もろ餅
2025-09-15 20:28:50
1616文字
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巡り逢う瞳は飴模様 前日譚

一番最初にいれようと考えているお話。
絵を見なくても話がわかるようにしたくて、蛇足なのは分かってるんですけども…


 亥の刻の半。
 灯篭の微かな光に当てられ、揺れる影が二つ。

 何度目か分からない同衾の始め、性急に服を脱ぐキザミの顔を見ながらブレイドは不満そうに呟いた。

「なぁ、それ取らねぇの?」
「それ?」

 「それ」と言いながらちょいちょいと左目を指差す仕草に、キザミの表情は強ばった。「イイもんじゃねぇよ」とひしゃげた顔には動揺が滲んでいる。
 白い肌と淡藤色の髪、色素の薄い頭部で一際目を惹く烏黒の眼帯。寝間着の時も湯浴みの時も、恋仲になった後でさえ、ブレイドは一度もその下を見たことがなかった。
 
「嫌か?」
「嫌っつーよりも引かれそうで
「なーに言ってんだか。俺はキザミの全部を知りてぇんだよ」
「でも」
「全部知って、全部愛したい」

 キザミの頬に手をやって上を向かせ、眼帯にキスをした。明らかな拒否反応がないのをいいことに、後頭部にある結び目を解いていく。

「それ、ご開帳~」
「あ………
……

 はたりと、ブレイドの動きが止まる。

 覗いたのは右目とは異なる瞳。山吹の花のように鮮やかな赤みを帯びた黄金。俗にいう妖瞳というものだった。
 咄嗟に言葉が出なかったのは、それがあまりにも綺麗だったから。瞳を覆う水の膜が光を反射し、星屑のように光り輝いて、見惚れてしまった。

「わりぃ妖瞳なんて むくつけだろ」

 今でこそ沢山の人や鬼が行き交う東京では様々な見た目の者が数多く見られる。
 しかし、キザミはもともと田舎の小さな村の出身だ。村八分にされたため飛び出して来たのだとか。それ以上は詳しく教えられていないものの、昔ながらの風習が残る地域では片三本の角と妖瞳の鬼はよほど異彩だったのだろう。

 なんて勿体無いことをするのか。
 何処がむくつけだというのか。
 蔑ろにした村人は見る目がない。

 普段のような矜恃が欠けても瞳は望月のように光り満ちている。嗚呼でも、月よりも美しいそれを、何と言葉にしよう。

綺麗だな」

 そうだ、いつかの逢瀬で共に食べたもの。
 キザミが笑顔で食ってたあの和菓子。


「鼈甲飴みてぇですげー綺麗だ! 俺と同じ真紅もいいが、その瞳も俺は好きだ!」


 思い出補正だろうか。それでも、顔を綻ばせるキザミと手元の鼈甲飴は月よりも綺麗に見えたから。
 目を真ん丸にして驚いているキザミが可笑しくて、それ以上に愛おしくて。昂る気持ちを抑えながら、ブレイドはキザミの頬に手を添え目尻を撫でた。

「ブレイド……
「なぁ、今度また食いに行こうぜ。鼈甲飴」
「っ
「風の噂なんだが、あそこのおばちゃんは煽てたら飴の大きさ倍にするらしい」
「はははっ! そうだな! うん、行きてぇ」
「っし、決まりだな!」

 本当は一緒に過ごせるだけでいいけれど、なんて。二人で笑い合うそこに、仄暗い気持ちはもう欠片も無い。
 迎えられる腕に導かれるまま、ブレイドはキザミを押し倒した。

「まぁ、先にこっちを食ってくれよ?」
上等」

 「鼈甲飴より甘い」なんて戯言を吐きながら鎖骨に吸い付き首筋を舐め上げると、上から熱の篭った息が降ってきた。

「別に、あまくない、だろ
「いーや? 極上だわ」
「たわけ」

 この時間だけを箔の付いた唐櫃に閉じ込められたら、どれほど良かったか。


「好きだ、キザミ」
俺も好き」


 愛の言葉を囁けば、返ってくるのが当たり前だと思っていた。現を抜かすほど媾いお互いを求めた。痕を付け過ぎだと睨まれてまた笑い合った。

 大切な人はずっと隣にいて、巡る季節を共に歩み、来年の約束を当然のように交わすものだと誰もが考えている。ブレイドもまた然り。
 また訪れるはずだった幸せな日常。
 そこには当然、唐櫃なんてものは無いから。


 共に過ごす最後の夜になるなんて、ブレイドは思いもしなかった。