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匣舟
2025-09-15 19:33:14
3661文字
Public
RKRN
恋は瞬きの隙に
転生パロ・女体化
記憶なしの団が乱(記憶あり)に一目惚れをする話の①
前世で男だった私は、なぜか二度目の人生を女として歩んでいた。人生は一度きりだからこそ美しく儚いとキラキラオーラを常に纏っていた誰かが言っていたのに、私はもう一度それを経験している真っ最中である。
しかも自分がもう一度産み落とされた世界は、前世の私が死んだ時より遥か先の未来だった。前世私たちが歩いていた土道は今、アスファルト舗装された道になっており、昔は歩きや馬に乗って移動するしかなかった交通手段も今や車やバス、電車を主流としたものに移り変わっている。記憶が戻ってからそれらを見た時の衝撃は、一生忘れることなんてないと思うし、映画でよくある昔の人たちがタイムスリップして現代にきたという考えを題材にした映画を見た時はそのリアクションに激しく同意したものだ。だって、私も同じようなリアクションをした記憶があるから。
前世と性別が変わってしまった私の名前は猪名寺蘭。前世は一流の忍者になるべく忍術学園へと入学した猪名寺乱太郎という人間だった。
―
今日は朝からなんだか朝からついていなかった。前世の不運体質とはもうおさらばしたはずだと思っていたのに、今日だけはとことんその不運体質を引き継いだかの如く小さな不運が蘭のもとに少しずつ降りかかってきたのだ。
まず、朝起きると携帯のアラームが機能しておらず、朝寝坊をしてしまった蘭。そのまま飛び起きた蘭は急いで準備をして最寄りの駅まで全速力で走った。前世で韋駄天と言われていた乱太郎の足は女に生まれ変わって蘭になっても未だに健在で、陸上の現役選手と渡り合えるくらいのスピードで走り、いつも自分が乗っている電車が目の前に見えてふっと気を緩めた瞬間、電車の扉が閉まってしまうという不運っぷりを発揮してしまう。
それを皮切りに観光客に観光名所への行き方を聞かれてそれを断れなかった蘭はそこまで道案内をしたり、雨の予報なんてなかったはずなのに通り雨が降ってきたりと本当なら韋駄天の走りで間に合うはずだった一限目の講義に遅刻し、しかも遅刻をした講義の教授は遅刻に煩いひとであったため、講義室を埋め尽くしている大観衆を前にして教授から苦言を呈される羽目になった。
「はぁ。」
大学からの帰り道で今日のことを思い出してとぼとぼと足取りを重くしながら歩いて落ち込んでいる蘭。彼女に降りかかる不運は朝だけではなかった。
昼には蘭がいつも食べている食堂のAランチが目の前で売り切れるし、携帯の充電が切れたり、パソコン必須の講義にパソコンを忘れてしまうし。本当に今日という日はついていなかったのだ。
前世のことを思い出すと、不運って伝染するっていうし、明日からもこんな小さな不運が続くのかなあ。ととぼとぼ自分が住んでいるアパートに歩きながら、今日のご飯は何にしようかなぁ。なんて歩いていると、後ろからいきなり腕を掴まれる。
(な、なに!?)
いきなり腕を掴まれたことで驚きのあまり固まってしまう蘭。誘拐?もしかして強奪とか
…
?という最悪な考えが頭を駆け巡る。とりあえず、相手からのアクションを待って何か仕掛けてきたらこっちも攻撃を仕掛けよう。と前世の忍者としての職業柄みたいな考えを出している蘭の耳にかつて聞いたことのある懐かしい声が入ってきた。
「ねえ、きみ。大事な家の鍵、落としたよ?」
その声を聴いて驚きつつも平常心で蘭が後ろを振り向くと、前世乱太郎として生きていたときに六年という月日を級友として苦楽を共にしてきた加藤団蔵が昔と変わらぬ姿で、蘭の住んでいるアパートの鍵と一緒についている苦無と手裏剣をモチーフにしたマスコットを持っていた。
前世の記憶を持っている蘭は初めて今世で前世にいた人と出会ったことから、思わず団蔵~っ!久しぶり~っ!と抱きつきたくなったが、その衝動を抑えてぶっきらぼうにありがとうございます
…
。と返した。
ぶっきらぼうになってしまったのは、自分は目の前の団蔵のように同じ姿で同じ性別で生まれていないので彼が、猪名寺乱太郎だと認識してくれるかどうかわからないし、そもそも目の前の団蔵がそっくりさんかもしれないし、本人だったとしても彼に自分と同じように前世の記憶を持っているかすらも分からない。
もし、団蔵が記憶を持っていたとして、団蔵~!と呼びかけて自分のことを認識してくれる確証があるなら彼の名乗っていない名前を呼んでもいいと思うが、今呼んでみろ。なんで名乗ってないのに自分の名前を知っているのか。という不安を煽るだけかもしれないので、蘭は精一杯、他人になり切った。
そんないろんなことをグルグルと頭で考えている蘭の心情を知らない団蔵は、いいよ~。もう落としちゃだめだからね。と蘭の差し出した手に家の鍵を手渡した。本当に今日はとことん不運でしかないな。なんて考えている蘭に団蔵は笑って衝撃的な言葉を蘭へと投げかけた。
「ねえ、きみ。」
「
…
?はい。」
「俺さ、」
きみに一目ぼれしちゃった。だから、俺と付き合ってくれない?という団蔵の爆弾発言に、蘭は驚きつつも、目の前の男は団蔵であると確信するとともに、蘭の頭の中に浮かんでいた仮説が一つ、確証に変わった。
…
もしかしてしなくとも団蔵、記憶がないな
…
?と。
…
というか記憶があろうがなかろうが、私の性別が変わっているから、私が乱太郎ってわからないのか
…
?でも記憶があったらわかるはずだと思うんだけどな
…
。という混乱から来る一人脳内会議に集中している蘭を他所に団蔵は話を進める。
「あの、さ。いきなりだし、きみが混乱してる気持ちもよく分かるんだけど
…
、返事だけ聞かせてくんない
…
?」
思いのほか真剣なまなざしで自分のことを見つめてくる団蔵に、彼の一目惚れをしたという信憑性が増してきたことにより、蘭はマジか、こいつ
…
。という目線を向けざるを得なかった。というか、自分が今告白をされているというのにどこか他人事のように捉えている蘭も蘭なのだが。
しばらく団蔵から掴まれている家の鍵を見ながらもう一度一人脳内会議に耽る。いろんな考えをしてそれはないな。と消しながら、たどり着いた答えは結局、団蔵には申し訳ないけど断るという結論だった。心苦しいのは確かなのだが、いつ彼の身に前世の記憶が戻るかわからないし、戻ったとして彼が自分と付き合っていたことを知った時、どういう反応をするのかを考えただけで怖くなってしまったからだ。お前と付き合ってたの!笑えるな~!なんて笑われてしまったらきっと傷つくことは目に見えているし、それで責任を取る!と言われても嫌だし、そもそもこの広い世界の中には自分より団蔵に見合う人がきっといるかもしれないという考えから来た結論だった。
「初めてお会いしたばかりで、あなたのこと、何も知らないので
…
。」
だから、ごめんなさい。と謝罪をしながら頭を下げると、やっぱりそうだよなぁ。変なこと言っちゃってごめんな。と爽やかな笑顔で蘭の謝罪を受ける団蔵。本当に実直な性格は前世と変わらないなぁ
…
。なんて思いながら反射的に団蔵のことを考えていたので彼の方に目線を向けると、爽やかな笑顔から一変、悲しそうな顔をしていたので無意識に彼の方に伸ばそうとしていた自分の手を無理やり引っ込めた。
(私は、猪名寺乱太郎じゃ、ない。)
今の私は猪名寺蘭で、前世の記憶を持っていない団蔵とは赤の他人。そう自分に言い聞かせた。蘭は悲しげな団蔵の顔を見て心が痛んだが、自分の下した決断は正しいのだと無理やり自分を納得させて、団蔵が掴んでいる自分の家の鍵をそっと引き抜いた。
「それじゃあ、私、失礼しますね。」
家の鍵、拾ってくれてありがとうございました。と軽く頭を下げる。すると団蔵はさっきまで纏っていた悲しい表情を瞬時に消して、無理やり作った明るい笑顔で気を付けて帰ってな。と返事をした。
関われば関わるほど本当に何も変わってないなあ。と無意識に微笑むと団蔵の口がほのかに開いた。
「ねえっ、また会えるっ!?」
もう彼に関わることはないんだと思いながら、今度こそ家に帰ろうと彼に背を向けた途端、後ろからいきなり質問を投げかけられ、反射的に振り向くと真剣な目でこちらを射抜く団蔵の瞳が蘭の瞳に問いかけていた。
蘭は少し考えた後、断ってばかりもあれだし
…
。でもまあこの広い世界の中でもう会うことなんてないから
…
。なんて考えながら、このままこの場にいたら連絡先まで聞かれるかもしれない!と思い、た、多分
…
?と言い残して韋駄天の走りで急いでその場を去った。
「つ、疲れたぁ
…
。」
家に着くなり真っ先に倒れるようにベットに横たわった蘭はぼんやりと天井を見つめる。蘭の脳内には今日の不運体質により起こった出来事よりも、さっきの出来事が彼女の脳内に駆け巡っていた。
「~っ、こういう再会は望んでないっっ~~!!」
蘭渾身の大声が、彼女がいつも使っている掛け布団の内部に吸い込まれていった。
続
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