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花月ゆき
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Heartfelt Memories
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Heartfelt Memories(旧題:記憶は心の底に)⑧
秀零の日。
記憶喪失&身体だけ縮んだ赤安(中学生)が、工藤邸で一緒に住んでいる設定です。
―
降谷Side 5月
―
五月に入り、クラスメイトたちは浮足立っていた。
理由は、まごうことなく修学旅行である。
今年は、九日、十日、十一日の二泊三日で、京都へ行くことが決まっていた。
赤井とはクラスは同じだが、修学旅行のための班分けで、別々のグループになってしまった。赤井と一緒がよかったが、五十音順でグループ分けをされてしまったので仕方がない。グループは男女混合だったので、赤井と一緒のグループになった女子たちは見るからに嬉しそうにしていた。
移動も宿泊先の部屋も自由時間も、すべてグループ行動になるため、旅行中は赤井とほとんど離れ離れで過ごすことになる。記念日である十日も旅行真っ只中なので、今月は旅行を楽しもう、ということになった。
自分の見知らぬ土地へ旅行へ行く。きっと楽しいはずなのに、降谷の気持ちは沈んでいた。
五月八日。修学旅行を明日に控えて、降谷は赤井と一緒に旅行バッグに荷物を詰めていた。
持って行くものは「旅行のしおり」にすべて書かれているので、書いてある通りに準備すればいい。淡々と必要なものをバッグにおさめながら、ちらりと隣を見る。すると、赤井が黒色のニット帽をバッグの中に詰めるのが見えた。
「それ、持って行くんですか?」
「ああ」
先月、赤井にプレゼントしてからというもの、赤井はプライベートの時間になると必ずといっていいほどこのニット帽をかぶっていた。修学旅行中は基本的には学ランで行動することになるため、おそらくニット帽の出番はない。それでも荷物に加えてくれたことは、降谷にとって嬉しくもあり、どこか照れくさくもあった。
赤井とはグループが別々で落ち込んでいたが、少しだけ気持ちが浮上する。不思議なものだ。
翌朝。降谷は赤井と一緒に家を出た。七時半に駅に集合し、京都へは新幹線で向かうことになっている。
駅に着くと、各クラスごとにグループ別に分かれて整列するため、ここで赤井とは離れることになる。離れるといっても、同じクラスなので、赤井は目の届く場所にいる。しかし、これからはグループ別に行動することになるため、赤井とはほとんど会話できなくなってしまいそうだ。
新幹線の中では、それぞれのグループに分かれて、雑談をしたり、自由行動の間にどこへ行くのかの最終確認をしたりしていた。グループ内で行きたい場所が分かれるということもなかったので、特に問題もなく過ごせそうである。
ふと視線を感じて顔を上げると、赤井がこちらを見ていた。何か自分に用でもあるのかと思ったが、すぐに赤井の視線は自分から離れてゆく。たまたま目が合っただけなのかもしれないが、ほんの一瞬だけでも目が合って嬉しいと感じた。
京都駅に着いてからはバスでの移動になる。クラスごとにバスガイドの女性が案内してくれるので、今いる場所がどんなところなのか理解が深まりやすい。京都の名所のひとつである金閣寺を見学したあとは、近くのレストランで昼食をとり、今度は嵐山へと向かう。
目の前に広がる景色をスマホで撮影していると、画面の上部にメッセージアプリの通知が現れた。誰からだろうと思いアプリを開くと、赤井からだ。そこには、『ホテルに着いて自由時間になったら、少し会えないか』とある。思わず視線を上げて赤井を探すと、十メートルほど離れた場所から、赤井が頷くのが見えた。『はい』とすぐにメッセージを打って送信ボタンを押す。メッセージはすぐに既読になった。
嵐山では少し長めの自由時間があり、バスに乗ってホテルに辿り着く頃には、陽が沈みかけていた。各グループごと、男女に別れてそれぞれの部屋へ行き、荷物を下ろす。落ち着いた和室の部屋だった。すぐに夕食の時間になり、ぞろぞろとホテルのレストランへ向かう。
レストランで和食を堪能したあとは、グループ別に決められた時間に入浴し、午後九時半の消灯時間になるまでが自由時間だ。入浴の時間は、くじ引きで決めることになっていたので、各グループの代表者が教師のもとに集まり、くじを引いた。浴場の上限人数の関係で、二~三グループが同じ時間帯での入浴となるが、入浴時間は赤井のグループの方が早かった。
降谷が浴場から部屋に戻る頃には、消灯時間まで残りあと一時間程度となっていた。
スマホには、『ロビーに出て来れるか?』と赤井からのメッセージが届いている。降谷はロビーへと急いだ。
ホテルの一階、大きな入口の先にはチェックインカウンターがあり、その先にはソファの置かれた待合室、そしてさらに奥にはグラウンドピアノが置いてあるエリアがある。赤井の後頭部がちらりと見えて、降谷は声をかけた。
「赤井!」
「零君、こっちだ」
赤井がすぐにこちらを振り返る。赤井はグラウンドピアノの近くに置いてある、二人掛けのソファに座っていた。
赤井がぽんぽんとソファを叩く。隣においで、という意味だろう。家でもそうしているように、二人並んで座る。家ではない別の場所にいるというのに、こうして二人で座っていると、家にいるときのようにくつろいだ心地になる。
しかし、他の人とも交流を深められるせっかくの機会だ。赤井は自分以外の人と過ごさなくても良いのだろうか。ふとそんな心配が浮かんで、降谷は赤井に問いかけた。
「グループの人たちと一緒にいなくて大丈夫なんですか?」
「ああ。彼らは卓球をやっているよ。うちのクラスの担任が、優勝したチームに景品を出すと言っているらしい」
「なるほど
……
それは盛り上がりそうですね」
「今から覗き見に行くか?」
自分が卓球に興味があると思ったのだろう。どこのチームが優勝するのか興味はあるが、今は赤井と二人でいたかった。ただ赤井と一緒にいたい。こんな風に思ってしまう自分はおかしいのかもしれない。だが、修学旅行という特別な時間を、赤井となるべく一緒に過ごしたい気持ちの方が強かった。
立ち上がろうとする赤井の手を引っ張って、降谷は言った。
「いえ
……
ここにいます」
なんとなく赤井の顔を見ることができずにいると、赤井が微笑む気配を感じる。おそるおそる赤井の顔を見ると、とても嬉しそうな表情をしていた。
消灯時間までの間。今日観光した場所の感想や、自由時間をどのように過ごしたのかなどを赤井と語り合った。本当は赤井と一緒に見て回りたい。そう言いたい気持ちで胸がいっぱいだったが、自分の我儘で赤井を困らせたくはなかったので、降谷はぐっと堪えた。
消灯時間が近づくと、各クラスの委員長が各フロアを巡回しにやってくる。ロビーを見回りにやってきたのは、隣のクラスの委員長だ。部屋に戻るよう言われて、二人は客室のある部屋へと階段で移動した。
階段から近いのは赤井のグループの部屋だ。赤井の部屋の前で、二人は別れることになった。
「おやすみなさい、赤井」
「おやすみ、零君。また明日も会えるか?」
「もちろんです!」
二日目は、ホテルで朝食を食べたあと、バスで二条城へ向かう。その後は、伏見稲荷大社へ行き、昼食を挟んで平安神宮へ移動した。偶然だろうか。昨日よりも赤井のグループが自分たちのグループと近い場所で行動していたので、赤井の姿をよく見ることができた。直接会話できる距離ではないが、赤井が何をしているのかを見られるだけでも、降谷は楽しかった。
ホテルに戻るとすぐに夕食の時間になった。二泊三日の旅なので、今夜が修学旅行最後の夜になる。
くじ引きで、降谷のグループの入浴時間は最後となってしまったので、入浴後の自由時間はほとんど取れないかもしれない。入浴時間になると降谷は急いで入浴を済ませ、荷物を置きに部屋へと戻った。
昨夜と同じように、スマホには赤井からメッセージが届いている。
『ロビーで待っているよ』
急いで降谷はロビーへと向かった。
一階の奥にあるグランドピアノの近くに、赤井の姿を見つけることができた。しかし、赤井だけではなく、クラスメイトの女子たちの姿もあった。
「卒業式で弾いた曲、聞かせてほしい!」「私も聞きたい!」「私も!」と、女子たちが赤井にピアノを弾いてと懇願する声が聞こえてくる。
昨晩はよく見ていなかったが、グランドピアノの前には、『ご自由にお弾きください』の文字がある。
赤井は無表情のまま、どうすべきかを考えているようだった。
降谷が前に進み出ると、こちらに気づいたのか、赤井が表情をやわらげる。降谷は言った。
「一曲、弾いてあげたらどうですか?」
赤井が近くにある壁掛けの時計を見る。消灯時間までどれくらいの時間が残っているのかを確認したのだろう。あと十五分あるので、一曲を弾くのには十分な時間がある。
「
……
弾き終わるまで、待っててくれるか?」
赤井の問いに、降谷は頷いた。
「もちろん。僕も、あなたが弾くところ間近で見てみたいので」
「了解」
赤井がグランドピアノへと近づく。椅子の高さをすばやく調整して、赤井は腰を下ろした。
卒業式で、皆を感動させた『旅立ちの日に』が、思いがけない形で今、はじまる。
女子たちが息を呑む気配が伝わってきた。
卒業式が終わってからも家で度々弾いているので、さらに上達しているのだろうが、それだけではない。
赤井のピアノは、卒業式で聞いたときよりもずっと、情感に溢れ心に響く演奏となっていた。
ピアノの演奏がロビーに響き渡っているためか、他のクラスの生徒たちも、ぞろぞろとピアノの前に集まって来る。「赤井君がピアノ弾いてるよ!」と呼びかけている生徒もいるので、ピアノの前は瞬時に人だかりができた。
人が増えてきても、赤井はまったく表情を変えない。緊張すらしていないようで、赤井はギャラリーを気にする素振りひとつ見せずに弾き続けていた。
曲を弾き終えると、各クラスの委員長が見回りにやってくる時間となっていた。「もうすぐ消灯時間だから、部屋に戻って!」と声掛けが始まり、集まったギャラリーはすぐに解散し、部屋へと戻っていった。
あたりが静かになり、赤井と自分だけが取り残される。
そろそろ自分たちも部屋に戻ろう、そう言いかけて、降谷は息を呑んだ。椅子に座ったまま、赤井がじっとこちらを見つめていたからだ。
「
……
赤井?」
「もう一曲、付き合ってくれないか?」
「
……
は、はい」
もう部屋に戻らなければならないのに、赤井があまりにも真剣な表情で言うので、思わず頷いてしまう。
赤井は鍵盤の上に手をかざし、そっと優しく触れるようにして音を紡ぎ出した。
自分の知らない曲だ。最近流行っている歌でもない。家でも赤井がこの曲を弾いているのを聞いたことがなかった。自分の耳に届かない場所で練習していた曲なのだろうか。
降谷は声をかけたりせず、静かに曲に聴き入った。途中でベートーベンの悲愴に似た曲調に変わるが、悲愴という名が示すような物悲しい響きはない。
極端に明るいわけでもなく、どこか切なさをも入り交じった音の響きに、はっと息を呑むような瞬間が度々訪れる。
赤井は、この曲を介して何かを伝えようとしているのかもしれない。自分の勘違いかもしれないが、そんな気持ちにさせられる曲だった。
赤井が曲を弾き終える。余韻の音がいつまでも続いているような心地がして聴き入っていると、赤井の手が鍵盤から離れた。
「
……
零君?」
赤井の声にようやく我に返る。降谷は盛大な拍手を赤井に送った。
「とても素敵でしたよ! 赤井!」
「ありがとう」
「サビがベートーベンの『悲愴』に似てますね。何という曲なんですか?」
曲のタイトルを問う。
赤井が椅子から腰を上げた。自然と赤井と目が合う形になる。赤井はこたえた。
「This Night」
「
……
今夜?」
「和訳は“今宵はフォーエバー”だったかな。君の言う通りベートーベンの『悲愴』をサビに引用して作曲されたそうだよ。アメリカのシンガーソングライターが歌っているそうだ」
「へぇ
……
どんな歌なんですか?」
「“今夜、君は俺のもの”」
「えっ?」
一瞬、自分に向けて言っているのかと勘違いしてしまい、降谷は焦った。不意打ちの言葉に、胸がどきどきと大きな音まで立てはじめる。
「色々解釈はあるだろうが、恋人と過ごす特別な夜のことを歌っているらしい」
「と、特別な夜
……
」
「君にはまだ早かったかな」
それくらい、自分にもわかる! そう言い返そうとしたところで、赤井に腕を掴まれた。
「部屋へ急ごう」
目の前の時計を見ると、すでに消灯時間を過ぎている。赤井に腕を引かれながら、ロビーをあとにした。階段を駆け上り、部屋のある階へ辿り着く。部屋はすぐ目の前、というところで、廊下の奥から担任教師の声が聞こえてきた。まだ起きている生徒がいたようで、注意をしているようだ。
おそらく順番に部屋を回っているのだろう。このまま自分の部屋へ進めば、教師と鉢合わせてしまう。どうしようかと考えていると、赤井に力強く腕を引かれた。混乱する間もなく、赤井が自身の部屋のドアを勢いよく開き、自分を部屋の中へと招き入れる。
同室の生徒はもう眠っているようで、部屋の中は暗かった。押し入れは襖もなく剥き出しなので、隠れられそうな場所はない。空いているのは、赤井の寝床だけだ。赤井も同じことを考えていたのか、ぐいと腕を引かれる。二人で話し合う余裕もなく、赤井の布団の中へ急いで二人で潜り込んだ。
布団はシングルサイズだ。自分たちはまだ中学生だが、赤井はもう大人と同等の体格をしているので、二人で眠るには隙間なく身体をくっつけあっていなければならない。
しかも、二人で寝ていることを気づかれないために、頭まですっぽりと布団をかぶっているので、ほんの少し息苦しさも感じる。いわゆる密閉空間ともいえる場所で、ここまで赤井と密着することになろうとは思いもしなかった。
呼吸をするだけで、吐息が相手に触れる空間の中。とても小さな声で、赤井が言った。
「零君、スマホは持っているか?」
「はい」
「今すぐ、君と同室の男子に連絡するんだ」
「わかりました!」
スマホの灯りが外に漏れないように気をつけながら、スマホのロックを解除する。
メッセージアプリを開いて、『赤井の部屋にいるから心配しないで』と急いでグループメッセージを送った。既読にならないので、もう眠っているのかもしれない。
だがこれで、自室にいないことを心配される可能性は低くなる。
安堵の息を吐くのと同時に、部屋のドアの近くで足音が止まる気配を感じた。担任の教師が、部屋の中から声がしないかを確認しているのだろう。部屋の中に入って来る気配はない。
しばらく経つと、再び足音が聞こえはじめ、今度は隣の部屋の前で足音が止まるのがわかった。
教師が同じ階にいる間は、油断できない。息をひそめてじっと教師が立ち去るのを待つしかなかった。足音が遠ざかるのがわかり、暗闇の中で、そっとスマホを見る。あと十分ほどで二十二時になろうとしていた。
もうそろそろ大丈夫だろう。そう思い、布団から出ようとしたところで、赤井の手に阻まれる。
赤井の手が、自分の腰に回っている。さらに赤井と密着することになってしまい、降谷は混乱した。
「動くのはまだ早い」
「
…………
」
「二十二時頃から、大人たちは外に飲みに行くらしい。それまで待った方が安全だ」
「どこからその情報を?」
「ロビーに向かう途中だったかな。エレベーターの前でそう話しているのが聞こえたんだよ」
人伝ではなく、本人が直接話していたのを聞いたのなら、間違いはないだろう。
「なるほど
……
わかりました。もう少し待ちます」
降谷は再びスマホを見る。二十二時まであと八分。赤井の体温に触れながら、降谷は胸がどくどくと大きな音を立てているのを感じた。赤井にも聞こえているのかもしれない。そう思うと、緊張で息まで上がってゆく。
授業と授業の合間にある休憩時間はあっと言う間に終わるというのに、ひたすら待ち続けているこの時間はひどく長く感じる。
布団の中が二人の吐息で熱くなり息苦しさを覚える頃。ようやくスマホが二十二時を示した。
降谷はそっと布団の中から抜け出し、大きく息を吐く。涼しい空気が身体の中に入ってきて、息苦しさが少しずつやわらいでゆく。
赤井が布団の中から顔を出すのがわかった。どんな顔をして赤井を見ればいいのかわからない。
部屋が暗くて良かったと思いながら、降谷は乱れてしまった髪を整える。
「そろそろ部屋に戻ります」
「ああ。
……
おやすみ、零君」
「はい。おやすみなさい」
赤井の声音は普段と何も変わらないが、いつもよりほんの少しだけ、熱っぽいような気がした。狭い布団のなかでお互いにずっと密着していたので、赤井も息苦しかったのかもしれない。
部屋に戻る途中、窓ガラスに映る自分の姿を見て、降谷は驚いた。外が暗いので、そこには自分の顔がはっきりと映し出されている。
こんな顔を赤井に見られなくて良かった。
思わずそんな感想を抱いてしまうほど、降谷は真っ赤な顔をしていた。
最終日は、バスで清水寺へ向かい、そこで長めの自由時間となった。ここでもグループ別での行動となったが、コナンや博士たちにお土産を買いたかったので、土産物屋に入ったときだけ赤井と少し話をした。誰に何を買うのか話している途中で、店の中が混み合いはじめる。うまく身動きが取れなくなり、自分の肩が赤井の腕に触れた。
なぜか昨晩のことを思い出してしまい、降谷の胸がどきりと鳴る。
今夜からはまた赤井と一緒に過ごすことになるというのに、自分は平静を保てるのだろうか。そんな不安すら覚えた。
昼食をとったあと、バスで京都駅へ向かい、帰りの新幹線に乗る。旅で疲れたのか、席を後ろに倒して眠っている生徒もちらほらいた。眠るつもりはなかったが、あまりにもまわりが静かなので、降谷のもとにも眠気が訪れる。
夢の中に誘われる途中、空席のはずの隣の席に誰かが座る気配を感じた。
「降谷君」
と、赤井の声がする。しかし、赤井は自分のことを「零君」と呼ぶはずだ。ほんの少しの違和感を覚えながら、降谷は睡魔に抗えず目を閉じた。
駅に着くと、隣の席に赤井の姿はなかった。夢でも見たのかもしれない。荷物を持って新幹線から降りると、全員揃っているか確認するための点呼があり、すぐに現地解散となった。
赤井と離れ離れの時間が多かったのは寂しかったが、赤井と待ち合わせをして会う、という普段ならできないことも経験できた。グループのみんなも仲が良く、とても楽しい旅にできたと思う。
土産物が入り、行きよりも重くなったバッグを持ち上げたところで、隣に赤井がやってきた。
「帰ろうか、零君」
いつもより赤井の声のトーンが少し低い気がする。赤井の表情も、どこか大人びて見えた。
自分の気のせいだろうか。思わずその場で固まってしまうと、心配したように赤井が顔を覗き込んでくる。降谷は慌てて返事をした。
「は、はい!」
駅を出ると、やわらかな夕陽があたりを包みこんでいた。赤い陽の光を浴びながら、これなら顔が赤くなってしまっても赤井に気づかれないかもしれない。そんなことを思いながら、降谷は赤井の隣で歩を進めた。
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