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花月ゆき
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ゆる赤安ドロライ
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第2回お題「ホワイトデー」
両片想い状態の赤安。n番煎じネタです。
薔薇の花99本=永遠の愛。
一口サイズのチョコ=チ〇ルチョコです。
三月十四日、金曜日。
人のいない休憩室で、降谷は自販機で買ったホットカフェオレをこくこくと静かに飲んでいた。
ふと、壁にかけられているカレンダーに目が留まる。今日の日付には、「ホワイトデー」の文字。いったい誰が書き足したのか、その文字は♡マークで囲まれている。きっと、ホワイトデーを心待ちにしている人間が描いたのだろう。チョコを贈った相手からどんな返事があるのか。♡を描いたその人物は、今頃胸を高鳴らせているに違いない。
降谷は少し羨ましくなった。
ホワイトデーは、自分にとってはまったく縁のない日だ。まず、バレンタインデーに片想いの相手にチョコを贈っていない。いや、正確には、“それとわかる形で”チョコを贈っていないというべきか。
ちょうど一ヶ月前。バレンタインデーの日のことを降谷は思い起こした。
二月十四日、金曜日。その日は午後からFBIのメンバーとの会議が入っていた。昼食を外へ食べに行く時間もなく、降谷は警察庁のすぐ近くにあるコンビニへと向かった。
幕の内弁当を選んでレジへ向かう途中。ちょうど目に入った一口サイズのチョコを、降谷はひとつ手に取った。午後は頭を使う仕事が多いので、糖分を欲するような気がしたからだ。
警察庁に戻り素早く弁当を腹に入れ、会議室へと向かうと、FBIの女性たちが菓子の包みを開けながら雑談を交わしていた。彼女たちは、「日本のデパートにあるバレンタインコーナーに感動した」という話をしている。そのときはじめて、「ああ、今日はバレンタインデーか」と降谷は認識した。日々の忙しさゆえ、“二月十四日”、“金曜日”という日付や曜日は認識していても、イベント事には疎くなっていた。
会議の参加者が続々と集まりはじめ、会議の開始時間になる。会議が始まっても、降谷の頭の片隅には、バレンタインデーの文字が残っていた。
降谷には想い人がいた。
これからも続くだろう永い永い片想い。終止符が打たれることは永遠にないだろうと頭では理解している。しかし、ほんの少しだけ、降谷は自分の気持ちに正直になってみたくなった。
ただの自己満足になってもいい。赤井に気づかれることさえなければ、自分たちには何の影響もないはずだ。降谷は自分にそう言い聞かせた。
会議が終わると、参加者はすぐに持ち場へと戻ってゆく。降谷は会議の内容の事で話があると赤井に呼び止められた。思ってもみないほどすぐにチャンスがやってきて、降谷は胸がドキドキした。
新たに淹れた珈琲を紙コップに注ぎ、座ったままの赤井の前へ置く。そして、ポケットに入れておいた一口サイズのチョコを、すっとコップの隣に置いた。チョコを机の上に置くだけだというのに、降谷はひどく緊張した。
「降谷君、これは?」
「あ、もしかして初めて見ました? 日本では有名なチョコなんですよ。さっきコンビニでいくつか買ったので、お裾分けです」
このチョコに特別な意味を持たせてはならない。
買ったのはひとつだけだが、あえてそう嘘を吐いた。赤井は、「ありがとう」と言って、その小さなチョコを口に運んだ。
カフェオレの中身が空になった。
紙コップをゴミ箱に捨てるのと同時に、廊下から何やら騒がしい声が聞こえてくる。何かトラブルでも起きたのだろうか。休憩室から勢いよく飛び出すと、降谷の眼前に白色が広がった。
降谷は混乱した。目を瞬かせてよくよく見ると、白色の正体は薔薇の花であることがわかる。それも十本や二十本ではない。百本近くあるのではないかと思える量だ。
薔薇の花束にも驚いたが、それを手に持っているのが“あの”赤井秀一であることがわかり、降谷は面食らった。
「あ、あかい?!」
「ああ、やはりここにいたか」
普段と変わらぬ声に拍子抜けしそうになりながら、降谷は問う。
「いったいどうしたんですか、こんなにたくさんの薔薇の花
……
」
「花屋に以前から頼んでいてね、九十九本ある」
「九十九本?!」
降谷が思わず声を上げると、遠くで聞き耳を立てていたらしい女性たちから黄色い声が上がった。
「ああ。今日に間に合うかどうか際どいところだったがな」
赤井の言葉には、嬉しさが滲んでいる。この溢れんばかりの白い薔薇の花束が、今日のために準備されたものだとわかり、降谷は胸が苦しくなった。
先月。自分の知らぬところで、赤井は意中の女性からバレンタインチョコをもらっていたのだろう。そして、そのお返しは、今目の前にある九十九本の薔薇の花。赤井秀一は、この庁内にいる誰かにプロポーズでもするつもりなのかもしれない。
まさかホワイトデーが自分の失恋の日になるとは。
降谷は震えそうになる声を誤魔化しながら、赤井に言った。
「と、とにかく、このままだと目立ちますから、早く相手に渡してきてください」
「何を言っているんだ? 君は」
「だから、早く相手に渡してきてください、と
……
」
なぜかお互い話が嚙み合わない。騒ぎが大きくなる前に早くその花束を届けに行けばいいのにと思っていると、赤井は降谷の胸元に花束をぐいと押しつけてきた。
「この花束は、君への贈りものなんだがね」
「
……
え?」
信じられない言葉を耳にして、思考が停止する。
「先月の十四日、君にもらったチョコへのお返しだよ」
「き、記憶違いじゃないですか? 僕はあなたに“バレンタインの”チョコは渡していませんよ」
「会議の後、珈琲と一緒に、一口サイズのチョコをくれたじゃないか」
もしかして、あのチョコの意味に気づかれてしまったのだろうか。降谷は焦った。
「あ、あれは、たまたま余っていたチョコをあなたにあげただけで
……
」
「君は気づいていないのかもしれないが、あのとき、君の手は震えていた」
「
……
ッ」
あのとき、ひどく緊張したのはよく覚えている。しかし、赤井は普通にチョコを受け取っていたはずだ。何も気づいていなかったのではないのか。
「ただの余り物のチョコを渡すのに、君が緊張するわけがない。俺が気づかないとでも思ったのかな? 降谷君」
机の上にチョコを置く、ただそれだけの所作で、ここまで見抜かれてしまうとは。降谷は白旗を上げるしかない。
しかし、いくらバレンタインチョコを渡したといっても、降谷が赤井に贈ったのは一口サイズのチョコだ。
長い付き合いがあるとはいえ、お返しとして白い薔薇を九十九本も用意するのは、明らかにおかしい。
これではまるで、赤井が自分を
――
。
「こんなにたくさんの花を僕に贈るなんて、あなたはいったい、何を考えているんですか
……
」
顔が熱い。弱々しく声を零すと、周囲に聞かれないようにするためか、赤井が耳打ちしてくる。
あまりにも恥ずかしくて、目の前にある花束に、降谷は顔を埋めた。
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