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花月ゆき
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赤安かけた
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予知夢
予知夢を見るようになった赤安が、ある日、お互いにキスをする夢を見てしまい…
-降谷Side-
一週間ほど前からずっと、不可思議な現象が続いている。それは、夢で見た光景が現実で起こってしまうというものだ。最初はただの偶然かと思ったが、この一週間ずっと、この現象は例外ひとつなく続いている。
一昨日は、風見が何もないところでコケる夢を見た。いくら風見でもそんなドジはしないだろう。そう思ったが、昨日、夢の中の光景を再現するかのように、風見はコケた。
そして、いよいよ降谷が予知夢を疑いはじめたところで、昨日の夢である。その夢の中で降谷は、あの赤井とキスをしていたのだ。
朝、目を覚ましてからずっと、降谷は頭を抱えていた。今日は日米合同の捜査会議がある。もちろん赤井も参加することになっているので、夢が現実になるための舞台は、揃っているといってもいい。
しかしこの夢だけは、絶対に現実にしてはならないと降谷は思った。降谷は恋愛的な意味で赤井のことが大好きだが、赤井にとってはそうではない。
自分の夢が赤井を犠牲にすることなどあってはならないと、降谷はとにかく赤井から離れることを心に決めた。
-赤井Side-
一週間ほど前からずっと、不可思議な現象が続いている。それは、夢で見た光景が現実で起こってしまうというものだ。最初はただの偶然かと思ったが、この一週間ずっと、この現象は例外ひとつなく続いている。
一昨日は、キャメルがソースと間違って醤油をアジフライにかける夢を見た。フライには断固ソース派のキャメルがそんなミスをするはずがない。そう思ったが、昨日、夢の中の光景を再現するかのように、キャメルはアジフライに醤油をかけた。意外と醤油も合う、などと感想を述べるところまで、夢とまったく同じだった。
そして、いよいよ赤井が予知夢を疑いはじめたところで、昨日の夢である。その夢の中で、赤井は降谷とキスをしていたのだ。
朝、目を覚ました赤井は、気持ちの昂りを抑えることができなかった。
今日は日米合同の捜査会議がある。もちろん降谷も参加することになっているので、夢が現実になるための舞台は、揃っているといってもいい。
この夢はなんとしてでも現実にしなければならないと赤井は思った。赤井は恋愛的な意味で降谷のことが大好きで、彼を絶対に手に入れたいと思っていたからだ。
このチャンスは絶対に逃さない。そう心に決めて、捜査会議が行われる警察庁の会議室に入室し、赤井は降谷の席に近づいた。
しかし、降谷の席まであともう少し、というところで、降谷の声に阻まれてしまう。
「ここから先は僕の陣地です! 絶対に入らないでください!」
訪れる静寂。顔を真っ赤にした降谷。周囲からの注目を集める自分たち。
“夢を現実にしたい赤井”と“夢を現実にしたくない降谷”の闘いが、幕を開けた瞬間だった。
-降谷Side-
降谷の席から三メートルほど離れた場所に、赤井は腰を下ろした。互いの姿が視界に入る程度の距離。もっと自分の陣地を広げておけばよかったと後悔しながら、降谷は会議がはじまるのを待つ。
ノートパソコンを開き、会議資料の最終チェックをはじめることにしたが、赤井の視線を強く感じてしまい、どうにも落ち着かない。ノートパソコンの位置をズラし、赤井の姿が見えないように身体の向きを変えると、今度は周囲がざわっと波打つように騒然となった。
「ちょっと、シュウ! あんたフルヤに何したのよ?!」
赤井を問い詰めるジョディの声が聞こえてくる。
赤井から距離を置くにしても、もっと別のやり方があったのかもしれない。
周囲の反応を見るに、どうやら自分の言動はあからさま過ぎたようだ。かといって、今から態度を改めるわけにはいかない。この一週間、夢が現実になった確率は百パーセントである。ほんの少しの油断が事故(キス)に繋がりかねないのだ。
今の自分にできるのは、今日という一日が終わるまで、赤井から徹底的に離れ続けること。それだけである。
-赤井Side-
降谷に避けられている。気のせいだろうかと疑う余地もなく、完全に避けられている。しかも、前兆など一切なく突然にだ。
先日彼に会ってから今日に至るまで、自分は彼に避けられるようなことをしただろうか。思案しても答えは見つからない。
会議に同席しているFBIのメンバーからも、いったい何があったのか、降谷に何をしたのか、と次々に質問されるが、赤井にはこたえようがなかった。
先日、彼と会って話をしたとき、彼は至って普通で、別れ際にも特段変わったことはなかった。その後、メールを何通か送り合ったが、業務上のやり取りしかしておらず、私情が挟まるような何かがあったとは考えにくい。
ここまで思い当たる節がないとなると、自分の見知らぬところで、何かが起こったのだと考えるべきだろう。
赤井はこれからどうすべきかを思案した。
この一週間。夢で見た出来事は、必ず次の日に現実となっている。つまり、今日を逃せば、せっかくのチャンスが無駄になるということだ。
闇雲に事を起こせば、状況は悪化する。次に降谷はどう出るか。赤井は降谷の次の行動を待つことにした。
-降谷Side-
会議中もずっと赤井の視線を感じて、降谷は落ち着かなかった。このままでは会議が終わったタイミングで、赤井に捕捉されかねない。
なぜ今日に限って、赤井はこんなにも自分に意識を向けているのか。理由はさっぱりわからないが、今日一日は、何があっても赤井から離れて過ごさなければならない。
会議の内容を頭に入れながら、同時進行で、赤井の前から姿を消す方法を必死に考える。そして、考えに考えた末、降谷は会議終了と同時に、鍵付きの部屋に逃げ込むことを決めた。
「それではこれにて会議を終了いたします」
終了の合図とともに、降谷は荷物を持って会議室を猛ダッシュで飛び出す。周囲からの視線を感じるが、今はそんなことに構っている場合ではない。
案の定、赤井が自分の後を追いかけてきた。赤井が本気で走れば、おそらくすぐに追いつかれてしまう。降谷がさらにスピードを上げて走ると、赤井が背後から問いかけてきた。
「なぜ俺から逃げるんだ、降谷君!」
「あなたが追いかけて来るからですよ!」
-赤井Side-
もしここで降谷を逃したら、今日一日、彼を捕まえることはできない気がした。
降谷が本気で走っているので、赤井も本気で走らざるを得ない。
警察庁内での全力疾走。廊下で人とすれ違うたびに視線を向けられるが、今はそれらに構っている余裕はなかった。それほどまでに、降谷は必死に自分から逃げようとしている。
降谷はいったいどこへ向かおうとしているのか。彼のことだ。闇雲に警察庁内を走っているわけではないだろう。
その証拠に、降谷の走り方には、目的の場所があるように思えた。自分を撒こうと思案している様子が垣間見えるものの、目指す方向は定まっているように見える。
そして、降谷を追ううちに、赤井には彼がどこへ向かおうとしているのかがわかってしまった。
この先には、鍵付きの部屋がある。それも、ただの鍵付きの部屋ではない。銃器を使ってもびくともしない、頑丈な扉でできた部屋だ。その部屋に逃げられたら最後。外から降谷を連れ出すことは難しくなる。
-降谷Side-
降谷は赤井から必死に逃げているが、なぜか赤井も必死なようだった。赤井がそこまでして追いかけてくる理由が、降谷にはよくわからない。
なぜ、よりによって今日なのか。降谷は頭を抱えたくなる。明日になれば、赤井の前から逃げたりしないし、会議で隣の席になろうが、何の問題もないのだ。
それなのに赤井は、まるで次の機会など来ないとでも思っているかのように、“今”にこだわっている。
その理由を考えたかったが、今は赤井から逃げることに全力を注がなければならない。それほどまでに、降谷は追い詰められていた。
必死に走り続け、降谷はようやく目的の場所に辿り着く。部屋の扉を開いて振り返れば、赤井はすぐ目の前まで迫っていた。
ここで逃げ切れなければ、一巻の終わり。降谷はすぐさま扉を閉めようとした。しかし
――
降谷にはそれが出来なかった。
降谷を引き留めるために伸ばされた赤井の利き手。今閉めれば、赤井の左手が扉に挟まってしまう。
頭で考える間もなく、ほぼ反射的に、降谷は赤井を傷つけない行動を選び取っていた。
降谷が扉から手を離すと同時に、赤井の腕が伸びてくる。降谷はぎゅっと目を閉じた。
-赤井Side-
赤井は降谷の腕を強く掴んだ。降谷は抵抗したが、彼を逃すつもりがないことを態度で示すと、諦めたようにおとなしくなった。
自分に構わず扉を閉めていれば、今頃、降谷は自分から完全に逃げ切り、部屋の中で安堵の息を吐いていたことだろう。
だが、降谷はそれをしなかった。ライフルを撃つこの腕を護ることを、彼は何よりも優先してくれたのだ。
「
……
君は優しいな」
「
……
え?」
降谷が目を瞬かせ、驚いたような表情を浮かべる。自分の発した言葉は紛うことなく本心だが、彼にとっては意外な言葉だったのかもしれない。
彼が隙をみせたのをいいことに、赤井は降谷の腕を掴んだまま、部屋の中へ入った。
部屋の鍵を閉めると、ようやくそこで我に返ったのか、降谷が自分を睨みつけてくる。
「そんな顔をしないでくれ」
「いい加減、離してください!」
再び抵抗がはじまった。降谷がぶんぶん腕を振る。もちろん離すつもりはないので、降谷の腕を掴んだ自分の手も、一緒にぶんぶんと動いた。
「今日は絶対に君を離さんよ」
そう告げると、降谷はこの世の絶望を見たような顔をした。
-降谷Side-
こうなってしまっては、もうおしまいだ。赤井に腕を掴まれている限り、逃げ出すのは困難である。目の前にはもう絶望しかない。
しかし、なんとしてでも、夢の中の出来事が現実になってしまうことだけは避けなければならないと降谷は思った。
そのためには、たとえこの部屋から逃げ出すことができなくても、せめて赤井からは距離を置かなくてはならない。
「もう逃げたりしませんから、手を離してくれませんか? この通り、僕は仕事をするつもりでここに来たんですよ」
苦しい言い訳だが、赤井に掴まれていない方の腕には、会議室からかろうじて持ち帰ったノートパソコンと資料がある。仕事をすると言っても完全な嘘にはならないはずだ。
赤井はいったい何を考えているのか、自分をじっと真剣な目で見つめてきた。こちらの動向を窺っているだけではない。自分の心の中まで覗き込むような目をしている。降谷の背中にひやりとした汗が伝ったところで、赤井はようやく口を開いた。
「わかったよ」
赤井の手が離れ、降谷は思わず安堵の息をつく。しかし、赤井の手は、降谷の腕からは離れたものの、今度は別の場所に辿り着いた。
-赤井Side-
赤井は降谷の腕から手を離したが、彼を逃すつもりはまったくなかった。安堵の表情を浮かべている降谷に、赤井は再び手を伸ばす。
降谷が反応するよりも早く、赤井は降谷の手をぎゅっと握りしめた。降谷は抵抗するが、赤井は構わずに降谷を引き寄せ、自分の手を降谷のそれに絡める。
逃さないつもりでそうしたが、気づけば、世の中の恋人たちがするように、手の指を互いに絡め合わせるように手を繋いでいた。
降谷を見れば、彼は顔を真っ赤に染め上げている。怒りによるものか恥ずかしさによるものなのかはわからない。だが、
「これはいったい、どういうつもりですか?」
そう言って、こちらを睨みつけてくる彼の顔はひどく可愛らしい。睨まれてもなお、そう思うのは、自分が降谷を愛してやまないからだ。今日しかないこのチャンスを、赤井は絶対に逃すまいと改めて心に誓う。
「手錠がわりだよ」
「僕は捕まるようなことはしてません! それに、手錠のかわりに恋人繋ぎをする人間がいったいどこの世界にいるんですか!」
「ここにいるだろう?」
「あなたはひとの話を聞いてるんですか? 僕には仕事があるんです!」
-降谷Side-
赤井との押し問答が続く。
「ああ。わかっているよ。だからこうして片手だけで我慢している」
「この状態で僕に仕事しろと?」
「君が望むなら、俺の片手を貸すが
……
」
「結構です! とにかく今日だけは僕の言うことを聞いてください。明日になったら、いくらでもあなたに付き合ってあげますから」
「それは無理だ。明日ではもう遅いからな」
赤井は聞く耳を持とうとしない。
「なぜそんなに今日にこだわるんですか?」
「その質問、そっくりそのまま君に返すよ」
降谷は言葉を詰まらせた。赤井を納得させられるほどの理由が、降谷には思いつかない。赤井から逃れる術も見つからない。トイレに行く振りをしようかとも考えたが、この状況では怪しまれるだけだ。
赤井の目が、正直に話せと言っている。赤井がここまで執念深いとは思いもしなかった。降谷は大きな溜息をついた。
もはやここまでか。
「昨晩
……
妙な夢を見たんです」
「夢?」
「その夢の中で、あなたは僕と一緒にいたせいで大変なことになるんです。信じられないでしょうが、最近、僕が夢で見たことはすべて現実になっているんです。僕はあなたに不幸になってほしくない」
-赤井Side-
降谷の発言に、赤井は驚いた。まさか自分と同じように、降谷も“現実になってしまう夢”を見ていたとは。
だが、降谷と自分の願いはまったく逆のようだった。夢を現実にしたいと思っている自分と、夢を現実にしたくないと思っている降谷。
降谷がどんな夢を見たのかは知らないが、降谷の発言を、赤井は素直に嬉しいと思ってしまった。あの降谷が、自分に不幸になってほしくないと言っている。これまでの自分たちの関係を思えば、まるで奇跡のような言葉だ。
「降谷君」
「なんですか? その顔」
降谷がジト目でこちらを睨みつけてくる。どうやら、嬉しいと思う感情が、そのまま顔に出てしまっていたらしい。
「君は大きな勘違いをしている」
「勘違い?」
降谷が首を傾げる。繋いでいた手に力を込めて、赤井は告げた。
「俺が君と一緒にいて、不幸になるなんてことは絶対にない。たとえこの命を落としたとしてもだ」
「
……
え?」
降谷が驚いたような顔をする。まるで愛の告白をしているようだと思いながら、赤井は問いかけた。
「それで、君の夢の中にいた俺は、具体的にどんな目に遭っていたのかな?」
-降谷Side-
「そ、それは
……
」
降谷は口ごもる。自分と一緒にいられるのならば、命を落としても不幸ではないと赤井は言った。そんな相手に対して、偽りの答えを紡ぐことはできない。
静寂が訪れて、焦りばかりが募る。そんな自分を見て何を思ったのか、赤井が口を開いた。
「誰にも言うつもりはなかったが
……
実は俺も、ここ最近、君と同じようなことが起きている」
「え?」
「夢で見た出来事が、翌日には現実になるんだよ。ほぼ100%の確率でな
……
」
「まさか、そんなことが
……
」
まったく予想もしていなかった事実が赤井の口から語られて、降谷は驚いた。赤井は続けて言った。
「だが、君とは異なる点がひとつだけある。君は夢を現実にしたくないと思っているようだが、俺は夢を現実にしたいと思っているんだよ、降谷君」
「僕と逆だということですか
……
」
「ああ
……
」
夢を現実にしたくて、赤井はこんなところまで自分を追いかけてきたとでもいうのだろうか。
たかが夢。されど夢。
赤井にここまでさせる夢とは、いったいどんなものだったのだろう。
「あなたはいったい、どんな夢を見たんですか?」
-赤井Side-
純粋に疑問に思っているのだろう。降谷は子どものような無垢な目をこちらに向けてくる。
「教えてもいいが
……
ひとつ条件がある」
「条件?」
「俺の夢を現実にさせてくれないか? それが叶えば、俺はただちにこの場から去ると約束しよう」
「本当ですか?」
「ああ。そうすれば、俺を不幸にしたくないと言ってくれた君の厚意にも報えるだろう?」
「確かに
……
それで、あなたの夢を叶えるために、僕は何をすればいいんですか?」
「そうだな
……
まずは、俺が何をしようとも、絶対に逃げないでほしい」
「わ
……
わかりました」
降谷の目が揺れる。
「それから、目を閉じてくれ。薄く目を開くのもNGだ」
「目を
……
」
降谷の動揺が手に取るようにわかる。その場から逃げずに目を閉じろと言われれば、さすがの降谷も恐怖心を抱くだろう。相手が自分ならば尚更だ。
「大丈夫だ。君に危害を加えるようなマネはしない」
そう断言すると、降谷は戸惑う素振りをみせながらも、こくりと頷き目を閉じた。何をされるのか不安でたまらないのだろう。降谷は目をぎゅっと閉じている。赤井はゆっくりと降谷との距離を縮めた。
-降谷Side-
赤井に言われるがままに目を閉じると、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされてゆく。赤井の気配をすぐそばに感じて、降谷は胸の高鳴りを覚えた。
赤井に何をされるのか、降谷にはまったく見当がつかない。今わかっているのは、赤井が現実にしたいと思っている夢に、自分の存在が必要だということだけ。
ふと、赤井の掌に両目を覆われるような感覚が広がった。
そのときだ。強烈なデジャヴが降谷を襲ったのは。
夢の内容が衝撃的過ぎて、そこに至る過程を忘れていたが、今、自分の置かれている状況が、昨日見た夢と酷似している。
赤井を止めなければと、降谷は慌てて口を開いた。
「あか
――
」
しかし、声は途中で途切れてしまう。降谷が声を上げたときにはもう、現実が夢に追いついた後だった。
自分の唇に、一瞬、やわらかなものが触れて、去っていく。
自分の両目を覆っていた赤井の手が、ゆっくりと離れ、降谷は目を開いた。目の前には、今まで見たこともないような、幸せそうな笑みを浮かべる赤井の顔がある。
碧色の瞳に自分を映しながら、赤井は甘い響きを含んだ声音で言った。
「これが俺の夢だよ、降谷君」
-赤井Side-
突然のキスに降谷はひどく驚いたようだった。降谷は我を忘れたように、目を見開いて硬直してしまっている。
もう一度キスしてみようか。赤井が顔を近づけようとすると、降谷は慌てたように一歩後ろに下がった。降谷は激しく混乱しているようで、顔を真っ赤にして叫んだ。
「なんでお前が僕と同じ夢を?!」
今度は赤井が驚く番だった。降谷の言葉を反芻し、思わず聞き返してしまう。
「同じ夢?」
「あ、いや、今のは違
……
」
「
……
降谷君」
降谷は誤魔化そうとしたが、赤井が名を呼ぶと、彼はおとなしく口を閉ざした。居た堪れないのか、降谷は自分と目を合わせようとはしない。
視線を落とした降谷に、「正直に話してくれないか?」と、顔を覗き込んで問いかける。
降谷は辿々しい声で呟いた。
「
……
おんなじでした」
「
……
君の見た夢と?」
「
……
」
声には出さず、降谷はこくりと頷く。赤井は降谷に問いかけた。
「君は俺を不幸にしたくないと言っていたが
……
今の俺を見て、君はどう思う?」
「
……
」
赤井の言葉に、降谷が顔を上げる。赤井は微笑んで言った。
「
……
今の俺は、世界一幸せな男だよ」
-降谷Side-
「
……
」
幸せだと言って微笑む赤井に、降谷は自分の顔がさらに熱くなってゆくのを自覚する。
赤井は続けて言った。
「だが、俺だけが幸せになっても意味はない。君の気持ちはどうなんだ? もし君の嫌がることをしたというのなら謝罪するが
……
」
本気で嫌そうな演技をしてみせたところで、赤井にはきっと、すべてを見抜かれてしまう。
赤井のことだ。答えをわかっていながら、訊いてきているのだろう。
その証拠に、赤井は深い碧色の瞳を期待に輝かせている。「君のその顔、期待してもいいのかな」とでも思っているに違いない。
こんなときでさえも、赤井に敵わないことを思い知らされてしまい、降谷は悔しい気持ちでいっぱいになる。
だが、それ以上に
――
今の降谷の心の中は、泣きたいくらいに嬉しくて、幸せな気持ちで満たされていた。
「嫌じゃ
……
なかったです」
胸の内を素直に打ち明けるのは、どうも気恥ずかしい。降谷にとっては、これが精一杯の言葉だった。
それを理解しているのだろう。赤井は満足そうな笑みを浮かべている。
「そうか」
そう呟く赤井に、降谷は不器用に小さく微笑み返した。
-赤井Side-
赤井は顔を真っ赤にした降谷と視線を交わし合う。降谷は独り言を呟くように言った。
「僕はあなたの恋愛対象にはなり得ないと思っていたのに
……
」
「だから君はあんなことを言ったのか。君の夢が現実になれば、俺は不幸になると
……
」
「ええ。好きでもない人とキ
……
こういうことをするなんて、不幸以外の何ものでもないでしょう? それなのに、まさかこんなことになるとは
……
」
自分が降谷に好意を持っていることは、FBIの仲間にも、おそらくは公安の人間にも、すでに気づかれている。それは降谷に対する自分の態度が、明らかに恋愛対象として意識しているものだからだ。
しかしどうやら、降谷自身は何も気づいていなかったらしい。
「まさか君がずっと気づいていなかったとはな」
「
……
え?」
「俺はずっと前から、君のことが好きだよ。
……
降谷零君」
そう告げて、赤井は再び降谷の唇を奪う。降谷は驚きに大きく目を見開いたが、赤井を受け入れるように、瞼を下ろした。
赤井は優しく触れるつもりだったが、だんだんと歯止めが効かなくなってゆく。
舌で降谷の唇をなぞると、降谷はびくりと肩を震わせた。
-降谷Side-
夢心地の最中。深まるキスに意識を手離しそうになったところで、降谷は我に返った。キスの余韻に目眩を覚えながらも、降谷は慌てて赤井から離れる。
「ダ、ダメですよ、もう! ここをどこだと思ってるんですか?!」
「君と二人きりになれる“秘密の楽園”といったところかな」
「違います! 職場ですよ! 職場!」
顔だけではなく、身体まで熱くなってきたような気がする。このまま赤井とキスを続けていたら、職場で取り返しのつかないことをしてしまいそうだった。
「
……
君は本当に真面目だな」
「と、とにかく、もう戻りましょう? こんな場所に二人きりでいたら、怪しまれてしまうかもしれません」
「今更だと思うがな
……
」
そう呟く赤井の手を引いて、降谷は部屋の出口へと向かう。扉を開く前。赤井と恋人繋ぎをしている手を離すと、赤井が名残惜しそうに言った。
「まるで夢のような時間だったよ」
赤井の言葉に、降谷は俯いてこたえた。
「
……
また、現実にしてください」
恥ずかしくて顔を上げることができずにいると、赤井が耳元でこう囁く。
「ああ
……
今度は君の隣で、君と同じ夢を見たいよ」
それはつまり
――
赤井の言葉を理解した途端、降谷は再び赤井から逃げ出したくなった。
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