望月 鏡翠
2025-09-14 21:11:34
955文字
Public 日課
 

#1846 狩人

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 萬木が考えるより、財布の中身は軽かった。これが昨今街道に出るという妖怪の仕業で、酒が値上がりしたなのか、昨晩酔ったあたりで店のものにぼったくられたのか、或いは酔った勢いで無謀な賭け事を試みた結果なのかはわからなかった。
 今となっては確かめる手段もない。
 ただ金が減ったという事実と、二日酔いで痛む頭と不快な胃の感覚だけが確かなものとしてある。
 酔いを払い、狩りの準備を始めるときは、当初の予定よりも早くやってきた。
 妖怪退治は、知恵なき獣を狩るほど単純ではない。一月から半年をかけて獲物を追うこともある過酷な仕事だ。
 街道に出るという妖怪から、荷を守るだけだとか、人足を護衛するだけなら、もっと手軽に一日だけ働くということもできる。
 しかしどうやっても、妖怪退治に稼ぎは届かぬし、雇われるということは人に使われるということでもある。
 目先の僅かばかりの金のために、人に阿らねばならないというのが、どうにも耐えられなかった。
 それならば、獲物と知恵と力を比べるだけの単純な世界の方がまだ息がしやすかった。
 まずは研ぎに出していた刀を引き取りに行く。矢を買い足し、保存食を買い込む。
 油紙が破れていないか確認したら、荷造りをした。
 山に入ればまずは拠点作りがある。とはいえ単身の狩りで荷は増やせない。一人で背負って山を登ることができる重さが限界である。
 萬木は狩場を決めるため、銭湯と人足が集う蕎麦屋に向かった。どこぞで怪我人が増えちゃいないか。消えた村はないか。胡乱な話を聞かなんだか。
 そうしてここと定めたところに、彼らと共に向かうのだ。妖怪を倒してくれるというのだから、同行を拒まれることはない。
 ただ、今回萬木が目をつけた場所は、人の寄り付かぬ場所だった。
 人と獣の領域はせめぎ合っている。人が負ければ後退し、気付けば切り拓かれたはずの山は、再び山に回帰している。
 そういう場所に住む妖怪は二通りいる。
 人のおらぬ場所になわばりを求めてきた弱い妖、そしてかつてそこにあった人の里を滅ぼし、狩人を退けいまだそこに居座っているであろう強い妖。
 人に太刀打ちできぬものが居座った場所からはやがて人足が遠のき、誰も知らぬ場所となる。
 萬木は大物に賭けるつもりでいた。