human_hamster
2025-09-15 16:22:19
2838文字
Public 💌
 
1670556

甘くて苦いベルモット

※🤡ズデリバリーでアナリストをやってる夢主
※夢主は🤡のことを「座長」と呼びます

ナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエナマエ

「お〜ゥ、飲んでるかァ、ナマエ……って、なんだおめェ!こんな時まで仕事か!」
バーカウンターの端席に座っていたナマエは、広げていた地方紙を下ろし、バギーが差し出してきた木樽のジョッキに水で乾杯をした。
「座長。……地方新聞はなかなか読む機会がありませんから。なるべく目を通しておきたいんです」
大きな契約の話があり、バギーズデリバリーの一行は契約締結の帰路、適当な島に寄ってどんちゃん騒ぎの宴をしていた。そんな中でも、アナリストを勤めているナマエは、情報の収集に余念がない。酒場のバーカウンターでマスターに色々と聞き込みをし、地方紙を見せてもらって黙々と仕事をしていた……が、本当はバギー以外と話すのが億劫なだけだ。宴席では、特に座長のバギーは引っ張りだこである。それに、仕事の合間に、席から席へと飛び回っている派手な帽子とつやつやとした丸い鼻を眺めているだけでも幸福だった。それなのに、バギーの方からナマエに話しかけてくれるとは。ナマエは心が浮き立つのを感じた。
「そ〜かァ〜、おめェみたいに仕事熱心なやつがいてくれるおかげで、おれの名もまた上がるってワケだ。今回の大口の契約もナマエの働きがあってこそだぜ!もっとハデに喜びやがれ」
いつになく褒め称えてくれるバギーの顔を見て、座長、酔っているなぁなんて思いながらも、ナマエは頬がゆるむのを抑えられない。
「で、めぼしい情報はあったか?」
バギーはナマエが見ていた新聞を指でつつき、そう聞いてきた。一面は家畜の出生率の向上について報じている。中をぱらぱらと開いて、ナマエは記事を読み直した。
「そうですね……赤髪海賊団がここを通過した時のことが書かれていました。1ヶ月ほど前のことのようですが、コラムにこの島の武器屋の証言が……
そう話しながらナマエが顔を上げると、バギーは苦虫を噛み潰したような嫌そうな顔をしていた。そういえば、座長の赤髪嫌いの話は耳にしたことがある。昔、同じ船に乗っていたとか……。この表情から察するに、やはり何かあるのだろう。好奇心から、少し踏み込んでみたくもあった。ナマエは恐る恐る話を広げてみる。
……座長は、赤髪と因縁があるとお聞きしましたが……
ぐいっと酒を煽ったバギーは、木樽のジョッキをカウンターにどん、と置くと、カウンターに肘をついて、考えこむように少し頭を振った。豊かな青色の髪の毛が波うつのに、こっそりと見惚れる。
……気にくわねェやつだ。アイツは昔から……
四皇、赤髪のシャンクス。この海で海賊稼業をしている者なら、知らぬ者はいないだろう。ナマエも、バギーの下で働き始める前から、街で見る手配書や新聞の報道で、顔と名前くらいは知っていた。整った顔だちの中に、鋭く走る三本傷が目立つ。無精髭は端正な顔だちに、さらに海賊としてのハクをつけるためにわざと生やしているのではないかと、ナマエは睨んでいた。あの赤髪のシャンクスと、座長が昔なじみであることは、ナマエの関心を誘った。
「おれが“バラバラの実”の能力者になったのも、元はといえばあのハデアホのせいだ」
全ては語らないものの、その口ぶりは関係の深さを匂わせていた。バギーの過去を知る人物。赤髪にも話を聞いてみたい、と思いながらナマエは話に聞き入る。因縁……というか、恨み節の数々を聞きながらも、ナマエは(きっと、赤髪の方は座長のことを気に入ってるんだろうな)と感じた。ひとしきり語り終えると、バギーは短くため息をついて、遠くを見る。
「だがな。おれはあいつの戦闘の腕は高く買ってたんだ。それに……、器ってもんが、あるだろう……人には。海賊王ってのはな……、本来……ああいうやつが……
バギーは短く言葉を切りながら、やがてむっつりと押し黙った。
……どういうこと?思ってたのと違う。もっと蛇蝎のごとく嫌っているのかと思っていたのに、これじゃ……ナマエは普段見たことのないバギーの語り口に混乱していた。
「なのに……なのにあいつは……
バギーは絞り出すようにそう呟くと、ぐっと木樽のジョッキを飲み干し、「飲みすぎちまったみてぇだな」と小さな声でつぶやく。
……なにそれ。ナマエはふつふつと胸のうちに湧き上がる黒い感情を自覚した。水しか飲んでいないものの、今は逆に酒をかっくらいたいような気分だ。……聞きたくないけれど、昔の女の話でも聞いたほうがマシだったかもしれない。
……マスター、強いやつください」
「おぉ、ナマエ。おまえも飲みたくなったか」
「飲まざるを得ません」
……?」
黙々とグラスを拭いていたマスターは、手早くカクテルをシェイクするとナマエの前にすっと出した。憎い赤色をしたそれを一息に飲み干してやる。喉から腹まで熱い酒が流れおちていく感覚に細くため息をつく。
「おういいぞォ!ハデな飲みっぷりだァ、ナマエ!」
ナマエの複雑な胸中に気づくはずもないバギーは、ナマエの肩を抱き、讃えるように片腕を突き上げたが、ナマエは同じように返す気力がなく、顔を背けた。訝しげな表情でバギーが顔を覗き込んでくる。
と、そこでバギー船長ォ〜!と遠くからお呼びの声がかかり、バギーは「なんだおめェら!今行ってやる!」と大声で答えながら去っていった。バーカウンターはナマエ一人になり、静寂が戻った。
「もう一杯飲まれますか」
マスターに聞かれ、赤いカクテル以外でお願い、と返す。さっきまで読んでいた新聞をもう一度広げ、ナマエはシャンクスの記事に目を落とした。赤髪のシャンクス……。今までとは全く異なった気持ちで、その名を見る。男同士の関係には、女の自分が割って入れないものがある。自分は海賊王にはなれないし、海の上で座長と並び立って戦うこともできない。……敵わないよ。ナマエはバギーに仕事ぶりを褒めてもらった時の淡い喜びが、胸の中で泡のようにしぼんでいくのを感じた。
肩を叩かれて振り返ると、真っ白な手袋をつけた左手がふわふわと宙に浮いている。突然のことにナマエは目を見張った。
……座長の、手?」
掌側がくるりと上を向き、指の中に握り込んでいた紙片をナマエに差し出す。くしゃくしゃに畳まれたそれをナマエが広げると、「なにむくれてんだ!!ハデに飲み直すぞ!!」と書かれてあった。振り返ると、バギーは皆に取り囲まれてどんちゃん騒ぎの最中だ。左手の手首から先がないことに、誰も気づいていない。目の前にあるバギーの手は、掌を大きくひらいて、ナマエを促すようにすっと手を差し伸べた。
──かわいい人。だいすきだ。私たちの座長は彼しかいない。
ナマエはバギーの手袋に包まれた手を恭しく取ると、輪に加わるべく席を立った。

おわり