草笛の下手な私
2025-09-14 21:22:53
850文字
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甘き死

アラシャ 石化時のスタンリー



子供のころ、ゼノはよくラジオを流していた。93年生まれの俺たちにとってはローテクで、ゼノなら当時最新鋭だった音楽プレイヤーが好みなんじゃないかと意外に思い尋ねたことがある。
「知らない情報をランダムに入手することができる、最も手軽なツールだからね。耳だけでいいのも効率的だ。それにこの放送局は西洋芸術音楽の専門番組があるのが良い」
「ああ、流れんね。毎週」
「上質な音楽は完成された数式に似ている。落ち着くよ」
俺に僅かばかり西洋芸術音楽——要するにクラシック音楽の知識があるのは、週一度流れていたあの番組とゼノの解説の影響なのは間違いない。
士官として駆り出された面倒なパーティーでお偉いさんが俺に振ってくるんだ、「スナイダー大尉、今演奏されている音楽が何かわかるかね」ってな。俺はゼノがだべってた蘊蓄をそのまま口に乗せて黙らせた。「祝祭に対して内省と精神の整理を促す海兵隊らしい選曲ですね。閣下もバッハの讃美歌がお好きで?」 そのパーティーの話をしたらゼノはいたく喜んで、しばらく祝典音楽について話したあと、俺が好きな"西洋芸術音楽"を三つ言い当てた。

終末じゃあない。これは俺の最期の時だ。
ゼノと出会った時に俺の喪失は始まっていた。永久なんてものは無いからだ。それが今この時に訪れたのは幸福なことだった。
火を灯す。いつだってあんたにキスしてるつもりで吸っていたってことを、遂に伝えることはなかった。もう一度だけ許してくれ。
闇を鈍く照らす光に世界が静止していく。けれど明日もまた朝日は昇る。
終末じゃあない。あの眩しい日々から地続きの未来で、ゼノは宇宙へ手をかける。

記憶の奥でゼノの声がする。もう、何を喋っているか分からない。午後の光の中を吹き抜ける風に乗って、微睡むように意識が遠のいていく。ゼノの明るい笑い声がする。ゼノの声がする。ゼノの声がする。













イメソンは「甘き死よ、来たれ」の曲のみ
そしてOne last kiss