に赤井ですか?」
「もちろん」
目の前にいるこの男が、本当に赤井秀一なのか。赤井と自分しか知らない情報について、降谷は問いかけてみることにした。
「
……
先月、ホワイトデーにあなたが僕にくれたものは何ですか?」
「九十九本の薔薇だな」
赤井は即答した。降谷は、「合ってる
……
」と呟く。
薔薇の花束を見たのは複数人いるが、本数を知るのは自分たちだけだ。間違いなく、今、目の前にいるのは自分の知っている赤井秀一だ。
「いったいどこでこんなマジッ
……
魔法を学んだんです? 他にどんな魔法が使えるんですか?」
「それは秘密だ。色々試したいところだが、この魔法は今日の正午までしか使えん」
赤井が名残惜しそうに言う。会議は正午過ぎに終わる予定だ。赤井が自分以外の人間に魔法を披露することは、おそらくできないだろう。
自分が独り占めしてしまって良いのだろうか。
そう思うのと同時に、限られた時間の中で赤井が自分を楽しませようとしてくれたことに、降谷は嬉しくなる。
腕時計に目をやると、会議の開始時刻まであと十分を切っていた。
「あ、そろそろ会議が始まります。急がないと
……
」
「ああ」
降谷は愛車から急いで鞄を取り出し、車の鍵をかける。二人並んで警察庁の正門へ向かった。庁内の中に入り、廊下を急ぎ足で歩く。その途中。降谷は自分の左手にふと違和感のようなものを覚えて立ち止まった。
降谷が足をとめると、つられるように赤井も足をとめる。
指自体に問題はない。ただ、何かが指に嵌っているような感覚があるのだ。
降谷はおそるおそる自分の左手を目の前に掲げてみる。
左手の薬指に、銀色の指輪があった。
身に覚えのない輪っかは、窓から差し込む朝の光を浴びて、きらきらと輝いている。
「こ、これは
……
」
心臓がどきどきと大きく脈を打つ。
違和感を覚えてから今まで。誰も、何も、降谷の指には触れていない。
しかし、これを自分の指に嵌められる人間が、この世にひとりだけ存在している。そして、その人物が左手の薬指に指輪を贈る理由は、おそらくひとつだけだ。
緊張で、手に汗が滲む。
「すまない、願っていることが現実になる魔法なんだ」
赤井の左手が、そっと降谷の左手を包み込む。赤井の手が離れると、降谷の指からは指輪がなくなっていた。
金属の輪が指を抜けていく感覚はまったくなかった。
「消えた?!」
指輪を取り上げられてしまい、降谷は声を上げる。
もしかして、指輪もエイプリルフールにちなんだ嘘なのだろうか。
言い知れぬ喪失感の中。降谷が自問自答を繰り返していると、赤井は笑みを浮かべてこう言った。
「会議を終えたら、俺の手から君に戻すよ」
四月一日。嘘をついても良い時間はとっくに過ぎた昼下がり。
会議を終えたあと、降谷は赤井に呼び出されて、ひとけのない休憩室にいた。
壁にかけられたカレンダーには、今日の日付に「エイプリルフール」と手書きの文字がある。
「またあなたの魔法が見たいな」
降谷がそう呟くと、赤井が苦笑して言った。
「それは来年の楽しみにとっておいてくれ」
指輪を贈るのに、魔法は使いたくなかったのか。指輪は赤井の手によって、降谷の左手の薬指に再び嵌められることとなった。
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