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kanaco
2025-09-15 23:15:55
2494文字
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【十二信】君は幼馴染み!
《十二信》セクハラをかまされた信一くんを見て怒っちゃった十二くんが決意するおはなし。
それは『静かなる激昂』といって差し支えなかった。
言葉としては相反しているかもしれないが、冷静だし興奮していたのだ。信一だけにはそれが分かった。
肉食獣のように鋭い三白眼が大きく見開らかれていたが、どちらかといえば真顔と言ってよかった。気さくに笑う十二少しか知らない可哀想な連中は、その気迫に圧倒され、それこそ虎に睨まれた草食動物のように身を固まらせている。
そんなに怒らないでも
…
などたしなめることもできず、信一は口をつぐんで静観した。目線だけを動かして十二の動きを追う。
信一の隣にいる男の頭上へボトル入りのミネラルウォーターを上からドクドクとかけ続ける。もちろん祝杯ではない。十二に睨まれて動けない男は、自分が持ってきたそのドリンクをひたすらに浴び続けた。瞬きすることさえ許されずに、ただただ身をビショビショに濡らしていく。
確かに不愉快だった。
酔っぱらいのウザ絡み。酒臭い息を首筋に吹きかけられて、男の手がさらりと信一の尻を撫でた。ただし彼は友人で知らない人間ではなかった。今日は九龍城砦にかつて住んで、様々な理由で出ていった同世代の友人たちとの久しぶりの集まりだったのだ。九龍城砦の空き部屋に集まった男子ばかり5人ほどの飲み。そのうちの1人がまるで信一を口説くように接して、堂々とセクハラをかましたのだ。
信一だってちゃんとキレていた。でも一応友人であるし、酔っぱらいの戯言ではある。調子に乗っただけ。おそらく明日には自分が何をしたか忘れている。
同窓会のような場を破壊するほどではないとグッと我慢したのが、おそらく良くなかった。ついでにゾワっとして変に体をくねらせたのもいけなかった。
追加の参加者である十二少がドアを開いた瞬間この光景を見て、一秒で沸点を突破した。
無言のままズカズカと歩くとテーブルのビンを持ち上げての、このありさまである。酔っぱらいの目を覚まさせるためだとしても荒療治であった。
凍り付いた部屋の中、十二はやがてボトルの水が全て落ち切ると無表情だった顔を愛嬌たっぷりの笑顔に切り替えた。実に完璧な、まるで大輪の花が咲いたようなニッカリした笑顔だった。そしてその笑顔のままにガラスでできたボトルをテーブルに力いっぱい叩きつけた。
すごい音を立ててガラスが割れ飛び散るのと一緒に、信一以外の人間が飛び上がる。セクハラをした友人は、もはや腰を抜かして床に座り込んでいた。
(あーあ)
信一は思う。
(もうこいつらと会うことはないかもなぁ)
別にいいけど。どうしても繋ぎたい縁っていうわけではないし。それに性的な視線、ぶっちゃけウザかったし。
「信一」
十二が名前を呼ぶ。
「帰るぞ」
そう言って十二が手を差し伸べるので、信一は素直にその手を取った。部屋を出てドアも閉める。これで縁切りだ。扉は隔てたのだ。十二はそのまま信一の手を引っ張りながらズンズンと前を歩いていく。顔は見えない。しかし背中を眺めているだけでも信一には十二が怒っているのが分かる。
そして信一は「ふふ」と笑った。
それが聞こえたのか、十二はピタッと歩みを止めた。そしてゆっくりと振り向いて信一の顔を見た。十二の表情は憤っているというよりは、今はもう少しなだらかで、しかし腹に据えかねてはいるようだった。でも少しだけぷぅと子供みたいに頬を膨らませているのは無自覚なのだろうか。機嫌は悪そうだが、拗ねている顔だ。ちょっと決まりが悪そうにしているのが信一には可愛く見えた。
「サンキュー、十二少。正直うざかったのさ」
そう言ってやれば、握っていた手が離れた。十二は腰に両手をあてて文句を言う。
「お前な、油断しすぎだし隙あり過ぎだろ」
「まぁ、酔っぱらいのやることだからさぁ」
「ふざけろよ。アイツ、昔っからお前に気が合ってベタベタベタベタベタベタ」
信一は肩を竦めた。
「なんだよ、お前の言う通りアイツって昔からそうじゃん。それともなんか前に嫌なこと言われりしたのか?」
ずいぶんと引っかかってるじゃん、と問う。十二は感情のコントロールは長けている方なので感情的に振舞うことはほとんどない。先ほども暴れたという程ではない。しかしそれ以上の恐怖を場に与えていたから、普段よりは感情的だった。
十二はしばし黙った。難しそうな顔をして、それからキッと信一を睨んだ。睨まれた信一が目をパチクリさせる。
「お前はもう、あっちからもこっちからも虫がたかる!俺がどんなに心砕いても注意をしていても、ほんっっっとぉーおにキリがない!」
「へ?」
「聞け。俺はなぁっ」
十二が仁王立ちをした。信一に顔を逸らせることを許さぬ真剣な瞳。それからズバリと信一の顔を指さして、心に決めたように言い放った。
「お前との関係を”ただの幼馴染だろ”なんて言われるの、もう飽きたっての!」
だからな。
十二が大股で近づいてくる。信一がポケッと突っ立っていると、そのまま目の前にやってきた。そして。
ちゅぅ!!!
重なった唇。目を吊り上げた十二の真っ赤な顔があまりにも近いところにある。その口は触れたかと思ったらあっと言う間に離れた。
「覚悟しろよお前!!」
そう怒鳴られて信一が「ふぁ!?」と上半身をのけぞらせる。十二はそれを無視してクルリと後ろを向くと、ドカドカと足を踏み鳴らしながら信一を置いて歩いていってしまった。背中が再び怒っているように見えるが、耳がとんでもなく真っ赤だ。
残された信一がぽかん、として呟く。
「いやお前それ怒ってんの?恥ずかしがってんの?」
っていうか
……
。覚悟だって??
はい?まじ?
そっと、指先で下唇に触れる。夢じゃない。先ほどの感触はしっかり残っている。信一はふんわりと笑った。
俺は知らなかったけど。そしてお前も知らなそうだけど。もしかして俺たち、両想いってこと?
その気づきを確証に変えるため、信一は軽やかな足取りで駆けだした。それから前を行く幼馴染の背中を抱きしめようと手を伸ばしたのだった。
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