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花月ゆき
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Heartfelt Memories
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Heartfelt Memories(旧題:記憶は心の底に)②
秀零の日。
記憶喪失&身体だけ縮んだ赤安(中学生)が、工藤邸で一緒に住んでいる設定です。
―
コナンSide 11月
―
秋を迎え、冬の訪れを感じはじめる頃。
コナンはしばらく訪れていなかった工藤邸へとやってきた。降谷からメールで、「夜ごはん作り過ぎちゃったから、コナン君も食べにおいで」と誘われたからだ。しばらく二人の顔を見ていなかったので、ちょうどよいタイミングだと思いながら、コナンは降谷の誘いに乗ることにした。
夕刻。本来の自分の自宅に辿り着くと、玄関先からすでに赤井と降谷の声が聞こえてきて、コナンは心の中でこっそりと笑う。
身体が縮む前、二人は恋人同士だった。様々な苦難もあったが、自分が知る二人は、すごく相性もよく、仲の良い関係へと落ち着きつつあった。
毒薬を飲んで中学生になってしまった二人は、記憶まで失っている。だが、二人の言葉のやり取りを聞くたびに、根は変わらないと思えるのだ。
「うわぁ
……
すごいね!」
部屋に入ってすぐ、コナンは思わず声を上げてしまった。いったい何人分の食事なのだろうか。想像していた以上に、テーブルの上は料理で溢れかえっていた。降谷が苦笑して言った。
「今日はパーティーをしようと思って昨晩から仕込んでいたんだけど、結構な量になってしまってね。来てくれて助かるよ」
「パーティーって、何かお祝いしたいことでもあるの?」
もしそうならば、プレゼントのひとつでも持ってくればよかった。そんなことを考えていると、赤井がグラスに炭酸水を注ぎながら言った。
「今日は十一月十日。十日は俺と零君の日だからな」
「先月は何もできなかったからね。今月はちょっとそれらしくしてみようかなと思ったんだよ」
楽しそうに声を弾ませている二人を見ながら、コナンは先月の出来事を思い出した。あれから二人は、十日を記念日にすることにしたらしい。
意外と記念日にはこだわるタイプなのだろうか。テーブルの上に並ぶ料理を見ていると、降谷の気合が手に取るようにわかる。料理の他には、ホールケーキもあった。もしかしてこれも手作りなのだろうか。
「ケーキも零兄ちゃんが作ったの?」
「そうだよ。あ、イチゴを乗せたのは赤井だけどね」
「あか
……
秀一兄ちゃんが?!」
真っ白なホイップクリームの上に乗っているイチゴを見つめながら、赤井がイチゴを乗せる姿を想像してしまい、コナンは笑ってしまった。降谷もつられるように笑う。降谷は実際にその様子を見ていたので、思い出し笑いをしているようだ。
「見て、コナン君。ここまで均等な配置は赤井にしかできないよ。狙った場所に置くのがうまいんだろうね」
降谷の言葉に、コナンは思わずどきりとしてしまう。
身体が縮む前の赤井は、狙い通りの場所に銃弾を届ける、FBI随一のスナイパーだ。まるでそれを連想させるような言葉に、一瞬、降谷が記憶を取り戻しかけたのかとコナンは思ってしまう。だが、自身の発言を降谷は何も気に留めていないようだった。自然と口から出た言葉なのだろう。
「久しぶりに零君に褒められたような気がするよ」
降谷に褒められて少し照れくさそうにしている赤井と、思い出し笑いを続けている降谷。二人が毒薬を飲んだという事実が信じられなくなるほど、穏やかな時間が流れている。
冷めないうちに食べよう! という降谷の声に従って、コナンは席についた。
降谷の作った料理をお腹いっぱいに食べ、イチゴが均等に乗ったケーキも食べ終えると、夜も遅い時間になっていた。
降谷の提案で、今夜は泊めさせてもらうことになった。明日は土曜日で学校も休みなので、三人とも宿題は後回しにして、最近話題の連続殺人事件について意見を交わし合う。しだいに赤井と降谷の意見が対立しはじめ、どことなく居心地の悪さを感じて、コナンは食事の後片付けをすることにした。
手伝おうとする赤井と降谷に、「これくらい僕ひとりでもできるよ!」と言い、二人をその場に残したまま、シンクへと向かう。食事の量も多かったので、思っていた以上に片付けに時間がかかってしまったが、片づけを終える頃には、キッチンまで届いていた二人の声も、聞こえなくなっていた。
ちょうど落ち着いた頃だろうかと部屋に戻る。すると、赤井と降谷はソファに座ったまま目を閉じていた。赤井の肩に、降谷が頭をあずけている。黒の組織のことも、FBIのことも、公安のことも、すべてを忘れてしまった二人は、穏やかな表情で眠っている。
このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。コナンは寝室から毛布を持ってきて、二人の上にそっとかけた。
そこで、コナンは見てしまった。赤井の手が、降谷の手を無意識のうちにぎゅっと握りしめるのを。
「
……
零」
寝言なのだろうか。赤井の声に、コナンは目を見開く。
身体の縮んだ赤井は、降谷のことを“零君”、縮む前は“降谷君”と呼んでいたように記憶している。“零”は、特別なとき
――
たとえば恋人として二人きりでいるとき
――
に紡がれる呼び名なのかもしれない。
夢の中で、恋人の降谷と一緒にいるのだろうか。
記憶が完全に消えてはいない証拠を再び目の前にして、コナンは安堵を覚えるのと同時に、今のこの状況をもどかしいとすら思う。
今すぐにでも、二人に記憶を取り戻してもらいたい。本当は恋人同士なのに、それを忘れているのは、あまりにも切ないことだ。
だが、今はまだそっとしておくべきなのかもしれないとコナンは思った。どんなに大人びていても、記憶を失った今の二人は、ただの中学生。早く記憶を取り戻させようとしても、今はまだ、二人を混乱させるだけのような気がする。
せめて夢の中では、二人が恋人同士でいられますように。
そんな願いをこめながら。コナンは二人の寝顔を見守ったあと、静かに自分の部屋へと戻った。
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