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花月ゆき
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赤安ワンナイト
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お題「プレゼント」
組織壊滅後。恋人同士になった赤安。あかいさんのサンタになる計画を立てていたふるやさんは…
赤井と恋人同士になって、はじめて迎えるクリスマス。
赤井から二十四・五日の予定はどうかときかれて、「普通に仕事ですけど」と、涼し気な顔でこたえてしまったが、実のところ、降谷はクリスマスに向けて“ある計画”を練っていた。
それは、クリスマスイブの夜、サンタの帽子をかぶって、赤井の泊っているホテルに突撃するというものだ。もちろん赤井には内緒で。
この計画を遂行するために、降谷は十二月に入ってからずっと、多忙な日々を送っていた。
クリスマスに予定を空けるために、年の瀬らしく降り積もった仕事を前倒しで片付ける必要があったからだ。それに加え、組織の残党も、まるでクリスマスを狙っているかのように動きをみせはじめたので、FBIには内緒で、部下を引き連れて制圧した。
そして迎えたクリスマスイブの日。夕方にその日の仕事を終えた降谷は、道路が混み合っているので公共交通機関を使い、東都で有名な時計店に来ていた。
赤井へのクリスマスプレゼントを何にしようかと、ネットで探していたときに、これぞと思う腕時計を見つけたのだ。
三色展開の男物の時計。どの色も、赤井に似合いそうだ。降谷は悩みに悩んだ末、三色のうち、二色まで絞り込んだ。最後の最後まで、どちらの色にするか決められなかったが、二色買って、赤井と自分で交互に使うのもいいかもしれない。そんな良いアイディアが思い浮かび、降谷の胸はドキドキと高鳴った。
在庫があるのは、すでに電話で確認済みである。あとは実物を見て、どうするかを決めるだけ。逸る気持ちを抑えながら、降谷は時計店の入口の扉を開いた。
そこで降谷は、運命がイタズラされてゆく瞬間を見た。聞こえた銃声に、瞬時に店の奥へと視線をやる。威嚇のためだろう、天井に銃弾が一発。女性客がひとり、体格の良い男に銃を向けられていた。店中が混乱し、買い物客が一斉に降谷のいる入口へとなだれ込んでくる。そこで、二発目の銃声が鳴った。「動くな!」と変声機を通したような声がする。降谷が背後を振り返ると、警備員の見た目をした男たちが五人、店の入り口に立ちはだかった。全員、銃を持っている。ひとりたりとも、店の外に出すつもりがないのだろう。
「立てこもるつもりか
……
」
降谷が苦々しく呟くのと同時に、スマホのバイブ音が鳴る。スマホの画面を見ると、赤井からメッセージが届いていた。
『今、仕事が終わったよ。君は?』
今日の仕事はとっくに終わらせて、あなたへのプレゼントを買いに時計店に来ています
……
とはとても返せない状況である。降谷の様子をみて、銃を持った男が「スマホを床に置け!」と声を上げた。警察に通報されるとでも思ったのだろう。銃を持った男たちは興奮している。男たちを刺激すると何をしでかすかわからないので、降谷は静かに床にスマホを置いた。
相手は全部で六人。銃を持っていなければ警備員にしか見えないため、難なく店の中へ入り込めたのだろう。男たちの動きを見ていると、おそらく武闘や格闘技の類を習得している人間ばかりだ。
もしこの場所に、赤井がいたら。二人ならば制圧できたかもしれない。だが、一人では、店の中にいる、いわゆる人質となっている人たち全員を護るのはなかなか難しい。
銃を持っている男たちを刺激しないよう、降谷は静かに様子を見守ることにした。男たちは、店の中にあるすべての時計と、レジから現金を持ち出しはじめた。だが、それだけでは満足せず、店の中にある金庫へ案内しろと言っている。金庫の場所も、金庫を開けるための暗証番号も、知るのは店の管理者だけ。その管理者とはいつまで経っても連絡がつかず、男たちも自分たちも、ただただ待つことしかできない。こうした店には、緊急時のマニュアルがあるはずだ。店員が警察へすでに通報している可能性は高い。おそらく、警察がその管理者と裏で連絡をとり、どう行動すべきかを指示しているのだろう。
時計店ということもあり、スマホがなくても、今が何時かすぐにわかる。無残にも時間が過ぎ去ってゆく悲しさに、降谷は肩を落とした。
時計が零時を指した。店の中で一番大きな壁掛け時計から、ゴーンと音が鳴る。
今頃は、赤井と「メリークリスマス」と言い合いながら、甘くロマンチックな夜を過ごせていたかもしれないのに。そんなことを考え、ふと、今までの人生でここまでクリスマスを楽しみにしていたことはなかったのではないかと降谷は思った。赤井がいるから、こんなにも浮かれた気持ちでクリスマスを迎えられたのだ。赤井に逢いたい。そんな気持ちを、こんなときにも抑えることができずにいた。
おそらく外には、特殊部隊が突入のタイミングをうかがっているはずだ。だが、突入しないということは、自分を含め、この場にいる多くの人間が人質状態となっているためだろう。とはいえ、いつまでもこのままの状態でいるわけにはいかない。いつ銃が火を噴くかわからない状況では、気力も体力も消耗してゆく。
せめて照明がすべて消えてくれれば、周囲に気づかれずにリーダーと思しき男を制圧できるかもしれない。そうすれば、指示を与える人間がいなくなり、現場は混乱するだろう。リーダーの指示なしに発砲する度胸のある人間がいるようには見えない。
ああ、今ここに、赤井がいたら
……
。
もう何度目かもわからない願望を心の中で呟く。と同時に、何かが割れる音が立て続けに聞こえ、店の中にある照明がすべて消えた。誰かが、店の照明をすべて撃ち抜いたのだ。ほぼ一瞬といってもいいタイミングで、すべての照明を正確に撃ち抜く
――
こんなことができるのは、自分の知る限り、たったひとりしかいない。
降谷は瞬時に、リーダー格の男の銃を奪い、気絶させた。残された五人は混乱し、狼狽えている。その隙をついて、また一人、二人
……
と制圧したところで、店の中に特殊部隊が突入し、六人の男は現行犯逮捕された。
その後は現場での検証や、店の中にいた人たちへの聞き取りなどがあり、降谷が店を出ることができたのは、もう明け方に近かった。
店の前には、赤いマスタング。助手席のドアを開けると、赤色のサンタ帽をかぶった赤井が、運転席で煙草を吸っていた。いつもの黒いニット帽が、赤いサンタ帽に変わっているのはかなりの違和感がある。赤井にプレゼントを贈るサンタ役は、本来自分のはずだったのに
……
と、降谷の心中は複雑だった。
「メリークリスマス、降谷君」
自分のスマホに発信機をつけておき、危機を察知してこの場に駆けつけておきながら、まるで、何事もなかったかのように言う。
「メリークリスマス、赤井」
お礼を言う代わりに、降谷はそう返し、助手席に座った。
「
……
クリスマスイブの日に、どうして君はこんなところに?」
仕事があると言っておきながら時計店に来ていれば、疑問に思われるのは仕方がない。降谷は肩を落とし、口を開いた。
「
……
内緒でプレゼントを買いに来ていたんです。あなたへの。そうしたら、こんなことに
……
。すみません、せっかくのクリスマスなのに、あなたに渡せるものが何もなくて
……
」
そう告げると、赤井はどこか安堵したような表情を浮かべた。赤井より、仕事より、優先したいものがあると思われても仕方のない、そんな行動を自分はしてしまったのだ。赤井を驚かせたくて秘密にしていたことが、かえってこうした誤解を招いてしまった。
降谷が静かに胸を痛めていると、赤井が穏やかな声で言った。
「プレゼントなら、すでにもらっている」
「え?」
「君が俺のそばにいてくれたら、それでいいんだよ。降谷君」
心からそう思っているのだろう。赤井の声が、すっと胸に届く。赤井がそばにいるせいだろう。緊張が緩み、降谷は急に泣きたくなった。
泣きたいのを誤魔化すように、降谷は手持ちのバッグから赤色のサンタ帽を取り出し、自分が立てていた計画の種明かしをすることにした。
「本当はこれをかぶって、あなたのホテルに突撃するつもりだったんです。あなたをビックリさせたくて」
「すでにビックリはさせられたがな」
赤井が苦々しく呟く。クリスマスイブの日に、恋人が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたのだ。
無事に店を出られるのか。赤井にまた逢えるのか。ほんの少し怖かったけれど、赤井も同じ気持ちだったのかもしれない。
「店から出られない間、ずっと考えていました。あなたがここにいたらいいのに、と
……
。それは、早く事件を解決させたいからでもありますけど、僕は、クリスマスをあなたと一緒に迎えてみたかった
……
」
しみじみと心の声を吐露すると、赤井が煙草の火を打ち消して、ハンドルを握る。赤井の声は、穏やかだった。
「まだクリスマスは始まったばかりだ。帰ろうか、降谷君」
失った時間は、もう取り戻すことができない。赤井はそれをよく知っている。大事なのは、これから先、どう過ごすかだ。
「ええ、そうですね!」
赤井が車を発進させたので、降谷は正面を向く。そこで降谷は驚いた。ボンネットの上に、二つの箱。その箱に書かれているブランド名に、降谷はどきりとする。
それは、降谷が赤井にプレゼントしたいと思っていた、あの時計のブランドだった。
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