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Hizuki
2025-09-15 20:51:31
2363文字
Public
あんスタ[零薫他]
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季節の狭間の青春ごっこ
【あんスタ】零薫。ミーティングの買い出しに出た2人の話。夏と秋の間で。
「これくらいでいいかな?」
持っている買い物かごの中を軽く見て、零くんに尋ねる。ペットボトルのコーヒーを四本と、簡単につまめる個包装のお菓子が入った袋をいくつか。甘いものと塩気のあるものと両方にして、好きなものを選べるようにした。
「そうじゃのう。多くても余らせるだけになってしまうし、よいじゃろ」
「だね。お会計して戻ろっか」
それでも余ったら欲しい人で持って帰ってもいいし、寮の共有スペースにでも置いておけばみんなが消費してくれるだろうとも思いつつ、レジの方に足を向ける。
俺と零くんはこの後の晃牙くん、アドニスくんとのミーティングのための買い出しに来ていた。最近は個々の仕事が多くて、全員で顔を合わせる機会がなかったから、ちょっと一度集まろうか、という話になって。要はミーティングという名目の、交流会のようなものだった。しばらく先の話ではあるけれど、新曲リリースの話も出ていて、そのための簡単な打ち合わせ、というところでもある。
「あ、新しいの出始めてるんだ」
レジまでの通路にあった、季節限定のお菓子の棚の前で足を止める。パッケージに使われている色は黄色やオレンジ。描かれているものは栗や芋にかぼちゃで、季節の移り変わりを感じさせる。
「もう秋だねぇ」
ついこの間まではレモンだのミントだのメロンだの涼し気な感じだったというのに、あっという間に変わっていくなぁとしみじみしてしまう。
「え!?まだ全然夏じゃけど!?」
そんな俺の独り言に、隣から即座に突っ込みが入った。ぎょっとした顔で言う零くんの様子がおかしくて、つい噴き出してしまった。
「ふふ。お菓子は、って話だよ」
「
…
分かっとるけども。しかし、またあの暑い中を歩くのかと思うと気が重いわい
…
」
零くんが言う通り、外の気温は人の体温に近いくらいまで上がっている。事務所で車を借りられればよかったのだけど、タイミングが悪くて今日は全部出払っているとのことで、おとなしくできる限りの暑さ対策をして歩いて出てきた次第だった。本当に秋なら建物の中はこんなに冷房を効かせてはいないし、外だってもう少し涼しいはずだ。そうなるのはまだまだ先のことで、零くんが溜め息を吐くのも無理はない。秋のお菓子はまた近いうちに見に行くことにして、思考を今に戻す。
「じゃあ、帰りに食べるアイスも買ってこ?何もないよりはマシじゃない?」
「うむ
…
そうじゃな
…
。薫くんに任せるぞい」
踵を返して冷凍食品のコーナーに向かう。そして、アイスが詰められた冷凍ケースの前で、どれにしようかと視線を滑らせる。零くんは日傘を差すから、スプーンがいるカップアイスは最初から除外。棒付きやコーンのものでもいいけど、外の気温で溶けてしまうことを考えるとそれも候補から外れる。そうなると数は大分絞られてきた。冷凍ケースの中を見回して、その中から二個セットになっているフローズンタイプのものにすることにした。これなら片手でも食べやすいし、ゴミも外の袋に入れておける。
お会計を済ませて外に出ると、すぐに中の涼しさが恋しくなるような暑さだった。青い外装の袋を開けて、一つに繋がっている中身を取り出して二つに割った。
「はい、零くんの分」
「ありがとう、薫くん」
輪っかに指を引っかけて封を開ける。あまり行儀はよくないけれど、ふたの方に少しだけ残ったものもすすってしまう。零くんも俺にならって同じように封を開けた。二つのふたはパッケージの袋に入れて、ひとまず買ったものを入れた袋の中にしまっておく。口を付ければ、さっぱりとした爽やかな味と冷たさが広がった。コーヒーの方が定番の味だろうけれど、今日みたいな日はこっちの方が正解だと思う。
「さ、戻ろっか」
日傘で直射日光を避けているとは言っても、零くんにこの状況は辛いだろう。零くんも頷いた。外にいても暑いだけだし、ひとまずESに戻れば涼しさは約束される。それまでの辛抱だと言い聞かせて歩き出した。
「
…
不思議な感じじゃのう」
「ん?」
赤信号に足を止めた零くんが、ふとそう口にした。
「学院にいた頃、愛し子達がこんな風にアイスを食べながら歩いて帰っておるのを見かけたことがあるが、今それを自分が薫くんとしておるとは
…
」
「あ~、確かに夏の青春って感じだよね~」
「あの子達の気持ちが少し分かったような気がするわい」
中身が半分ほど減った手元のアイスを見ながら、零くんはしみじみと言う。確かに零くんの立場を考えれば、こういうことは難しかったのかもしれない。スーパースターだの、五奇人だの、人目を集めることが多かった身。それこそ、普通の高校生がするようなことを、彼は経験できていないことが多いような気がする。夏のことに関しては本人の体質によるところもあるのだろうけれど。
「ま、俺達は卒業しちゃったから制服じゃないけどさ」
暑いと言いながら食べるアイスは実に夏らしい。とはいえ俺達はもう学生じゃないし、仕事として着る可能性はあるにしても、プライベートではあり得ない。
「着るかえ?」
「え、冗談でしょ?」
「くくく、そういう『青春ごっこ』も悪くないじゃろ?」
軽い調子で投げかけられた問いに、俺も笑いながら答える。学生じゃなくなった今の俺達なら『ごっこ』のようなものだ。気が向いたらね、と曖昧な答えで流した。どこまで本気なのか分からないけれど、零くんがやりたいと言うなら応えるのも悪くない。ただし、人目につかないところで。
「
…
ああ、おいしいのう」
「うん。おいしいね、零くん」
ビルの合間に見える青い空と白い雲。アイスに付いた水滴が手を伝う。信号が青に変わって、並んで歩き出す。ESはもうすぐそこだった。
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