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花月ゆき
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赤安ワンナイト
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Day3お題「空港」
Day1、2のお題からの続き。恋人未満だった赤安の恋が成就するまで。捏造多々。
赤井がアメリカへ渡ったあと。アメリカで起きた凶悪事件はすぐに大きな動きを見せはじめた。
そして、主犯格の人間がすべて逮捕されたと日本でも報道されはじめた頃。降谷のもとには一通のメールが届いた。
『今夜、九時頃にそちらに着くよ』
「今夜?!」
思わず叫んでしまうと、向かいの席で定食を食べていた風見がびっくりした様子で身体を跳ねさせた。間抜けな体勢を誤魔化すように、くい、と眼鏡を持ち上げて、風見は言う。
「どうかしましたか? 降谷さん」
「それが
……
赤井がこちらに戻って来るそうだ」
「それはよかったです。こちらも人手不足が続いてましたからね。それで、いつ戻って来られるんですか?」
「今夜」
「今夜?!」
風見が自分と同じような反応をするので、降谷は笑ってしまう。
「ああ、今夜だ。だから今日は、早めに上がらせてもらうよ」
「空港へ迎えにでも行かれるんですか?」
「ああ」
空港に迎えに行きます、と赤井への返信を打ちながら、降谷は風見に頷いた。
日本に帰ってきた赤井に、降谷は誰よりも先に、一番に逢いたかった。そう思ってしまうほどには、降谷にとって、赤井のいない日々は落ち着かないものだった。
雪がとけ、季節は春を迎えている。今はもう、寒さを理由に赤井の体温を欲するようなことはない。そのかわり、赤井を欲する“特別な理由”を降谷は見つけていた。
「以前と比べると、随分と仲良くなられましたよね。赤井捜査官と降谷さん」
「
……
そうかもしれないな」
風見の言う“仲良く”と、降谷の考える“仲良く”は、同じようで同じではない。今はまだ誰にも伝えることはできないけれど、友情や親愛といった感情ではおさまらないほど、降谷にとっての赤井は、特別の中の特別になっていた。
窓の外から聞こえる鳥の鳴き声に春を実感していると、赤井から返信が届く。
『ありがとう』
短いけれど、胸に響く言葉だ。降谷が顔を綻ばせると、風見が驚いたような顔でこちらを見ていた。
定時を少し過ぎてから、降谷は愛車で空港へと向かっていた。急ぎの仕事が入ったため、定時後すぐに出発することはできなかったが、赤井が乗っている便の到着時刻までには間に合いそうである。
車を運転しながら、最後に赤井と会った日のことを降谷は思い出していた。
アメリカから帰ってきたら、自分に伝えたいことがある。赤井は確かにそう言っていた。
自分に伝えたいこととはいったい何なのか。あの日からずっと、“予感”のようなものはあった。
赤井が自分を見る目。赤井が自分に発する言葉。すべてが、その“答え”を語っているように思えてならない。
しかし降谷は、赤井の口から語られるまで、その事実と向き合うことをせず、目を逸らし続けることを選んだ。それは、自分の“勘違い”の可能性を考えてのことだ。
赤井がアメリカへ渡ってから日が経つにつれ、自分の気のせいなのではないか、期待してはいけないのではないかと、降谷の心はゆらゆらと揺れ動いていた。赤井が日本へ帰って来ればすべてわかることだと言い聞かせながらも、降谷は事実を知ることが不安で仕方がなかった。
赤井が自分のことをどう想っているのか。その答え合わせをするのを、恐ろしく感じてしまっている自分がいたのだ。
だが、見て見ぬフリができるのも、今だけ。空港で赤井の姿を目に入れた瞬間に、自分の中にある感情を隠すことはもうできなくなる。そんな自分を見たとき、赤井がどんな反応を示すのか。口から語られずとも、そこで赤井から答えを示されることになるだろう。
空港が視界に入り、降谷の緊張も高まっていく。駐車場に愛車を停め、国際線のターミナルへと入った。電子掲示板を見上げると、赤井の乗っている便は、定刻より少し早めに到着したようである。降谷は到着ロビー前へと急いだ。
心の準備がまだ十分にできないまま、赤井がもうこの地に降り立っているとわかり、降谷は焦っていた。
赤井に会ってすぐ、どんな声をかけるべきかもまだ何も考えていない。ここは無難に、「おかえりなさい」だろうか。そんなことを考えていると、スマホのバイブ音が鳴った。
『着いたよ』
と、ただ一言だけ、赤井からメッセージが届いている。
視線を上げると、到着ロビーの自動ドアが開き、次から次へとキャリーケースを引いた人が流れ出してくる。その人の波の中に、一際目立つ存在があった。
赤井と目が合い、胸がドキドキと音を立てる。今すぐにでも走り出したくなったが、その意思に反して、自分の足は固まったように動けなくなってしまった。人の波をかきわけて、赤井がこちらへと駆けてくる。近づいてくる赤井に、顔が熱くなるのを抑えきれない。
どさりと赤井のバッグが地に落ちる音がする。瞬く間に赤井の腕が伸びてきて、その腕は自分の背中へと回った。
「降谷君」
ぎゅうぎゅうと力強く抱き締められて、降谷は混乱する。
「
……
あ、あかい?」
間抜けな声が出た。周囲からの視線も感じて、さらに顔が熱くなるのを感じる。
「ああ、すまない。君の姿を見たらもう我慢できなかったよ」
そう言って、赤井が腕の力を緩める。それを引き留めるように、ほぼ反射的に降谷は赤井にしがみついていた。赤井の驚いたような気配が伝わってくる。
「お、かえりなさい
……
」
どうにか声を押し出すと、すぐそばで赤井が微笑むのを感じた。
「君のこの手
……
俺は期待してもいいのかな」
降谷が慌てて手を離すと、赤井はさらに笑みを深めた。こんな表情をしている赤井は、はじめて見る。
「勝手にしてください」
そう言って赤井に背を向けると、無防備だった右手を赤井に掴まれてしまった。恋焦がれるように何度も思い出した、赤井の手。ぐい、と手を引かれて、赤井と正面で向き合うことになってしまう。緊張が限界を超えて、心臓が壊れてしまいそうだった。
「日本を発つ前、俺の言ったことを覚えているかな」
「
…………
覚えて、いますよ」
覚えているどころか、先程までずっと考え続けていたことだ。赤井は続けた。
「先程はつい先走ってしまったが
……
君を抱き締める権利を俺にくれないか」
「権利?」
緊張で思考がまとまらない。降谷が首を傾げると、赤井はひとつ困ったように笑って、自分の手をぎゅっと力強く握り締めてきた。
「俺の恋人になってくれないか。降谷零君」
まるで時が止まったかのように。空港のざわめきが止み、辺り一面がしんと静まったような気がした。
返事を考えるより先に、想いが溢れ出す。
自分の胸の音だけが聞こえる静寂の中。かすかに開いた口は、声にならない声を紡いでいた。
「は、い
……
」
安堵と嬉しさで、身体の力が抜けていく。それを支えるように、赤井の手にも力が込められてゆくのを感じた。
気づいたときにはもう、降谷は再び赤井の腕の中にいた。これまでの不安や寂しさがすべて吹き飛んでしまうほどの、強く熱い抱擁を受けた。
先程のように遠慮して、赤井が離れていくこともない。赤井の温もりがじわりじわりと時間をかけて全身に伝わってゆくようで、降谷はうっとりと息をつく。
「降谷君?」
「赤井、あなたは本当にあったかいですね」
もっとこの場にふさわしいロマンチックな言葉があったかもしれないが、降谷の心の中を占めていたのは、心地よい赤井の温もり。そして、他の人間とではけっして味わうことのできない、甘やかなひとときだ。
「俺も、君とこうしていると温かいよ」
赤井の言葉に、ぶわりとさらに顔が熱くなる。周囲の人たちの存在も気にならないほど、降谷は赤井に夢中だった。赤井の優しい温もりに包まれながら、降谷は呟く。
「恋人たちの特権、ですね」
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