千代田クラスタとの戦いは正直あまり分が良いとは言えなかった。足を踏み入れて生きて帰ってきた者はいないと言われる謎のクラスタ。残忍卑劣な王が治める千代田は戦力も不明、能力も不明。情報収集も作戦も何もなく、わからないことだらけで突き進み、行き当たりばったりで敵と刀を交えた。途中途中で仲間に道を開けてもらいながら、キザミとブレイドは千代田の頂に辿り着いた。姿を拝んだことがなかった千代田の王の姿をやっと目の前に捉え、その隣に匁が控えていた。
ブレイドはこれまでの戦いで昂った気持ちを抑えきれないと言わんばかりに王に向かっていく。キザミも後を追い、王を庇う匁と相対した。
「戻って来い! 匁!」
匁は余裕そうに笑っている。見下したようなこの表情が、匁らしさとも思っていたが。
「戻るも何も、匁は元より千代田の血。ここ以外に寄るところなどない」
ブレイドを片手で退けた千代田王がこちらを見て笑う。その笑い方がそっくりで、キザミは気味が悪いと思った。
千代田王を目で追う。視界の端で匁が笑った。
「……そうですね」
「匁!」
匁のフードがふわりと落ち、髪が揺れる。
「仲間ごっこにも、飽きてしまいました」
長い前髪の間から覗く瞳は子どものように無邪気で。
匁はにっこりとキザミへ笑いかけた。
「貴方の首でも手土産に帰りましょうか!」
「っ!」
黒いマントがはらりと落ちるかのように、低い姿勢からの一閃。透き通った流水死命が千代田王の髪を、皮を撫でた。
はたと落ちる髪を残して、飛び退けた千代田王が押さえた首元にぬるりと血が滲む。
「匁、お前裏切ったのか……っ!」
「裏切ってなんかいませんよ、僕は初めから渋谷の、……いえ、今は新宿の鬼です」
剣先に付いた汚れを指で拭って、匁は千代田王を見下ろした。首元に当てた千代田王の手指を赤が染めていく。匁は、惜しかったなあ、と呟いた。
「ッ……お前は人のくせに!」
「人が、鬼を騙ってはいけませんか?」
流水死命を撫でながら匁が笑う。煽るような、冷えた笑顔に千代田王は奥歯を噛んだ。
匁は、ふふ、と口元を押さえる。
「千代田王、貴方では足りないんです。僕を救ってくれるのはそこの彼らしいので」
視線がキザミへと向かい、そして千代田王を捉える。
「貴方は、僕には必要ありません」
にこりと笑う表情はその声に似合わず凍るように冷ややかだった。
千代田王は半歩後退し逃げ道を探したが、背後には戦闘への熱を持て余したブレイドが陣取っていた。千代田王は額に脂汗を滲ませ、形勢の不利に歯軋りした。
匁はくるりとキザミへ向かう。キザミは先ほどのやりとりから一瞬ひやりと背筋を伸ばしたが、匁の企みを含んだ表情を見て、ニッと笑い返した。
「期待していますよ、キザミさん」
「ああ!」
二人は同時に地面を蹴った。
炎と水が千代田を襲い、城は瞬く間に崩れ落ちた。
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