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望月 鏡翠
2025-09-15 23:56:39
959文字
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日課
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#1847 朝の銭湯
#毎日最低800文字のSSを書く
熱い湯に肩まで浸かると、眠っていた体が一気に目覚めた。体が湯の温度に馴染むと、疲れと関節の怠さが溶け出して、隅々まで血が巡る。
「あー生き返る」
口をあけ、息と一緒に呻くような声を漏らす。天井の水滴が、つながって大きくなり、一滴一滴不規則に落ちてくる様に見るともなしに目をやっていた。
喉元に別の利用者が湯船に浸かったときに起こした波を感じ、萬木は投げ出していた手足を行儀よく引っ込めた。
「ヨロ、珍しいじゃないか」
わざわざ隣に来るのは誰かと思えば見知った顔である。同じく狩人の男だが、彼は萬木よりも堅実な生き方をしている。
荷や人を守ることに徹し、妖怪を退治するまでは目指さない。深追いせず里に降りてきたものとだけ戦う。その分稼ぎは減るので、仕事をしている期間が長い。
街に寄ったときは用心棒もやっているというから、その仕事終わりなのだろう。
朝一番の銭湯は、普段より狭く感じる。その時間帯にやってくるのは夜通しの仕事をしていた男たちで、火消しか夜廻か、あるいは博打打ちや用心棒。いずれも体を鍛え上げた男たちで、立っているだけで存在感と圧が強い。
「狩りに出ていたのか?」
「んなわけないだろ。叩き出されちまうよ」
「それもそうか」
萬木の狩りは長ければ一月以上山に籠り、獲物を追う。戦いで血みどろになり、死肉を担いで帰還する。人間の臭いを消すため、泥に塗れたり獣のフンを使うこともあり、街に戻る頃には悪臭と汚れの塊と化している。銭湯に入れてもらえるわけがない。
まずは何日かかけて川で獣のような臭いを落としてから、ようやく風呂に入ることができるのだ。
「そろそろ一仕事しなけりゃならんと思っていたんだ。何かいい話はないか?」
「あっても同業に漏らすわけがないだろ」
「そういうなよ。俺とお前じゃ同業というほど獲物は被ってないはずだ。あんたらが手に負えないと判断した妖怪。遺棄された村。そういう話を知らないか?」
男は狩人であり、傭兵である。
しかし、世帯持ちであり萬木のような生き方は理解ができない。
仕事で命をかけなければいけないときがあることは受け入れていても、進んで命を危険に晒したいとは思わない。
理解出来ぬ者に対する内心の軽蔑の態度を滲ませながらも、彼は教えてくれた。
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